人種差別をテーマにした児童文学はいくつもあるが、これはかなり良い。
南北戦争後、人種隔離政策時代のミシシッピ州が舞台。作者の分身を思わせる黒人の少女が語り手となり、黒人の苦しみ、悲しみ、喜びを描く。
主人公一家は先見の明があったため、土地を手に入れ、白人に阿ることなしに生きていくことができた。しかし周りの黒人は奴隷解放後も相変わらず白人の小作人で、理不尽としか思えない条件で働き、差別と貧しさを耐えている。ちょっとでも反抗的な態度をとれば、リンチで殺される。
白人の子どもはスクールバスで立派な建物の学校に通い、黒人の子どもは埃だらけで雨が降ればぬかるむ道を、スクールバスがわざと跳ねとばす泥をかぶりながら歩いて掘っ立て小屋のような学校に通う。教科書は白人がさんざん使って捨てる寸前のものを使う。綿花の種蒔きや収穫に合わせて授業が行われるので、授業日数は白人と比べて極端に少ない。
そんな毎日でも主人公のキャシィは家族仲良く、誇りを持って生きていたのだが…。
貧しさと愚かさゆえに道を外してしまう少年TJ、レイシストの家族の中でただ一人黒人に親しみを感じている白人少年ジェルミー、家畜のように掛け合わされ、家族を殺された孤独なモリソンさんなど他の登場人物も丁寧に描かれている。
たくさんの登場人物の名前と関係が頭に入れば、小説としてとても面白く、ぜひとも中学生に薦めたい。光村の国語教科書の推薦図書『クレイジー・サマー』よりずっと分かりやすく、考えさせられる。
ただ、タイトルだけでは意味が伝わらない上、この装丁では今どきの子どもは手に取らないだろう。訳も古い。
新訳で新たに装丁し直して出版してほしい。