去年はいい年になるだろう

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569776637

感想・レビュー・書評

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  • 読み始めは「ああ、こういうタイムパトロール的なやつね」って思いながらガーディアン到着まで進んだけど、某SF作家個人にストーリーの焦点があたり、タイムパトロールの個人との関わり合いという要素が組み合わさることで、物語は深みを増してゆく。誰もが自分の家族が大切で、自分の身が大切。「自分」の側がどんな規模なのかの考え方は人によって違うけど、規模が違うだけで結局は身勝手なんだよなと。終わり方が山本弘らしいともらしくないとも言えて印象的。

  • 読ませることは、読ませる作品。
    ブログやホームページなどの文章に近い、
    ネット的な文章。
    いかに読ませるか、に主眼が置かれている
    (作者自身も、作中で、そんなようなことを
    書いている)。
    普通、小説は電子版になると一気に読みにくくなるが
    (青空文庫でもわかるように)、
    この小説は、電子版になってもわりと普通に「読ませる」
    のではないかと思う。

    出だし100ページくらいは、
    主人公(作者の山本)が未来から来たアンドロイドと
    延々と話をしているだけで、何の展開もないが
    (ウルトラセブンの例えが出てくる)
    それでも読ませるし、引き込まれる。

    設定もしっかりしていて、ワープやタイムトラベルは、
    人間では不可能だが、ロボットだったら可能、とか
    こういう話の場合、ロボは数体しか来ないが、
    500万体も来て、事態の収拾にあたったり
    (そのくらい来ないと、無理でしょう)
    ターミネーター型の歴史改編でなく、パラレル分岐型なので、
    タイムパラドックスを発生しないとか
    宝くじや競馬の結果は当てられないとか
    (ただし、カオス理論の前提として、天気の予測もできないので、
    天気や、地震が予定通りに起こるのは、たぶん間違い。
    人間や動物が息を吸ったり吐いたりしているだけで、
    天気なんて、予定とは変わってくるはず)
    宝くじの予測はできないが、
    普遍的なものとして、科学技術は有効なので、
    それにより、金儲けをしたり、などなど
    (未来から金を持ってくると、同一ナンバーで、偽札の疑いを
    かけられるとか、芸が細かい)

    ただ、欠点として、コンセプトに一貫性がない。
    作者のHPをみると、あらかじめ言い訳めいたことが書いてあるが
    ・微妙な読後感になることを覚悟してほしいこと
    ・アンドロイドが理想的な人格であるという結論は、
     すでに前作で出たので、今回はそれをさらに進めて、
     そこに疑問符をつけるということ
    の、2点がかかれている。
    そして、「善意からの行動が本当に人のためになるか」
    ということを、テーマにあげている。
    しかし、そもそも、このテーマの上げ方自体がおかしくて、
    「善意」が人のためにならないなら、一体、なにが
    人のためになるのか?
    はっきり言って、問うまでもない、バカげた質問だと思う
    (ちゃんとした善意なら、人のためになるに決まっています。
    作者だって、安田均に金を借りに行って、あっさり貸してくれたことに
    感謝しているではないか)
    そして、実際は、これは「問われる」訳ではなく、
    作者が「答えありき」で進めている。
    すなわち、この作品のテーマとしては、
    必ずしも、善意が、いい結果を生むとは限らない、という
    「答えありき」で進めているので、なんだか不自然なことになっている。

    たとえば、未来が改変されたことにより、フィギュアスケートの
    選手になれなかったとか、より不幸になった人たちが出てくる。
    作者自身も、妻と娘を失う。しかし、これはアンフェアであろう。
    なぜなら、911テロで犠牲になるはずだったが、命をすくわれた人とか
    虐殺から救われた人、拷問から救われた人などが、
    (つまりそちら側の視点が)まったく出てこないのだ。
    だから、アンドロイドが「悪いことだけ」をしているように見えるが、
    実際は感謝している人だってたくさんいるはずである。
    作者の最後に言う、外国で人が何人死のうが、
    家族が無事ならそれでいい
    (ハリウッド映画などで、さんざん繰り返される、エゴイスティックな
    視点だが。赤の他人がどれだけ死のうが、主人公の家族さえ助かれば、
    ハッピーエンドで、ちゃんちゃん式の)
    とにかく、その主張にしても、仮に作者の家族が911テロにより
    死んでおり、アンドロイドの改変により助けられたとすれば、
    まったく逆になり、赤の他人はどれだけ死んでもいいから、
    家族を助けてくれて、ありがとう、ということになる。
    つまり、立場次第で、どちらにでもなる、なんの正統性もない
    主張である。
    ここら辺に、最初から、テーマの結論ありきで進めている
    作者の「作為」が透け見えるので、いかがなもんかと思う
    (改変=悪、という、一種、保守的な)。

    あと、作中で、「確かにすばらしい文章だが」とかいって、
    自分の文章を褒めさせるのも、やめた方がいい。さぶいので。
    あと、現実がSFになったので、SF小説が売れなくなるとか(なぜ?
    SFなんて、だれも「本当のこと」だと思って、読んではいないが?)
    未来の作品を使うのにやたら抵抗を持っている姿勢もよく分からない
    (潔癖な僕、を演出したいみたいで気持ち悪い)。
    パラレル構想が広がりすぎて、収拾がつかなくなるラストも、
    「やりがち」なのだが、結論がないなら、書かなければいいのに、
    とも思う。

