事故がなくならない理由(わけ) 安全対策の落とし穴 (PHP新書)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569808260

作品紹介・あらすじ

鉄道、医療、バス、原発、温泉施設…事故が起きるたびに、責任が問われ、規制が強まり、対策がとられる。だが、安全対策によって「安全・安心」は高まったと言えるのか。著者は、安全対策によって人間の行動はどのように変化するのか、そこにこそ注目すべきと説く。事故や病気や失敗のリスクを減らすはずの対策や訓練が、往々にしてリスクを増やすことになるのはなぜか、人間の心理とリスク行動に光を当てる。さらにリスク行動の個人差、リスク・コミュニケーション、リスク・マネジメントにまで踏みこむ。

感想・レビュー・書評

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  • ビーコンが普及して、遭難が増えた。
    防潮堤ができると安心して非難しない。
    釜石の奇跡を生んだ先生も、防災教育を始めようとして迷惑がられた。
    防潮堤は子守唄効果をもたらした。
    運転が下手なほうが事故は少ない。
    初心者が事故を起こしやすいのは、若者が多いから。
    停止駅の先の踏切を占めるのは、オーバーラン対策。
    リスクホメオスタシス理論=安全装置をつけるとその分スピードが上がる=リスクテイクが増える。リスクは、どんな場合も同じになる。人々のリスク水準を変えない限り、事故は減らない。
    若者がリスクを取るのは、進化行動学で説明できる。若者は冒険が好き。
    リスクをとるとエンドルフィンが出て、快感を感じる。リスクを取る効用のほかに、リスク自体が魅力がある。

    正常化バイアス=異常なことは起きていないだろうと勘違いしやすい。川治プリンスホテルの火災、石勝線特急列車のトンネル内の火災、など。
    地震警報の平塚市の誤報は、ほとんどの人が信じなかった。テレビで報道していなかったから。
    緊急事態でパニックになることを恐れるあまり、緊急であることを周知しない。このほうが惨事になる。

    みんなで話し合うと、声の大きな人に結論が引きずられる。リスキーになる。

    無免許だとエンジンがかからない仕組み。飲酒運転かどうか調べる仕組み。列車のATSのような仕組みを取り入れるべき。

  • 「事故がなくならない理由」芳賀繁。PHP新書。2012年。





    大学で心理学を教えている学者さんの本。国鉄などに勤務経験もあるらしく、半ば「事故のプロ」なのでしょう。
    2019年4月に読んだ本なのでかなり忘れていますが、大まかに言うと。統計データ上、


    「安全技術が進歩しても、事故率はあまり変わらない」


    という一寸衝撃的な内容で、つまりは


    「安全技術が進歩すれば、人のココロが油断して、例えば自動車ならながら運転などをしてしまう。だから変わらない」


    「安全技術が進歩しても、運転がいちばん分かりやすいのだけど、人のココロには”ギリギリのスリルを楽しみたい”という要素があるから、変わらない」


    というような話だったと思います。


    自分の若い頃の運転を振り返ると、多少思い当たり。
    へー、ふむふむ。という感じはありました。


    (自動車の運転に限らず、人間関係とか仕事とかお金がらみとか犯罪被害あるいは犯罪加害とか、いろんな事も同じなんでしょうね)


    そういう要素がある、ということを肝に銘じて暮らす方が良いんだなあ、ということですね。事故を避けるためには。
     あと、どうやっても「家族そろって絶対に事故を避けて生きていく」ということは、人間社会で生きている以上は、どれだけ気をつけたって、自力では不可能なんですよね。
     むしろ「事故にあっても、最悪の大事に至らないように気をつける」、「事故にあっても失敗しても不幸にあっても、それでもなんとかなるような心持ち、助け合えるような関係でいる」というほうが、現実的かと思います。
     よくウディ・アレンなんか描いていますが、結局は自分の力、実力の賜物に見えるようなことでも、かなりの割合で所詮は複数の偶然の産物、神様の悪戯ってヤツなんだと思います。だからまあ、ヒトのありようってのがそもそも事故なのかも知れません。
     ...とまあ詮無き戯言ですが、本日も家族揃って無事故で過ごせたことを、一日一日感謝。無事是名馬。

