国際情勢 メディアが出さないほんとうの話

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569704951

感想・レビュー・書評

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  • きわめてインテリジェンスの高い書である。ほぼタイトルどおりである。ポイントは3つか。

    ・アメリカは一枚岩ではない。米英中心主義派(軍産複合体ら)と多極主義派(ロックフェラーら)がいる。米英中心主義派は冷戦を望み、多極主義派は米国の一極支配を終わらせようとしている。
    ・米英中心主義の黒幕(冷戦の黒幕)はイギリス(後にイスラエル)である。
    ・アメリカは冷戦終結・テロ戦争敗北・金融崩壊で自滅し、世界は多極化へ向かう。米英中心主義は敗北し、多極主義派の勝利になる。日中両国は協力が不可欠になる。

    目次と要約
    まえがき
    p3 米政府はイスラエル右派に牛耳られている。イスラエル右派は米国の軍産複合体の一部をなし、マスコミを操作できるネットワークを持つ。

    序章 オバマ政権と今後の米国
    p23 米国は、中国に覇権の一部を押しつけ、覇権国としての負担を軽減し、身軽になって国力の再生を目指しているようだ。

    第一章 米英金融革命の終わり
    p30 レバレッジ型金融は終焉した。米英経済は今後、日本並かそれ以上の「失われた十年」を経験することになる。1980年代半ばの米英の金融革命は、日本では数年後に破綻し、米英では20年かかって2007年から破綻期に入った。
    p32 サブプライムとは、無数のローンを集めてミンチにされた「挽き肉」であり、もともとのローンの担保権とは関係の切れた商品である。挽き肉に血統書がないのと同じように、サブプライムローンにも担保証書はない。
    p34 「米国は潰れない」と米国を偏愛する日本人が多いが、80年代以降、米国は研究開発より金融のトリックが重視され、中産階級は没落し、ネオコンのような詭弁を弄する勢力が政府中枢に入り込んでめちゃくちゃをした結果、米国の素晴らしさはもはや過去の話である。
    p35 1980年代、米国の大資本家たちが金融革命を始めた際、英国を誘った。その理由は冷戦を終わらせるためだった。儲ける仕組みができたので、英国は冷戦の終結に反対しなくなった。

    第二章 深化するドルの危機
    p49 国際基軸通貨としてのドルの地位が崩れるとしたら、中東から始まる可能性がある。
    p53 米政府は表向き「強いドルが望ましい」と言いつつ、ドル崩壊を黙認している。
    p61 米中枢は「大英帝国を解体して世界の覇権構造を多極化し、中国・ロシア・アラブなど世界中の途上国を経済発展させ、そこに投資して儲ける」という多極主義者の勢力と、「大英帝国のノウハウを米国に移籍し、米英同盟を頂点とする世界覇権として維持する」という米英中心主義が対立的に並存する。
    p61 ドル崩壊や米中関係改善を挙行したニクソン政権は「多極主義のクーデター」だった。
    p62 米英中心主義は、衰退する英国に代わって、イスラエル系の在米シオニスト右派が中心となって米政界の乗っ取りが画策された。多極主義側は、石油価格の操作方法を熟知しているロックフェラー家などが、アラブの民族主義を扇動し、73年来の原油高騰を引き起こし、イスラエル潰し、米経済破壊を誘発した。
    冷戦の終結のメリットは、多極主義派にとって世界規模の自由市場化であり、米英中心主義派にとっては、ロンドン金融市場の発展である。
    p62 米英中心主義派は、911事件を契機に、テロ戦争(第二冷戦)を開始した。対抗すべく多極主義派は、国際原油価格の高騰を誘発した。
    p64 「市場原理主義」とは、多極主義勢力の動きを過度に行うことで汚名を着せていること。「単独覇権主義」は、米英中心勢力の動きを過度に行うことで汚名を着せていること。
    p66 1971年ニクソンショックは多極化の契機であり、日独が経済覇権を取るチャンスだったが、日独は早急な国際影響力の拡大を望まず、市場介入をしたため、ドルの覇権は守られた。
    p66 中国やGCC(サウジなど)も国際影響力の拡大を望んでいない。
    p68 ゴールドマンサックスは多極主義である。
    p69 ドルの単独覇権から、五極または六極(ドル・ユーロ・円・人民元・GCC通貨・ルーブル)体制へ転換していく方に進みそうだ。
    しかし、この体制の中で、他国に従属する展望しか持たない唯一の国は、日本である。

