台所のマリアさま (評論社の児童図書館・文学の部屋)

  • 評論社
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レビュー : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (116ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784566011366

感想・レビュー・書評

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  • 児童書のカテゴリーに入るのだろうが、大人向けと言える。
    まるで短編映画を見るような感動的な展開で、さすがのゴッデン作品。
    読み終えて一週間ほど経つのに、心に響いた音色がまだやまない。

    主人公は9歳のグレゴリー。7歳のジャネットという妹がいる。両親はふたりとも建築家。
    そこに、子どもたちの世話のために一年契約で雇われている女性がひとり。
    このウクライナ人の女性・マルタは故郷を失っており、いつも悲しげである。
    成績優秀だが誰にも心を開かないグレゴリー少年は、唯一このマルタにだけは心を開く。
    「家に灯りがともり、自分を迎えてくれる者がいる」のは、言葉に尽くせぬ喜びだったし、「母親がまだ帰ってこない時間帯にやりきれない気分になる」グレゴリーにとっては、彼女は「家」そのものだった。ゲームに加わることもなく陽気でもないが、マルタが大好きなグレゴリー。
    だが、そのマルタが悲しんでいる。ここの台所には「いい場所がない」からと。
    「いい場所」とは、幼子イエスを抱いたマリア様の絵。それも金や宝石で飾ってあるらしい。
    グレゴリーはジャネットとふたりで、マルタのために「いい場所」を作ってあげようと考えるのだが・・そもそもどんな絵なのか、描いたものか写真か彫刻か、手作りというならその素材は?
    材料はどこでどうやって調達すれば良いのか、そして費用は?

    それは途方もなく遠い道に見える。だがグレゴリーはやってのけたのだ。
    それも一年契約という限られた時間と乏しいお小遣いの中で。
    読みどころはここの部分で、もう困難なアドベンチャーものと言えるほどの道のりだ。
    何よりも周囲に心を開かないグレゴリーが、その道のりで成長していく。
    他人と言葉を交わして協力をお願いしては関係を築き、感謝の言葉を知り「愛」を知っていく。
    誰かに言われたからでもなく、大好きなマルタを喜ばせたいと東奔西走する姿は、家を求めて得られなかった自分自身の癒しの過程でもあったのだ。

    完成したマリア様の作品の挿絵が現れると、嬉しくてこちらも声をあげてしまうほど。
    両親がまずグレゴリーの部屋に通されるのだが、一部始終を聞いて母親が泣き崩れる場面が印象的。グレゴリーには、母親の涙の意味がまるで分からない。でもきっと成長とともに理解するだろう。自分がどんなに周囲を混乱させ傷つけて来たか。
    子どもを持つ親御さんは、ここは堪らないだろうな。
    マルタに作品を披露する場面も感動的で、グレゴリーの幸福感がしんから伝わってくる。

    あまりに内向的で外界に適応できなかったグレゴリーが、ラストでは大層たのもしい。
    宗教色が強そうな表紙で敬遠されそうだが、内容は少年の心の成長を描いたもの。
    名作なのでもっともっと読まれてほしい。

  • 両親は仕事で忙しく、構ってもらえないグレゴリーは9才にして周囲の人を拒み、部屋には誰も入れないといった閉鎖的な性格に。
    ところが何人目かに来たお手伝いさん‐ウクライナ人のマルタ‐にだけは心を開きます。そして《正しい場所》がないと嘆くマルタのためにある贈り物をしたいと願います。贈り物を探し、そして作っていくうちに、閉ざされたグレゴリーのこころが徐々に開いていく・・・・・・その過程に引き付けられました。
    マルタの辛い過去にグレゴリーが心を寄せていくところもとてもいい。

