日本人が知らない世界の歩き方 (PHP新書 424)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569657837

感想・レビュー・書評

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  • まったくすごい女性である。100か国以上を訪問し、サハラを横断し、緒方国連高等弁務官とともに世界を旅し、日本財団が寄付した先で、目的通りに使われているかを自費で確認に行く。
    決めてあった国に政変があったが、予定は変更をせず、陸路でももどれるように経路となる国すべてのビザをとり、しかも、300枚ものドル紙幣を現金で用意するようなしたたかな女性なのである。

    本書は、著者が世界を実際にみて感じ、経験した見聞録である。

    気になった点は以下です。

    ・フィリピンに精巧な民芸がないのは、過去に圧政を行った強力な王朝や政府がないからなんですね。富が偏在したり、暴君がでたりすると、職人は悲惨な状態で技術を強制されたり、パトロンが生まれてすばらしい職人芸が育ったりするんです。
    ・インドで会った、日本人のシスターは私たちが持参した「カップ・ラーメン」で「大宴会」を楽しんだ後、ラーメンの容器をすべて持ち帰った。そういうものも身近で貴重品なのである。
    ・匠が存在する社会にしか、近代的なテクノロジーの発展はない、と私は思っている。「さらなる厳密な技術」が要求され、愛され、評価され、報いられ、それが美と認識する社会にしか、テクノロジーは伸びないのである。
    ・(逃げ遅れた子羊に脇腹をつつかれて)小心な羊もいざ追いつめられ、必死で、活路を見つけだそうとすると、あれだけの力が出るということが、私には印象的であった。私も羊と同じように小心な人間である。けれど、今までに何度か、こんな具合に体当たりで運命を開いてきたこともあるのかもしれない。
    ・日本人は過去を切り捨てれば、それで罪の償いができたと思うんです。だから戦争中の軍神や軍人の銅像をさっさと撤去してしまう。しかしイタリア人はローマの町の中にある過去の愚かな情熱を示す記念の碑や銅像や建物を絶対に壊さないんです。むしろそれがなくなったら、過去に自分たちが犯した愚行も忘れてしまう。だから、自省のためにがっちりと取っておくんです。
    ・(荷物を盗んだ子供から、取り返してつめようとすると、仲間の一人が何でそんなことするんだいと悪態をつかれたことについて)この辺の呼吸を私も途上国で苦労した人に教えらえたことがある。「はじめから騙されることもありませんけどね。向うは貧しいんですからね。値切るのはいいけど、最後に少しは騙されてやることが大切なんです。」
    ・「こんなことを言ってはいけませんが、この子は手が不自由だから、誰ももらい手がつかないんでしょうか。」
     「いいえ、ほかの子にもらい手がつかないことはあっても、この子にだけは、必ずつきます。こういう子供をもらって幸福にすれば、神さまは普通の子を育てるより、倍も喜んでくださいますから」
    ・カポエラは、武器のない武術で、柔道とも、合気道とも、少林寺拳法とも少しづつ似たところがある。もちろん奴隷たちが、主人に造反する時に有効なこうした格闘技を身につけることはご法度であった。しかし彼らは、一目がある時は踊っているように見せかけ、いなくなるとすぐ武術に切り替えるという隠密なやり方で、こうした自衛の武術を完成したのである。
    ・オーバブッキングになった時誰が席から追い出されるかは、簡単で明白な力関係によるのである。
     第1にオミットされるのは、その場にいなかった人間である。存在するということは偉大なことだ。私たちはこの点を抑えようとしたのである。
     第2に追い出されるのは、力のないものである。力というとすぐ武力と思うのは、日本人の単純さである。
    ・最近、日本人は現世に人間の力ではどうしても解決できない問題があることを忘れてしまった。不幸の原因は、社会の不備から出るもので、それは政治力の貧困が主な理由だと考える。だからいつかは、その不備を克服できるはずだ、と思いあがりかけている。
    ・チャドには、日本の大使館も商社もなかった。今どき、日本の商社が一社も入っていない、という国は、...つまりその国には駐在員をおくほど買うものも売るほどもない、ということだ。売るものがない、というより、日本の産品を買える階層がほとんどいない、と言った方が率直でわかりやすい。
    ・自分が死んでも、他人を救うことができる人など数すくない。ルワンダの人々は、そうしなかった人を極悪人として告発したが、私はそれは普通の人だと感じている。
    ・「砂漠の民」には思いやりがない、ということは、私がいつも聞かされてきた話だった。