    コンセプトの一貫性の無さとしては、やはりタイトルで
    「去年はいい年になるだろう」というのは、ブラッドベリばりの
    抒情的ないいタイトルで、ラストは、たとえば
    「幸せな未来」を予感させつつ、宇宙船が飛んでいって、終わり、という
    いかにも「去年はいい年になるだろう!」という
    山本視点で一貫させるべきだと思うのだが、
    全然、そういう結論にならない(し、視点もおかしい)。
    作者自身が、作中でも言っているが、なにか絶望的な終わり方になっている。
    ほとんど「奇妙な味」みたいな、ホラーに近い終わり方である。
    書いているうちに、初期コンセプトとずれていったのかもしれないが、
    だったら、タイトルの方を変えるべきだったと思う。
    視点については、「去年は~」というタイトルは、
    タイムトラベルをしない、山本の視点のはずなのだが、
    話のメイン・視点は、どう考えても未来人の方であり、
    内容も、どちらかと言うと
    「2001年分岐における未来人たちの失敗例~次はうまくやります~」
    という感じだと思う(つまり、視点が逆である。主人公、
    フェイドアウトするし。だれが「去年は~」って言ってんだ?)。

    なぜこういうことになったのかについて、作者はHPで、
    大局を動かすような大物でなく、小市民の視点から、
    書きたかった、といっているが、
    これが裏目に出ていて、主人公が、全然主人公っぽくない。
    作中で、作者は、リセットをかけているのは未来人の方で、
    我々は、1度きりの人生を、うんぬんかんぬん、といっているのだが、
    これをTRPGやゲームでたとえるなら、実は未来人(ロボットだが)が
    プレイヤーであり、
    作者を含めた現地の人々は、その他のNPCと言っているようなもんである
    (話に全然、関わらない訳である)。
    しかもNPC(市井の人)の視点で一貫されているかと言うとそうでもなく、作者の好みとして、SF設定の根幹部分を書きたい、という姿勢があるために
    より、「メインから外されている」感、「関わっていない」感がある。

    で、結局、タイトルだのなんだのは、置いておいても、
    グループSNEで、未来から来たトラベラーを見守るくだりまでは
    おもしろかったので、あの攻防まででいいので、
    そのあとの、とってつけたような悲劇的な展開とか、
    カオス的説明とか、
    25歳くらいの山本のエピローグとかは、
    いらなかったのではないかな、と思う。

    そして、とにかく原理主義だの陰謀論だのを信じるバカが、
    平和を無茶苦茶にして、「人類は永遠にバカ」という絶望的な
    テーマが見え隠れするのだが
    (未来からやってくるやつらも、バカ。ただし、作者自身まで
    発病してしまっている、くだりは面白かったが)
    作者の絶望的な世界観を、娯楽が読みたい「読者」に向けて、
    強要する姿勢も、いかがなものかと思う。
    作者に言わせれば「世界ってそういうもんだ」ということなのだろうが、
    「世界がそうだからといって、フィクションの世界まで、
    そう書かねばいけないという、法は無い」と、
    誰かが言っていた気がする(吉村夜か?)
    読者を気持ちよくさせる為だけに、妄想・ハーレム・ラブコメを書けとは
    言わないが、せめてもうちょっと「明るさ」とか「勧善懲悪」とか、
    あってもいいだろう、とは思う。

    結局この話は、人類の革新などは(冨野が好きなテーマだが)存在しないし、
    現状維持以外の解決策もなし、という、
    ぐるっと回ってスタート地点に戻るだけの、なんのこっちゃ、な
    話のなので(あえていえば、「今の現実が一番いい」という
    現状肯定妄想?)
    読んだ人も、なんだかなあ、と思うのではないだろうか。
    せめてコンセプトが一貫して、きれいに落ちていれば、
    話として楽しめたから、それでオッケー、となっていたのだが。

  • 読む前と読み終わった後では、本のタイトルの印象が変わる。

  • 2001年9月11日、突如上空に現れた球体は、瞬く間に全世界の軍事力を無力化した。
    ガーディアンと自称する彼らは未来からやってきたアンドロイドであった。
    彼らの目的は、世界征服ではなく、人を不幸から守ることらしい。
    彼らのおかげであの米国同時多発テロは起こらなかった!
    彼らのもたらした情報によって、本来の歴史で起こった自然災害、テロ、戦争、大事故などが防げるようになった一方で、未来の自分からのメッセージに翻弄され、人生が大きく変わってしまう人も多くいた。
    主人公のSF小説家山本弘も突然の非現実的な出来事と未来の自分からのメッセージに翻弄されていく・・・

