絵本のつくりかた〈1〉―あこがれのクリエイターとつくるはじめての物語 (みづゑのレシピ)

制作 : みづゑ編集部 
  • 美術出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (111ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784568300574

感想・レビュー・書評

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  • 無性に絵本をつくりたくなったというよりは、大好きな酒井駒子さんの表紙の絵に惹かれて、その魅力について、より分かればいいかなくらいの気持ちで借りたのですが、本書は私にとって、思いもかけない素敵な収穫となりました。

    本書は、『絵本を読むだけではなく、つくってみること』をテーマにしており、まずは簡単に作れる絵本を紹介しており、「100%ORANGE」さん、「あだちなみ」さんが作った、折り紙絵本は、三回開いたらお終いのシンプルさに、ちょっとしたアイデア一つで、藁半紙に色鉛筆でも描けるお手軽さが魅力で、それぞれの絵の描き方も写真付きで紹介しております。

    ちなみに、100%ORANGEさんはポップアップ絵本も作っており、しかけ絵本の作りに興味がある方は必見です。

    次は、三組のクリエイターが挑戦した、手作り絵本の発表会で、どの作品も、私の知らなかった絵本の更なる世界を教えてくれたようで感慨深いものがありました(やはり、その道のプロは凄い)。

    それらは、「わたなべいくこ」さんの、刺繍とペイント(色の滲みも味わい深い)で描かれた『布絵本』に、「立本倫子」さん(colobockle)の『ものさし絵本』は、懐かしい子どもの頃を思い出す、伸ばすと身長計にもなる、切り貼りしたような絵柄も魅力的な、お洒落な絵本で、「アトリエ・グリズー」さんの『旅の絵本』は、世界各地を回りながら見つけた素敵なものたちの良さを、更に引き出しているようで(今回はポーランド、リトアニア、ラトビア)、その中でも、「クリスマスの飾り」の、カラフルでシンプルな奥深いデザインや、筆で描かれた模様も素敵な「鳥笛」は、特に印象的でした。

    そして、酒井駒子さんの特集では、作品に御自身の子供の頃の体験が入っているものもあるそうで、「ロンパーちゃんとふうせん」の、スプーンじゃなくてミニカーを括り付けた話や、「よるくま」の、夏の太陽が昇る前の、町全体のブルーの色の記憶が鮮明であったことに加えて、「寂しさや夜の暗さが核にあるお話で、私の絵本づくりの原点にある一冊」には、作品の魅力を更に高めてくれたようで興味深く、更に、デザイン会社を退社した後に働いた、託児所での経験のお話は、子供の奥深さを知るようで、印象深いものがありました。

    『以前は、自分が子供だった頃の気持ちでしか描けなかったけれど、その仕事を通じて子供を外から見た大人の目で見ることができるようになり、子供を内側と外側から知ることで、絵本が作れるようになったと思います』

    それから、「もっともっと絵本づくり」のコーナーでは、『「大好きなもの」を描いて、つなげる』という、実際にやってみたくなるような絵本づくりを、イラストレーターの「赤崎チカ」さんが、オリジナルの洋服や小物のデザインを、貼り絵の手法で挑戦しており、そこには、お菓子などの包装紙を使うアイデアもあり、そういえば、歌人の穂村弘さんも、お菓子の包装紙のデザインや、マッチ箱のデザイン等に、拘りを持っていたことを思い出し、その素朴な魅力の素晴らしさを再実感いたしました。

    更に、その絵本に対して、造本作家の「藤井敬子」さんの、ジャバラのように絵をどんどんつなげていくアイデアに、表紙は、厚紙を製本用のクロスで(薄紫の地に和の模様が浮き出た)くるむ本格的な方法で、より魅力が増していき、藤井さんの『本にするということは、何かを残すということですから、そのために時間をかけてもいい』には、改めて形になるものへの真摯な思いと、作る者に対する愛があり、人から人へと渡っていく絵本づくりの過程もいいなと思いました。

    続く、「荒井良二」さんと「竹内通雅」さんによる、2002年12月の「アソボンペインティング」の模様は、見開きが約ニメートル四方になる、巨大絵本を二人で四時間かけて即興で完成させたもので、実際に完成されたものを見ると、自由な中にも予め決めてあったような、まとまり感が面白く、荒井さんの、『絵本をつくることって、もともとこういう自由さがないとね』に、納得いたしました。

