ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼 巨人たちは経済政策の混迷を解く鍵をすでに知っていた (PHP新書)

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  • PHP研究所
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レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569821375

作品紹介・あらすじ

世界の経済史を紐解き、リスクを負わない政府・国家がいかに破綻への道を歩んだのかを検証。あるべき経済政策を提言する論考。

感想・レビュー・書評

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  • 経済政策の流れの「軸」が整理されて分かりやすかった。
    日本では、右派たるべき自民党が社会党の影響の下に、本来左派の取るケインズ的な大きな政府介入を行い、これに代わる連合の支持を受けた民主党が、緊縮財政の小さな政府を目指したことから、話がややこしくなっている。逆に言うと、それができるほど決定的な違いでないということ。

    ケインズはともかくハイエクも、大きな政府に繋がる財政出動を否定していない。小さな政府と誤解されているのは、政府がルールキーパーに徹することで、各人の予想可能性が高くなり(リスクが低減し)、安心して経済活動に従事できることだ。非常時の財政出動もルールキーパーの重要な役割であり、治安や衛生、災害、ベーシックインカムなども、これに含まれる。小さな政府とは、政府の裁量や恣意的な政策でなく、ルール(法の支配)のみによって、参加者が安心して経済活動ができることが重要という意味である。
    小さな政府が「民間活力を利用して、これまで税金で賄ってきた赤字事業を立て直すこと」ではないことがよくわかった。財政再建の意味合いはあるにしても、微妙にニュアンスは異なる。

    予想可能性という意味では、年金を確実に受け取れる世代と、そうでない世代で消費行動に差が生じるのは当然であり、インフレやデフレがスパイラルに陥るのも納得できる。ベーシックインカムが自由主義の考え方であることも新鮮だった。社会主義陣営は、これにより様々な社会保障が削減される可能性について、かえって危惧することも多いようだ。いずれにしても、国としては目先の個々の政策よりも、トータルの社会像(ぶれることのないルールの全体像や非常時の安全策)を示さなければ、意味がなく、ましてや倫理的価値観を押し付けるようでは、どうしようもない。

    筆者は、ソ連の経済システムの崩壊が生産手段の共有自体や個人のモティベーションにあったのでなく、リスクと責任の分離→現実と離れた無責任体制にあったと指摘する。いわゆる官僚支配による負の側面であり、現場の裁量でなく、現場を知らない官僚による計画経済は、現実を離れた過剰投資や過小生産など、無駄が多く、それは判断者の無限責任どころか有限責任ともならない。そのため、最終的には物の不足によって崩壊したとハンガリーのコルネイは指摘している。ノルマがロシア語とは、初めて知った。
    その意味では、無駄な公共施設や施策に税金を使う日本の自治体も同様であり、官僚の裁量を増やすことが、賄賂や腐敗につながることも同様である。→これを廃して、ルールキーパーとセーフティネットに徹することが、小さな政府ということだろう。
    リスクと責任の一致と分離という意味では、自己の資産をつぎ込んでいる個人経営の社長と、サラリーマン社長も類似の関係にあるかもしれないが、これは意図的なリスクの軽減かもしれない。

    リスクと責任の一致の観点からは、物の生産とは違って、画一的な対応が難しい介護等のサービス業においては、中央集権的なコントロールは難しく、営利団体よりも(形式的でなく実質的に)協同組合やNPO法人のような、ボトムアップの意思決定が望ましいという意見は傾聴に値すると思った。リッツカールトンの現場主義(現場の人間の裁量権が大きい)も、それに通じるところがあるかもしれない。
    一方、国が実施するとなると、無駄な税金を使わないように、細かい基準を作って厳密に対応しようとすればするほど、役所の仕事は複雑になってコストも増え、裁量も発生し、利用者も不便になる。→利用者の選択の自由も尊重されるべきであり、後方支援で十分だという。

    ---------------------------------
    ○大不況(ケインズ:財政出動)→インフレ拡大(→ハイエク:小さな政府・あるいは無分別の財政出動が問題だった?)→格差増大・失業(→第三の道:マイルドに修正)・・・→再び財政出動

    ○福祉のスタンス:新自由主義(削減・供給側・受益者負担)→第三の道(ワークフェア・供給側・官民共有)→新スウェーデン形式(アクティベーション・需要側・資金の公的負担)

    ○政党分類:
    ・自由ライダー党
    規制のない自由闊達でイノベーティブな経済社会。
    カジノ・麻薬・売春・臓器売買すべて自由化。
    資産課税の廃止・無駄な公共事業廃止。
    ベーシックインカムに一元化(年金制度廃止)
    インフレ目標で不況やインフレを防ぐ。
    自由貿易推進・外国人労働者・女性・高齢者の就業促進

    ・人民戦隊・党レッド
    充実したベーシックインカムの導入により、転職、協同組合の起業、再学習がいつでも可能な自由な人生を保障。
    福祉・医療・教育・子育て支援では、現場の裁量や自治に基づいた活動を公財政で手厚く支援。
    インフレ目標を設定し、不況のときは財政出動、インフレのときは大企業の課税強化で対応。

    ・ウルトラの党
    自立した国民経済。輸入品すべてに高額関税。
    企業の海外進出も、外国企業の受け入れも外国人労働者の受け入れも禁止。
    日本人への福祉供給は十分な審査の上支給。支給決定者の不正監督の審査員も設置。

