デザインが奇跡を起こす

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569776361

感想・レビュー・書評

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  • 今週おすすめする一冊は、水谷孝次著『デザインが奇跡を起こす』
    です。著者の水谷氏は、かつては超売れっ子の広告デザイナーでし
    たが、この10年間は、「笑顔は世界共通のコミュニケーション」を
    合言葉に、世界中の人々の笑顔を題材にしたコミュニケーションア
    ート「MERRY PROJECT」に活動の軸を移しています。愛知万博、北
    京オリンピック、上海万博等で水谷氏の集めた笑顔の写真が使われ
    ているので、ご存知の方も多いことでしょう。

    本書の前半は、デザインと縁のなかった水谷氏が、大学を出てから
    デザインの道を志し、失敗と挫折を繰り返しながらも頂点をつかむ
    までの苦労話です。その過程での努力は凄まじいの一言。一流にな
    るには、やっぱりここまでしないといけないのだな、と背筋が伸び
    る思いがします。

    高度経済成長期からバブルへ。時代も味方したのでしょう。超売れ
    っ子デザイナーとして成功を欲しいままにした水谷氏ですが、消費
    社会の中で自分自身が消費されていくことに次第に虚しさを感じる
    ようになります。

    自らを消耗し疲れ切った水谷氏は、ある日を境にそれまでの世界か
    ら足を洗います。そして、自分を見失い、行き場を失った彼を救っ
    たのが、昔、自分が撮った少女達の笑顔の写真でした。水谷氏は、
    それを写真集にしようと動き始めます。そのタイトルが「Merry」
    でした。メリークリスマスのメリー。ハッピーに近い言葉だけれど
    も、もっと広く深い言葉。シンプルなようでいて曖昧だから、一人
    ひとりにそれぞれのMerryがある。

    その写真集がきっかけになって「あなたにとってのMerryは何です
    か?」と世界中の人々に訊ねながら、その人のMerryな瞬間を撮る、
    というプロジェクトが始まるのです。それが愛知万博で披露され、
    北京オリンピック、上海万博へとつながっていく。

    正直、儲かる仕事ではないと思います。事実、北京オリンピックの
    時は一銭ももらっていないそうです。でも、水谷氏にとっては「与
    えられた仕事」ではなく、「自分の中から出てきたテーマ」を仕事
    にすることの方が重要なのです。

    自分の中から出てきたテーマを仕事にする。そして、それが人に幸
    せを与えていると実感できる。こんなに素晴らしいことはないでし
    ょう。水谷氏は、笑顔というシンプルなコミュニケーションの力に
    導かれて、それを実現してきたのです。

    笑顔の力を改めて教えられると同時に、仕事と自分の関係について
    も考えさせてくれる一冊です。是非、読んでみてください。

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    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    事務所のゴミを片づけるのも、僕の仕事だった。
    毎日、みんなのゴミを集めて回って、ビルのダストシュートで処理
    することになっていたが、僕はそうしなかった。デザインに関する
    すべてのゴミを、家に持ち帰ったのだ。
    持ち帰ったゴミは、全部広げて分析した。どんなゴミも僕の教科書
    だった。

    「水谷君は、明日から来なくていいです」
    やっぱりダメか…目の前が真っ暗になった。
    しかし田中(一光)先生は、僕のポスターのどこがいけないのか、
    二人きりで二時間くらいかけて丁寧に批評してくれた。そして何よ
    り、今後のことについてアドバイスしてくれた。
    「君には品性と知性が足りない。とにかく、いいものをたくさん見
    なさい。いい人に会いなさい。いい本を読みなさい。いいものを食
    べなさい」

    つらい時期が長ければ長いほど、ポスターが好きになった。失敗や
    挫折の量が多ければ多いほど、「やりたい!」という気持ちが大き
    くなった。

    すべてのクリエイティブにとって、いちばん重要なのは「気迫」だ
    と思う。気迫さえあれば、大きな岩だって動かせる。そしてその気
    迫が「運」を呼び込む。

    順調にデザイナーとして次々と仕事をこなす一方で、僕の心の奥底
    には、完全に満たされないものがあった。
    僕の仕事は、企業の利益にはなるけれど、社会のためになっている
    のだろうか?
    世の中の役に立っているのだろうか?
    ここは、本当に僕が若いときに目指した場所なのだろうか?(…)
    気持ちの虚しさとは裏腹に、通帳の金額は増えるばかりだった。

    山の頂上を目指して、そこにたどり着いたと思ったけれど、結局、
    そこには何の幸せもなかった。(…)
    三歳のとき、「父親をこんなふうにした社会は間違っている。僕が
    世の中を変えよう」と思ったときの感覚を、もう一度思い出そう。
    これからは、誰かを幸せにするような仕事をしよう。与えられた仕
    事ではなく、自分の中から出てきたテーマで、社会を変えるような
    仕事があるはずだ。

    ある日書類を整理していたら、写真の束が出てきた。以前、アメリ
    カを旅行していたあとき、バスの中で偶然出会った少女たちの笑顔
    を撮ったものだ。(…)
    その写真を見たとき、「あっ」と思った。突然、風が吹いてきたよ
    うに、新しい時代の空気を感じた。
    これが、新しい時代のデザインなのかもしれない…。

