雲は答えなかった 高級官僚 その生と死 (PHP文庫)

著者 :
  • PHP研究所
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レビュー : 26
  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569761558

作品紹介・あらすじ

『そして父になる』で世界の「コレエダ」となった映画監督が、若き日のドキュメンタリーをもとに自ら筆をとった傑作ノンフィクション!

感想・レビュー・書評

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  • 図らずも、初是枝作品が、映画でなくこれになってしまった。

    NHKクローズアップ現代の対談見てから一気にエンジンかかり、調べればいくつものご著書が!原点とも言える作品、なんて発見しちゃったら読まずにいられない!
    朝日新聞のコラムも目にして、”公共圏を豊かに”のフレーズにその関心が集約されている予感もあり、もう是枝沼にハマることは決定した、というところです。

    込み上げる激しい感情は今回なかったものの、静かな熱さにはやはり涙するばかり。誠実な人は誠実な人を引き寄せるんだなと、まさに出会いは鏡、詩を愛する山内氏と文学部出身の監督との共鳴とも言える洗練された文章と詩の味わいも加わって。

    もうこれは、一介のノンフィクションではなく、エッセンシャルな作品です。

    最後のエピローグ、亡くなって数年後の奥様の言葉が、シンプルに、純度高く、心に沁みた。

    「生は生としてそこにゴロっと転がっている」監督のそのスタンス、映画、追いかけます!

  • 20141028読了。
    映画監督、是枝裕和の初著作。水俣病に関わった官僚の死を取材し、ドキュメンタリー番組として放送されたものにさらに取材を重ねてまとめられたノンフィクション。
    日本の高度成長の負の遺産、水俣病。自分がその病気と政府の対応について全く知らなかったことがまず衝撃。「水俣病」という名前は知識として知ってはいたが、経済成長を優先させるために被害者への補償やを切り捨てる政府の対応。そのひどさや、政治家・官僚と呼ばれる人たちの保身、「臭いものには蓋」主義に震えるほどの怒りを感じる一方で、冷徹な官僚になれなかった山内さんのもがき苦しむ姿が辛すぎる。死へ向かっていく姿と支える奥さんの姿は涙なくして読めなかった。
    口下手な一方で、詩で自分を表現する。なんて不器用な生き方だったのだろうか。

  • 本書は昔、フジ系列のnonfixという深夜のドキュメンタリー番組で放送された内容を書籍化したもの。

    初めて是枝さんが作った(28歳の新米ディレクター)ドキュメンタリー「しかし・・福祉切り捨ての時代に」。
    福祉行政を歩んだ高級官僚の自殺と生活保護が受けられず焼身自殺した元ホステス。2人の人生を交差させつつ戦後日本が歩んだ福祉行政と福祉切り捨ての時代様相に迫った内容だ。

    私事だが、大学1年のとき講義でこのドキュメンタリーを見た。

    いまでも覚えている。

    官僚=悪、市民=善という善悪二項対立で作るのでなく、あくまで2人の人生の歩みに迫った内容だった。
    2人の生と死が福祉を媒介にして交差していく。
    いたずらに社会正義を振りかざすこともなく、スキャンダルに描くわけでもなく、取材対象者に真摯に迫る手法と内容に感動した。

    本書の記述は自殺した山内豊徳という一人の官僚とその家族に重点を置いている。特に山内夫婦のあり様が事細かに描かれている。どのように出会い、苦しみ、別れたか。夫婦の歩みにぐっと迫る様が映像という媒体と違って夫婦の物語を紡いでいる。一遍の小説を読んでいるようだった。



    余談だが。
    この本を読んで、なぜ是枝さんはここまで山内個人の生と死を、そして夫婦の歩みを細やかに記述できたのか。ドキュメンタリーを見た時点でそう思った。よくここまで奥さんに取材できたなあ、と。

    これには訳がある。
    是枝さんはある対談でこのドキュメンタリーについてこんなことを話していた。
    全ての取材が終わり、ドキュメンタリーもつくり終え、本も執筆したことを山内の奥さんに報告しに行った。


    そのとき奥さんはこういった。


    「なぜ初めて会ったあなたの取材を受けたのだと思いますか?」。


    是枝さんは分からず「どうしてですか?」と訊いた。

    すると奥さんはこう答えた。

    「初めて家に取材に来て、亡くなったご主人について話を聞かせてほしいとモジモジしながら喋っていたあなたの姿が、自殺した主人にそっくりだったんです」。


    是枝裕和という若きディレクターが一人の官僚をドキュメンタリーの題材として選んだのではなく、山内豊徳という人間の生と死が是枝裕和という表現者を選び取った。そうでないと作れないドキュメンタリーで、そうでないと書けない本である。

  • 山内豊徳氏という高級官僚の生と死を通して、職業と家族と自分との問題を考えさせられる。

    俺は彼のように純粋に、「力に負けずにあくまでも正しい者の味方をする」こともできないし、また彼のように不器用に、「現実にしごと(彼の場合は行政)を適合させていくことができない」こともないし、さらには彼のようにすべての人に誠実に対応しようとするあまり、「決断を遅らせたり、その発言を歯切れの悪いものにする」こともない。

