- Amazon.co.jp ・本 (109ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569777825
感想・レビュー・書評
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(2010.07.29読了)(2010.07.27借入)
2010年は、ショパン生誕200年とのことです。何年記念というのが気になるようで、わりと乗ってしまうことが多いので、今回も乗ってみました。
副題に「聴きながら読むジョルジュ・サンドとの愛」とあるように、15曲入りのCDが付録についています。さらに、ショパンがジョルジュ・サンドと出会い、一緒にマヨルカ島に行きその後も夏の間はノアンにあるサンドの館で、一緒に過ごすという生活が続きますがその間に多くの名曲が生まれたと言われています。
著者は、女性主導の愛物語を得意としていますので、サンド主導のショパンとたどった土地と建物を訪れてショパンが生み出した曲とその曲が生み出された土地や場所の関係を探ろうとしたのかもしれません。
20代の僕が、西欧絵画に惹かれて、日本に来る展覧会を見るだけでは満足できず、西欧絵画を生み出した風土を体感したくて、20数日間のヨーロッパの美術館を巡る旅に参加したのと似ているかもしれません。
高樹さんの旅が何をもたらしたかは、高樹さんが作家であることからして、今後創作される小説で確認するしかないでしょう。(この紀行文は、高樹さんの本業ではないので)
●体感したい(4頁)
ショパンが音楽を作った、その場所や心身の状態を、もしや地続きのこととして見たり感じたりできるのではないか、是非ともそうしたいと願う
●マヨルカ島からノアンへ(5頁)
マヨルカ島からノアンへの旅で、ショパンとサンドの交流の深まりを追いながら、私はこの時期に作られた曲に浸った。
●小説家の筆は(12頁)
ショパンはサンドの身体の中で、ふっくらとした手の平が一番好きだった。触れていて安心できるのも、彼女の手の平だった。けれど彼は、そのことを一度もサンドに行ったことがない。
●窓と窓枠がない(16頁)
マヨルカ島では住民が引っ越しをするとき、といってもそれは滅多に起きることではなく、ほとんどの住民は同じ家に生涯住み続けるらしいが、それでもどこかに移らなくてはならないとき、窓枠ごと外して持ち去るのだそうだ。
●夢想の力(20頁)
ショパンには現実に囚われることのない夢想の力がある。一つ発見した美しいメロディの中にいったん潜り込むと、かく在ってほしいと願う美を次々に作り出す天賦の才がある。しなやかな瞬時の転調によって、別世界へと押し上げる変幻の力。
●男女関係(68頁)
かつてサンドのグジマーワへの手紙には、男女関係に性は極めて大事だとの考えが書かれていた。サンドのショパンへの情愛も、女としての欠乏感ゆえに、不安定になっていたかもしれない。肺の病が進行するショパンの身体は、サンドを満たすだけの力を残していなかったに違いない。
●舟歌(78頁)
ヴェニスにはゴンドラ乗りたちが歌う舟歌がある。ショパンはヴェニスに行ったことこそないが、波に命を預けてたユタう心地よさや海面に反射する月の白さ、その下深くに秘めた水の重さを感じさせてしかもとことん甘く、甘いけれど、無常観とこの世にあることの不確かさも伝えてくる、この都市の音楽が好きだった。そして今、サンドとの思い出の中にすべてが終わろうとしている感覚が、ショパンを強引にヴェニスの音楽の誘うのだ。
CDに収録してある作品
① ワルツ第1番 華麗なる大円舞曲
② ノクターン第2番
③ エチュード第3番 別れの曲
④ 即興曲第4番 幻想即興曲
⑤ ノクターン第20番
⑥ ノクターン第12番
⑦ マズルカ第27番 パルマのマズルカ
⑧ プレリュード第15番 雨だれ
⑨ プレリュード第21番
⑩ ピアノソナタ第2番 葬送 第3楽章
⑪ 幻想曲
⑫ ポロネーズ第6番 英雄
⑬ ギャロップ・マルキ
⑭ ワルツ第6番 小犬のワルツ
⑮ 舟歌
(2010年8月5日・記)詳細をみるコメント0件をすべて表示