モネ、ゴッホ、ピカソも治療した絵のお医者さん 修復家・岩井希久子の仕事

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レビュー : 38
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784568221367

作品紹介・あらすじ

名画も年をとれば病気になる。絵を蘇らせてきた名医が語る修復の現場。

感想・レビュー・書評

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  • 絵画の修復を手がける著者が、修復の仕事をするようになるまでの道のり、仕事の周辺、今後の抱負を語る。

    3年ほど前のNHK『プロフェッショナル』で紹介されてこの著者を知る。
    本書は新聞広告で見かけて、図書館で借りてみた。

    絵画修復家とは、文字通り、年数を経て、損傷したり劣化したりした絵画を修復する仕事である。
    近年ではフェルメールの「手紙を読む青衣の女」が修復されて鮮やかなラピスラズリの色が甦ったこと(これはアムステルダム美術館のフェルスライプという修復家による)、あるいは逆に、修復と称して手を入れすぎ、絵がまったく別物になってしまったフレスコ画の話あたりが話題になった。

    著者は画家を志していたが、父親からの示唆で修復家という仕事を知り、夫(画家の岩井壽照氏)とともに渡ったイギリスで、働きながら本格的に修復の基礎を学んだ。以後、日本における数少ない修復家として、数々の名画と向き合っている。
    著者が行う修復は、基本的にやり直しの利く形で行われ、絵にやさしい、オリジナルの風合いを損なわないことを目標とするものである。
    突き詰めていくと、損傷を治すよりも損傷が生じないように予防する方が大切だと説いている。

    欧米ではどこの美術館にも修復部門があるというが、日本ではまだそれほど普及していない。美術館として「箱」はできるが、修復に掛ける予算がつかないのだ。そのため、保管状態が驚くほどよくないものが多いという。
    総体に控えめで穏やかな印象を与える著者だが、こうした現状に関してはかなり強い言葉で批判している。
    「職人」が、文化を維持する上で大切にすべき存在なのに、正当な評価を受けていないという指摘はその通りだろうと思う。

    本書は、修復の技術的な点、子育てをしながら働く困難、日本の修復業界の層が薄いがゆえの苦労などに触れ、修復の実例や、修復をきっかけに知己を得た人との対談なども盛り込む。あれこれ詰め込んだがために、いささか焦点がぼけたきらいがないではないが、「修復家」という仕事がどのようなものかを知る入門書としては手頃な1冊と言えるだろう。

    著者は、将来的には、修復技術をガラス張りで客に見せ、その収益を絵画の修復に充てる「修復センター」の設立を構想しているという。
    実現すれば見に行ってみたい。


    **職人・アルチザンの本を集めてみました。
    ・ルリユール(製本・装幀)
     『手製本を楽しむ』(栃折久美子)
     『ルリユールおじさん』(いせひでこ(絵本))
    ・宮大工
     『棟梁』(小川三夫)
    ・染織家
     『日本の色辞典』(吉岡幸雄)
    ・仏像修復家
     『壊れても仏像』(飯泉太子宗)

    • bokemaruさん
      今回エルミタージュ美術館を訪問する機会があり、数々の名画を見てきました。
      その多くが修復家の手による修復を経て展示されたもので、その技術に驚...
      今回エルミタージュ美術館を訪問する機会があり、数々の名画を見てきました。
      その多くが修復家の手による修復を経て展示されたもので、その技術に驚かされて帰ってきたばかりなのでとても興味深いです!
      私も読んでみます!
      2013/08/28
    • ぽんきちさん
      bokemaruさん

      をを。ロシア、行っていらしたんですね(^^)。
      楽しい旅だったことでしょう。

      エルミタージュ美術館、見応えがあった...
      bokemaruさん

      をを。ロシア、行っていらしたんですね(^^)。
      楽しい旅だったことでしょう。

      エルミタージュ美術館、見応えがあったことでしょうね。

      修復技術は、お国柄もあるようで、著者が学んだイギリス式は絵画にやさしく、修復箇所を取り除くことができるものなんだそうです。
      エルミタージュ美術館の修復方針と比較してみたりするのも興味深いかもしれないですね。
      2013/08/28
  • 夏にロシアのエルミタージュ美術館を訪問した際、鑑賞に来た客に塩酸をかけられ、苦労して修復されたという絵画をみたということもあり、本書が目をひいた。

    美術館や展覧会というと、日本ではやはり非常にその取扱いには気を遣い、たとえばロープなどを張って人が近づけないようにしたり、何かしらのケースの中に作品が収められていたり、当然温度湿度、光線などにも留意されていて、知らず知らずのうちに厳かな心持にさせられることが多い。
    本書でも、著者は絵画の修復家(日本ではごく少ないらしい)の第一人者ということもあり、非常に心を砕き、作者の描きたかったもの、作風、タッチ、表現を可能な限り忠実に甦らせられるよう苦心しているのがよくわかる。
    そして著者は、専門家の目から見て、日本ではこと絵画の管理、修復、保全ということに関心が薄く、体制がなっていないことをたびたび嘆いてもいる。

