直感力 (PHP新書)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569804897

作品紹介・あらすじ

自分を信じる力。無理をしない、囚われない、自己否定しない。経験を積むほど、直感力は磨かれていく。生涯獲得タイトル数、歴代1位の偉業達成。

感想・レビュー・書評

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  • おもしろかった。将棋界に一時代を築いた大名人が、自ら感じて、思った、数々の言葉
    直感とはたんなるひらめきではなく、これまでの多くの経験や思考が導き出される一瞬の思考である

    気になったのは以下です。

    ■直感とは

    ・直感は決して先天的なものではない
    ・ツボを押さえる、といった感覚が自分の中に出現するのを待つことが大事なのではないかと思う
    ・論理的思考の蓄積が、思考スピードを速め、直感を導いてくれる
    ・つまり、直感とは、論理的思考が瞬時に行われるようなものだ

    ・直感とは、本当になにもないところから、湧き出てくるわけではない。
    ・考えて考えて、あれこれ模索した経験を前提として蓄積させておかねばならない。
    ・また、経験から直感を導き出す訓練を、日常生活の中でも行う必要がある

    ・もがき、努力したすべての経験をいわば土壌として、そこからある瞬間、生み出されるものが直感なのだ
    ・長く考えていればそれだけ思考が深まっていい手が指せるのか、いい決断ができるのかというと、必ずしもそうではないような気がする
    ・直感を磨くには、多様な価値観を持つことだと思う

    ■無理をしない

    ・余白がなければ直感は生まれない
    ・リラックスした状態で集中してこそ、直感は生まれる
    ・多分無理だろう、どうせ役に立たないけれど、というくらいの気楽な気持ちでやっていたほうが、たとえ直接的でなくてもヒントになったり、何かのきっかけになったりする

    ・あえて、考えない、時間を意識的につくることが大切だと思っている。
    ・それは、いわば頭の中に空白状態をつくることだ

    ・集中力を高めるには、いくつかのトレニング方法がある。
    ・ひとつには、前述したなにも考えない時間をもつこと
    ・もうひとつには、じっくりとひとつのことについて考えをめぐらせる習慣をつくること
    ・ある一定の時間ひとつのことに集中する
    ・そして、さらに集中力を高め継続させる方法に、時間と手間のかかる作業に取り組むということがある

    ・モチベーションが上がらない、やる気が出ないところで集中するのは至難の業だろう
    ・それでもダメな場合、もしくは、その努力をする気分にもなれないことがある
    ・そんなときはどうするか、あえて、底を打つ、のもひとつの手だと思う

    ・義務感やりきみを身にまとわないためには、完璧主義にならない、曖昧さを残すことも案外大切だと思う

    ■囚われない

    ・コツがわからないこと、を難しいからと投げ出してしまうのではなく、なぜなのか、と探求していく気持ちが大切なのではないか。
    ・こどもは、理解できないこと、を自分で深堀していく達人である

    ■力を借りる

    ・実力がないのであれば、要は実力をあげればいい
    ・それには一生懸命努力するしかない
    ・運にたよっていてはダメだ
    ・一生懸命頑張って、根本的な地力をつけるしかない

    ■直感と情報

    ・完璧とか万全の状態をつくるなど至難の技だということに、当時の私は気が付かなかった
    ・山ほどある情報から、自分に筆湯な情報を得るには、選ぶ、より、いかに捨てるか、そして、出すか、の方が重要なのである
    ・当然、覚えていかなければならないこともあるが、それと同時に、忘れることも非常に大事なのではないかと思っている

    ・情報を、「事実」と、「予測や説として発信されたもの」とに分け、時系列に並べてみることだ
    ・そうすることによって、大きな流れがつかめるし、ポイントとなる場面も浮き彫りになる。
    ・無駄な部分も明白になり、全体像がおぼろげながら見えてくるはずだ

    ■あきらめ

    ・最終的にあきらめないというのは、たとえ、その1回は、あきらめても、それを次に生かすことだ
    ・自分の中で見切りをつけて次に備えていくほうが、結局長い目で見た時には、成長につながると知ることだ

