死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569808352

作品紹介・あらすじ

吉田昌郎、菅直人、班目春樹…当事者たちが赤裸々に語った「原子力事故」驚愕の真実。

感想・レビュー・書評

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  • 感謝の念、涙の一冊。

    あの日、不眠不休で戦ってくれた人達がいたことを改めて心に焼き付ける。

    まるで戦場。
    誰もが恐怖を通り越した精神状態で立ち向かう姿に言葉なんかでは足りない言い尽くせない感謝の念、涙が溢れてくる。

    冷却、あの時の一瞬の吉田所長の判断、指示、それがどれほどの価値に値したのか、それを決して忘れたくはない。

    地域の住民に住めない町にしてしまったと謝罪するシーンは印象的。涙なくしては読めなかった。
    こんなに戦い抜いてくれた人を誰だって責めることなんてできない。

    今更だが、最悪の事態は回避できたで済ませるべきことではないこと、当然のことをしたと言い切る人達のおかげで今があること。
    そして何より結果オーライではなく未来へ繋ぐことの大切さ。
    それが一番大事。

  • 衝撃・絶望・感動の作品。

    東日本大震災により福島第一原発で何が起きていたのか、現場で起こっていたことを生々しく描くノンフィクション。

    今まで日本がここまでの危機に瀕していたことを認識出来ていなかった。そして果敢に命を賭して対応した吉田所長以下の現場の人々に焦点を当てた物語に感動。

    放射線量が上昇する中、電気が途絶えた中央制御室に踏みとどまった人達。最後の際まで「死」と隣り合わせで踏ん張った人達。

    現場で自らの使命の元、仕事を全うする人々。

    それと対比して、官邸、東電幹部のやり取りの虚しさ。十分な意思疎通がなされないまま、菅首相の現場に投げかけた残念な言葉。その言葉を振り返ったコメントもあるが、謙虚さと慎重さがあまりにも足りないように感じた。それ故の現場の空虚感と怒りであったように思う。

    専門家でない官邸の判断の難しさはよく分かるが、本書に触れられている不測の事態に対する対応についての議論が圧倒的に足りていなかったことは重要な問題であるように感じた。失敗から学ぶべきことは多い。

    そして意外なのが、最後の最後に残った人々は死ぬと思って残ってるわけじゃなくて、やることがあるから残っていた、と言う。過酷な環境下で黙々とやらなければならないことをやる。静かな闘志のようなものを感じた。

    また津波で亡くなった若手二人に対する心無い情報の拡散に関する話があるが、無知であることの罪深さを思い知らされる。

    それに対して彼らの仲間達が壮絶な事実をキチンと両親に伝え、仲間として仕事と責任を全うする姿勢に胸を打たれる。

    日本を救ってくれてありがとうございます。

    未来に負債を残し、今を生きる仕組み から、SDGs、持続可能な社会を作ることの重要性を強く感じた。

  • 内容紹介 (Amazonより)
    その時、日本は“三分割"されるところだった――。

    「原子炉が最大の危機を迎えたあの時、私は自分と一緒に“死んでくれる"人間の顔を思い浮かべていました」。食道癌の手術を受け、その後、脳内出血で倒れることになる吉田昌郎・福島第一原発所長(当時)は、事故から1年4か月を経て、ついに沈黙を破った。覚悟の証言をおこなった吉田前所長に続いて、現場の運転員たちは堰を切ったように真実を語り始めた。

    2011年3月、暴走する原子炉。現場の人間はその時、「死の淵」に立った。それは同時に、故郷福島と日本という国の「死の淵」でもあった。このままでは故郷は壊滅し、日本は「三分割」される。

    使命感と郷土愛に貫かれて壮絶な闘いを展開した男たちは、なぜ電源が喪失した放射能汚染の暗闇の中へ突入しつづけることができたのか。

    「死」を覚悟した極限の場面に表われる人間の弱さと強さ、復旧への現場の執念が呼び込む「奇跡」ともいえる幸運、首相官邸の驚くべき真実……。吉田昌郎、菅直人、班目春樹、フクシマ・フィフティ、自衛隊、地元の人々など、90名以上が赤裸々に語った驚愕の真実とは。

    あの時、何が起き、何を思い、人々はどう闘ったのか。ヴェールに包まれたあの未曾有の大事故を当事者たちの実名で綴った渾身のノンフィクションがついに発刊――。




    関西に住んでいるせいか 同じ日本なのに遠いところの事のように当時は考えていたと思います。
    この本を読んで 知らなかったことがたくさんあり 今こうしていられるのは この方達のおかげもあるのだなぁとつくつく感じました。

