なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569819419

作品紹介・あらすじ

アベノミクス成功のカギは、ローカル経済にあり! グローパル経済も分析しながら、今後の日本が成長していくヒントを読み解いていく。

感想・レビュー・書評

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  • なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書)2014/6/13


    G経済圏とL経済圏それぞれで別の戦力を用意せよ
    2015年4月15日記述

    産業再生機構元トップの冨山和彦氏の著作。

    本書では企業、産業がかつてに比べG(グローバル型)、L(ローカル型)とはっきりと分かれていてそれぞれに効果のある対策は異なるということを示している。
    これまでも感覚的に思っていたことではあるけど、国際競争に耐えずさらされているメーカーとJR、バス会社などを同列に扱うことにそもそも無理があるのだ。
    (国の産業政策だけではなく個人にとっても同様。MBAを取得や高レベルの英語力が日本人全員に必要かどうか等・・・)
    G型企業のこれから、ガバナンスがどうあるべきかは本書に加えてビックチャンスという著作に冨山氏がまとめているので参考にされたい。
    L型については本書がよくまとまっている。
    雇用にしてもGDPにしてもおよそ7割をしめているというのは意外だった。
    L型では密度の経済性が効く。
    L型経済圏に対して単純な規制緩和ではかえってブラック企業などが増えてしまう。
    スマートレギュレーション(賢い規制)が必要である。
    サービス業などは国境を越えることは出来ない。(バス、鉄道、観光・・)
    サービス業の最低賃金を上げ生産性の低い会社の退出を促す。
    地域金融機関、保証協会のあり方の見直し。
    特に信用保証協会からの代位弁済が毎年一兆円を超えている。
    これを見直し生産性の低い企業へ緩やかな退出を促す。
    個人保証でも贅沢品を除いた財産は取り上げず路用に迷わないように変える。
    税制や補助金も生産性の高い会社に傾斜的に配分するべき。
    失業対策も対企業ではなく直接個人に対して。
    人手不足対策を真剣に行う(放置すれば人がいなくて過労死する場合も・・)
    非高度人材の外国人を移民としていきなり受け入れると
    劇的なショック反応が起こる可能性がある。
    日本国内で少子化対策、生産性向上、女性と高齢者の更なる活用を徹底的に行う。
    いきなり外国人労働者を入れることは最低賃金の引き下げとほぼ同じ効果を持つ。

  • 抜群だった。正直『シン・ニホン』よりも、いま読まれるべきはこちらではないかと思う。机上の仮説ではなく実戦の中で得た洞察なので、迫力が違う。

    トレーダブルなグローバル経済の世界の極北にはPh.D.持ちCEOたちの世界観があり、熾烈な資本獲得競争が続く。なんちゃってガバナンスの「日本基準では一流企業」の文句を聞いている暇はなく、グローバル基準のオリンピック選手育成環境を整備する必要がある。

    アントレーダブルなローカル経済の世界においては、規模の経済は幻想であり、元々PLさえ安定させられればディフェンスは強い。それに加えて労働人口不足という環境変化が重なり、ROEよりも労働生産性、資本市場よりも労働市場によるガバナンスがゲームのルールとなっている。この世界における本当の課題は、新しい企業を生むことよりも弱い企業・集落を整理・集約することにある。

    注意すべきは、良くも悪くも現場視点であるからこそ、時間軸を飛ばした大胆な構想にはなっていないこと。20年30年先を考えると、地方の高齢者まで漏れなくAmazonやUberを使いこなし、GがLを侵食していくシナリオもありえるのではないかと思う。

  • 日本の経済力という面を考えるとき、グローバルな企業の競争力ばかりに目が行くが、実際にGDPと雇用の多くを占めるのは、地域に根差したローカルな企業である。グローバル経済とローカル経済とではそこに働く力学が大きく異なるため、それぞれについて正しい見方をする必要がある、というのが本書の骨子だ。二つの経済の大きな違いは、「規模の経済性」が効くグローバルと「密度の経済性」が大きな意味を持つローカル、ということができる。

    グローバルで競争する企業は、グローバルで「規模の経済性」を得るため激しいシェア争いを勝ち抜くことが必要であり、そのために経営者は正しく経営資源を競争優位性を持つ事業に集中させることが必要となる。電機メーカーをはじめとする日本企業はこの選択と集中ができずに不採算事業とともに沈んでいった企業が多かったと指摘する。日本政府のこのフィールドでの役割は、そういったグローバル企業が競争しやすくするための規制緩和を徹底的に行うことである。