    ・ミスはしないに越したことはないのだろうが、ある意味必然である。
    ・そのとき大事なのは、ミスの後にミスを重ねないことなのではないか、と思っている

    ■自然体

    ・目標は一気に課してはいけない。
    ・少しずつ積み重ねることによって、気がつけば着実に前進している
    ・自然にできることを続けていくという健全さが必要なのだ

    ・想像力とは、まだ起こっていない、しかし、起こるであろう現象を、リアリティをもって受け止める力のことだ
    ・その想像力を働かせて頭の中に描いた何かを具体的に実現させるアイデア・発想が創造力だ
    ・創造力はまったくのオリジナルでなければならない、ということはない
    ・常に真新しいものでなくても、切り口によって違いは出る
    ・同じテーマでも、他の人とは違う自分なりの切り口をもつことで、生み出されるものは変わってくる
    ・大事なのは、それらの力を養おうとすることだ

    ・情熱は、常に何かを探し続けることでも保たれる
    ・今まで、自分の中になかった何かを発見する、というプロセスを大事にするのだ

    ■変えるもの、変えられないもの

    ・進めたい、変えたいとおもっても、大きな流れの中では、変えられないものもある
    ・どちらに進めばいいかはわからない
    ・わからなくても、どこかに進むしかないのだ

    ・自分で調べて自分で考え、自分で責任をもって判断する姿勢をもっていないと、自分の望んでいない場所へ流されていく可能性もある
    ・その先を読む眼をもつためには、表面的な出来事を見るのではなく、水面下で起きているさまざまな事象を注視することだ

    ・その時々に適応しながら、少しづつあゆみを変えて、気づいたら、まったく別の場所にいる。
    ・それは確実な変革の方法だ。
    ・変革が大事、変化を求めている、といったことが喧伝される
    ・しかし、いきなり大転換してしまった、たいていはうまくいかない
    ・時間をかけ、少しづつ、少しづつ歩幅を変えていきながら、たとえば、それが2年、3年という時間を経たときに、ぜんぜん違う形、違うものになっているというのが、一番スムーズでリスクも少ないのではないかと思うのだ

    ・肝心なのは、それを私たちがどうとらえるかだ
    ・変えていくべきものと、変えられないと思うものの区別は私の中にはない。
    ・ただ、そこに取り組むときに、自分の個性、スタイルみたいなものは、どうしてもあらわれてくる。
    ・どんなに流行していても、いま最先端だといわれても、自分の個性、考え方にそぐわないものであれば、求めようとは思わない
    ・流行はやがて変わってしまうものでもあるし、そのときに思ったことには何か理由があるわけで、その原因を突き詰めていくほうが将来に対してより有意義ではないか

    ・実戦を重ねることはもちろんだが、それだけでなく、地道な日々の積み重ねをしない限り、向上することはない

    ■結論

    ・何をしたらいいのか、どうなっているのか見えにくい、分からない時代をいきていかねばならない。
    ・そのときの一つの指針となるのが直感だと考えている

    ・何かの判断をする、決断をするというときに、目の前の現象だけに囚われることなく、自分自身によりどころを求めることができるのではないだろうか。
    ・自分自身によりどころを求める その根底には経験を積み重ねることで蓄積され、かたちづくらた人生観や価値観といったものが横たわっているはずだ
    ・それに基づいた選択がベストでなかったとしても、すくなくとも自分のスタイルにはあっているはずだ。
    ・だから、次にミスをする可能性も小さいし、ある種の心地よさも内包している
    ・背伸びをして成長していく方法もあるが、自分の流儀を見つけてそれに合った選択をしていくという覚悟を迫られているきがしてならない

    目次

    はじめに―直感をどのように活かすか
    第1章 直感は、磨くことができる
    第2章 無理をしない
    第3章 囚われない
    第4章 力を借りる
    第5章 直感と情報
    第6章 あきらめること、あきらめないこと
    第7章 自然体の強さ
    第8章 変えるもの、変えられないもの
    おわりに―直感を信じる力

    ISBN:9784569804897
    出版社:PHP研究所
    判型:新書
    ページ数:216ページ
    定価:760円(本体)
    発行年月日:2012年10月
    発売日:2012年11月01日 第1版第1刷
    発売日:2015年10月16日 第1版第11刷

