クルマ社会・7つの大罪

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569790206

作品紹介・あらすじ

崩壊に瀕する「アメリカ社会」のから、明るい日本の未来が見えてくる。

感想・レビュー・書評

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  • おすすめ度:85点

    「アメリカという国をクルマという視点から一刀彫」。アメリカはなぜここまで落ちぶれたのかを著者は見事な切れ味でさばいている。
    7つの大罪は以下の通り。
    1.エネルギー・スペースの浪費
    2.行きずり共同体の崩壊
    3.家族の孤族化
    4.大衆社会の階級社会化
    5.味覚の鈍化
    6.自動車産業の衰退
    7.統制経済への大衆動員
    1から5までは、グイグイ読ませる、新鮮な刺激的視点。納得させられる。6,7はやや強引か。
    罪の意識なく結果として、アメリカを衰退させたということであり、大罪という言葉はふさわしくなく、7つの皮肉ともいうべきか。
    題名は「大罪」という言葉を消して、「アメリカ文明衰退の真相~クルマで一刀彫~」といったほうが本著を正しく表現しているように思う。

  • アメリカの事でしかも少し過去の話になるから勘が働かない所もあるが、とにかく、車社会がアメリカに齎らした罪悪について。エネルギーの非効率化、共同体の崩壊、核家族化、階級社会化、味覚の鈍化など。データも駆使しながら、面白い持論が展開されるが、こじつけである。

    車社会にならなくても起こっていた現象、害悪とまでは言えない事象が含まれる。しかし、移動の概念が変わった事は、人間社会に大きな影響を与えた事は間違いない。人力で届く時間と距離から、乗り合わせの輸送機で移動する時代を経て、個々に高速で移動する時代。そして、今のように移動を不要化するリモートテクノロジーの時代。

    結局人間はコミニケーション手段を進化させているのであって、その手段がボーリングのセンターピンとなり、物事が変わっていく。DXによる情報デジタル化も、殆どは、コミニケーション手段のために行われる。だからこそ、それが変われば社会が変わらない訳はないのだが、大罪か、というとそれは面白おかしく表現しているだけだろう。コミニケーションは超高速なリアル対面を実現する「どこでもドア」や即時脳内共有の「テレパシー」をゴールに進化するのだろうから、車社会など、なんだかんだあっても、通過点に過ぎない。ハイウェイの通過地点として過疎化する村のように、コミニケーションが高速化すれば、交流に無価値な物は、その域外で滅びるしかない。公共の乗り合わせ、知識や文化の護送船団方式も無用。対面しないなら治安悪化を防ぐための社会保障も要らないから、境界以下は救われない。本著を類推に、こんな面白い思考実験に至る。

    中身と関係ないが、そんな思考を齎す読書。

  • 2011/12/22:読了

    7つの大罪は次の通り。これが章立てになっている。
    1.エネルギー・スペースの浪費
      =>これはその通り
    2.行きずり共同体の崩壊
      =>まぁ、そうかもしれない
    3.家族の孤族化
      =>街が消え、人とのつながりがなくなり、結社が増える。
        クルマと結びつけるのは少し強引
    4.大衆社会の階級社会化
      =>街が消え、郊外に同階層の住宅街ができる
        結果、階層化社会が固定化する。
       まぁ、そうかもしれない
    5.味覚の鈍化
      =>クルマ社会になって、街の個性的な飯屋がなくなる。
        どうなんだろう。美味しい店があれば、クルマでいくけどなぁ。
        日本みたいに、美味しい店を訪れるみたいなテレビや雑誌が
        成り立たないのは、クルマのせいではないと思う。
    6.自動車産業の衰退
      =>クルマ社会というより、企業の独占状態の問題だろう。
        GMがあくどく企業を買収しすぎ。
        この本でも、業種ごとに大企業が牛耳ることで、機能や価格の
        競争が行えなくなると書いてあった。結局、企業経営者は、
       楽してもうけられなくなり、地味に従業員と努力するのは
       イヤなので、日本、ドイツからむしり取れるだけ取って、
       最後は、中国などに製造業を移し、ついに、アメリカ内が
       空っぽになっただけ。
    7.統制経済への大衆動員
      インフレ使って、経済統制。でも、もう限界。デフレは悪でない。

  • 増田氏の本は毎回読んで多くのことを学ぶのですが、今回のテーマはアメリカ文明が今までのアメリカの繁栄を支えてきたと思われてきたクルマが普及したことで逆に衰退してしまったことを解説しています。

    現在、中国やインドがクルマ社会に向けて成長しているなかで、鉄道が衰えていない日本(特に東京と大阪圏)には明るい未来があるという内容です。円高や株式低迷、国債の増加等、暗い話題が取り巻く中で久々に元気づけられた感じがします。

    以下は気になったポイントです。

    ・世界中の先進国でクルマが日常交通機関の王者の座を鉄道から奪った、東京と大阪というに大都市圏が高い鉄道依存度を維持しながら高度消費社会へ突入したのは先進国では唯一の例外、大衆社会か階級社会かの違いが起因している(p39、190)

    ・旅客輸送一人当りの消費エネルギー量(自動車)は1965年から2003年まで殆ど変わらず(600)に飛行機(1500→400Kcal)に抜かれた、これは渋滞増加による空吹かし増加、一人1台のクルマ保有のため、鉄道は変わらず50Kcal程度(p53)