    目次は、以下です。

    はじめに

    第1章 アジア 人間の「ろくでもない強さ」
    第2章 ヨーロッパ 「それが人生」
    第3章 アメリカ どうでもいい素顔
    第4章 南米 金と愛、そして子供
    第5章 アフリカ 自然の威力、人間の無力
    第6章 アラブとユダヤ
    総括 世界を歩くということ

    出典著作一覧
    引用文出典一覧

  • 再読。検索したら評価が低くて(2.9)びっくりした。

    内に閉じこもった安寧に、満足して、外からの視点を持たない「日本人」には合わない本なのかも。反射的に反抗心がむくむく湧き上がる?

    逆にいえば、それだけ読む価値があるのではないかと思う。

    外界に開いた、違う価値観を持つ(同時に、いろんな意味で騒がしい)他者を、瞬時に、鮮烈に、表しだす。率直な文体。

    自分の文化とかけ離れた他者を、こんなにも素直に見つめられる人間力はすごい。見習いたい。

    約20年前の本だけど、心得みならいとして、グローバリゼーションの今読むべき一冊。

  • はっきり言ってしまうと、私にはまったく合わない文章でした。
    内容云々以前に、文章が生理的に受け付けられないものでした…。本を読む上では致命的ですね。

    しかも、内容もあまり好きではなかったです。
    様々な国を歩き、日本と比較してこうであるとか、この国のここは素晴らしいとかそういったことが書かれているのですが、何しろ、1つの表題に対して内容が非常に短い。
    この本は全てが、著者の過去の作品からの抜粋であるようですが、もう少し絞って取り出したほうが良かった気がします。短すぎて、理解する前に終わってしまう感じがします。
    とても興味深い内容が書かれているのに、短すぎるために、一つ一つが素っ気無く終わってしまいます。

    あと、個人的な印象としては(抜粋部分がたまたまそうであったのかもしれないですが)著者の考え方が非常に偏っているのではないかということ。
    著者の宗教もある程度絡んだ見方なのかもしれないです。しかしそれにしても…。
    日本に対する批判や失望が多く書かれすぎていて、もう少し褒めることはないのかとちょっと思いました。
    日本も他国も、良い場所はあるだろうに。
    でも題名が「日本人の知らない」となっているわけなので、やはり意図してそういう部分ばかりを抜粋したのだろうと思います。
    何にせよ、いい気分で読める本ではなかったです。
    勉強にはなりましたが。

  • 23歳で文壇デビューを果たし、第一次・第二次大戦後派に続く「第三の新人」世代として遠藤周作や吉行淳之介・そして夫である三浦朱門らと共に文学会で活躍した曾野氏。40歳を迎えた1971年からは海外邦人宣教者活動援助後援会というNGO(民間活動団体)で何と40年間も代表を務め、世界各地で現地の人々のために働く日本人の神父や修道女の活動を支援し続けたのだが、その彼女が行く先々で見たこと・感じたことを一冊に集約したのが本書である。日本人にとって身近な外国であるアジア諸国や欧米の先進国は元より、南米アマゾンで見た「絶望的な大自然」、アラブで気付いた「日本人の非常識さ」、アフリカの僻地で改めて認識した「日本人に生まれた贅沢さ」... 世界の果てまで旅した著者が綴る、日本人が知らない旅のオムニバス。