    しかし、そういう彼の特徴として書かれている部分は俺の中にも少なくない。そしてそれは、個人としては尊敬に値するものだ。

    彼の死は、家族にとっては悲しい出来事だったろう。しかし彼自身にとってはどうだったのだろう。死の瞬間、一度は死ではなく失踪を試み、そして翻って自宅に戻り、午後から出社すると偽って自室で死に向かった時に彼の心象風景はどのようなものだったのだろう。もしかしたら、彼にとっては家族よりも公共性が重要であったようにも思えることから、官僚としてできるだけのことはやった、やった結果として、ある必然の死だったとすれば、それは、あながち「悪い結果」ではなかったのかもしれない。

    そう考える時、「彼のような不器用さでは社会には通用しないのだ」という感想は、少々的をはずしていることになる。「彼のような不器用さがあってこそ社会の中で自分たりえるのだ」と。

    しかし、そのことと、自分にとっての幸せとはまた異なる。何とも、答えのない海に放り出されたような気分だ。

    【追記】あとがきを読んで

    筆者によるあとがきに、こうある。

    「山内豊徳という人間は~中略~やはり加害者側の人間であったと言わざるを得ないし、又同時に時代の被害者でもあった~中略~彼はそのふたつのベクトルに引き裂かれながらアイデンティティの二重性を生きた~中略~多くの人はこの内なる加害者性と向き合うことが辛くて、目をそらしているに過ぎない。」

    この内なる加害者性こそ、俺が「先生」と呼ばれる職から逃げ、そして今の民間の業務においてすら「一歩踏み込めない」原因になっているものだと思う。

    しかし、内なる加害者性に挑んだ山内氏。彼を突き動かした「数や力では無く正義に味方する」という態度。そういう強さを目指して、やってみようと思う。

  • 酷いコトと承知で書くならば、「良い官僚は、死に追い遣られた官僚」と言うコトか、、、

    PHP研究所のPR
    http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-76155-8

  • 【読書その73】厚生省の大先輩である山内豊徳氏を知ったのは、大学時代。父の本棚に山内氏の著書「福祉の国のアリス」を見つけて手に取った時である。その本は厚労省に入り、福祉をやりたいという自分の気持ちを大いに奮い立たせるものだった。
    その後、この文庫「雲は答えなかった」というタイトルに変更される前の「しかし・・ある福祉高級官僚 死への軌跡」を手に取った。そのときの自分の想いと現実に阻まれて死を選んだ山内氏の衝撃は今でも覚えている。
    あれから約10年。自分も来月で社会人10年目。家族を持って、この本を読んで感じるものも明らかに変わった。自分の想いと現実との狭間、レベルは違えど役人であれば必ず経験するはず。今後自分も色々な場面で経験するだろうが自分に嘘をつかずやっていきたい。

  • 重たい読後感で、何ともすっきり整理できない。福島との相似を思わずにはいられないが、それだけではない。個人の生き方と社会の関係。。。

  • 社会正義といった得たいの知れない物事に真摯に向き合い死を選んだ公務員の物語。真実を教えてくれる一冊。

  • 今や「世界のコレエダ」的な人が一介のテレビ制作マンだったときに書いたもの。初めて自分の手で制作した番組をきっかけに(故人として)出会った山内豊德という厚生官僚の軌跡を追ったルポルタージュ。是枝さんについては、「誰も知らない」「そして父になる」「万引き家族」といった作品から、自分の興味関心と重なるところがありそうだと思いながらも、各作品が話題となることから若干あざとい人という印象ももっていた。でもこの本を読んで、素直にこの人の底を成しているものは信じられると思った。こんなふうにも書いているし。
     
    テーマやメッセージといった言葉で作品を語ったり、語られたりすることは好きではない。なぜならそのようなものに回収されてしまう作品は、人間そのものの描写が弱いからに他ならないのだと、いつも映画を作りながら考えているからだ。物語やテーマの為に人間がいるのではない。それは私たちの生がそうであるように、生はただ生としてそこにゴロッと転がっているのだ。そのような人間を映画の中で描きたいと思うようになったのは、もしかするとこの一冊目のノンフィクションでの一組の夫婦との出会いが、無意識のうちに僕にそうさせた遠因なのかも知れない。(p.8)

    この本では、福祉に、そして(図らずの)晩年には水俣病問題に深く関わった山内氏の厚生官僚として日々が描かれる。それはそれでその誠実な仕事ぶりに胸を打たれるし、こういう人が自ら死を選ぶことになってしまうことに憤りを感じさせる(と同時に、なぜ死んでしまったのかとも思う。生きてもうひと踏ん張りすることはできなかったのかと……)。
    それとともに、夫婦の絆に触れられることにも大きな価値を感じている。撮影がらみで、亡くなった夫のことを聞きに来た若き日の是枝さんに「公共」という言葉を使い取材を引き受けてくれた妻の偉大さを感じさせる。
    山内氏の著書からなど引用が多かったり、読みものとしてのこなれた感はいまいちなのだが、それがこの本のよさだろう。思いはもちながらも術をもたず不器用だった若者らしさが感じられ、それをその成長した姿と引き比べるとき、何が人を成長させるのか、言い換えれば成長できる人は何をもっているのかということも感じられると思う。

  • 3.8 理想と現実 。理想に生きるか、現実に生きるか?どっちが幸せなのかな?って思う。だけど、生きていたいかな。

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著者プロフィール

映画監督、テレビディレクター。1962年生まれ。大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。1995年、映画監督デビュー。2004年、『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて最優秀男優賞(柳楽優弥)受賞。

「2017年 『是枝裕和』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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