  • 1976年初版。古い本ですが、内容は決して古びない良い本だと思います。一人の少年の心の内面が丁寧に描かれていて最後にはとても胸が熱くなりました。その子がいなくなっても誰にも気が付かれないような、ひっそり生きている子どもに焦点をあて、そんな子の中にもドラマがいっぱいあること、(特に大人が)外から見るだけではわからないけれど、その子の中ではたくさんの悲しみや寂しさ、悔しさ、喜びが沸き起ということが書かれていてこれぞ児童文学と思いました。始まりはお手伝いのマルタが不幸そうにしていること。内向的な少年グレゴリーは孤独なマルタに同情し、何かしてあげたいと思い、マリア様を作ることにします。そのことを通じて今までにしたことのない経験を(自発的に)し、心が開かれ、成長していきます。私はグレゴリーがマリア様を作る過程がとても好きです。布がうまく合わなかったりした時のがっかり、ひらめいた時の一気に作業が進む集中力、出来上がっていく喜びと楽しさ、そして何か(船の絵)を手放す悲しみと決意。物を(人のために)作るときの心模様が手に取るように伝わってきました。お母さんが泣くところ、マルタが祖国の言葉で祈るところ、グレゴリーの手を紳士の手を握るように感謝の気持ちを込めて握るところ、どの場面も胸が熱くなる素晴らしい結末です。キャンディー屋さんも布屋さんも大人がそっと見守ってくれるところも素晴らしい。
    表紙も活字の組み方も地味で、内容も派手な出来事のない本ですが、とても大切なことが詰まっている一冊です。もっと今の子に手に取りやすく版を変えてくれたらという願いを込めて星4つ。

  • 長くはない児童書の中に,失われた国への悲しみや祈り,大切な人への思いやりや兄弟家族の愛情,工夫して物を創り上げることなどたくさんの宝物のような感情が詰まっていて,絵の美しさとともにとても心にしみる物語だった.

  • 読み終わって、後書きを読んだ。著者は、植民地下のインド育ちと知った。そうか、インドの台所には、ヒンディーの神様の祭壇があるもんなー。
    と、違うところにリンクしてしまう私。
    古い本だけど、訴えかけるものがある。
    幼少期に、人恋しいときに、そこにいてくれる存在が必要…。ガンガン共働きを推し進める日本は、どうなっていくのかしら。

  • 書評を読んで面白そうだったので読みました。良いお話でしたが、書評とは少し違うイメージの内容だったので驚きました。書評を書いた人の主観がだいぶ入っていたのかな...?

  • 繊細な少年が、新しいお手伝いさんと出会い、親しみの気持ちから、頑なだった心に変化が起こり成長していく。設定や、経過が細かく表現されていて、一つ一つ丁寧に読みたくなる。心が温まる物語です。身近なものに感謝したいクリスマス時期にぴったり。協力してくれたお店の人とか、周りの大人も素敵な人、そうでない人がハッキリと書かれている所も良いです。
    小学校4年生くらいから大人まで。

  • マルタの為に、グレゴリーとジャネットが協力する姿が感動します!

  • 『台所のマリアさま』
          ルーマー・ゴッデン   評論社

    大好きな大好きな一冊。児童書ですが、購入したのは18歳ぐらいの時だった様に思います。
    それから何回読んだかわかりません。そして必ず読むたびに泣きます。悲しい涙でも、辛い涙でもありません。主人公のグレゴリー少年の思いと、お手伝いさんのマルタの思い、その二つが出会った時に起きる奇跡の様な物語に、どうしても涙が抑えられないのです。中島京子さんの『小さいおうち』を読んだら、久しぶりにこれを読みたくなり、読み終えたらやっぱり恥ずかしいほど頬が濡れていました。

    トーマス家に雇われた家政婦マルタは、疲れ知らずで料理上手ですが、初老で足も悪く、動きもゆっくりしていて、身なりもとても地味。近所の家政婦達にも馬鹿にされています。
    しかし共働きのトーマス夫妻と、グレゴリーとジャネット兄妹にとっては最高のお手伝いさん。
    それまでは休みに外出したがる若いお手伝いさんがクルクル変わり、家の中は何時もゴタゴタしていました。しかし、マルタが来て、すっかり家は落ち着き、いつでもマルタが居てくれると言う安心感に家族は救われます。特に兄のグレゴリーにとっては、今迄のお手伝いさんの中でマルタは別格。彼にとってマルタは「家」であり、「家族」なのです。

