大英帝国衰亡史 PHP文庫 (PHP文庫 な 38-1)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569578958

作品紹介・あらすじ

ローマ帝国を挙げるまでもなく、歴史上、多くの「帝国」が興隆し、衰亡していった。その意味で世界史は「幾多の帝国の衰亡の歴史」といってもよい。本書で著者は大英帝国の興隆に寄与した3つの戦争と、衰退の節目となった3つの戦争に着目しつつ、いかにして大国が主役の座を降りるに至ったかを克明に描いている。第51回毎日出版文化賞、第6回山本七平賞ダブル受賞に輝く長編歴史評論。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、パスク・ブリタニカ、大英帝国の興亡史である。

    ブリタニカの世界制覇の歴史は、バチカンからの英国国教会の独立から始まった。

    ⓪総括
    ・大英帝国は、世界の陸地の4分の1、人口の6分の1を長期間支配した。
    ・大英帝国の興起と貢献は、3つの戦争 ①スペイン無敵艦隊との闘い、②スペイン継承戦争、③ナポレオン戦争
     パスク・ブリタニカは ①優越した海軍力、②広大な植民地の領有、③産業革命を商業立国の伝統による経済力による
     また、パクス・ブリタニカは、イギリス自身の「力による平和」と同じ程度にそれは、「外交による平和」であったという点である。
    ・大英帝国の衰退を象徴する、3つの戦争 ①アメリカ独立戦争、②ボーア戦争、③スエズ戦争である。
     現実には、「わかっていながら、どうすることもできないまま、坂道を転げ落ちていく」、これが歴史上、もっともポビュラーな大国の衰退プロセスなのである。
    ・衰退を自覚した大国にとって追い上げてくる挑戦国の力を認め、これを取り込んでゆくことは間違いなく懸命な対応であるといえる。そして、「オンリー・ジャスト・イナフ」、ちょうど必要なだけという感覚がなくてはいけない。
    ・中国には、士大夫という語がありイギリスには紳士という語があり、かっての日本には、武士道という言葉があった。

    ①スペイン無敵艦隊の時代
    ・エリザベス1世の時代は、外には、スペイン、フランスを、内には、内紛をかかえて不安定な時代であった。
    ・アングリカン・チャーチ 英国国教会を確立した宗教改革の完成者として素朴なナショナリズムのシンボルたりえた。
    ・イギリスは、長い間領有していた、ヨーロッパ大陸の拠点をカレーを失って、軍事上の脅威を受けていた。ドーバー海峡は、わずか34Km。風向きによっては、風にのったフランス海軍の大軍について、出港することなく、英艦隊が壊滅する可能性がある。
     イギリスの最優先の安全保障上の課題は、スペイン艦隊に対抗すること、大陸側のカレー海岸をふくめたフランドル地域にフランスなどの軍を入れることなしに、空白地としておくことだった。
    ・英明で、辛抱つよく、強靭な精神の持ち主である、エリザベス女王と、その閣僚が行った複雑な外交施策はこうだ。
     フランスのフランドル地方の中立条約を結ぶ
     スペイン艦隊と海賊を守る保護施策を実施し、スペインの船舶を保護
     イギリスに根拠を置いていた海賊を追い出して、フランドル地方に拠点を移させた(実はエリザベスは海賊は秘密裏に保護していた)
    ・そして、いずれ来るスペイン艦隊の動向に対応するために、23のシミュレーションを行い、その結果を検証するため、スペインの動向を速やかに察知するために、各国に外交的な拠点を置いた。それが、MI6、イギリス情報部につながっていく。
    ・スペインの無敵艦隊は、エリザベスの策により、フランドルの低地に追い込まれて、壊滅するのである。

    ②ナポレオン戦争と、フランスとの対峙の時代
    ・1815年ナポレオン戦争に目覚ましい勝利を博するとともに、世界とヨーロッパの要衝を占領してウィーン講和会議に臨んだイギリスが示した対応は、この「勢力均衡の思想」の一つの極致をしめすものであった。
    ・イギリスを救ったのは、ロシアの女帝と締結した閨房外交にて、反英大連合を打ち破った戦略と、ナポレオンを追い込んだ軍事力であった。