    課題となるのは優秀な人材の育成や誘致である。著者は、グローバル企業が活動する理想の場としてシリコンバレーを念頭においている。グローバルな競争においても起業が重要で、その数を増やすために、優秀で高い意欲を持つ人にとって起業することが有利となるような社会になるべきだと考えている。著者はよい傾向にはなっているとして、「東大を出て日本の安泰な企業に行きたがるのは、東大の中では二線級の人たちだと言われるようになった」という。こういった人材がいったん外資系コンサルファームに行き、その後若いうちに起業するものも多くなっているという。著者は自らの成功体験を背景にした高いエリート意識を隠さないが、優秀なトップクラスの人間はグローバルで勝負をするべき、という発想がある。

    一方で、これからの日本はローカルをどのようにしていくのかが国家としてはもっとも重要な事項となる。これをグローバル企業の競争モデルと混同してはいけない、というのがこの本が他の類書とは異なる主張をしているポイントだろう。ローカルにおいては集約化と穏やかな退出を可能にするための規制作りが重要事項となる。グローバル企業の最重要KPIは資本効率性で、ローカル企業の最重要KPIは労働生産性であるという指摘がそのことをよく表している。

    バス運航事業などのローカルの事業体では、競争事業者は実質上存在しない。グローバルな事業とは異なり、営業地域が異なるバス会社同士は、同じ事業を行うにも関わらず、互いに競争関係にはない。そういったローカル企業の例としては、他にいくつも挙げることができる。例えば、地方のケーブルテレビも同様である。そのようなローカル企業の場合、経営の良し悪しはオペレーションの効率性に依存する。しかし、ローカルにおいては競争がないから効率性が悪い企業もブラック企業として生き残れてしまう。それは国家にとっても地域社会にとってもよくないことである。この解決策として、サービス業の最低賃金を上げることで、効率性の悪い企業が音を上げて効率性のよい企業や経営者に任せるところまでいかせるべきだという。同時にそのときは、ソフトランディングが可能なような規制を整えることが必要であるという。地域交通機関、医療介護、保育といった公共サービスにこそこの考えが当てはまる。補足として、信用保証制度による過大な債務規模が、これまで一生懸命に中小企業をつぶすまいとしてきた結果であり、つぶれるべき企業が生き残っている状況が作り出されている証拠でもある。

    著者は、地方ではコンパクトシティ化を進めることを説くが、これは集約化であるとともに限界集落からの退出をどうやって穏やかに進めるのかという話である。鉄道の駅と主要バスターミナルの駅に駅前商店街を復活させることで、モビリティの問題なども解消する(バス会社も効率的になる)。冨山氏は、みちのりホールディングスという東北・北関東地方を中心としたバス運営会社の経営者でもある。地方では雇用はなくなっていくのではというイメージがあるが、実際には地方から先に人材不足が始まっているという。実際に、みちのりホールディングでも常にバス運転士の不足に泣かされているという。その上で、人手不足対策を「労働生産性の向上」「女性と高齢者の活用」「外国人の雇用」の順番で考えることが重要であると指摘する。日本社会のシステムは移民に対しては脆弱であるため、むやみに外国人の受け入れを進めるべきではないのだという。


    著者は多くの企業再生に携わったが、旅館街の再生の話など印象深いものがいくつもある。カネボウやJALのリストラでは、人員整理に手を付けることに対して躊躇はなく、実際に多くの社員が再就職できたという(実際にリストラに会った人はこれを読んでどう思うかというのは気になるが)。一方、ローカル企業においては、地域に根ざすその人の人生が破綻しないようにものすごく気を遣うことになったという(この時点ではまだ地方でも人余りの問題があった)。また、日本の大企業の企業再生に関わった著者の指摘する日本企業の問題点としてダイバーシティの欠如を挙げていることが印象的である。「地頭が良い、地頭が悪い、知識がある、知識がないということで、意思決定を間違える企業はほとんどない。ガバナンス上の大きな過誤は、ほとんどが人間の性から生まれている」というのは、グループシンクや過度の忖度などが大企業の中で生じがちなことから示唆的である。

    この本を読んで気が付いたことのひとつは、通信事業者というのが極めてローカルの世界のビジネスであるということだ。技術がグローバルになり、端末も世界で売られているものと同じものとなり、インターネットというグローバルな世界との接続を担うことからグローバルの世界のビジネスをしているのかと無意識には思っていた。しかし、競争環境という点を見ても、Verizonやチャイナテレコムと直接競争するわけではないということからもわかる。そうやって見ると、違ったふうに見えることもあるかもしれない。その意味でも役に立ちそうな本である。

