無責任の構造: モラル・ハザードへの知的戦略 (PHP新書 141)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569614601

感想・レビュー・書評

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  • 無責任に端を発する組織や構成する人間の問題点・リスクについて、発生原因や対処法を教えてくれる。
    筆者は原子力安全委員会の専門委員としても活躍された方で、JOC臨界事故の事故調査も行っている。前半はそれら事故の発生した経緯について、多少難しい専門用語などもありながら、手続きや手順の問題点を洗い出す。その要因としては組織の体質や過度の利益追求などを挙げる。危険を扱う現場でいとも簡単に崩れていく状況を見ながら、私が現在所属する会社にも似た様な傾向はあると感じる。
    本書中盤以降は社会心理学から組織に潜む危険性・リスクを同調生や個人の認識の低さ、組織風土など一つずつ発生要因とプロセスを説明していく。ここではほぼ確実に読み手自身あるいは読み手の属する何らかの集団・組織にも、複数の一致性を見出す方が多いのではと感じる。
    特に会議のシーン、参加者の一人一人の顔を思い出しながら、心理的に当てはまるタイプを見つけられるだろう。だから毎回あの定例会議の結論はこうなるのか、という具合に。
    上司や社風にもだいぶ近い感覚を感じられ、業績はまあまあでも実のところ、危ないのではと恐怖も覚えた。
    私自身も社内の多くのプロジェクトに参加、もしくはリーダーとして率いる側の立場にあり、現在進行形の状態だ。そこには多数の問題、複雑な課題に日々立ち向かう必要があり、場の空気や社風、関係者の力関係を見るなどして意見を出しきれない事が頻繁にある。組織以上に自身の不甲斐なさを感じる。
    後半はその様な中でどの様な意志と立ち回りで乗り越えていくか、技術的な参考になると共に精神面で勇気・力を貰える。始めに描かれた臨界事故も誰かが防げたのではないか。
    まずは立ち向かうスキルと自信を身につけるためには、幅広い知識に触れて吸収しようとする努力は怠れない。ある日私にも自信と勇気が後押しして、現在難航中かつ出口の見えないプロジェクトを中止に追い込む様な時が来るだろうか。

    本書は明日の自分を変える力と知恵と勇気をくれる。

  • 無責任というか、責任不在というのはストラクチュ アルに説明される。「権威主義」と「属人的な運 営」の二軸である。

    この二軸を中心に、1999年世界で最も被曝した死者 を出した「東海村JCO臨界事故」が分析されてい る。

    その後13年を経て発生した3.11の原発事故(および その後の責任処理)という事象を振り返ってみる に、あまりにも本書が十分に理解されていなかった 事が悔やまれてならない。

  • 集団内での「無責任(が生まれる構造)」を、社会心理学の理論で解説し対策のための具体的なアドバイスまでしてくれる本。


    【目次】
    はじめに 003

    第1章 「無責任の構造」の事例研究――JCO事故の精査
    1 序論 JCO事故の概要 020
    2 JCO事故はなぜ起きたか――違反積み重ねのプロセス 032

    第2章 無責任をひきおこす集団のメカニズム 
    1 同調の心理的メカニズム 061
    2 服従の心理的メカニズム 077
    3 価値観・態度の内面化 088
    4 集団・組織における人の行動傾向 100
    5 選択ミスが生じる確率の罠 112

    第3章 「無責任の構造」の病理 
    1 権威主義的人格――病理の理論 126
    2 職場の権威主義――病理の現実 147
    3 属人主義――属事主義のすすめ 160

    第4章 「無責任の構造」克服の戦略
    1 日頃からの備え――責任を遂行するための個人戦略 180
    2 自己主張と説得の方法論 196
    3 「無責任の構造」の回避――トップの責任について 211


    おわりに 229
    引用・参考文献 234

  •  この本のことを簡潔に説明すると、「組織内の人間関係によって事態が悪化していく事にどう対処していくか」についてまとめた本、ということになるのだろうか。

     JCO事故というものがあった事は知っていたが、いかにして発生したかは知らなかったので、本書を読んでショックを受けた。どうして自分たちがしている事を客観的に見ることが出来なかったのだろうか。
     という、疑問については一章以降で、その発生したメカニズム、発生しうる環境・主義、対処法について解説している。
     四章の「「無責任の構造」克服の戦略」については「これが出来たら苦労しないよ」と言いたくなったが、一つの参考にはなると思う。

     ちなみに、本書で使われている言葉は心理学や社会学を学んだ方によっては「今更?」と思えるものも多い。サッと目を通すだけでも良いのではないか。

    自分用キーワード
    一章
    JCO臨界事故 リスク心理学 計画被爆(臨界事故などが起きた時に復旧・廃炉をするために被爆をすることをコストとして受け止めること) 国際原子力事象評価尺度(INES) 原子力損害賠償法 八条機関から三条機関へ(「機関」は「委員会」と表記されることも) 一バッチ(ウラン正味の量が2.4kgを超えなければ安全とされる) 臨海安全基準(質量制限・形状制限) クロスブレンディング ウェット法・ドライ法(ウラン燃料の製造法) 