    ③ドイツとの対峙の時代、そしてふたつの大戦
    ・フランスに大勝したイギリスにとって次なる脅威となったのはドイツである。
    ・1914年から1945年までの30年間に、イギリスが支出した軍事支出の総額は、408億ポンドで、同時期のGDPが1585億ポンドであったため、イギリスは平均して国民所得の実に25%を軍事費に費やしたことになる。
    ・イギリス人にとって第1次世界大戦は、まず何よりも大量戦死という「悲しみ」の記憶であった。
    ・ガリポリの作戦中、8か月間で投入された兵力は50万を超えて、そのうち実に、26万の死傷者を出した。イギリスにとって、ガリポリはまさにガダルカナルなのである。
    ・1914年の時点で50歳以下のイギリス貴族の男子の20%が戦死した。オックスフォードや、ケンブリッジから出征していった学生は、3人に1人が帰らぬ人となった。これは、日本の学徒出陣した帝大生をはるかに上回るものであった。
    ・「人類の歴史上どのような帝国も、その中心に、確信に支えられて統治を担うエリートをなくして長く生き伸びた例はない」

    ④第二次世界大戦後の退場、パクスアメリカーナの時代へ
    ・アラビアのロレンスの中東支配は、パリのベルサイユ講和会議でやぶれ、インドでは、イギリス軍による無抵抗なインド人の多量虐殺と日本軍の侵攻があり、各植民地で失態を重ねていく。
    ・1945年12月に英米金融協定が調印されたが、この協定は大戦を通じて生じた世界経済におけるアメリカの圧倒的優位と、英米の地位の逆転を劇的に表現したものはなかった。
    ・第2次世界大戦でアメリカが手に入れたものは、①太平洋における地政学的優位、②中東における石油の権益と、スエズの通行権、③西欧における圧倒的な軍事力と経済的支配である。
    ・すなわち、イギリスはその地位を名実ともにアメリカに引き渡したのであった。

    目次

    まえがき

    第1章 「パクス・ブリタニカ」の智恵
    第2章 エリザベスと「無敵艦隊」
    第3章 英国を支えた異端の紳士たち
    第4章 帝国の殉教者ゴードン
    第5章 「自由貿易」の呪縛
    第6章 「ボーア戦争」の蹉跌
    第7章 アメリカの世紀へ
    第8章 改革論の季節
    第9章 悲しみの大戦
    第10章 ロレンスの反乱
    第11章 “バトル・オブ・ブリテン”、そしてフル・ストップへ
    第12章 旗の降りる日

    あとがき
    参考文献
    解題 岡崎久彦

    ISBN:9784569578958
    出版社:PHP研究所
    判型:文庫
    ページ数:384ページ
    定価:648円(本体)
    発行年月日:2004年04月
    発売日:2004年04月01日

  • 本書はイギリスの立場から書かれている。マフディー戦争を「土民の反乱」と表現する(132頁)。エンタメ作品でも腐敗した政権の圧政に立ち向かう組織をマフディーと名乗らせる例がある(富野由悠季『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』)。土民の反乱との理解は古さを感じる。これは当時のイギリスの感覚であって、それを著者が正当化している訳ではない。むしろイギリス帝国主義の「感傷的な戦線拡大の危うさ」を批判している(135頁)。これは第二次世界大戦の日本軍や戦後の土建国家の乱開発にも該当する批判になる。
    本書はトランスヴァール共和国で起きたジェームソン侵入事件を破廉恥で強欲なイギリス帝国主義であり、世紀末の変質と見る(176頁)。しかし、アヘン戦争も十分に破廉恥で強欲である。依存性薬物を売りつけていたのだから。理念として自由主義を評価することは良いが、19世紀の英国も理念としての自由主義からすると卑怯であり、陰謀家的体質が強かった。公正な市場主義とは言えない。

  • 前近代(1700年代)の産業革命から始まるイギリスの繁栄が、
    二度の大戦を経て衰退し、覇権をアメリカに譲るまでの歴史を解説したもの

  • [落日と矜持と]「二百年の興隆、二百年の衰退」の後,歴史の一ページに刻まれることとなった大英帝国。類稀なる外交力と威厳で他の追随を寄せ付けなかったこの帝国がなぜ衰退したのかを,歴史の大きな流れの中で示した作品です。著者は,本書で第51回毎日出版文化賞と第6回山本七平賞を受賞した中西輝政。


    大きな物語としての大英帝国が人物譚を中心として描かれており,歴史を学ぶことの面白さを存分に味わうことのできる一作。衰亡という着眼点だけではなく,その着眼点を掘り下げていく中西氏の筆が,冴えに冴えているのを感じた読書体験でした。

