哲学は人生の役に立つのか (PHP新書 555)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569700892

感想・レビュー・書評

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  • 題名はともかく、本書は哲学の有用性(あるいは無用性)について語った本ではなく、木田元という哲学者の半生を振り返った自伝としての性格が強い。ただし、哲学という学問が個人の人生にどのような意味を与えたかという視点から読むことは可能であり、役に立つか立たないかだけを尺度とする価値観へのアンチテーゼへと敷衍することもできる。
    内容としては、ハイデガーはもちろん、フッサールやメルロ=ポンティなどの思想にも触れているが、予備知識を持たなくても理解できるように配慮がなされている。人生論的な切り口でありながらも、ハイデガー哲学を前期と後期に分けて考える一般的な見方とは一線を画し、一貫した存在論的な思想として捉えた独自のハイデガー観成立の契機を垣間見ることができ、思索の足跡を辿る意味でも興味深い。

  •  アテもなく、人生のモラトリアムのつもりで入学した農林専門学校だが、農業をやりたいわけではない。いきおい学業には身が入らない。しかし、このままでよいのか、将来はどうなるのだろうという焦燥感に著者は駆られる。たまたま聞いたハイデガーの「存在と時間」の講演で、これが自分を救ってくれるという「確信」を持ち、これを読むためには大学へ行かねばならないと、東北大学の哲学科へ進学。授業はいきなりカントの原書講読なのでドイツ語が必須。集中的に勉強して夏休み頃には習得。そればかりか、二年目にはギリシャ語、三年目はラテン語、大学院の一年目でフランス語を、それぞれ三ヶ月でものにしたというから驚く。[more]
     様々な哲学書を読みながら著者は常に「存在と時間」に立ち返るが、どうしても今ひとつ腑に落ちない。長い年月の研究を経た後、どうやらこれは自分の原初の問いかけに応えてくれるものではないということに気付く。それでも、これまでの哲学者としての人生は充分楽しかった。
     若い頃は迷えばよい。少々回り道をしようとも、それは決して「回り道」ではない。そういう過程を経ることにより、自分のやりたいことが見えてくる。しかし今どきの若者は予め何でも与えられ、何不自由なく暮らしているから、却って悩むことがないのかもしれない。
     哲学が世のため人のためになるかといえば、そうではないだろう。しかし著者自身にとっては哲学が救いとなった。
     ・・・とまあ、タイトルだけに惹かれて読むと肩すかしを食らう。これは木田元の哲学遍歴の書なのだが、滅法面白い。一気に読了。

  • 想像以上に面白い一冊だった!哲学と言う名の人生論!我が先輩に乾杯!

  • まあ斯界では知らぬ者のいない超ビッグネーム。
    こういう余技で書いたとも言えぬだらだらエッセイ本も、それはそれで味わい深いのではないでしょうか。

  • 結婚というのも歴史的な制度に違いない。子供を産んで労働力を安定させようという社会的な必要から出来た制度。ですから、社会の生産力が一定の水準に達し、それほど労働力の組織化が必要でなくなると若い男女が結婚しなくなります。

  •  今はなきハイデガー研究の巨匠、木田元の半生と、それに基づく彼の哲学観をまとめた一冊。
     戦後の荒廃した空気と、そこから学問を志した流れに納得。哲学への見方を少し変えてみようと思えました。

  • 現象学やハイデガーの研究で知られる著者が、自身の生涯を振り返りながら、若い読者に向けて人性について語った本です。

    終戦直後にはテキ屋で働き、農林専門学校に入学するもほとんど勉強せず遊んでばかりいたのが、ドストエフスキーの文学に出会いハイデガーの『存在と時間』を読みたいという一心で猛勉強し、東北大学で哲学を学ぶようになる経緯は、類まれな生涯というほかありません。

    そんな著者ですが、「やりたいことが分からない」という若者たちに対して苦言を呈するということはありません。ただしそれは、「優しさ」というよりも「おおらかさ」といいたくなるようなまなざしで、巷の若者論とはかなり違う印象を受けます。

  •  著者の語学習得のコツを改めて知りたいと思い読みました。でも本書の後半は人生一般(恋愛、仕事、子育て、死)について記してあるので、読んで良かったなと思いました。基本的にこの著者はどの本を買っても(哲学専門書を除けば)、大概書いてあることは一緒なので、もし読むのであればどれか気に入った本一冊を読めば十分かと思います。僕も大学院時代にこの人の本を何冊か読んだことがありますが、やはり内容はあまり変わりませんでした。

     僕の勝手な持論ですが、自分が麻雀をすることもあり、作家にしても学者にしても芸能人にしても麻雀をする(していた)人は何となく信用がおける。「何か好きだな」って、特に本を読んでて感じる著者の人は、麻雀をしていた人が多い。僕の指導教員もそうだし、この著者もそうだ。「教授なのに、勉強ばっかりしてないで(麻雀などをする)、遊び(余裕)を知っている人なんだな」という感じがするから。