  • ー リスク補償行動とは低下したリスクを埋め合わせるように行動が変化し、元のリスク水準に戻してしまうことをいう。細くて見通しの悪い道路から幅の広い直線道路に出たドライバーがクルマの速度を上げたり、雪道をノーマルタイヤでのろのろ走っていたクルマがスノータイヤに履き替えたとたんにスピードを出したりする現象が典型である。

    運転速度のように測定できる行動変化だけでなく、注意力が低下したり、他のことを同時にしたり、より大きなリスクをとる方向の判断や決定を行う確率が高まることもリスク補償の現れである。 ー

    テクノロジーの進化と共に、リスクも減ってきていると思われがちであるが、テクノロジーの使い方によっては逆効果になってしまうことも理解する必要がある事を、さまざまな事例を用いて教えてくれる。勉強になり、面白い作品。

  • 事故がなぜ起こって、なぜ防げないのか?永遠のテーマです。このテーマをどのようにとらえるのか?内外の研究例を紐解きながら、わかりやすく導いてくれる導入書です。いい本だと思います。

  • 「安心は人間の最大の敵である」
     シェークスピア(「マクベス」)
    例え訓練や経験、安全装置により安全性が向上しても、人は自分の許容できる範囲までリスクをとる行動に出てしまい、結局は安全性が向上しない。ということがよくあるそうだ。(リスク・ホメオスタシス理論)
    なぜならそこにはメリットが見込めるから。
    急ぐ、面倒な手順を省略する等。

    そして、なによりもリスクは快感。

    「リスクに直面すると覚醒水準が上がり、そのため脳内でカテコールアミン(アドレナリンの基になる物質)が分泌され、それが快感につながる。さらに、リスクを乗り切って覚醒が下がると、エンドルフィン(「脳内麻薬」とも呼ばれる物質)が放出されて、再び快感を感じるのだ。つまり、リスクは「一粒で二度美味しい」」p87

    わかるわかる。
    だって、美味しすぎるものw
    その美味しすぎる果実に人に先んじて飛びついてしまう人達・・・

    第8章 リスク行動の個人差
    「心筋梗塞など心臓血管系の病気になりやすい行動特性があることが一九五〇年代末の医学研究で明らかにされ、タイプAと名づけられた。血液型ではない。タイプAの人は、他人と競争することが好きで、上昇志向が強く、せっかちで、いつも時間に追われている。そして、彼らはリスク・テイカーである。」p158
    「ズッカーマンは新しい刺激を求める傾向を測る心理的尺度、「センセーション・シーキング(刺激欲求)尺度」を開発した。…(略)…センセーションシーキング傾向、とくにスリルと冒険欲求尺度の得点と、リスク・テイキング行動との間に正の相関が見出された。また、タクシードライバーを対象にした調査では、センセーション・シーキング傾向と違反の頻度に相関が見られた。他にも、センセーション・シーキングの一部の下位尺度は、飲酒、喫煙、ギャンブル、違法ドラッグ、性体験の多様さと頻度、珍しい活動への自発的参加、パラシュートやハングライダーなど危険なスポーツへの挑戦などに関連があるという。」p158,159

    ふふっ、心当たりある人、たくさんいませんか?(笑)
    リスク・テイカーの皆さんw
    そしてもう一つの重要な要素がフローチャネル。
    リスク・テイクには挑戦という要素が必ず含まれていて、挑戦の難易度は求める環境として与えられる要素(課題)と、自分の能力によって決まる。
    この難易度がなるべく高いものを攻略したいという欲求。
    本当は自分にとって簡単すぎても難しすぎてもいけない。
    ギリギリのゾーン「フローチャネル」でコントロールできることが、自分で自分の能力を認められることにつながるってやつ。
    "flow
    The Pschology of Optimal Experience"
    https://www.facebook.com/photo.php?fbid=404333869645744&set=a.115963268482807.24180.100002074045033&type=1
    でも、評価能力が洗練されてないと、課題の難易度や自分の能力を計り損ねて大失敗する人達もでてくる。二度と立ち上がれない程にw


    そして社会問題を扱う場合には、リスクが正しく評価できないことを助長しているのは新聞やテレビでの報道じゃないかな?

    「報道量の多い事故や災害は過大評価される」p126

    確かに、量もあるのだけれど、本当の問題は内容。
    普通の人は事件・事故の統計データを見ようとは思わないけれど、個別の事件・事故の内容には意識が向く。
    リスク評価ではほとんど役に立たないのにね。
    もちろん、被害に遭った人達への共感や支援のためにそこに着目する必要がでてくる場合もあるでしょう。でも、本当にそのための情報入手だけだろうか?