  • 本書の「はじめに」に、棋士は「直感」と「読み」と「大局観」の三つを使いこなしながら対局に臨んでいると述べ、そのうち「読み」については「計算する力といっても過言ではない」と述べている。「大局観」については、著書を読んでくれと言われている。そして、本書で「直感」について語ろうというのだ。

    ただ、本書のタイトルは「直感力」であるが、それだけについて語られたものではなかった。将棋という勝負の世界全般について語られている。自身の期待としてはプロの棋士の直感というものがどういうものかを知りたかったので、それについて述べられた最初の二章くらいがとても面白かった。

    第一章「直感は、磨くことができる」
    「直感は決して先天的なものではない」という言葉から、「直感」は経験により得られるということだが、その得られるプロセスの説明が非常い興味深かった。

    「地を這うような読みと同時に、その状況を一足飛びに天空から俯瞰して見るような大局観を備え持たなければならない。そうした多面的な視野で臨むうちに、自然と何かが湧き上がってくる瞬間がある。」

    羽生さんと対談されたカーネギーメロン大学の金出先生の言葉も並べてみると面白い。

    「それまでは毎回発火していた脳のニューロンが、その発火の仕方がいつも同じなので、そこに結合が生まれ、一種の学習が行われたということではないか」

    「直感」といっても、それは膨大な思考の蓄積の中から生まれるものというイメージだ。昨日今日でふと直感力が身につく者でないことが分かる。

    さらに、次のような言葉は、プロ棋士の「直感力」がいなかるものかを少しでも理解する手立てとなるように思う。

    「つまり、直感とは、論理的思考が瞬時に行われるようなものだというのだ」

    「もがき、努力したすべての経験をいわば土壌として、そこからある瞬間、生み出されるものが直感なのだ」

    「湧き出たそれを信じることで、直感は初めて有効なものとなる」

    「惑わされないという意志。それはまさしく直感のひとつのかたちだろう」

    「将棋は、ひとつの場面で約八〇通りの可能性があると言われている。私の場合、その中から最初に直感によって、二つないし三つの可能性に絞り込んでいく」

    「直感は、ほんの一瞬、一秒にも満たない短い時間の中での取捨選択だとしても、なぜそれを選んでいるのか、きちんと説明することができるものだ」

    「直感を磨くには、多様な価値観を持つことだと思う」

    次の第二章「無理をしない」では、冒頭に「余白がなければ直感は生まれない。リラックスした状態で集中してこそ、直感は生まれる」という言葉が紹介され、その意味について解説が加えられる。

    「余白がある」ということは、「無駄がある」と同意のようだ。無駄とは「役に立たないこと」とか「間違い」とかを意味するようであるが、そういうことの経験も一定量を超えると、それが全体に対して有効になってくるという。「失敗は成功の母」の考えに近い。

    リラックスした状態で集中する、その集中とはいかなるものか。
    著者は、集中力を高めるトレーニングとして3つ挙げている。
    ①何も考えない時間をもつ(その状態からスタートして、徐々に深く潜っていくのだそうだ)。
    ②じっくりと一つのことについて考えをめぐらせる習慣を作ること。
    ③時間と手間のかかる作業に取り組む(=集中力持続のために)。

    すなわち、「集中力」もまた昨日今日で簡単に身につくものでないことが分かる。

    無駄と思えることも、失敗も、多くの経験の蓄積を重ね、そういう取り組みの中でじっくりと一つのことについて考えをめぐらせたり、時間や手間をかけてでも取り組んでいくという地味な作業の集積の結果として、すぐれた「直感力」が獲得できるということになる。何事も真剣さを忘れず、経験を積み重ねよということだろうか。

  • 内容は感覚的か論理的と問われれば明らかに前者で、ちょっと難しいところもあったけど著者は分かり易く表現するよう努めてくれたと思う。
    野球でもゴルフでもそうだけど、その道に特化した人はそれで人生を例えるけど羽生氏も将棋で人生を見ている感があって興味深かった。