  • フォローしてる方のお勧めで。Netflixでもやってるドラマの原作。
    ただ、ここに描かれてるのは事実、とてつもなく重い事実と言う事で読み進めるのが怖くなる程。
    放射能との戦いだけでなく、無策な政府、東電の幹部、、、命を賭して福島を守った男達に感謝。

  • 福島第一原発のドキュメンタリー。

    原発の是非について論じるでなく、まさにその現場で事故に直面した人達がどのように思い、行動したのかに迫った傑作。

    これを読むと、事故初期の当直長を中心とした現場の方々の対応で事故の被害がかなり抑えられているとわかる。海外のメディアでは福島フィフティーという名の英雄として報道されたそうだが、悲しいかな、日本にいる私は、こんなにも果敢に事故対応してくれた人達の存在を全く知らなかった。

    取り返しのつかない被害をもたらした今回の事故だが、「不幸中の幸い」に助けられた面が多々合ったのだとわかる。

    前述の通り、現場の対応は正しかったし、事故の前線基地となる免震重要棟は事故のたった8ヶ月前に完成したそうだ。そして、最後の方で紹介される、吉田氏の生立ちいや人柄を知って、彼がこの事故のある時に福島原発の所長に就いていた事は日本の運命と言っても過言ではないだろう。

    事故の当日に若いプラントエンジニア二名が命を落としていた事も今回初めて知った。放射能による影響ではなく、津波に襲われて命を落とし、その遺体は数週間も救出することができなかったそうだ。彼らもまた、放射能の危機から私たちを護るために行動した訳だが、一部では行方不明という情報が逃げ出したという噂に変わって、遺族の方に誹謗があったそうで、酷い話だと思った。

    現場といえば、原発のサイトだけが現場ではなく、官邸には官邸の、東電本店には本店の現場が合った訳で、こちらの対応ときたら、情けないとしか言いようが無い。

    特筆すべきは元首相の管氏。常軌を逸した態度で、その取巻きは情報をあげることもできなかった。彼へのインタビューも本書には納められている。彼の説明を聞けば、私は彼には彼の理屈としての正しさがあったと思う。しかし、私たちが政治に求めることは結果責任。今は非常事態。話す理屈は間違っていても良いから、現場を掻き回すべきではなしし、命をかけて戦っている人達に、「死ぬ気でやれ」と言い放って、気持ちを萎えさせることがあってはならない。

    現場の人達の行動や思いにフォーカスしているわけだが、読者としては、最後には原発の是非について考えが及んでしまうだろう。

    私が感じたことは、ここまでモラルと能力の高い現場を日本中の全ての原発に配置できなければ、いつかこれ以上の事故が起こると思わなければいけない、ということ。著者の指摘するように、想定以上の自然災害の可能性やテロの危険を消す事はできない。本を読んでいて、福島原発の人達の現場の能力やモラルは高かったと思うけど、そんな彼らですら10m以上の津波が押し寄せる事を全く考えらられず、なぜ電源が落ちていくのかわからなかった事実は大きい。

    最後に、東電に対する不信感は拭えないが、事故当時にそこで果敢にも私たちを護ってくれたのもそこの東電の社員なのだと、そんな当たり前の事を思う。命懸けで戦った方々に、ただただ感謝。

  • 涙無くして読めない本です。
    現場一流、トップ三流感が半端ない。

  • 門田さんのノンフィクションは何作か読んでいます。
    こちらも気になりつつも多くの方も書かれていたようになかなか手に取る勇気がもてませんでした。でも先日、福島原発の被害者の方たちで結成された「福島原告団」のお一人の方の講演を聞く機会がありそれをきっかけに手に取りました。

    単に講演を聴いたからということではなく、その原告団の方がこの吉田氏のことを「責任を負うべき立場であり、自分の不作為の後始末を自分でしただけ、決して英雄ではない」と語ったからです。
    実際に吉田さんという人が、あの日から東電を去る日までどういう風に原発と対峙されたのか知りたいと思いました。

    本書を読んで感じたことは、まず原発の被害に遭われた方々にとっては、まさしくその原告団の方の言った通りなのだということです。
    吉田さんは責任を負うべき立場でありその責務を全うされたのでしょう。
    英雄視されていることが許せない、納得いかない、というのも当然のことと思いました。