    ところが…世界有数の美術館といわれるエルミタージュ、びっくりするくらいぞんざいな展示方法でいろいろな作品が展示されていたのだけれど…これっていいんだろうか。
    素人目にも不安に思うくらい、全く裸の状態の作品がひょいと展示され、それこそ作品に触れるのもなんら造作ないほどすぐ近くまで寄ることができる、外に面した窓は全開、日光も差し込み作品にも当たっている、ネヴァ川という大きな川に面した窓から外の風もがんがん吹き込み、温度湿度の管理どころか、外の道路からの排気ガスやらホコリやらなんやらかんやら、入り込みまくりでは??
    ごく一部の作品を除いて、写真を撮ることも止められていないし、本当にこれで作品は大丈夫なのだろうか、これで世界有数の美術館といっていいのだろうかと、本当に心配になった。
    著者は「西欧の美術館は、美術品の管理が進んでいる」というが、ここエルミタージュは(ロシアだし、もともとエカテリーナの住居として使われていた建物だから仕方ない部分もあるのかもしれないけれど)正直本当に酷い。近々改装の予定ではあるらしいが…。

    修復の過程、やり方などを簡単に説明したページもあり、興味深く読んだ。もっと、いろいろな作品の修復前やその後、修復中の様子など、カラーでたくさん見たかったな。
    著者は、修復センターを作って修復の様子などを一般公開するなんていう夢ももっているらしい。それは面白そう!できたら行って見てみたい。

    去年だったか、スペインで、修復すると言ってフレスコ画のキリスト像をめちゃくちゃにしちゃったおばあさんが話題になったが、そのおばあさんに本書を読ませたらどう思うのかな~なんて思いながら読んでいたら、そのことにもちょっと触れられていた。「おばあさんを笑わないであげて、でもやってしまったことはたいへんなことだけど」だって。
    最初さんざんこき下ろされて、そのうちその絵目当ての観光客が増えて、これはこれでいいんだ、なんて擁護する声もあがったりしたけど、やっぱり、たいへんなこと、なんだよね…。

  • 絵画修復家として活躍されている岩井佐久子さんの仕事論。

    絵画に関わった仕事にこだわり、女性という立場での仕事との向き合い方に葛藤しつつも歩んできた自身の道について説いている。今までなかなか知り得なかった絵画修復家としての仕事が丁寧に書かれた興味深い内容。「絵にやさしい修復」を理念とし、修復する際に、先の将来を見据えた“予防”を心掛けるご本人の姿勢は絵画に対する敬意と誇りを感じた。
    古くから現存する美術画が今も尚楽しめるのは、背景でこういった方たちの学と技術あってのものであると思うと頭が下がる。

  • 絵の修復という仕事について、丁寧にじっくりと教えていただいた。どんな仕事もそうなのだと思うけれど、現状に満足せず、たゆまずより良い道を考え、そして相対するものの思いを想像することが、いかに大切なことか。技術と芸術、ひいては人生ということまでも、考えさせてもらえた。

  • NHKのプロフェッショナルで見て気になっていたが、その仕事が本になった。どのようにして名画を修復するか、その方法もさることながら、世界で1枚しかない名画を壊すかもしれない仕事に向かう態度、美術に対する姿勢、など感服。

  • 美術

  • 絵画修復の実情と、大事だよ!という思いがひたすら書いてある

    お仕事には敬意

    本としては3分の1ですむ内容

    お仕事には敬意

  • ☆修復家として、いい仕事してるね。

  • 本館開架(シラバス掲載) [美術品 -- 保存・修復]
    http://opac.lib.saga-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB12701535

  • 私の絵画修復のイメージは、小さい筆で、破損した箇所を塗り直すというものだった。

    しかし、実際はできるだけ補彩はしないようにしているという。修復の基本はクリーニングで、表面の汚れを取るだけでも、描かれた当時の色がきれいに現れるらしい。

    修復はかなり繊細な仕事だと思うが、写真を見ると、パネルを張り替えたりするときの道具などは大がかりなもので、意外と力仕事な部分もあるようだった。また、顕微鏡を使ったり、医療用のメスなどで修復作業をする姿は、科学的でもあると思った。

    筆者は海外で修復の勉強をし、日本に戻ってきている。海外でも日本の和紙などが修復に役立っており、日本の職人技術は重宝されているという。しかし当の日本では職人の立場があまりにも低いと嘆いている。
    修復家もそうで、学校に通っている人はたくさんいるが、実際に実技を修得できるような、インターンシップ先がなかったり、そもそも修復の専門家がいる美術館自体が少ないという。そのため、メンテナンスされていない絵画もたくさんあるという。

    筆者は、修復の研修センターを作りたいというビジョンを持っている。修復の作業場をオープンにし、その様子を見せたり、インターンシップや海外からの研修生も受け入れて、実際の作業を手伝いながら技術を教え、就職もできるというものだ。見学者からは入場料を取り、それを修復資金に充てる。そうすることで、見学者にも、絵画保存に役立っているという意識をもってもらえるのではないかというものだ。

    展覧会などでは、状態があまりよくなくても、素人目線で「古いものだしな」と片付けて見てしまっていて、それが危機的状態ということまではわからない。
    でも、もしかしたら、それは本当に危機的状態のままで展示されていたのかもしれないと、この本を読んで思った。
    後世まで多くの人に見てもらえるよう、美術館を作るだけでなく、修復に対する意識が高まればよいなと思った。

    図書館スタッフ(東生駒):あおむし

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    帝塚山大学図書館OPAC
    http://opac.tezukayama-u.ac.jp/mylimedio/search/search.do?target=local&mode=comp&category-book=1&category-mgz=1&materialid=1100383184

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