    それから、本書で最も感銘を受けたのが、『本の芸術』と呼ばれる刊本作品を生みだした、「武井武雄」さんであり、《胡蝶散策》は、蝶のようでありながらも、更にその先を行ったかのような、独特の美しさに惹かれ、《ストロ王》は、ひと目見て、とても丁寧に作られてるなというのが分かり、何でもストロー(麦わら)を編んで描いたそうで、《迅四郎の窓》は、1969年当時、最新の素材であった、APRという樹脂を使いステンドグラスを模しているそうで、その和風の味わいも隅々にまで感じさせられて、思わず見入ってしまいます。

    また、他にも、パピルスを使った《ナイルの葦》や、寄せ木細工の《木魂の伝記》などがあり、それらの作品には、素材、絵、物語など、本を構成する要素のすべてが、ひとつのテーマで貫かれており、武井さんの子どもの絵は、『自分の全力をつくし』『自分の芸術をつくるつもりでやらなければ』と語り、常に厳しい姿勢で創作に打ち込んだそうで、それだけの子どもに対する思いとは、如何ほどのものなのかと、思わず、はっとさせられるものがありました。

    そして、内容は『印刷と出版のはなし』になり、2003年の本なので、情報性は古いのですが、それでも流れをつかんでおくにはいいのではと感じ、自費出版については、吉祥寺の絵本屋「トムズボックス」のオーナー、「土井章史」さんによると、最低三万円くらいで作れるそうで、一瞬、それならと思ってしまいました。

    ちなみに、土井さんは、デザイナーの小野明さんとともに児童文学・絵本作家養成ワークショップ、「あとさき塾」を開設しており(酒井駒子さんもここを卒業してます)、その土井さんのお言葉の、『自分の子供の頃の気分を思い出すこと』『自分が楽しみながら絵本を描くこと』には、子供と等身大に向き合う事の大切さを実感いたしました。

    また、実際に自分で作った絵本のインディーズレーベル、「8plus」を起ち上げた、「芳賀八恵」さんのエピソードは、マイペースで素敵な絵本を作り続けることの素晴らしさだけではなく、実際に絵本の素朴な魅力に惹かれ、特に「THE NIGHT BOOK」は読みたくなりました。

    それから、「こどものとも」の初代編集長、「松居直」さんのお言葉は、私の絵本に対する新たな見方を教えてくれて、ちょっと長くなりますが、あまりに印象深かったので掲載いたします。


    『僕の編集方針は「絵本は子供に読ませる本ではない」ということです。大人が子供に読んであげるものです。大人に読んでもらうと、子供は文章を耳で聞きますね。そして、同時に絵を見ます。絵を読むんですよ。絵はぜんぶ言葉ですから。言葉にならない絵はないんです。目で読む言葉の世界と耳で聞く言葉の世界が、ぴたっとひとつになるんです。子供の中で絵の世界は生き生きと動いている。動物も話をしています。それはまさに絵本の力です。この絵本体験がないと絵本の本当の面白さはわからないですね。大人でもそうなんですよ。』

    私は、両親に絵本を読んでもらった記憶はもう無いのですが、このお言葉を読み、絵本って、こんなに素敵で想像力豊かなものなんだなと、改めて実感し、絵が、目で読む言葉の世界という感慨を味わいたかったなと思いました。今度から、誰かに読んでもらおうかななんて考えも浮かびましたが、おそらく、これを子供の頃にいっぱい体験すれば、子供のやわらかい心の中には、いったい、どれだけの奥深い素敵な世界が形成されるのか、そう考えると、絵本の果たす役割の重要さというものも実感させられたようで、お子さんのいらっしゃる方は、これを読んで、はたしてどう思われたのか、とても気になります。


    以上、大変長くなってしまいましたが、本書を読んだことで、私の絵本に対する思いは更に深く、大好きなものとなり、まだまだ絵本は、私の想像も及ばないような世界がたくさんあって、そこにおける自由さや表現も無限大であることを実感することで、今後、絵本を読む際の新たな見方や魅力を教えられた嬉しさに加えて、いつかは私のオリジナルの絵本を作ってみたくなり、私の中で、絵本とは一生かけて追いかけていきたい存在であることに気付かせてくれた本書には、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。