    でも、それは「社会的立場視線」で視た場合のこと。
    「人間的立場視線」で視たならば、いくら責務であったとしてもやはり誰でもここまで果たそうとするだろうか、できるだろうかと思ってしまいます。
    吉田さんだけでなく、その部下の方々も。

    ノンフィクションと言っても著者がいる以上、著者の感情や立ち居地が文章に反映されることは多いにあるでしょう。そこを考えたとしてもやはり私個人としては「よく吉田さんは、そしてその部下の方たちはここまでやってくれたな」と思わずにはいられませんでした。

    確かに結果的には故郷を喪った方たちをたくさん生み出してしまいました。でも、ここに書かれた人たちが原発と文字通り必死に向き合って戦ってくれなかったら、今の日本は間違いなくありませんでした。

    そのことを思うと、「責務を果たしただけ」というのは私には辛かった。これが他の仕事だったならと考えてみたら、命をかけても職務の責任を果たせ」とは今の時代、誰に対しても言えないのではないでしょうか。
    命を落してまでしなければならない仕事などあっていいわけがないと考えます。
    彼らを責めて良いのは原発の被害に遭われた方だけという風に私には思えてなりません。

    これを読んだら、原発が存在すること、原発に頼ることがいいことだ、仕方のないことだなどととても思えないです。
    原発稼動賛成、という人にこそ心して読んでいただきたい一冊だと思います。

  • あの震災の日、福島第一原発で起きていた事が色々な人のインタビューを元に書かれている。
    吉田所長はじめ、数多くの社員たちが多くの人を救うため、ひいては日本を救うために命懸けで戦った何日間かがあったから、最悪のケースは免れた。
    だれにも初めての想定外のケースばかり。手探りで対策を考えて綱渡り状態の中で実行に移す。
    まさしく戦場だったのだ、と実感した。
    あまりの非常事態に首相をはじめ多くの関係者たちが我を忘れて冷静さを失っていた中、吉田所長の肝の座り方は見事。
    想像を絶するストレスの中で戦った吉田所長の病死が悔やまれる。
    忘れてはいけないあの日の記憶。

  • タイトルは五百日となっているが、実際はほぼ1週間の出来事。あの時福島で何が起こっていたのかを克明に示している本。
    「東電寄り」と書かれているレビューもあるが、実際のところは東電ではなく現場を描いた作品なのであって、その日に至るまでの危機管理はさておき、あの事態が起こった後に現場の人達がどれだけの状況下でどういう働きをしたかがよく分か流というだけでいいと思う。

    より大きな組織論や政府とのコミュニケーションについては、ここでは力点が置かれていない。菅さんへの言及も、本人の直接のコメントを入れる等、中立的に書こうとしていると思う。

    死を覚悟して刻々と変わる状況に対応していった吉田所長以下現場の方々には頭が下がる思い。

    ただ、一点不可解なのはどうして津波について誰も思い至らなかったのかということ。わざわざ沿岸の建屋の地下の点検を命じ、結果2人の作業員が亡くなったことについては残念としか言いようがない。

    ゴルゴ13の『2万5千年の荒野』でも指摘されているが、原子力発電は恐ろしい。でも100%の安全に近づけるよう、制度と運営を実施しなければきっと世界の何処かで同じ危機は繰り返されるのだろう。そんな地球の上に、僕らが生きているという事実。

  • 原発推進派も反対派も、イデオロギーに関係なく読んでもらいたい。
    原発事故があった事は事実であり、また、被害を拡大させない為に命をかけて守った人がいるのも事実です。
    時の首相にも取材をしており、ドキュメンタリーとしての秀作。

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著者プロフィール

作家、ジャーナリスト。1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒業後、新潮社入社。『週刊新潮』編集部記者、デスク、次長、副部長を経て2008年独立。『この命、義に捧ぐ─台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(集英社、後に角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。主な著書に『死の淵を見た男─吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)、『日本、遥かなり─エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」』(PHP研究所)、『なぜ君は絶望と闘えたのか─本村洋の3300日』(新潮文庫)、『甲子園への遺言』(講談社文庫)、『汝、ふたつの故国に殉ず』(KADOKAWA)、『疫病2020』『新聞という病』(ともに産経新聞出版)、『新・階級闘争論』(ワック)など。

「2022年 『“安倍後”を襲う日本という病 マスコミと警察の劣化、極まれり!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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