    〜ほんとうに「時代が変わるとき」、それは人びとの心を劇的に変化させるがゆえに、瞬時にして次の時代の大半をかたちづくるようなところがある。〜

    執筆からしばらく年月が経っていますが古さがまったくない☆5つ

  • w

  • イギリスを中心とする文明史の研究者である著者が、大英帝国の興亡を描いた本です。

    著者は、大英帝国の衰亡の歴史を、アメリカ独立戦争、ボーア戦争、スエズ戦争の三つを画期として論じています。その際、単なる歴史的な事実を追うのではなく、誰が国の進むべき道を示し、それを国民がどのように受け入れたのかということに焦点を当てることで、文明の衰亡の精神史的なエポックを描き出そうとしているように思います。

    たとえば、ボーア戦争に関しては、ヴィクトリア時代の精神史的な気風が失われ、「抑制のない感情の単線的な高ぶりに身をまかせる、精神的な放埓さがあった」という指摘がおこなわれ、そのことが「邪悪で貪欲なイギリス帝国主義」という汚名を、国内にも国外にも広げる結果となったことが、イギリスの衰退を示していると論じられます。

    また、第一次世界大戦からスエズ戦争での失敗に至るまでのイギリス外交史において、勃興するアメリカニズムへの対応を誤り、覇権挑戦国であるドイツへの包囲を強めていく中で、悪循環のプロセスへと入り込んでいったことに触れられ、そこにはパクス・ブリタニカの特徴の一つであった、柔軟さと脅威を使い分ける「宥和の伝統」を逸脱するという過ちが見られるという指摘がなされています。

    少しうろ覚えなのですが、著者がどこかで、イギリス留学時代、指導教授に国際関係論を勉強したいと言ったところ、国際関係論などという学問は存在しない、あるのは外交史だけだ、という内容のことを言われたという発言をしていた記憶があります。本書では、大英帝国の各時代を代表する指導者たちが、どのような外交政策をおこなってきたのかを説明するとともに、その歴史を通じて垣間見ることのできる文明史的なストーリーを読み取ろうとする意図をうかがうことができます。著者が留学時に開眼することになった外交史という学問が、単なる瑣末な事実を収集するだけの営みではなく、人間のたどった壮大なドラマを理解することにつながっていたのではないかと考えさせられました。

  • おすすめ。
    一国の歴史をみることは一国の文化をみることだと思う。

  • (要チラ見!) 大英帝国/文庫

  • 大英帝国の発展と衰亡をコンパクトにまとめた良書です。論点が明確なため非常に読みやすく、栄華を極めた帝国が徐々に衰えていく様子とそれを押し止めようとする人々の努力が読者の胸に迫ってきます。

  • 大英帝国の本質とは何か、その衰亡の原因とは何か。それを追う本書ですが、帝国衰退の横で反骨精神旺盛に膨張するアメリカの成長の過程が、読んでいて非常に面白かった。
    (自分がアメリカ史好きなのもありますが)

    あのアメリカという国が、独り立ちしたその時から如何に大英帝国の背中を野心を持って睨み続けていたかが、二国間の交渉から垣間見られます。

    特に
    「幼稚にも見える自己中心性と理想主義の一方で、到底それらと普通には同居しえないほどの鋭敏な感覚と複雑な”計算”能力をもつ、それが当初より国家としてのアメリカの本質であった」
    の一文には、ものすごく上手いこと言ってる感に心を掴まれました。

    第二次世界大戦が終わり、徹底的に帝国の息の根を止めにかかるアメリカの血気迫る様子に、国は理性で動くものでは到底ないことを感じます。

    あ、当の大英帝国のお話も非常に面白いので、是非ご一読下さい。

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著者プロフィール

1947年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授、京都大学教授を歴任。石橋湛山賞(1990年)、毎日出版文化賞・山本七平賞(1997年)、正論大賞(2002年)、文藝春秋読者賞(1999年、2005年)受賞。専門は国際政治学、国際関係史、文明史。主な著書に『帝国としての中国――覇権の論理と現実』(東洋経済新報社)、『アメリカ外交の魂』(文藝春秋)、『大英帝国衰亡史』(PHP文庫)、『なぜ国家は衰亡するのか』(PHP新書)、『国民の文明史』(扶桑社)。


<第2巻執筆者>
小山俊樹(帝京大学教授)
森田吉彦(大阪観光大学教授)
川島真(東京大学教授)
石 平(評論家)
平野聡(東京大学教授)
木村幹(神戸大学教授)
坂元一哉(大阪大学名誉教授)
佐々木正明(大和大学教授)

「2023年 『シリーズ日本人のための文明学2 外交と歴史から見る中国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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