    特に新聞はあたかも世の中を知るための、賢くなるためのツールとして認識されてる側面があるけれど、なんのことはない、漫画やゴシップ誌、テレビ番組と同じで、日常生活におけるちょっとした刺激を求めているだけで、読者の多くはそれを読んで勉強したいわけじゃない。
    ただの真面目ぶった娯楽ですよ。
    それが証拠に実際のリスクをはかるために統計データ見る人なんて専門家くらいでしょ。そんなの面倒っていうのもあるし、個別のストーリーの方がよりリアルに感じるから。
    全然リアル(現実)じゃないけどね(笑)

    本来ならば、事件や事故の報道したあとに、それが他のリスクとくらべてどの程度のものなのか、それを改善しようとすると費用はどれくらいになるのか、そういった話をしないといけないんだけれど、シラけるよねw

    だから、こういった話
    「非専門家、たとえば、リスク源の近くに住む住民や交通機関の利用者などは、どれだけお金がかかっても、リスクをできる限り低くしてほしい、それは国や事業者の義務であると考えがちである。しかし、国が支払うコストは税金で賄われ、事業者が支払うコストは最終的には利用者や消費者が負担する。」p150

    からは目を背けて、国や事業者を罵倒するだけっていう単純な行動に出る。
    別のリスクやそれを実現する現実的な手法、コストまで考えた上で批判してる人ってそうそういない。
    結局はリスクを下げるにしても、費用対効果が重要なのだけれども、自分がその改善を担当する立場でもないかぎり、とたんに我がままになるのは人間のさがだろう。

    結局は国民の文化レベルが自分達の受けるサービスの質を決定しているんだから仕方ない。でも、そこだけは理解しておかないと。

    ね。

  • 苦労して安全性を高める装置を作っても、それを使う人間が安全性を引き下げてしまう!リスクは0にはならないという事実を踏まえて、共存する方法を考えるべきだ。ダニエルカーネマンの本も読んでみよう。201410

  • [リスクとの付き合い方法、教えます]事故回避のための新技術や万全とも言える備えが導入されるにもかかわらず、自動車事故やヒューマン・エラーが起きてしまうのはなぜなのか。事故発生の外部的要因のみならず、人間の心理状態にまで分け入りながら、その原因と更なる対策を提唱する作品です。著者は、産業心理学や交通心理学を専門とされている芳賀繁。


    「リスク」にまつわる話が本書の大部を占めているのですが、そのリスクを完全に否定するのではなく、それと上手くやっていこうという姿勢が示されているところが興味深い。どのくらいまでのリスクであれば許容しうるのか、そしてその許容度にどのようにして個人差が生まれるのかなどの研究が取り上げられており、普段読まない分野の本ということもあってか、なるほどと思いながら読書を進めていくことができました。


    抽象的な話ではなく、図やグラフ、そして大小含めて実際に生じた事故に例を取りながら説明がなされているため、とにかくわかりやすいというところにも好感が持てます。著者があとがきに書くように若干総花的になってしまった感は否めませんが、幅広い事故対策に関する考え方が紹介されていることもあり、足がかりとしながら更なる研究を進めるには打ってつけの作品だと思います。

    〜一般人はゼロリスクを求めていると考えるのは、一種の神話ではないだろうか。その神話を信じて、専門家や事業者の側が、「リスクはありません」、「極めて低いです」、「安全です」と強調してしまうのは、筋違いな対応なのではないだろうか。むしろ、リスクがあることを認めて、そこから話し合いを進めるべきだと思う。〜

    事故というか台風に伴う日本各地の被害をいくつか目にしました。どうぞお気をつけてください☆5つ

  • リスク対策に関する良書。
    特にリスクのホメオスターシス理論、つまり安全対策を講じてもそれに安住して更に危険行動がエスカレートし、結果的に事故確率は変わらないと。結局は心理が大きく影響するということ。
    次回、平成26年度の(平成27年1月)JMA研究発表会の主題基調講演にどうか。