    第三章 石油高騰の謎
    第四章 大統領選挙とイスラエル
    第五章 イラン革命を起こした米国
    第六章 イラクで疲弊する米軍
    第七章 テロ戦争の意図と現実
    第八章 ロッカビー事件・はめられたリビア
    第九章 エネルギー覇権を広げるロシア
    第十章 米国に乗せられたグルジアの惨敗
    第11章 フランスの変身
    第12章 チベット支援騒動の深層
    第13章 米国が中国を覇権国に仕立てる
    第14章 国父の深謀
    第15章 自衛隊派遣中止で読み解く日中関係
    第16章 ヤルタ体制の復活

    2014.10.24 「橘宏樹さんの『現役官僚の滞英日記』」の記事で紹介

  • 2011以前

  • メディアというものは真実を伝えようと日夜努力しているのだと思っていました、でも彼らは株式会社ですから株主の意向を重視して活動せざるを得ない状況にあることは社会人として十分に理解できます。従って、メディアからニュースを得る我々は、それらを鵜呑みにすることなく、それらを判断する力を持たなければならないことを認識させられた本でした。

    以下は気になったポイントです。

    ・2009年末までにデフレからインフレへの再転換のために、ドル暴落、米財政破綻、食料の高騰が起きる可能性がある。混乱を収めるには米英中心から複数大国(米国、EU,BRICS)による多極型体制へと移行する(p5)

    ・英国銀行協会の会長が、レバレッジ経営が破綻し、伝統的経営モデルに戻らざるを得なくなったと宣言した(2008.6)ことは衝撃的である(p28)

    ・2007年11月、オハイオ州の裁判でドイツ銀行がオハイオ州の銀行から購入したサブプライムローン債券が急落したため、債務者の住宅を没収・競売しようとしたが、担保権の証書が提示できずに敗訴した、この衝撃が大きい(p32)

    ・米国SECは、2008年7月に、信用格付けが業界企業の健全性を判断する基準として使われていたのをやめた(p42)

    ・レバレッジ型金融の消失は、資金調達コストの上昇、減収減益の要因となる、今後3-5年は世界的な不況が続く(p44)

    ・クウェートがドルペッグをやめたのは、景気が過熱していて利上げの必要があるのに、米国が金利を下げたので連動させられなくなったことによる(p50)

    ・OPECがGCC共通通貨建ての価格を導入することは、ドルが戦後60年間持っていた国際決済通貨としての地位を失う(米国債の外貨準備が不要となる)ことを意味する(p52)

    ・ロンドンICEがWTI先物をブッシュ政権が2006年1月に認可している、これを投機筋が活用して価格を上げた、これを排除すると50ドル程度となる(p73)

    ・米国石油輸入先は、カナダ(19)メキシコ(15)サウジ(11)ナイジェリア(10)ベネズエラ(10)である(p76)

    ・ヨルダンはフセイン政権が倒されるまで、イラクから原油を野菜との物々交換(ほとんど無償)で受け取っていた、今はサウジアラビアが提供している、石油の安値供給が各地で行われている(p77)

    ・WTI価格に基づいて売られている石油取引は相対取引であり、統計には全く出てこない(p78)

    ・ドルでなく金地金で石油を買った場合の価格はあまり上昇していない、石油の高価格はドル安値の裏返しである、1971年までは1バレル=0.08オンス、現時点で1バレル=0.13オンス(1オンス=900ドル、1バレル=120ドル)である(p78)

    ・米欧がイランを制裁している間に、イランの石油ガスの利権が米欧からロシア、中国、インドへと移転した(p83)

    ・ケネディはベトナム戦争から撤退しようとして暗殺された、昇格したジョンソン大統領はケネディ案を破棄した(p94)

    ・米軍は兵士の9割以上が高卒以上の学歴(前科なし)を持つことを目標としたが、今では8割以上がやっとで新兵の半分以上が前科者である(p131)