    二章
    同調(筆者は同調には「内なる同調性」「外なる同調性」の二種類があると述べている) アッシュ(有名な線分の長さを答えさせる実験の考案者) 服従 ミルグラムの実験(筆者曰く「実験者と参加者は一次的な関係であり、服従を拒否することが出来て、罰が無いにも関わらず服従が起きたことに恐怖を抱く」)  勢力基盤(心理学) 内面化 フェスティンガー「認知的不協和の原理」 選択的情報選択(認知的不協和を低減するために行う) 禁じられたおもちゃのパラダイム(組織内の問題を提起した人に対し、「一度静かにするように」軽い圧力を掛けることで「時間の経過(上は考えてくれているようだ)・間接的な方法(会社に貢献したという安堵)・控えめな報酬(長い目で見ると改善する)」という三要素が働き、内面化を起こして、無責任の構造の構築につながると述べている。逆に意固地になってしまい、改善が遅れることも) 社会的促進(例:満腹になったニワトリの隣でもう一羽にエサを与えると、再び食べ始める) 社会的手抜き コーガン・ウォラック型の課題(個人としての判断か集団判断かが分かる) リスキーシフト(集団での議論は複雑で高度な処理ができなくなり、冒険的な選択を選ぼうとする) フレーミングの効果 
     
    三章
    権威主義(アドルノの研究が有名) ファシスト傾向 ドグマティズム(教条主義) 因習主義 反ユダヤ主義 エスノセントリズム(自民族中心主義) 因習的家庭観 形式主義 ロッドアンドフレームテスト(物事を認知するにあたって、他律的な文脈の影響を強く受けるかを調べる) 属事主義(筆者の造語。事柄の是非を基本としてものを考える) 属人主義 

  • JCO臨界事故の資料として購入したのですが、権威主義に関する考察がとても面白く、普通に読了しておりました。

    これももう10年以上前の本ですが、内容的には決して色褪せておりません。いや、むしろインターネット社会の今でこそ、この本で描かれている「無責任の構造」は拡大し悪化しているかのような気がしてきます。

  • 『権威主義の正体』を読んで良かったので,著者の著作をもう一つ読んでみた。
     日本で最悪の原子力災害となったJOCの臨界事故の調査にあたった筆者の経験をもとに,高度に複雑化した現代のシステムにおいて,大事故が起こってしまう社会的心理的な構造を明らかにする。社会心理学に興味をもった。
     集団心理にはいろいろと逆説的なところがあって面白い。皆が同じ作業をしていると能率が上がりやすい反面,手抜きが行われることもある。機械的単純作業については能率が向上しても,複雑で結果のチェックが十分にできない作業の場合は手抜きが生じることが多いのだそうだ。また集団の意思決定は個人による意思決定より冒険的になりやすい。これをリスキーシフトというが,責任が分散したり,見栄を張ったりすることが原因であろうか。

  • JCOの臨界事故を導入例として
    日本的組織のなかでの「無責任の構造」について
    考察しています。社会心理学寄りの本。
    「自分の属する組織に不満がある」程度の人から
    「内部告発をしようとしている」人まで、への
    アドバイス的な体裁でまとまっています。
    おもしろく読みました。

    「脆弱な良心は良心たりえない」
    っていう言葉が印象的だった。

  • JCO事故(事件)の関連本として手に取る。会社組織にうとい自分にはとてもおもしろい本だったです。わたしが社長だったら社員全員にぜひ読んでもらいたい一冊。あ、それからネットでぶーぶー言っている人たちにも。

  • [ 内容 ]
    金融、警察、食品メーカー、さらには臨界事故など、不祥事の根底に潜む無責任体質とは?
    その構造と予防策を社会心理学的に考察する。
    組織のあるところには必ず「無責任の構造」がひそんでいる。
    証券会社の損失補填、自動車会社のリコール隠し、警察の被害届改ざん……。
    本書は、無責任をひきおこす集団と人格のメカニズムを社会心理学的に分析している。

    [ 目次 ]
    ●第1章 「無責任の構造」の事例研究――JCO自己の精査 
    ●第2章 無責任をひきおこす集団のメカニズム 
    ●第3章 「無責任の構造」の病理 
    ●第4章 「無責任の構造」克服の戦略

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 組織があれば腐敗がある。
    その腐敗をいかに予防するか?または対応するか?ということについて、タイムリーにもJCO臨界事故の例を用いて説明されている。

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著者プロフィール

岡本浩一(おかもと・こういち)
大阪府出身。東京大学文学部社会心理学専修課程卒業。同大大学院社会学研究科で社会学修士、社会学博士。同大文学部助手を経て、1989年より東洋英和女学院大学人文学部助教授。1997年より人間科学部教授。NLPをロバート・ディルツに師事し、NLPトレーナー。日本心理学会、日本社会心理学会、日本実験社会心理学会、日本行動計量学会、日本催眠医学心理学会、日本リスク研究学会などに所属。茶道を修め、裏千家淡交会巡回講師を兼任。リスク認知心理学を専門とし、原子力安全委員会専門委員、内閣府原子力委員会専門委員など歴任。国の科学技術研究領域の創始メンバーのひとり。著書に『会議を制する心理学』(単著)、『組織の社会技術1 組織健全化のための社会心理学:違反・自己・不祥事を防ぐ社会技術』(共著)、『グローバリゼーションとリスク社会〔東洋英和女学院大学社会科学研究叢書1〕』『新時代のやさしいトラウマ治療〔東洋英和女学院大学社会科学研究叢書4〕』『パワハラ・トラウマに対する短期心理療法〔東洋英和女学院大学社会科学研究叢書7〕』(共編)など。

「2023年 『自分を整えるブリーフサイコセラピー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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