  • とても勉強になった。リスクマネジメント、安全について幅広く学ぶことができた。参考文献にも手を伸ばしたい。

  • *目的
    事故が亡くならない原因を理解する。
    対策を立てる際の注意点に着いてわかる。

    *芳賀繁 専門:産業心理学、交通心理学、人間工学

    子守唄効果(ララバイイフェクト):安全対策がまるで子守唄のように人を安心させ、まどろみに誘う、そのことが危険を大きくすることを指す。

    リスク補償行動とは、低下したリスクを埋め合わせるように行動が変化し、元のリスク水準に戻してしまうことをいう。
    ジェラルドワイドが提唱したリスクホメオスタシス理論。リスクの目標水準を変えるような対策でなければ、長期的には元に戻る。私の考えとしては、自信がつけばスピードがあがり間違え安くなり、システムが揃えば、攻めても大丈夫というのに繋がる。
    安全装置は、安全性向上ではなく、自分たちの行いたい行動の目的に利用できる便利な装置にすぎないのである。
    NO.645,687,

    ルール違反を起こしやすくなる要因
    ルールを知らない、ルールを理解していない(違反のハードルを勝手に下げる)、ルールに納得していない、みんなも守っていない、守らなくても注意を受けたり罰せられたりしない。

    ヒューマンエラー
    ヒューマンエラーによる事故は、設備ではなく人間の意識や注意力を高める必要があると考えがちだが、
    ヒューマンエラーの概念は、システムの中で働く人間が、システムの要求に応えられない時に起きるものなのだから、対策は設備を含めたシステム全体で考えなければ行けない。
    ヒューマンエラーは、失敗やうっかりミスと同義語ではない。システムの中で起きる、人間の判断や行動の失敗なのだ。
    とりまくシステム
    m-SHELモデル。システムの構成要素を分類して、Lのパフォーマンスが他のシステム要素との関係の良し悪しに依存するのを示した図。ホーキンスによって提唱。絵NO.1005

    リスクへの理解
    過小評価する傾向のことを正常性バイアスという。
    死者が少ないハザードについてはリスクが過大評価され、多いハザードについてはリスクが過少評価される。
    ダニエルカーネマン(ノーベル賞)プロスペクト理論
    リスク判断には主観的要素が大きく作用し、心理学的な原因や法則がある。フレームを利益側にするか、損失側に設定するかで大きな影響がある。利益側であれば、確実性効果が現れ、損失側であれば、ギャンブル的認知バイアスがでる。

    腐ったりんご理論
    エラーや事故を起こすのは一握りの頼りない、出来の悪い従業員であり、彼らを職場から追放すれば、システムの安全性は確保できる

    ハインリッヒの使用方法
    事故の結果にこだわるのではなく、過程(転倒するという事象)に注目して対策を取る。

    リスクアセスメントの理解
    結果として許容しうるリスク(対策不要)という判定がありうる点が、リスク・マネジメントの考え方の新しい点。限られたリソースを効率的に配分して、重大なリスクから先に手を打とうという、極めて合理的かつ冷徹な発想である。

    大谷・旁賀 文献8 産業・組織心理学会 28回大会発表論文集 248-251 2012
    職業的自尊心と安産行動意図の関系
    自尊心が高い人は、仕事の技量を高めたいというタイプであるため、主観的規範が高い。一方結果がすべてである工程厳守型の業務意欲は、ルールを破ってでも工程を守るというリスキーな、行動をする。
    自尊心は、誇り高く生きること、将来に希望を持つことで高められる。

    広瀬弘忠(防災心理学)

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著者プロフィール

芳賀 繁(はが・しげる)
1953年 北海道生まれ
1977年 京都大学大学院文学研究科修士課程修了(心理学専攻)
1999年 京都大学博士(文学)
現在 株式会社社会安全研究所技術顧問,立教大学名誉教授
主著・論文 
メンタルワークロードの理論と測定 日本出版サービス 2001年
失敗のメカニズム—忘れ物から巨大事故まで— 日本出版サービ 2000年
事故がなくならない理由(わけ):安全対策の落とし穴,PHP新書 2012年
レジリエンス・エンジニアリング:インシデントの再発予防から先取り型安全マネジメントへ,医療の質・安全学会誌,Vol.7,No.3,pp.207-211, 2012年
自動化システムとドライバの心理,自動車技術,Vol.69, pp.86-89, 2015年

「2019年 『よりよい仕事のための心理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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