    ・米国は新兵募集が難しいので、米英の元将校らが経営する傭兵企業に発注している、イラク駐留の3割を占める5万人前後が傭兵であり、米軍(15万人)に次ぐ2番目の勢力(p132)

    ・一連の戦争で装甲車は3万→22万ドル(2001年から2007年)と値上げ、軍事費の多くは軍事産業のぼろ儲けに回っている(p134)

    ・バース党員の公職追放により、公務員の大半は出世のためにバース党員に登録していたため、イラクにおいて行政能力のある人は仕事につけなかった(p137)

    ・ロシアでは、ガスプロム会長の職位が、大統領、首相と並ぶ、たらい回し三要職の1つになっている(p176)

    ・ドルを全く使わない決済方法ができると、ドルの信用不安によって起きている世界的なインフレを回避する策となる(p180)

    ・フランスが中心となって地中海同盟体(フランス、スペイン、イタリアのほかアラブ、イスラエル、パレスチナ等の16カ国)が2008年に結成された(p226)

  • 1つ目は筆者は、あくまでメディアを通した情報から組み立てられたものであって、本人が直接得た経験などから生まれる考察ではないこと。(よくできた推論でしかない。)
    2つ目は本人の考えに沿うように情報を切り貼りしていて、わりと煽動的であること。

    まあ、あらゆる情報は提供者の主観・提供者の恣意により加工(偽装)されているという認識もあるわけで、問題は情報をどう分析し
    て先を見通すかの技量だと思います。(Informationとintelligenceは違う。)
    少なくとも、日本の新聞よりも田中氏 の意見を貴重な情報源として国際情勢の理解の参考としたいと思います。

  • 米国ではすでに製造業が死んでいるので、金融力が除外され、刷るだけで世界から輸入できたドルの基軸性も失われて消費力も減退したら、ほとんど何も残る者がない。  国際石油業界では従来はエクソン、シェル、BPといった英米の石油会社(セブンシスターズ)がつよかったが、今では英米の会社がもつ石油の埋蔵量は世界の全埋蔵量の10%を切っている。今セブンシスターズといえば、ロシア、いらん、さうじ、中国、マレーシア、、ブラジル、ベネズエラという反米非米てきな7カ国の政府系石油会社を指す。 ロンポールという草の根候補がいたがマスコミからは無視された。 プーチン、メドジェーネフ、ズブコフ 大統領、首相、ガスプロムの会長を三角形のたらい回し  60年代ケネディは冷戦を終わらせようとして暗殺、70年代にはニクソンが中国訪問などで冷戦を終わらせようとして失脚  2大政党制は2党の談合ですべてを決められる2党独裁である。  日本人は強がりをいえなくなるって窮すると、一気に全面放棄し転向して正反対の土下座を刷る癖が有る。日本人には長期政策の立案実行に必要な粘りがない。

  • 老舗メールマガジンであるhttp://www.tanakanews.com/の主宰者による久々の単行本。同メール・ニュースで書かれた内容に加筆・修正がなされているために、2008年夏ごろまでの情勢に関する解説もある。金融、国際政治、紛争、パワーバランスに関する考察。
    田中氏は特定分野の専門家ではなく、膨大なニュースの行間を読み取り自分なりの考えをまとめるという手法をとっているために、ごくごく基本的な事実を全く違う意味で間違って理解してしまっているケースがある。メールニュースの場合は仕方ないが、単行本として出す以上は、PHP編集者によるプルーフ・リーディングが甘いといえる。瑣末なエラーはさておき、考察自体はユニークで面白い。

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著者プロフィール

国際情勢解説者。1961 年東京生まれ。東北大学経済学部卒。東レ勤務を経て共同通信社に入社。新聞、テレビ、ネットニュースでは読めない情報と見解を発信するメールマガジン「田中宇の国際ニュース解説」を主宰。
著書に『タリバン』(光文社)、『非米同盟』(文藝春秋)、『世界がドルを捨てた日』(光文社)、『日本が「対米従属」を脱する日』(風雲舎)、『金融世界大戦』(朝日新聞出版)、『トランプ革命の始動──覇権の再編』、『感染爆発・新型コロナ危機──パンデミックから世界恐慌へ』(ともに花伝社)ほか多数。

「2020年 『コロナ時代の世界地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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