  • 羽生さんの本は淡々としているのに説得力がある。直感と勝負について、興味深い内容だった。

  • 僕は何かを選択する時に直感というものを日々の生活の中で大切にしている。
    将棋の世界で一流のプロ棋士である羽生棋士が考える直感力とは何か、一流の人の直感力を学んで自分の人生に生かせるものを探してみたくてこの本を手に取った。

    『この本を通じて感じたこと』
    「直感で決めました。」と聞くと、行き当たりばったり的、責任感の薄い選択というような印象を受けることはあると思う。
    しかし、羽生さんは、直感とは論理的思考の蓄積により導かれるものであると言う。
    つまり、直感とは、今までの経験に基づいた無意識下で行われる瞬間的な論理的思考により下される決断。
    この言葉を聞いてとても納得させられた。

    そして、直感力を磨くために最も必要なことは「経験」であるらしい。
    経験をどれだけたくさん積み、多様な価値観を自分の中に持ち、選択の可能性を広げること。
    それによって何か選択や決断をしなければならない時、周りの意見や世間体などの外部環境に惑わされることなく、自発的な行動によって得た自分の内にある経験、知識に基づき形成された自分の人生の軸に従って選択、決断をすることができる。
    これによってその選択がベストでなかったとしても、それなりに自分自身の選択に納得感を持てるし、次の選択でミスする可能性が小さくなると言う。


    将棋はひとつの場面で約80通りの可能性があり、その中から一瞬で2つか3つの可能性に絞り込み、残りの選択肢を捨てるらしい。それでもミスをすることはあるし、ベストな選択ができることは稀だと言う。
    まさに直感力が必要とされ、それを磨かなければベストな選択どころかベターな選択すらすることは難しいだろう。

    この話を聞いて将棋は人生に例えられると僕は思った。
    私たちは日々の生活の中のあらゆる場面を選択の連続によって過ごしている。
    例えば、今日のお昼はご飯にしようかパンにしようか、今日の夕食は友達と外食しようか帰宅して家で自炊しようか
    といったささいなものですら。
    よく人生は選択の連続と言われるが、私たちは受験校を決める時や就活、告白のタイミングといった重要なターニングポイントでない限り、ほとんどの場面においておそらく無意識下で選択を瞬間的に行なっている。
    それでもそれらの選択は全て自分自身の中にある経験、人生観に基づいていると思う。
    将棋であれば「目の前の相手に勝つ」ことが棋士にとっては最大の目標であり、最大の喜びであるだろう。
    同じように膨大な選択肢の中から自分の人生の幸福度を最大化する選択をできたら、今日より明日、明日より明後日とより良い人生を送ることができると思う。
    そのためには悩んだり考えたり、失敗したり、時には無駄だと思うことでもいつかきっと役に立つと考えて取り組んだりする「快くない経験」を若い時にたくさんすることが直感力を磨き、選択の可能性を広げ、幸せになる近道なのかな。
    楽して幸せや成功はつかめないんだなと改めて思った。


    また、羽生さんの生き方、考え方を知り、人生そんなに焦らなくていいんだよ、無理しなくていいんだよっといったメッセージを自分は受け取って少し心が軽くなった。
    例えば、、、
    完璧主義に囚われないこと、時には潔くあきらめること、思い通りにならない自分を楽しむこと、変化を楽しむこと
    どれも心に余裕がなければできないことだと思ったし、その余裕は圧倒的な経験から来るものかなと思う。


    『好きな言葉』
    自分が予想しなかった何らかの出来事で状況が変わることがある。それは自発的な行動の中から生まれてくるものでその小さなきっかけを意識的にたくさん作っておけば、訪れる転機の回数も増える。
    転機とは、天気のようなものでいつどのように変わるかは分からない

  • 言わずと知れた、将棋界トップ棋士である羽生善治氏。
    勝負の世界で生きる彼の考えに興味があった。

    羽生氏が将棋を指すとき、直感や閃きはどのようなプロセスで生み出されているのか。直感を磨くために、日頃どのようなことを考えて実践しているのかが中心に書かれている。

    「直感を磨くには多様な価値観をもつこと」「分からないことこそ、やってみる」「忘れること、客観的に見ること」「思い通りにならない自分を楽しむ」など、共感出来る部分が多々あった。反面、真新しいと感じることは少なかったが、自分にとって羽生氏の考えを知るということに意味があり、その点で読む価値のある本だった。