  • 著者が世界を旅して記した作品の抜粋。断片的過ぎてまとまりがないのは仕方ないか。欧米に関する内容はほとんど頭に残らなかったが、アジア、アフリカ、中東といった、執筆当時は今よりもさらに異文化の地であった国々に関する内容は、ところどころハッとさせられるものがあった。

  • 世界各国を訪問している著者の経験から生み出されたエッセイ集。多文化、異文化を理解する一助になる。また、各タイトルに英語も併記してあり、英語の学習にもなる。

  • 曽野綾子 著「日本人が知らない世界の歩き方」、2006.10発行です。曽野綾子さんは、日本財団の仕事で、不潔と不便、交通事故多発、ゲリラと内戦状態など危険度が高い国々への旅行を30年ぐらいされたそうです。折々の心情をエッセイなどに書かれていますが、この本は、それらを地域・国ごとに再整理した作品といえると思います。内容的には、私にはピンとこない(なじみがない。参考になりそうにない)感じでした。タイトルには納得しましたが~w。

  • 曾野さんの著作から、世界各地での仕事や生活や見聞、それに対するコメントを抜粋した本。引用されている文章は、短かいもので1ページちょい、長くても数ページ程度です。
    この本からできる限りたくさんの知識を吸収しよう、というより、この本をスタートにして、曾野さんの他の著作の中で興味が惹かれたものにシフトするための、一つの道標として考えるべきでしょう。面白い意見もありますが、一冊のまとまった本をきちんと読むのに比べて、受ける印象が散らかってしまう感はあります。

    章立てがアジア、ヨーロッパ、アメリカ、中南米、アフリカ、アラブとユダヤという6つになってますが、内容的に濃いのはやはりアジアとアフリカ、それにアラブとユダヤかと思います。「中近東」ではなく、「アラブとユダヤ」としたところに、曾野さんの世界の捉え方に対するコダワリがあるのかなと思いました。

    以下、共感できた記述。

    「危険のある土地を旅して、危険だったと言いふらしたり、実際に病気になったり、行方不明になったり、死んだりするのは、当たり前過ぎて粋ではないのだ。危険があっても、それらしい顔もせず、事件も起こさず、何気なく涼しい顔をして帰ってくるのが理想なのである。」

    「最近、日本人は現世に人間の力ではどうしても解決できない問題があることを忘れてしまった。不幸の原因は、社会の不備から出るもので、それは政治力の貧困が主な理由だと考える。だから、いつかは、その不備を克服できるはずだ、と思い上がりかけている。」

    「難民と認定されることが、一種の「難民業」として成り立ちうる」

    「感謝どころか、金を出すのは相手がやましく思っているから出すので、(アメリカからは)もっと取るべきだという考え方もパレスチナ人にはあるのである。」

  • こういう「視野の広い方」が旅をすると受け取り方が違うのだなあ と感心します。 
    ただ旅するのではなく、歴史的背景等を理解した上での旅は一味もふた味も違うのでしょう。 

    私も本心を言えば「何かの事業の一環」「視察として」旅をしたいです。 
    ま、そうする考えに至るには今の「放浪旅」のおかげですけどね。 

    ・高齢者を特別扱いする必要はない 
    ・生活の原型は抗争にあり 
    ・どこの国でも「譲り合い」が当たり前と思うべからず。 

    新しい感覚です。 

    私も独特の感覚を持って旅したいですね。 

    ※ワーホリ中時間があるのでサクサク読書が進みます。 
    お金は節約しますが、本題はケチりません☆ 

  • 個々の国の項目に対しては1ページの説明しかないが、その国に行ってみたいと思わせるものもある

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著者プロフィール

1931年東京生まれ。聖心女子大学卒。93年恩賜賞・日本芸術院賞受賞。2003年文化功労者に。2012年菊池寛賞受賞。著書に『人生の収穫』『「群れない」生き方』『人間の道理』『老いの道楽』等多数。

「2022年 『未完の美学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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