     この著者は高校時の英語はもちろん、大学1年時に独語、2年時にギリシヤ語、3年時にラテン語、大学院1年に仏語を習得した人で、各外国(古典)語を習得する過程が凄まじい。やはり語学は繰り返し、そして短期間集中なんだと改めて思う。それができなきゃ苦労しないけど。

     本書の後半が、恋愛、仕事、子育て、死について著者が思うことをエッセイ風に書いている。

    ・愛について
    愛についてギリシャでは「エロス」、「アガペー」、「フィリア」という3つの語があり、特に「エロス」とは「まだ自分のものになっていないものを何とか手に入れようと、どこまでも追い求めていく愛」だそうで、「フィロ(愛)ソフィア(知)」は「知」が自分のものになっていないからこそ、それを何とか自分のものにしようとすることで、知を愛し求める以上、「愛知者」はまだ知を所有していないわけで、それが「無知」を自覚する(有名な「無知の知」です)ことだ、との記載に「なるほど」と、改めて感じました。そして、今まで意味がよくわからなかった『惜しみなく愛は奪ふ』という語句の意味が腑におちた感じがしました。

    ・仕事について
    著者は「働かなくてはいけない」というのは、脅迫観念ではないか、と問う。自分が好きなことをして、最低限食べていけるだけのお金があれば、それで良いじゃないか、と提言する。70歳以上でこういうことを言える人ってほとんどいないんじゃないだろうか。

    ・子育てについて
    親は子供が好きなことを見つけるのを見守り、好きなことを見つけて、その対象に夢中になれば、それを応援するだけで良い。何かを押し付けるものではなく、子供の自発性に任せるべきだという。

    ・死について
    著者は自分が研究してきたハイデガーの考え方より、サルトルやメルロ=ポンティに共感を覚えるという。
    ハイデガーは「死とは、現存在(=人間のこと)がこれ以上存在できないという究極の可能性」と言っている一方、サルトルは死は「可能性」なんてものではなく、「私の誕生が選ぶことも理解することもできない不条理な事実であるのと同様、私の死、つまり私が死ぬということも、理解したり、それに対処することなどできない不条理な事実」であると解している。
    死についてのハイデガーの分析に僕は影響を受けてるし、唸る。でも人生を考えた時には、僕はサルトルに共感を覚えるのだ。
     生も死も不条理であり以上、どうやって生きていったら良いのか、(自殺しないのであれば)存在し続けないといけないという苦しみは20代前半から消えることがない。

    ・余談
    ニーチェと妹の仲について疑問に思っていたが、まさか近親相姦の可能性もあったとは知りませんでした。

     
     ガンを経験した著者が70歳を超え、改めて感じた心境が率直に述べられていて、得ることがありました。
     著者は序章で、人類・人間の将来について、かなり悲観的に考えている。将来のことは誰にもわからないが、この本を読んで、「哲学なんて人生の役に立たない」ということがわかるのではないでしょうか。

  • 木田元の自伝みたいな。さらさらと書いてるけど戦後の混乱のなか哲学を選んだ木田元はやっぱりすごいし、壮絶な人生だとおもう。闇屋、農業学校、からの哲学って。時代の違いだけども、この年代の方の人生というのはわたしにはすごいものに思えてならないし、わたしは自分の人生の物語性の無さに悲しくなってしまう。それは贅沢な、無神経なことでしょうか。でもどうしても、ああこういうひとが哲学とかできるんだなあ、って、ね。内容は自己啓発書とかによくありそうなことを書いてるんだけど、こういうのって筆力よりも作者の人格と実績によって印象が変わるとおもいます。木田元のようなひとに言われると納得、ってかんじ。好きなものに真摯な姿勢が眩しくて羨ましい。

  • 哲学やってた私としては語学の学習方法のくだりは、自分も熱中したことなのでものすごく共感しました。7章の「やりたいことは努力して身につける能力だ!という意見はやりたいことがみつからない方にはこういう考えもあるんだと参考になるでしょう。また、親の立場からの考えも述べられているので、子育てにももっと役に立てるんじゃないでしょうか?
    終章の旧制度の高等学校や大学にあった戯言「高校に入って哲学書をよまない奴はバカだ。大学に入ってまだ哲学書を読んでいる奴はもっとバカだ」というのは爆笑しました。
    やりたいことを追求する人生ってどんなの?ということに興味がある方におすすめです。ちなみに内容は哲学に関してではなくて自伝です。

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著者プロフィール

中央大学文学部教授

「1993年 『哲学の探求』 で使われていた紹介文から引用しています。」

木田元の作品

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