組織の盛衰: 何が企業の命運を決めるのか (PHP文庫 サ 7-11)

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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569568515

作品紹介・あらすじ

業績低迷する企業。硬直した官僚機構。戦後の未曾有の繁栄をもたらした日本的組織を、今、何が蝕んでいるのか。本書では豊臣家、帝国陸海軍等の巨大組織のケース・スタディーから、「成功体験への埋没」「機能体の共同体化」「環境への過剰適応」という、三つの「死に至る病」を検証。時代の大転換期を生き抜く、新しい組織のあり方を提唱する。著者二十年の組織論研究を集大成した現代の名著。

感想・レビュー・書評

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  • 本書の目的は、2つ
    ①現在の組織の現状を点検して正確に観察認識し、その改革改善と新しい創造に役立つような発想と手法を提供すること
    ②この国に組織論または、組織の体系を広めること
    です。

    単行本で一度読んだのですが、ちょっとニュアンスが変わった感じがします。

    気になることは以下です。

    ■日本史上劇的な組織の事例が3つ

    ①豊臣家 史上まれにみる急成長した組織

    組織の規模の拡大にしたがって、管理の方法がかわる
     1)中小企業 船乗りの人数 200人ぐらいまで いわゆる全員顔のみえる組織
     2)中堅企業 管理監督のための組織を入れる 1000人くらいまで
     3)大企業 管理監督機構自体を管理する必要になる 3000人くらいまで すべてを規則化基準化する
     4)一部上場 現場指揮だけではなく、遠隔指揮が必要となる 数千人
     5)巨大企業 総合的な状況判断が必要、管理職も多様化 数万人

    最初は、親父でも、成長するにあたって、組織の長へ
    段階ごとに、組織の近代化、管理層のスキルチェンジが必要となる

    ②帝国陸海軍

    軍隊であるには
     1)重武装性 他と隔絶した武器を組織的に運用できること
     2)自己完結性 自己の組織の中ですべてのかつどうが完結できる

    欧米では、徴兵で採ったものには決死隊に使ってはいけないという暗黙の倫理がある

    機能化から、共同化したがために、日本軍は、戦力が著しく低下した
     1)成功体験への埋没(日露戦争) 失敗の責任は追及されず、馬力と迎合だけが評価される
     2)環境への過剰適応
     3)創造性の拒否、排除 仲間ぼめの組織 対して米海兵隊は組織の揺らぎを定期的にうけた機能集団
    ただ、日本兵一人一人は、他の軍隊からみて劣っているというわけではない

    ③日本石炭産業

    あれほど、豊かな資金と大きな利益、人材があったにもかかわらず、石油その他産業に乗り出した企業は皆無であった
    人手温存体質、どの企業も組合も積極的に人減らしをしようとはしなかった
    結果、製造業全体が国際競争に遅れ、輸出拡大が不可能だという問題が生じた

    ■組織とは何か

    組織とは何か
     1)組織を構成する人間、構成員がいる
     2)何らかの共通の目的と共通の意志が存在する
     3)一定の規範が存在する
     4)命令と役割が存在する
     5)共通の情報環境がある

    良い組織とは
     1)大きな組織 モノ、カネ、情報が多い
     2)固い組織 結束力、団結力
     3)強い組織 目的達成能力の高さ
      ・組織としての意思決定を迅速かつ明確に行う必要がある
      ・命令の徹底と実行の確実さ
      ・目的達成のために能力集中を行う

    組織の目的
     1)組織設立の目的と組織自体がもつ目的が一致するとは限らない
     2)全体の手段が、部分の目的となる
     3)組織の目的と、組織構成員の目的が一致しない

    構成員の組織への期待
     1)公正性
     2)特権性

    2種類の組織
     1)ゲマインシャフト 共同体、自然発生的、家族、地域社会、など構成員の満足追求
     2)ゲセルシャフト 機能体、目的を達成することを目的とした組織、企業、官庁など
    機能体は長期的永続性はなく、負担の最小性こそ重要

    日本史上最強の機能体組織 織田軍団 地域共同体⇒利便性・機能体への変革
     1)黒鍬者:工兵隊の新設
     2)軍制・軍令の分離による方面軍の確立
     3)中央管理機能と地方行政軍事機能の分離

    ■劉邦の組織

    張良 「共に天下をとるも、共に天下を治めるに能わず」 

    トップの役割とは
     1)組織全体のコンセプトの明確化と、その伝達の徹底
     2)基本方針の決定と伝達
     3)総合調整

    漢創業の三傑 大将軍(現場責任者)、名参謀、名補佐役

     1)大将軍(現場責任者)
     ・専門的な知識の深さ
     ・適切な判断力
     ・勤勉さ
     ・指揮する部門の人心掌握力

     2)名参謀
     ・情報収集と分析力、先見性
     ・創造力と実現可能性
     ・企画に対する積極性

     3)名補佐役
     ・隠れている小さな問題や日常的に発生する庶務雑事の発見
     ・他人と功績を競わない
     ・一利を興すには一害を除くに如かず、一事を生かすは一事を省くに如かず ようは省事
     ・匿名の情熱、自分の功を顕示しない
     ・トップの基本方式の枠を超えない
     ・次期トップではありえない