    「自分の中から出てきたテーマ」を仕事にする。これが第一歩にな
    るかもしれない。そんな予感がした。

    僕にしてみたら、何よりも、ようやくやるべきことが見つかったこ
    とがうれしかった。ここにたどりつくまでに膨大な時間がかかって
    いるのだ。自分のやりたいことが見つからない、自分がわからない
    時期は、本当につらく、怖かった。(…)
    でも今、僕は「MERRY」というプロジェクトの中に、暗闇から抜け
    出すための兆しを発見した。今やりたいことをやればいい。自由に
    生きていけばいい。

    一枚一枚がその人の笑顔。
    パーソナルな幸せをポスターにしていく。
    まさにクオリティからコミュニケーションへ。
    デザインの概念を革命的に変えるポスターだったと思う。

    神戸の人々の笑顔は素晴らしかった。
    震災で一度絶望を経験し、すべてを失った人々が、立ち直ったあと
    の希望の笑顔だった。

    「あなたにとってMERRYとは何ですか?」
    その質問に、ある少女は「YOU」と書いてくれた。(…)
    「私は今まで笑ったことがない。MERRYなんて考えたこともない。
    今日は初めて笑ったし、初めてMERRYって何か考えた。私にとって
    今日は最良の日。私にとってのMERRYはあなたよ」
    思わずシャッターを押す手が止まった。

    デザインってこういうことなんだ。
    人を幸せにすること、人を楽しませることこそ究極のデザインだ。
    求めていた答えに、ようやくたどりついた気がした。

    「スマイルイズビューティフル」
    笑顔には、政治を変える力がある。(…)
    笑顔は笑顔を呼び、幸せの輪につながる。笑顔は究極のコミュニケ
    ーションだな。ここまで人をひとつにしてくれるのだから。
    今、僕は人をつなぐデザインをしている。最高の仕事だと思った。

    若い頃は、富と名声を得たら、そこには幸福が待っていると信じて
    いた。
    実際に、たくさんの賞をとったし、お金もいっぱいもらったけれど、
    そこに愛はなかった。
    今は、愛はあるけれど、残念ながらお金はない。ラブとマネーは同
    時に得られないものなのかもしれない。
    人生には光と影があって、光が当たれば、必ず影がある。さまざま
    な経験と旅を経て、それが僕にはようやくわかった。

    「和顔愛語」
    ブッダが2500年前に言った言葉だ。笑顔と優しい言葉。
    何もあげる物がないなら、あなたが笑顔と優しい言葉をあげなさい。
    そうしたら、あなたに笑顔と優しい言葉が返ってきますよ、と。

    本当の笑顔こそ、アートであり地球の未来を築くための究極のデザ
    インだと思っている。

    僕がこれから目指すデザイン。
    それは社会との関係性を見据えて、地球規模で考え、ひとつひとつ
    のコミュニケーションを大切に、環境をデザインし、平和をデザイ
    ンしていくこと。
    地球全体をひとりでも多くの笑顔でいっぱいにし、幸せにしたい。

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    ●[2]編集後記

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    笑顔は確かに素敵なコミュニケーションツールなのですが、一歩間
    違えると印象操作のための手法になってしまうから怖いですね。
    「営業スマイル」なんて言われますが、相手に好印象を抱いてもら
    うために作り笑いをする、というのは、「大人」の作法の一つなの
    かもしれません。

    もっとも、作り笑いは、かなり早い段階で身に付くものなのだな、
    というのは娘と付き合う中で教えられました。乳幼児は親に見捨て
    られたら生きていけないわけで、だから親の歓心を買おうと努力し
    ます。その努力の象徴が親に向けられる精一杯の笑顔で、それはも
    うほとんど無意識にやっている。本能としか思えません。

    当然、心から笑っている時の笑顔と作り笑いの笑顔は違いますから、
    子どもが作り笑いをしているなと思ったら、何か追い詰めているの
    ではないかとこちら側のあり方を見つめ直すようにしています。幸
    い、それほど作り笑いをしているようには感じませんが、それでも
    たまにあります。そういう時は、たいてい家族のバランスのどこか
    がおかしくなっている。

    怖いことに、家族のバランスの崩れは、必ず子どもに出るのですね。
    核家族なら、夫婦の問題が子どもに出る。だから、子育てに一番大
    事なのは夫婦の関係をどう育てていくかなのですが、実はそれが一
    番難しかったりするのです…。

  • 思いをカタチにするには?

    →気迫が一番大事であり、その気迫が運を呼び込む
    攻めることに損はない
    勇み足で失敗することは悪くない
    挑戦を続けることが大切

  • 水谷さんの考えってすごいな。貪欲でいきたいな。

  • 著者の懸命さが伝わってきた。自分のやるべき事を見つけているのが羨ましい。

  • ■デザイン
    ①1,斬新な切り口とオリジナリティー 2、誰も見たことのないようなアイデアと時代の少し先を行くプラン 3、アカデミックとエンタテイメントのバランス 4、限りなく美しく、力強いビジュアルと絵画性。そして完成度 5、コミュニケーション力とマーケティング力 と編集力。
    ②MERRY PRJECT

  • 机の前の壁に,ずいぶん長いことこの本のポスターがはってある。
    ついにゲット。
    表紙の写真がカラフルで好きだ。

著者プロフィール

1951年名古屋市生まれ。1977年日本デザインセンター入社。NPO法人MERRY PROJECT代表

「2021年 『みんなのSDGs』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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