  • 地方創生に興味があり読んだ。冨山氏の経済戦略提案。非常に示唆に富んでいて、様々なアイデアが浮かんでくる。冨山氏の慧眼のその先に、日本社会がどうなっていくのか、いやいや私自身はどう足掻こうか。とても良い一冊だった。

  • これからの日本のいく末可能性について考えるべく読書。gとlの社会は構造が違うという話。改めて興味深い

    メモ
    ・製造業、it業はグローバルの経済特性。規模の経済・ネットワークの経済性が効きやすく、国際競争に巻き込まれやすい。
    ・ローカル経済圏はコトの価値。分散的な経済構造、密度の経済が働くことが多い。
    ・新陳代謝の不足
    ・グローバル優良企業はトリプルテン(利益率・ROE・成長率)
    ・Gの世界の戦略 高株価・新陳代謝・成長産業・労働市場
    ・銀行も通信もローカル産業。グローバルかどうかをみるには寡占度合い。
     トップ10位でほとんどをしめていたらグローバルの産業
    ・再生における問題の本質はBSでなくPL
    ・ローカル経済は緩やかな退出と寡占化を
    ・ローカルの場合、ベストプラクティスアプローチが有効。同一地域でなければ、競合とならない
    ・緩やかな退出を促進するためには資本市場や製品市場でなく、労働市場から。最低賃金をあげる。

  • PHPから新書を量産している著者による“日本の成長戦略”の本。教育論も含んでいる。

  • 朝日新聞のインタビューを読み注目していた。みちのく交通の話などとようやく符号。人口減社会の中で、生産性を上げないといけないというストーリーには大変納得。林業の将来もこれで解けそうである。

  • 2020.03.21 予め、グローバルでオリンピックチャンピオンを目指す企業(Gの経済)とローカルでの勝利を目指すサービス業を中心にした企業(Lの経済)を分けて考えるという切り口はとてもおもしろく、同意すると同時に感心した。Lの経済における生産性の向上という考え方はとてもよく理解できる。どう進めるかを考えないと。

  • ★2つの世界の切り分けに納得★目にする地方経済の現状と、国やメディアが騒ぎ立てる経済のグローバル化といった話の距離にずっと違和感を覚えていた。世界の距離が近づき日本の生産年齢人口が減っていけばこれまでと同じ処方箋では対処できない。世界を2つに分けて考えるべきだという指摘はすごく腑に落ちた。

    「モノ」を中心に立地を問わず世界の(ニッチな分野でも)チャンピオンにならなければ生き残れないGの世界と、その場でしか成り立たたず人手のかかる「コト」のLの世界。かつての日本を支えていた加工組立の中小企業は、世界との距離が近づく中でGの世界でしか生き残れない。Lの世界は地方だけでなく流通・サービスにも当てはまり、いい意味でそこに地方のヤンキーが生き延びる余地もある。どちらがよいではなく、異なる世界が併存する。

  • ローカルビジネスに興味があるのであれば、こういう本をちゃんと読まなきゃいけなかったよなと後悔。ただ、過去を悔やんでもしょうがないので、これからちゃんと勉強しよう。
    日本全体が人口減少している中で、これまでと同様に地方の産業政策が「工業団地造成&企業誘致」では立ち行かなくなるだろうというか、すでに立ち行かなくなっていると実感しており、じゃあどうするかというと「質の高い産業だ」とロボット産業などの誘致になっているのだが、果たしてそれでいいのだろうかと思っていた。そういう意味では、この本で語られている、ローカルビジネスは密度の経済性が働いており、グローバルトップを目指す必要はなく、生産性の向上を図るための企業集約を図るべし、というのは腑に落ちた。ただ、それを行政政策に結び付けるのはなかなか難しい。転廃業の促進はできるかもしれないが、金融機関のデッドガバンス強化や、再編促進型の倒産法の導入といった解決策は、国や民間と協力しながらでなければ進められない。が、そういう視点を持つことが重要なんだろう。

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著者プロフィール

冨山 和彦(トヤマ カズヒコ)
株式会社経営共創基盤(IGPI)グループ会長
1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストン コンサルティング グループ、コーポレイト ディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画し、COOに就任。2007 年の解散後、IGPIを設立。2020年10月より現職。日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長、パナソニック社外取締役、経済同友会政策審議委員会委員長。財務省財政制度等審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、国土交通省インフラメンテナンス国民会議議長、金融庁スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員などを務める。主な著書に『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)、『コロナショック・サバイバル』『コーポレート・トランスフォーメーション』(いずれも文藝春秋)などがある。

「2022年 『両利きの経営(増補改訂版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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