    でも、子供たちには一つだけマルタに不満がありました。それはマルタが不幸せな事。ウクライナ難民であるマルタは、親や村人とも兵隊に追われて以来会っていません。でも、マルタが不幸せなのは、それだけが原因ではないようなのです。

    学校では一番の成績でも、家では内気で自分の殻にこもり、人を寄せつけず所有欲が強いと母親が心配しているグレゴリー。そんなグレゴリーが、マルタには自分の猫を抱かせ、信頼を寄せてます。そしてマルタにずっとこの家にいて欲しいと心から願います。マルタが一番好きな場所である台所。いつも居る居心地の良いそこにマルタは、「良い場所」がない、「からっぽ」だと感じて泣くのです。マルタが不幸せなのはその「からっぽ」と感じる事、何かが無い事と関係している。それをマルタから聞き出したグレゴリーは、妹の協力を得て、今迄の彼からは想像も出来ない行動力を発揮します。マルタの幸せの為に、彼にとってはそれはそれは大変な思いを乗り越えて、「良い場所」を実現させる為に奔走するのです。

    ここには、難民として長年イギリスで暮らしながら、一度も帰る事の出来なかった故郷を思い、彼女の言う「良い場所」を得られず過ごして来たマルタの苦しみと、持って生まれた性格や、両親が共働きの為落ち着かなかった生活から、内向的で大人びて、人嫌いな所があるグレゴリーの、環境に適応しきれない苦痛が、最初から浮き彫りになっています。そしてグレゴリーはマルタに理解と深い同情を抱き、引きこもっていた自分の殻から出て、マルタを幸せにしようと奔走するのです。妹のジャネットは明るく活発で愛らしいのですが、兄と違って幼さもあって、慎重に物事を運んだり、深く考える事はありません。家庭の環境にも振り回されず、外交的で実際的な性格です。そんな幼い兄妹がケンカをしながらも協力して一生懸命に一つの物を作るいじらしさ、特にグレゴリーの行動に涙を禁じ得ないのです。

    子供の頃、インドで過ごしたゴッデンは、教育の為にイギリスに送り帰され、全く異なる環境に適応するため非常に苦しんだ様です。彼女はこの作品の後、祖母の死によってイギリスで暮らさなければならなくなった、ジプシーの少女の物語『ディダコイ』も書きました。そちらも高く評価され人気があるのですが、どちらも読んでいる私は、圧倒的にこの『台所のマリアさま』が大好きなのです。思春期に家を離れて暮らし、「家」とは建物だけでは無い事をつくづく思い知った自分だからなのか、人に馴染まないグレゴリーのマルタを幸せにしたいと思う強い気持ちと成長に打たれるのか、「良い場所」を自分は未だに求めているからなのか…。
    それは解りません。けれど宝石の様に自分にとって大切な本には何処か共通点があり、この本も確実にそれを溢れるほど私に与えてくれるのです。

  • 内気な男の子の心理、心の動きがなかなかよく書かれている。

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著者プロフィール

ルーマー・ゴッデンRumerGodden1907~1998。英国サセックス州生まれ。父の仕事の関係で、生後六カ月で当時英国領だったインドに移り住む。十二歳のときに英国へもどるが、その後もインドとを行き来して暮らした。一九三五年に作家として活動をはじめ、おとな向けや子ども向けに数々の作品を生み出した。作品は長編小説、短編小説、戯曲、詩など多岐にわたる。日本で紹介されている子どもむけの本に、『人形の家』(岩波書店)、『ねずみ女房』(福音館書店)、『バレエダンサー』(偕成社)、『ディダコイ』(評論社、ウィットブレッド賞)、『ねずみの家』『おすのつぼにすんでいたおばあさん』『帰ってきた船乗り人形』『すももの夏』などがある。

「2019年 『ふしぎなようせい人形』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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