     4)悪役 負の補佐役
     
     5)後継者
     ・次期トップを早く決めてしまうと、そこに側近が形成されてしまう、現トップの側近との確執が生まれる
     後継者の3つの行き方
     前トップの老臣や重役を引継ぎ、そっくりそのまま真似をする
     前トップの老臣や重臣に任せて、自己の意志を出さない
     前トップとはまったく違うことをする

    ■組織の「死に至る病」

    伝統もあり、資産も多く、規模の大きい組織は簡単には消滅しない⇒組織体質が健全であり内部の自浄作用と修復機能が必ず働く

    死に至る病とは
     1)機能体の共同体化
     2)環境への過剰適応
     3)成功体験への埋没

    組織体質の点検
     1)要素の点検 人員、施設、資金、技術、製品、数量、品質
     2)中身の点検 効率、生産工程、営業販売の効率、労働生産性、製品の市場性と将来性、原材料製品在庫、郵送、下請企業、販売店の配置、資産運用
     3)気質の点検 構成員の士気、協調性、命令実行度
     4)倫理の点検 世間の水準からの逸脱度、一般常識からの乖離、頽廃、

    ■組織がかわる

    情報伝達の技術と、経路の変化は組織そのものに対して、深刻な影響を及ぼす。個人にとっても重大な問題である

    三比主義からの脱却 前年比、他者比、予算比

    量のノルマは質の悪化を招く

    テクノロジは、ハードウェア、ソフトウエア、そして、ヒューマンウエア
     
    PHP文庫
    組織の盛衰何が企業の命運を決めるのか
    著:堺屋 太一

    目次
    文庫版への序文
    はじめに
    第1章 巨大組織の生成から崩壊まで
    第2章 組織とは何か
    第3章 組織管理の機能と適材
    第4章 組織の「死に至る病」
    第5章 社会が変わる、組織が変わる
    第6章 これからの組織

    ISBN:9784569568515
    。出版社:PHP研究所
    。判型:文庫
    。ページ数:336ページ
    。定価:562円(本体)
    。発行年月日:1996年

  • 企業組織の改革と創造の示唆提供と組織論の体系を広めるために書かれたという書。1996年発表。組織の構成要素、良い組織の定義など体系的に組織の本質的な意味を切り出しているところは秀逸。1989年を「戦後型組織」の終焉として、3つの神話、土地・株は上がる、消費の拡大、雇用の保証の終わりを描いているが、まだ2010年代にも、それにしがみついている企業はあるのではないか。組織が「死に至る病」、機能組織の共同体化、環境への過剰適応、成功体験への埋没を、どうのがれるのかについて視点が持ち出されているが、もうすこし体系化できそう。「失敗の本質」と併読が、楽しい。

  • 『BQ』(林野宏著)ビジネスパーソンに必須の23冊
    13組織とは何か

  • 豊臣政権、日本帝国軍、石炭産業のみっつの事例をもとに①成功体験への埋没。②機能体の共同体化、③旧環境への過剰適応という組織の死に至る病を検証。

    組織の共同化による情報の秘匿、意思決定の硬直化、不適材不適所の発生。滅びの美学。
    そういうのは仕組みや、兵站を考えずに、精神主義に基づく人力だけで乗り切ろうとする日本的メンタリティに脈々と息づいているように思う。
    (要はこういうのは官僚制の逆機能の一言で要約される)

    日本海軍は対馬沖戦の成功体験にしがみつき、兵站(ロジスティクス)をおろそかにしたため、二か月のうち10日しか作戦海域に出られないというお粗末さ。
    こういう戦う前に負けが決まった体制、仕組みで多くの人を戦士ではなく、飢えさせた帝国軍。

    自己陶酔のなんちゃって愛国者たちは放置して、負けるべくして負けた組織や精神含めた文化を総括し、市民、組織人は、豊かになるために今とこれからを考えるべき。

  •  組織というものに焦点を当て、古今の具体例を引きながら分析・解説した一冊。

     組織というのは大きく分けて二つに分類されます。
     一つは、目標達成に向かって活動する機能体。そしてもう一つは、組織内での構成員の交流を目的とする共同体。
     組織というものは、機能体であるはずがいつの間にか共同体化し、そして衰退していく、というのがありがちな組織の一生です。

     この組織の一生を霞ヶ関の官庁に重ね合わせると、国益よりも省庁自体の利益を優先してしまう役所の体質にピタリと当てはまります。
     と同時に、僕自身、昨年度まである組織に属していました。が、この組織も見事なまでに当初の目的・目標を見失って共同体化し、内部でのコミュニケーションや「ためにする内部規律」が横行していました。(これを読んだときは苦笑せざるを得ず、程なくこの組織を辞することになりました)