  • 羽生さんのような、いわゆる“凄い”人が何をもって判断しているか、羽生さんなりに自己分析された本です。

    個人的にですが、半分は共感できますが半分は共感できない、そんな内容でした。

    羽生さんはこの本を40代前半で記されているので、その年代に近い方々には、“自分を信じて判断してね”といった内容は響くと思います。
    一方、現在20代の自分には、その判断材料となる経験が浅く、またその経験の積み方にも不安があり、どうにも納得できませんでした。
    20代向けの自己啓発は大体、
    ・熱中できることを見つけろ
    ・熱中できることに集中できる環境に身を置け
    ・挑戦あるのみ
    と書いてありますが、羽生さんはそれを前提とした上で、
    ・集中しすぎないで
    ・空白の時間、他のことに費やす時間も大切にして
    と言ってる気がします。なので、上記を前提とした状況にある人には、今後頑張るエネルギー源になる本だと思います。

    久しぶりに自己啓発系を読みましたが、抽象化すればどれも同じ内容なので、後はそのバックグラウンドとなる内容が誰に刺さるかを考える編集者の腕が問われてる気がします。そういう意味では、中高年向けの表紙に対して20代の自分が手を取ったのがちょっと違ったのかもしれません。

  • 前著の大局観や決断力とは内容の雰囲気を変えてエッセイのようなテイストに。

    先に挙げた本の中で見られた、読者まで明鏡止水の境地に誘うような文体は本書では控えめになり、淡々と項目ごとの記述を進めている。

    前著のようなまるで自分まで瞑想しているかのような読書体験を求めて読むといささか拍子抜けするかもしれない。

    あくまで著者の直感についての考察が書かれた本であり、その意味では良くも悪くもタイトル通りの本である。

    その点を踏まえて直感について興味があるなら一読をオススメする。

  • ・同じ指示を出されても、人によって仕上がりは異なる。同じ単語でも、人によって解釈は異なる。→基本を踏まえ、一手ごとの選択をし、時にはリスクを冒して決断するといった経験を重ね、道のりを歩いてのちに、自然に個性は出てくる。

    ・色んな環境や関わる人、経験などによって、「その人」が出来上がっていく。例えば、たまたま長女に生まれたからこそ、責任感や面倒見が育まれる。私の場合、人と調和することよりも、自分が興味のあることをやりたい。その為には1人でも構わない。1人で参加すれば、初めての人とも関わることが出来る。

    ・向かうべき答えが分からない場面→何をしてどう考えるべきかが、非常に大切でありその人の個性が際立つ時。→昔からあるアイデアに今のアイデアを付け足していく。

  • 羽生さんが日々心がけていることが将棋の話を交えながら語られ、羽生さんや将棋の世界について知るキッカケになりました。データや情報といった知識の集積と、人間が本来持っている動物的な勘。そのいずれを選ぶのかは直感によるものであり、「何を選ぶかは、選ばなかったことに対してどれだけ多くの創造力を働かせることができるか」によります。羽生さんのように日常的に論理的な思考をしたり多様な価値観を持ったり幅広い選択肢を持つことが、直感を鍛えるために大事なのことなのだと思いました。

    p21
    以前、カーネギーメロン大学の金出武雄先生と対談をさせていただいたときに「論理的思考の蓄積が、思考スピードを速め、直感を導いてくれる。計算機の言葉でいえば、毎回決まったファンクションが実行されているうちにハードウェア化するようなものだ。それまでは毎回発火していた脳のニューロンが、その発火の仕方がいつも同じなので、そこに結合が生まれ、一種の学習が行われたということではないか」と指摘してもらったことがあった。
    つまり、直感とは、論理的思考が瞬時に行われるようなものだというのだ。
    勝負の場面では、時間的な猶予があまりない。論理的な思考を構築していたのでは時間がかかりすぎる。そこで思考の過程を事細かく綿密に理論づけることなく、流れの中て「これしかない」という判断をする。そのためには、堆く積まれた思考の束から、最善手を導き出すことが必要となる。直感は、この導き出しを日常的に行うことによって、脳の回路が鍛えられ、修練されていった結果であろう。

