- Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569639901
作品紹介・あらすじ
部下を頭ごなしに怒鳴りつける上司、"鶴の一声"で全てが決まってしまう会社、正義をふりかざし世論を誘導するマスコミ-。それらの背後にひそむ権威主義を社会心理学の立場から徹底解剖。まず、その研究の発端であるホロコーストを検証する。同調や服従はいかに増幅され、ナチスの暴走を許したのか。カリスマ、教条、集団ナルシズムなど権威主義を支える条件を見極める。さらに、身近にいる権威主義的人物の特徴を分析。あなたの職場、あなた自身は大丈夫か?組織のあり方を真摯に考える人のための一冊。
感想・レビュー・書評
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ホロコーストが権威主義研究のきっかけだった。
ヒットラーによる独裁、国家による人種政策、ホロコーストとはなんだったのかが語られる。
ドイツは特殊な民族なのか?
1理学、科学、哲学、芸術、ドイツの水準はヨーロッパの先端
2キリスト教圏でも民間信仰が残っていた
3融通が利かない
権威主義行動の研究
アッシュの同調実験
ジンバルトの監獄事件
ミルグラムの服従実験
日本人は権威主義なのか?
権威と権威主義 似て異なる点
1権威として裏付けがないものを権威とみなす(占い
2間接⇒直接(権威行使領域を拡大
3間接∈領域拡大(ノーベル経済学賞受賞者の健康法詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
左翼権威主義。大学紛争時代の左翼団体・環境団体・反原発団体・女性の権利団体・共産党。少数の教条で多くのことを割り切ろうとする。自他を教条に従って評価し、序列を与える。序列トップの意思決定を是とする。上位下達(かたつ)。教条への忠誠を当然として要求する。p.108
権威主義の要因。教育程度が低い・高齢・田舎に住んでいる・宗教的・年収が低い・社会から孤立・親が厳しい・曖昧さへの耐性が低い(対象が複雑で捉えにくい場合でも特定の意味付け構造化をする認知傾向)。p.115 -
本書では、権威主義に陥る人の特徴について「認知を単純化した結果なのではないか(認知的単純性)」としている。
たしかに「それっぽい」新聞やネットの記事などは内容に複雑性や深みがなく、社会を紋切り型に「分析」してみせて、それっぽい口調で「結論」しているので読んでいてしらけてしまうことが多い。
またそうした書き手は「自分自身を振り返る」という認知があまり得意でないようにも見えることが多い。いわゆる「ブーメラン」と言われるものも、そうした単純な認知スタイルによる権威主義的な発言を揶揄したものとも受け取れなくもない。
「もしかしたら自分がそうかもしれない」という恐れがない人物の「自覚のなさ」が、結局のところ権威主義で一番怖いところなんだというのがよく理解できた。
なので、やっぱり「自分を振り返る」という認知って大事なんだなと。 -
現代社会にはびこる権威主義について,分かりやすく解説し,権威主義者の見極め方,権威主義への対策を提言してくれる。なかでも解説部分が興味深い。
権威とは,能力等の実質的裏打ちがあって,人々の模範となり,人を従わせることのできる力。言語学の権威とか,権威ある科学雑誌とか,肯定的な意味でよく用いられる。これに対して権威主義とは,実質的裏打ちがないにもかかわらず,見せかけの権威を用いて人々を服従させることである。本来権威のない人が,他人の権威を笠に着て人々を服従させることも含む。権威主義は権威の空手形にすぎないから,否定的な意味合いで用いられる。「彼は権威主義者だ」というのは悪口である。
権威主義の特徴として,硬直的な教条主義,形式主義,因習主義,自民族中心主義などがあげられる。罰をもって服従させる加罰性も権威主義に特徴的である。どの特徴も,一見ネガティブなものであり,そのような思想を嫌う人も多いだろう。「因習主義」等といった否定的な名称がついているから,特にそう感じてしまうが,これらの主義を全否定してしまうことは,現実的ではない。人々をまとめて組織的に行動したり,犯罪などの逸脱行為を戒め社会的秩序を保つためには,ここに挙げた各特徴は多かれ少なかれ必要である。しかし,権威主義は絶対悪である。著者はそういう立場をとる。
行き過ぎた権威主義がもたらした人類史上最悪の結末は,ホロコーストである。ドイツが支配した地域に住んでいた九百万のユダヤ人のうち,実に三分の二にあたる六百万が抹殺された。ドイツの戦線縮小によって,強制収容所の実態がまずソ連により公表されるが,当初はあまりの突飛さに共産主義のプロパガンダと受け止められる。戦争末期にイギリスによって誇張ではなかったことが確認され,初めて世界はこの惨劇を知った。その内容は本当に非人間的だ。だが,ひどい,狂気の沙汰だ,というだけで思考停止してはならない。これは人ごとではない。自分が組織の末端にいた場合,果たして逆らうことができたのか。このような狂気の支配をどうすれば防ぐことができるのか。西洋の知識人に与えられた衝撃は大きく,戦後,権威主義が盛んに研究される。