     こういう、組織であれば大小を問わず妥当する原理や法則を見つけ出して指摘するところはさすがだよなぁ…と筆者の著作を読む度いつもうならされます。


     本書ではもっと細かく組織について分析し、その性質について論じていますが、ここで特筆すべきは、筆者の文章構成のうまさでしょう。パラグラフごとに総論と具体例の書き分けがきれいになされているのですが、レジュメチックなぶつ切り・切り貼りの印象は受けません。明晰に整理されてわかりやすいのと読みやすいが両立している文章のお手本と言っても過言ではありません。
     小論文が書けないと悩んでいる受験生や説得的な文章を書きたいと思っている人は、一度参考にしてみてもいいんじゃないでしょうか。

  • 「段階の世代」で有名な堺屋太一氏の著作。好きで何回も読んだ本だが改めて再読。読みやすくコンパクトな文庫本だが、組織論の名著だと思う。
    組織の良さの3要素「大きさ」「帰属意識と情報共通性」「目的達成能力」が相互矛盾する難しさがある点。
    組織の死に至る病「機能体の共同体化」「環境への過剰適応」「成功体験への埋没」の3つ。
    これを押さえておくだけでも、組織の健全性を見る目はずいぶん養われるだろう。
    皆さんの所属組織の健全度はどうだろうか?

  • 企業や役所は、もともと「機能体」として作られた組織だが、組織そのものに、「共同体」化していく契機が埋め込まれているというのは、その通り。下部組織含め、構成員の満足が目的となってしまう。マネジメントは、その揺らぎを感じつつ、「機能体」としての「強さ」を最大限発揮するようにすること(企業なら、最小のコストで最大の利益を上げること)。確かになぁ。

    面白かったのは、組織を動かす上で欠かせない人と、その評価。

    漢の劉邦の言葉から、組織を動かす上では、①現場のトップ(将軍)、②参謀、③補佐役の3種類の人が欠かせないとのこと。③補佐役は、なかなか思いつかない。

    さらに、プロイセンのモルトケの法則を取り上げ、参謀として最も要職につけるべきは、「能力大にして意欲小」なる者としている。能力・意欲ともに大の者の方がよさそうな感じもするが、こういう人間は、どこかでトップと衝突する可能性がある。

    わき道にそれるが、モルトケの法則で思い出すのは、エクヴォルト男爵/ドイツ国防軍上級大将の言葉。

    将校には四つのタイプがある。利口・愚鈍、勤勉・怠慢である。

    ・利口で勤勉なタイプで、これは参謀将校にすべき
    ・愚鈍で怠慢なタイプで、これは軍人の9割にあてはまり、ルーチンワークに向いている。
    ・利口で怠慢なタイプは、高級指揮官に向いている。なぜなら確信と決断の際の図太さを持ち合わせているからだ。
    ・もっとも避けるべきは愚かで勤勉なタイプで、このような者にはいかなる責任ある立場も与えてはならない。

    堺屋太一という人は、本当にスゴイ人だなぁと改めて思う。役所の中に、こういうことを考え、それを表現できる人がいたというのは驚き(今でもいるのだろうか・・・)。

  • 日本の会社組織の改善につながるヒントが書かれ
    2回3回と読み返したい本。
    組織の弊害に陥っている認識を得るためにも
    経営者、従業員共に一読しておく価値のある本だと感じた。

  • 1.この本を一言で表すと?
    組織が滅ぶ条件、組織が変革する要因について、著者がまとめた本。

    2.よかった点を3~5つ
    ・「共同体」と「機能体」(p107)
    →この定義が本書の中で重要。

    ・軍隊の二つの定義(p47)
    →自己完結性は知らなかったので、興味を持った。

    ・「機能体の共同体化」(p170)
    →とても理解しやすく納得できる。共同体化は「正論」で誤魔化されやすいと思う。

    ・環境への過剰適応(p187)
    →常に変化を受け入れることが重要だと思う。

    ・組織の欠陥を隠す予算不足と人材論(p212)
    →自分はいつもヒト不足を言っていたので考えを改めたい。

    2.参考にならなかった所(つっこみ所)
    ・「利益質」の提言(p300)は理解できなかった。
    ・全体的に6章は内容が浅く感じた。

    3.実践してみようとおもうこと
    ・自分の考えが

    5.全体の感想・その他
    ・機能体の共同体化と、環境への過剰適応がキーポイントと思う。
    ・帝国陸海軍が失敗ケーススタディーとして取り上げているが、様々な本で失敗例として取り上げられているのが面白い。

  • 図書館本。組織について分かりやすく説明されていて、面白かった気が。

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著者プロフィール

堺屋太一

一九三五年、大阪府生まれ。東京大学経済学部卒業。通商産業省(現経済産業省)に入省し、日本万国博覧会を企画、開催したほか、沖縄海洋博覧会や「サンシャイン計画」を推進した。在職中の七五年、『油断!』で作家デビュー。七八年に退官し、執筆、講演、イベントプロデュースを行う。予測小説の分野を拓き、経済、文明評論、歴史小説など多くの作品を発表。「団塊の世代」という言葉を生んだ同名作をはじめ、『峠の群像』『知価革命』など多くの作品がベストセラーとなった。一九九八年から二〇〇〇年まで小渕恵三、森喜朗内閣で経済企画庁長官、二〇一三年から安倍晋三内閣の内閣官房参与を務めた。一九年、没。

「2022年 『組織の盛衰 決定版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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