    p25
    これまでで私が一番長く長考したときは、四時間弱かけた。しかしそれで素晴らしい手を指したかといえば、きわめて平凡な一手で、これなら三秒考えただけでも指せたというようなものだった。
    逆に、相手に四時間ほど考え込まれたこともあった。
    最初の二時間くらいはそれに付き合って、「どんな手でくるのだろうか」などと考えたりもしていたが、長くなり、時間が進むにつれ、およそ将棋とは関係ないことを考えていた。
    「三時間あれば日本中どこへでも行けるな」
    「お昼ご飯、何食べようかな」
    「このまま永遠に指してくれなかったらどうなってしまうだろう」
    といった、本当にたわいもないことだ。

    p32
    将棋は、ひとつの場面で約八〇通りの可能性があるといわれている。私の場合、その中から最初に直感によって、二つないし三つの可能性に絞り込んでいく。

    p33
    直感は、目を瞑ってあてずっぽうにくじを引くような性格のものではない。またその瞬間に突如として湧いて出るようなものとも違う。
    今まで習得してきたこと、学んできたこと、知識、類似したケースなどを総合したプロセスなのではないか。
    直感は、ほんの一瞬、一秒にも満たないような短い時間の中での取捨選択ぢとしても、なぜそれを選んでいるのか、きちんと説明することができるものだ。適当、やみくもに選んだものではなく、やはり自分自身が今まで築いてきたものの中から生まれてくるものだ。

    p34
    直感を磨くには、多様な価値観をもつことだと思う。
    直感は、だまっていても経験によって自然に醸成されていくものである。その醸成は日々の生活の中でも知らず知らずのうちに行われているはずだ。そうした経験も大切だが、そこから何を吸収するかはより重要だ。それによって価値観も変わるからだ。
    だからこそ、時には立ち止まって軌道修正が必要かどうかを確認しなければならない。直感のように感覚的なものはとても微細なものなので、少しのズレが大きな結果の違いを生むことも珍しくはない。
    そして、目の前の現象に惑わされないこと。
    近視眼的な成果にばかり目を奪われ、あるいはデータに頼って情報収集に終始することでは、おそらく足りない。それらに対する意識は不要とまではいわないし、またそれらはたいてい気づかぬうちに判断材料に入ってしまいがちなものである。しかし、であるからこそ意図的にそれらをセーブしなければならない。
    そして自分の思うところー自分自身の考えによる判断、決断といったものを試すことを繰り返しながら、経験を重ねていく。そうすることで、自分の志向性や好みが明確になってくる。
    「好み」というと単なる好き嫌いに聞こえるかもしれないが、それはとりもなおさず自分自身の価値観をもつことではないだろうか。
    つまり、直感を磨くということは、日々の生活のうちにさまざまのことを経験しながら、多様な価値観をもち、幅広い選択を現実的に可能にすることではないかと考えている。

    p39
    直感を磨くためには、無駄と思われることが大いに役立つことがある。
    たぶん無駄だろう、どうせ役に立たないけれど、というくらいの気楽な気持ちでやっていたほうが、たとえ直接的ではなくてもヒントになったり、何かのきっかけになったりする。

    自分ではぴったり合っていると思っていても、実は刻々と変化する状況の中で、徐々にズレていってしまう場合がある。現在の状況と、自分の状況認識の間に、少しでもズレがあると、そこから導かれる決断にもズレが生じる可能性が高くなってしまう。
    ★ロジカルに考えて判断を積み上げる力も必要だが、無駄と思えることを取り入れるのも大事だと思う。

    p60
    ★そもそも世の中のもので"絶対"のものなどひとつもないのだから、曖昧さがあるほうが自然だと思う。しかし"絶対"という名の安心が欲しいのも自然な気持ちではあるので、物事がきっちり運ぶように願いつつも、万が一のことを考えて保険をかける、そんな認識でちょうどいいのではないかと考えている。
    言い換えれば、その場の状況に従う、成り行きを受け入れる感じだろうか。

    p81
    心理学ではミラー効果というそうだが、相対した相手と同じ動きをしているうちに、心理的にも同調することができ、安心して相手の話を受け入れやすくなったり、相手に好意をもったりすることになるそうだ。