    • fukayanegiさん
      たださん、こんばんは。

      お返事ありがとうございます。

      ほんと子どもの心の中ってのは不思議なもんです。かつて我々も同じだったはずなのに。
      ...
      たださん、こんばんは。

      お返事ありがとうございます。

      ほんと子どもの心の中ってのは不思議なもんです。かつて我々も同じだったはずなのに。

      自分の実体験から、感じて頂けるものがあったようで、また、自分のレビューから興味を持って頂けているものもあるようで嬉しい限りです。

      これからもたださんの絵本レビュー楽しみにしています!
      2023/03/06
    • たださん
      fukayanegiさん、更なるお返事を、ありがとうございます。

      私は、幼い頃に、あまり絵本を読んだことがなかったのですが、ブクログを始め...
      fukayanegiさん、更なるお返事を、ありがとうございます。

      私は、幼い頃に、あまり絵本を読んだことがなかったのですが、ブクログを始めて、その数年後に絵本を読むようになってから、子どもの心の中には、こんなものもあるのかなといった、そんな心象風景に触れられる瞬間であったり、それが素敵だという事に気付かせてくれる瞬間であったりと、完全に子ども心を知ることは出来ないのでしょうけれど、少しでも近付きたい思いがありまして、それが、今の私の喜びになることも、なんとなく実感しております。子ども心の私と、もう一度出会いたいといいますか。

      ですから、かつて同じだったはずなのに、子どもの心の中ってのは不思議なもんだと感じるのは、私も抱いていた同じ疑問だったのではと感じました。
      私たちも持っていたのだから、全く未知の世界ではないはずだと。それを信じたいです。

      私も、fukayanegiさんのレビュー、これからも楽しみにしております(^^)
      2023/03/07
    • たださん
      2023/3/8

      本書は図書館で借りたのですが、自分の手元に置いておきたくなり、ネットで購入したところ、『freestyle art bo...
      2023/3/8

      本書は図書館で借りたのですが、自分の手元に置いておきたくなり、ネットで購入したところ、『freestyle art book』という、本書と同じサイズの真っ白な24ページの本が付属しており、本来はこうしてケースに入った、セットものであったことを、お伝えいたします。
      早速、絵本をつくりたくなったら、実践出来るというわけですね。
      2023/03/08
  • 貸出状況はこちらから確認してください↓
    https://libopac.kamakura-u.ac.jp/webopac/BB00176384

  • 2019.3月。
    実家に置きっ放しだった昔買ったやつ。久々に眺めてみた。アトリエを覗いた気分。

  • 資料ID: W0176349
    請求記号: 726.6||E 35||1
    配架場所: 本館1F電動書架C

  • 絵本作家が語る“創作”としての“絵本のつくりかた”と、造本作家やアートディレクターが語る“製作”としての“絵本のつくりかた”が読めるのが嬉しい。

    読んでると、絵の苦手な私でもつくってみたくなる。
    (コラージュでなら何とかなるかも…?)

    巻末のインタビューも良い。
    特に松井直さんの話が素晴らしかった。“絵本は大人が子供に読んであげる本”という言葉に感動。

  • あこがれの酒井駒子さんのインタビューが載っているので、迷わずゲット!酒井さんの感じ方、そして、その感性を表現にまで高める秘密が伺えて興味深い。

    私のような何事も作り手の側、表現する側の心意気を知りたがる人にお薦めの本。

    また、印刷など本作りの基本中の基本も学ぶことができるので、学生さんにもオススメではないでしょうか。

  • 絵本なんて作ったことないけど、作ってみたい…
    そんな人が一番ぷったりなのがこの1冊ですね。
    絵心ゼロの私が「絵本作ってみたいかも…!」と思ってしまうほど
    魅力たっぷりの1冊です。笑
    まずはお気軽に紙を折りたたんで作れるタイプに挑戦してみましょう♪

  • 09/6/25

  • ファンであり 憧れの方達。。。

  • コレ読んでたら無性に何か作りたくてたまらなくなる

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著者プロフィール

1966年兵庫県生まれ。絵本作家。著書に『よるくま』『ぼく おかあさんのこと…』『ロンパーちゃんとふうせん』『金曜日の砂糖ちゃん』『くまとやまねこ』(文:湯本香樹実)、画文集『森のノート』 など。

「2022年 『橋の上で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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