    ・アメリカ路上走行において業務用車両は5%程度、欧州では10%、日本では30%(p69)

    ・誰もが楽しめるようなライブパフォーマンスが駅前広場を中心に繰り広げられている時代には、ラジオもレコードも普及しなかったのが事実、鉄道からクルマ社会に変わったときに、様々な階層の人達が集まる場がなくなって、文化や芸術が分化していった(p96、104)

    ・平和な社会に再適応できない兵士が増えた理由として、出征した兵士が帰るまでの、アメリカ人同士の共同体の中に、再吸収される時間的余裕が短くなってきたのが一因(p107)

    ・アメリカ国民全体の雰囲気を象徴していた歌手は、ビリー・ジョエル、ブルーススプリングティーン、マイケル・ジャクソン、シンディ・ローパー、マドンナあたりが最後(p111)

    ・1953年頃の自動車産業が栄える前は、自動車産業の経営陣でさえ、長距離出張には列車で出かけていた、第二次世界大戦直後に鉄道乗客数がピーク(10億人)(p147、151)

    ・史上最大の公共事業は、アメリカの州間高速道路建設である、ハイウェイが真ん中を突き抜けた街は死滅した(p151、153)

    ・フリーランチの本来の意味は、19世紀末から20世紀初において、昼飯どきに5セント払ってビールを1パイント頼めば、料理は食べ放題というサービスが由来(p165)

    ・子どもが自分の読みたい漫画を買いに行く自由のある社会か、買い物は常に大人が子供を連れて行くので大人が子供に読ませたい漫画を買い与えるかの社会の差が、両者の漫画の質の差に起因する(p173)

    ・一国の豊かさのピークは、一般大衆にどこまでぜいたくを許すかで決まってくる、イギリスは毛織物や綿製品により、アメリカはクルマ(p177)

    ・アメリカで市街電車が嫌われたのは、中産階級の人の妻や娘が、有色人種やギリシャ正教やユダヤ教等の人達と同じ車両に乗り合わせることであった(p180)

    ・あらゆる個人にT型フォード1車種を薦めることから、社名はフォード・モーター、あらゆる階層にマッチする製品ラインを準備することから、GMモーターズと複数形の名称(p187)

    ・日本人の摂取カロリーは、2008年にとうとう終戦直後(1900キロカロリー)を下回った(p226)

    ・植民地から金銀財宝を奪うのは支配階級たちの関心事であったのにたいして、スパイスを求めるのは大衆が共有していた関心事であった(p228)

    ・1930年代半ばまでは日本の自動車市場は世界でもっとも自由競争の原理を守っていた、横浜のフォード工場、大阪のGM工場で作られていた車で1930年の95%シェアを占めていた(p244)

    ・1960年代に日本車は性能の悪さは酷評されているが、堅牢性や耐久性の高さは例外なく褒められていた(p256)

    ・デミング流の品質管理がアメリカで受け入れられなかった最大の理由は、経営トップから工員まで平等に責任と権限を持たなければ品質管理ができないという主張から(p262)

    ・日本では単純工程をロボットに任せるが、アメリカではいままでの機能分担になかったような仕事を新しくやらせるためにロボットを使う(p286)

    ・エリートにとって生活水準格差が縮小することは、この世の終わりと思うほど辛いこと(p301)

    ・トラック、二輪車、軽自動車を始めから持っていなかった企業は今後厳しい、具体的にはトヨタや日産、ホンダやスズキは生き延びる(p329)

    2010/09/12作成

  • アメリカ文明が衰退していく理由がはっきり分かる様な説明に驚かされた。強みの部分が弱みに変わる過程が描かれていて、感心した

  • 同じ著者による『日本文明・世界最強の秘密』の姉妹編とも言える評論。両方読むとより理解が進みます。

    アメリカのクルマ社会が文明にどのような変化を及ぼしたか、そしてなぜアメリカはクルマによって没落していったかを論じています。増田氏お馴染のエネルギー効率史観、エリート社会の欧米と大衆社会の日本といった主張も織りまぜつつ、車を切り口としてここまで多彩で広範な文明論が語れてしまうことに驚きました。
    まさに「車を見れば世界が見える」。

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著者プロフィール

1949年東京都生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修了後、ジョンズ・ホプキンス大学大学院で歴史学・経済学の修士号取得、博士課程単位修得退学。ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授を経て帰国。HSBC証券、JPモルガン等の外資系証券会社で建設・住宅・不動産担当アナリストなどを務めたのち、著述業に専念。経済アナリスト・文明評論家。主著に『クルマ社会・七つの大罪』、『奇跡の日本史――花づな列島の恵みを言祝ぐ』、(ともにPHP研究所)、『デフレ救国論――本当は恐ろしいアベノミクスの正体』、『戦争とインフレが終わり激変する世界経済と日本』(ともに徳間書店)、『投資はするな! なぜ2027年まで大不況は続くのか』、『日本経済2020 恐怖の三重底から日本は異次元急上昇』、『新型コロナウイルスは世界をどう変えたか』(3冊ともビジネス社)、『米中貿易戦争 アメリカの真の狙いは日本』(コスミック出版)などがある。

「2021年 『日本人が知らないトランプ後の世界を本当に動かす人たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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