    p96
    ある程度の流動性を保っておくということ。目まぐるしく変わっていく時代の中にあって、その変化を大前提にして、状況に適応しながら考える。
    予想が外れることを前提にしていれば、対応もしやすいし、気楽ともいえる。

    p97
    もがけばもがくほどに状況が悪くなってしまうサイクル、あるいは分かっているけどできない、やれないことをどのように打破していくかだと思ってもいる。しかし、自信を失い不安を抱えている状況では最初の一歩さえ踏み出せないケースもあるのだ。
    スランプでちょっと勝てないだけならいい。それについて考え込む必要はないのだが、ただいかなる結果になったにせよ、それが全部そのときの自分の力だ。それはそれで事実として認めることが大事だと思う。
    そして、実力がないのであれば、要は実力を上げればいい。それには一生懸命努力するしかない。運に頼っていてはダメだ。一生懸命頑張って、根本的な地力をつけるしかない。

    p117
    人は必ず、アウトプットしながら考え、それを自分にフィードバックしながら、インプットされた知識や情報を自分の力として蓄積していくようにできているのではないかと考えている。

    p119
    ★創造性と情報処理能力ー感性とロジカルの両方を兼ね備えてバランスをとることが必要なのだ。
    加えて精神性。

    p120
    たとえばいま、何かを一生懸命やったとして、明日すぐに成果が出るなんてことは、なかなかない。半年、一年と経て、ようやく身になるものもある。
    その間に、いま自分がやっていることが間違ってはいないか、違うやり方もあるのではないか、他人の意見はとうなのかといった、考え始めるときりのない要素を数え出しては、そこでためらったり、迷ったり、立ち止まってしまったりすることはないか。たとえ立ち止まったとしても、そこからまた歩を進めることができるのか。
    積み重ねた分だけ成果が見えるような、性急な進化のみを目指してはいけない。そこに、人間ならではの進歩の秘密があるに違いない。
    いま現在あらゆるジャンルで拡大を続けるデータとか情報といったものは、いわば人間の知識の集積だ。したがってそこから打ち出される結論や道筋は非常に重要であることは確かだろう。
    また一方では、人間が本来もっている動物的な勘、野性の勘みたいなもの、そういうものもやっぱり欠いてはいけないのだという気もしている。
    それら双方を、自分の置かれたその場面や状況に合わせて上手に使いこなしていくということが、必要なのではないだろうか。そしてそのいずれを選ぶのかー決断はまぎれもなく自分自身の直感によるのである。
    何を選ぶかは、選ばなかったことに対してどれだけ多くの創造力を働かせることができるかによると思う。

    p123
    たとえば情報が収集しやすくなり、「もしも」を想定する材料が増えるのはいいことではあるが、それを集めて悪いほうばかりに考え、こんな可能性がある、こういう心配があるかもしれない、と心配の種を増やして不安がっているのは健全でない。
    もちろん、いざというときのために、事前にきちんと備えておく、心構えをしておくことは大切ではあるが、それがすべて起こるわけでもない。
    こういうときは、その不安要素を形成する情報をいったん整理してみることだ。
    そのひとつは、情報を、事実と予想や説とし発信されたものとに分け、時系列に並べてみることだ。
    そうすることによって大きな流れがつかめるし、ポイントとなる場面も浮き彫りになる。無駄な部分も明白になり、全体像がおぼろげながら見えてくるはずだ。そして、不確定な要素についても分かってくるし、どうなるかは分からなくても、実現する、しないの可能性は分かってくる。
    情報の山をただ漠然と眺めるのではなく、それらを並べ替え、分析することで見えてくるものはあるはずだ。その作業をいったん行った上で、いま必要なこと、しなければならないことを考えれば、自ずと不安がるだけのことからは離れられるだろう。
    不安なことを完全に取り除くことはできないが、少なくとも軽減することはできる。そして、少しでも少なくすることによって客観的、中立的な視点を得ることができるだろう。情報を、いかに不安を取り除く要素へと変換できるかが問われているのだと考えている。