その研究過程で明らかになった社会心理学の三つの分析は興味深い。同調,服従,内面化であり,サクラを使った実験で確かめられた。簡単な問題を解く課題で,一人の被験者の他に常に誤答するサクラの被験者を混ぜておくと,被験者もそれに引きずられて同じように誤答してしまう。右へ倣えの精神,これが「同調」である。「服従」は,上位者から不本意な行動を押しつけられ,いやいやながらもそれに従ってしまうこと。押しつけられたのが他人に危害を与えるような行動でも,多くの被験者が言われるまま従ってしまう。驚くのは,従わない場合の罰や,従った場合の報酬が全くない場合でも,その傾向は変わらないという事実だ。人間はかくも弱いものなのだ。
「内面化」も深刻である。不本意な行動を求められたときに,人は無意識にその行動の前提となる価値観を正当化することで不快感をなくす。価値観と行動は本来一致すべきものであって,両者に齟齬があると落ち着かないためである。「煙草が体に悪い」という考えと「喫煙」という行動は両立しないので,喫煙を控えるか,「精神衛生上良いし,体に悪いといってもたいしたことない」等と考える。そうして認知的不調和を回避する。すべき行動が与えられており,そちらをかえられない場合は,その行動に対応する意見・考えを正当化することで,価値観と行動を無意識に合わせるしかない。価値観がそのような修正を受けると,あとは自己反復的に与えられた指令を実行するようになる。意外なのは,すべき行動に反した場合に失う報酬や受ける罰が小さいほど,内面化が顕著におこることである。これは服従との根本的な相違であり,内心で反撥している服従よりも,無意識裡に価値観がねじ曲げられてしまう内面化のほうが恐ろしい。模擬監獄で看守役が権威的に,囚人役が卑屈になってしまうという「役割の内面化」という現象も報告されている。
権威主義の温床は認知的単純性にある。「竹を割ったような性格」といえばさっぱりしていて肯定的なイメージがあるが,これは危険である。複雑な問題・現象は複雑なのであって,一言で単純に評価できるものではない。だがそれを複雑なまま理解するのは労力が要るから,人は分かりやすい二分法に走りやすい。何事も深く考えない習慣はもちろん危いが,多くの物事についていちいち深く考える時間的な余裕がないことも,認知的単純化につながる。権威主義者はそのような状況を利用し,あるいは作り出して価値観や行動を押しつける。
人間が社会をつくり,維持していく上で,権威主義はとかく陥りやすい罠である。これは保守的・進歩的といった,政治的立場とは全く関係ない。組織として行動する以上,中央の掲げた政策・方針が次第に自己目的化し,多くの構成員が盲従してしまう危険がある。そうすると,その方針に対して誠実に異を唱える者がいたとしても,彼はそれだけで和を乱す者と見なされるようになる。物事自体についての妥当な批判を封じる結果となり,当初の方針が間違っていたとしても,組織はそのまま突き進んでしまう。社会が混乱し閉塞感が立ちこめる中で,改善・進歩を求めて強力なリーダーが必要とされる場合は特にその危険が大きい。二十一世紀になっても,九・一一事件後の米国内報道に見られたように,大衆が冷静な判断力を失うと,社会全体がそれに追従してしまう。価値観は相対的であることを肝に銘じなければならない。 -
日本監査役協会のオンライン講義で著者の岡本浩一氏(東洋英和女学院大学教授)が「監査役のための組織風土講義」というテーマで講演をされていました。お話しぶりも面白く興味深い内容でもあったので、何か1冊岡本氏の著書を読んでみようと手に取ったものです。
2004年出版なので少々古い本ですが、それでも近年の社会・企業等の実態を省みるに、いまだに当時の議論がかなりの程度機能しているんですね。 -
色々な権威主義の説明.属人主義と属事主義という考え方はわかるんだけど、優秀な人の意見は経験上優秀な確率が高いし、論理展開にも説得力があったりするので信用してしまうかも知れない.
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権威主義について分かりやすくまとめられており、大変参考になった。もっといえば、そういう人間に対してどのように対応すれば良いかという点について言及してくれればなぁと・・・。
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薬と毒がセットになったような本だ。前半で緻密に権威主義を批判しておきながら、後半では権力者の走狗になっているような感を覚えた。その意味で、画竜点睛を“誤った”一冊といってよい。
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