    私小説というだけあって自伝的要素も多く含んだ小説となっています。
    過去の自分自身を主人公にしてそこから歴史改変ものの物語を作るっていう発想が面白いですね。
    こういう自伝もありですね!!
    自己オマージュ作品とういう単語が思い浮かびましたw
    純粋にSF小説として読むよりも、山本弘の自伝として読んだ方が面白いように思います。
    SF小説としても十二分に面白ですけど。
    是非とも『アイの物語』を読んでから読んでもらいたい!!
    『アイの物語』とはまた違ったアンドロイド像が見られて面白いですよ。

    「作家にとって最高の作品は自分の作品だ。だってそれは、自分好みの題材を、自分好みの手法で調理し、自分好みに味つけしたものだからだ。まさに僕のためのオーダーメイド料理だ。美味しくないわけがない。」

    しかし、山本作品のアンドロイドの微妙に人間と異なる描写は巧みですね。
    わずかな違いでしかないんだけど、そこに違和感を感じ、それが逆に怖い。
    結局人間とアンドロイドは互いに理解しあえない、そしてそれが当てはまるのは何も人間とアンドロイドだけではない・・・

  •  タイトルだけで胸がときめく。
     いいよね「去年はいい年になるだろう」。
     しかしながら読もうと思っている本の(これより以前に書かれている本の)ネタバレがあり……あー……という気持ちになる。

     あと、うーん……うーん……。
     身内ネタというか、ええそれファンじゃないとついていけないよ、という箇所も多々あり、時事ネタの取り扱いも…………なんというか個人的には「ああ、そう」な気持ち。

     しかしながら、もしかしたらフィクションかもしれないし、実際の本を読んでみれば違うのかもなぁとも思う。よーく考えてみると、ここまで自分を突き詰められるのってすごいよね。
     地に足の着いた力強い作品だと思った。
     男のロマンだと思いますがw

  • ううっ、人類っていったい…

  • タイムトラベルSF。ある日、未来からアンドロイドがやって来る。目的は「人間を守る事」。テロリストや犯罪者、独裁者を逮捕し、現代の医学では治せない病を治療する。本当に善意なのだろうか?
    アンドロイドを神様と置き換えれば、宗教になる。それ位、何でも出来る事に違和感があるけど、非常に面白く引き込まれた。ただ、未来の人類が戦争せずに共存しているとは思えない。その前に滅んでる気がする。それと過去の自分宛のメッセージなんてナンセンス。その時点で歴史は変わっちゃうし、ほっといて欲しい。
    オチは作中で登場人物が言うとおり「SFにハッピーエンドはない。ただ物語は続く。」

  • 2001/09/11、24世紀の未来から「ガーディアン」と名乗るロボット集団がやってきて圧倒的な技術力の元、本来の歴史では起こっていたはずテロや犯罪を防ぎ始めます。この顛末を著者自らが主人公となって語るという形式が取られており、と学会のメンバーなど実在の人物が実名で登場、「禁則事項です」といったくすぐりをあちこちにちりばめながらも万人に楽しめるエンタテインメント作品になっています。

  • 時代は9.11が起こる直前の世界。そこに24世紀からタイムマシンに乗ってアンドロイドがやってくる。
    かれらは24世紀の世界で人間とともに平和で慈愛に満ちた生活をしている。
    しかし、過去を振り返ると人間はおろかな間違いばかりを起こしてきた。
    もし、過去がやり直せるなら、過去を作り治せるなら・・という人間の思いを実現するために、アンドロイドたちは過去の世界に送り込まれてきたのだ。

    1年ごとに過去に戻って歴史を正しく変えてゆくという作業を繰り返し、
    ついに1991年までさかのぼってきたという。
    しかし、それは毎年、パラレルワールドを出現させていることになる。

    9.11が起こらなかった世界。
    そして阪神大震災も、予報され万全の準備を行い被害は最小限だった世界。イラク戦争が起こらなかった世界。

    一見悲しむ人間が減った世界が作りかえられていくのだが・・。

    結局、どんな世界でも、人は悩み苦しみながら一回きりの人生を必死に生きているのだ。
    アンドロイドは、「人を悲しませない。傷つけてはいけない」ために、
    一生懸命歴史の訂正を行うのだけど、それはけっして今を生きている人間を幸せにはしない。

    う~ん・・・そういうことなのかな?
    なんだか、わかったようなわからないような話だったけど、
    最後まで飽きずによけたから、面白かったんだと思う(ーー;)

  • アイの物語が面白かったので、借りてみた。

    2001年の9月11日に、24世紀からロボットが来て、混乱もありつつ、平和になるという話。
    アイの物語の延長上にありそうな話である。
    著者の一人称で語られていて、実際の出来事と、実在する人物が入り混じるドキュメンタリー風。

    全然似てないのに、村上春樹の1Q84を連想してしまった。
    あるはずのないパラレルワールドといった感じ。
    もしも、歴史が変わるとしたら?
    過去の時分にメッセージを伝えられるとしたら?
    なにを伝えたいと思うだろう?未来なんて知らないほうがいい、と思ってしまった。

    後編までくれば、一気に読めるけど、読み進めるのに、時間がかかってしまった。
    アイの物語のほうが好みかな…

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著者プロフィール

元神戸大学教授

「2023年 『民事訴訟法〔第4版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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