    p132
    盤面上では自分が有利に、うまくいっている状態のことを考えでも仕方がない。こうすればうまくいく、というその手に辿り着いたところで満足しては、そこでもう思考停止となってしまう。
    そうではなく、不利な場面をたくさん想定し、実際には回避する。その積み重ねぎ「あきらめない」精神を築くことにつながっていく。
    また同時に、それは「ターニングポイント」を知る訓練にもなる。つまり、ここが勝負どころだとか、分岐点だとかいうポイントが、感覚として分かるようになるということだ。

    p133
    どこがターニングポイントだったのか。それはもうそこからどんかに頑張っても粘ってもダメという局面だったのか、細い道ながらも可能性はあったのかーといったことを、終わってからでもきちんと検証しておくことが必要だろう。
    勝った、負けたといった結果で終えるのではなく、その分岐点を見極めておくことだ。筋を読めたか読めなかったのか。事実上の決着はいつ、ついていたのかー。
    勝敗の分かれるターニングポイントを認識することができるようになれば、その先まだあきらめないで頑張るべきか、いやもうここはあきらめたほうがいいといった判断が明快にできるようになり、無駄な粘りをせず、必要な頑張りができるようになるだろう。

    p166
    現代の将棋では、どんな新手を考えても、いったん公になればすぐに研究かれ、対策も立てられてしまう。

    p167
    日々の事象に変化を見つけ、その先を想像してみる。そして一歩進んだら、それを具現化するものを創造してみる。それがかたちになったら、またその先を想像して……を繰り返すのだ。
    こうして想像力と創造力の両輪を回しながら、進んでいく。

    p170
    ただ私は、それら運、不運も天気と同じようなもので、たまたまの巡り合わせといった程度のものだと思っている。それを「運命」だとか「必然」だとか、ことさら大きな意味のあるものとは受け止めない。そういうものはあるだろうとは思っているが、あまりそれに固執しないようにしている。
    その結果に一喜一憂しないことだ。
    それですべてが決まるわけではない。むしろ、そのときその状況に対してどう考えるかということのほうが大事だと思う。
    運、不運や巡り合わせみたいなものがないということではなく、それらがあった上で、それでも地力があればそういう状態を乗り越えたり回避できたりするはずだと信じている。であるから、そちらに重きをおくべきだと思うのだ。


    p175
    自分の願いや希求するものを見つけたら、それをただひたすら追いかける。
    追いかけるのは気持ちの上だけのことではない。本当に追いかけるなら、動かなければならない。できたらいいなぁと考えているだけだったり、手に入れることを夢見ているだけの段階では、まだ本当に追いかけているとはいえない。
    追いかけるための行動を、具体的にとらなければならないのだ。

    p178
    人は、楽しい最中に「いまが楽しい」とは思わない。後で気づいて、楽しかったと思う。意図して、あるいは努めてそういう方向へともっていくことをしなくてもそうなるのが一番いい。

    p207
    先行きの分からない状況が続いてはいるが、そこでどうなるか分からないさまざまのことに心を砕き思い悩むよりも、まずは目の前にあること、何か自分の中で響くことに向き合っていくのがいいのではないかと思っている。
    何よりも自分の気持ちに響く、自分の中から湧き上がってくる直感を信じることだ。

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著者プロフィール

1970年9月27日、埼玉県所沢市生まれ。1982年、関東奨励会に6級で入会。1985年12月、プロ四段に。1989年、19歳で竜王獲得。これが初タイトルとなる。以降、数々のタイトルを獲得。1996年には、当時の七大タイトル(竜王・名人・棋聖・王位・王座・棋王・王将)全冠独占の快挙を成し遂げる。2017年に、八大タイトル戦のうち永世称号の制度を設けている7タイトル戦すべてで資格を得る、史上初の「永世七冠」を達成した。タイトル獲得は通算99期、棋戦優勝45 回(ともに2022 年6月時点)。主な表彰として、2007 年特別将棋栄誉賞(通算1000 勝達成)、2018 年国民栄誉賞、同年紫綬褒章。さらに2022年、史上初の通算1500勝を達成し、特別将棋栄誉敢闘賞を受賞。将棋大賞は最優秀棋士賞など多数受賞。

「2022年 『改訂版 羽生善治のこども将棋入門 中盤の戦い方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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