  • 時代遅れの大きな政府の推進者とみなされがちなケインズと、新自由主義の祖の一人にかぞえられることのあるハイエクという、二人の経済思想家が考えていたことをみなおしつつ、ベーシック・インカムやインフレ・ターゲットといった、現代において議論の的になっているトピックについても検討をおこない、現代の日本経済が直面している問題に対する著者の処方箋を提示している本です。

    著者の主張の根幹にあるのは、政府の役割は人びとの予想を確定させることだというものと、リスクと責任と意思決定が一致するような制度を構築するべきというものに、まとめることができるでしょう。著者は置塩派の経済学者ですが、右と左の政治的な対立構造が生む不毛な議論に巻き込まれることなく、柔軟なスタンスと平易な語り口を武器に、具体的な問題にも果敢に切り込んでおり、非常におもしろく読みました。

  • リスク、決定、責任の一致しなければ有効な政策は実行できない。
    リスクも決定も現場で取れる体制が必要
    サービスの低下を伴う効率化は本当の効率化ではない。
    政府は予測可能な一般的ルールでバックアップする。

  •  ケインズやハイエクは実はこう言ってた! これからの経済政策を考える。

     大きな政府から小さな政府などの近代の経済の流れを説明しながら、経済学の大御所たちの理論はそもそもその先の道を既に想定した考えをしていたというのがこの本の主張。
     本質的な部分を分かりやすい言葉で説明してくれるのは非常に助かる。ただ、経済学って分かりやすければ分かりやすいほど、なんか煙をつかまされたような不思議な感覚になるんだよなぁ。。。
     さらに勉強したい。

  • ちょっとタイトル詐欺はいってると思う。

    小さな政府だー新自由主義だー市場に任せろーいや第三の道だー といった叫ばれ続けてけっこう経つが評価の安定しない──評価することが無視されている──近年の政治的経済政策について、ケインズやハイエクといった経済学者がなにを問題にしていたのかに軸足をしっかりと置いて整理されている本。
    ケインズやハイエクの主張に共通するもの、「リスク・決定・責任の一致」「予想は大事」という立ち位置からそれぞれの主張、当時の状況に対する解説、今必要な政策を考える内容。

    作者の立ち位置(マル経)よりの言葉が付け加えられてたりはするけれど、なるべく様々な立場に立った理論だけの話になっている。
    個人的には(理論で説明しにくい、推測でしか話せない)政治的思惑まで踏み込んで、未だに「勘違い」が続いている原因の考察も欲しかった。

  • 訳あって敢えて止めていた読書再開です。
    どういういきさつで購入したのか忘れましたが、政局・経済情勢を見るとなかなかタイムリーな内容なので積ん読からこれを選びました。

    大きくは経済学における大きな二つの流派が現在はどのようなスタンスを取って政治につながっているか、そしてそのどちらもが経済の変遷の本質を見誤ったことで誤ったポジショニングを取っている事を分析した内容です。

    私は経済には全く疎いですが、これは面白かった!

    著者の主張は、「リスク、決定、責任は同じとろこにないと、無責任かつ恣意的な自己拡張の歯止めが効かない」というもので、序盤に「そごう問題」が例に引かれていますが、経営やリーダーシップに関する深い洞察があります。

    また、政府の役割を「人々の予想を確定させるルールキーパー」であるべきと説き、裁量的なマネジメントへの介入は細かなニーズを無視する事になるので後方支援に徹し、民間及び個人の意思決定が「望ましい方向への均衡する」よう振る舞うべきだというところは、そのまま企業運営に活かされる内容で、私が影響を受けたスティーブン・R・コヴィー氏の「リーダーシップとマネジメントの分離」にもつながる主張なので納得性が高かったです。

    個人的に特に興味深かったのは、失われた10年と呼ばれた不況と、戦後の終身雇用・年功序列・企業特殊技能優先のキャリアパスについてゲーム理論とナッシュ均衡を使って分析をするところ。

    不況については、ポール・グルーグマンの言う「割に合わない円高がまねいたもの」と藻谷 浩介氏の言う「人口減少が招いた定常的経済成長ステージ」というのが私の主な理解だったのですが、著者はそれを「人災」だと断じています。

    また、日本の労使構造については『痛快!経済学 2』で中谷巌氏が説明してた政府主導の政策的な性格が強いと理解していましたが、労使が「同じ手」を使うならば複数ある「ナッシュ均衡」の一つとしてごく自然な状態であるというのは目から鱗でした。

    ただ、企業競争や企業そのものがグローバル化していく過程でゲームのルールが変っていっているので、汎用技能の担い手としてしかホワイトカラーを雇えなくなってきている日本という指摘は身につまされます。

  • 主張が一貫していて楽しく読めた。
    この書を読むと他の本も読みたくなるので興味がわいてきてよい。

  • レビュー省略

  • 自由主義経済政策と社会主義経済政策の歴史を振り返りつつ、これからの経済政策・社会政策を考えていく上で重要な論点について、作者の意見を具体的に述べてくれている本です。それほど期待せずに読み始めたのですが、予想以上に面白かったです。
    経済政策としては、何よりも人々の「予想」に働きかけることが重要であり、そのための政府の役割は、明確なルールによって予想を確定させることであるということ、また、情報を持つ者がリスクと責任を負って決定する権限を持つべきであり、組織規模の小さいスタートアップの段階では独裁制が良くても、事業が安定してくれば現場中心の分権型意思決定の方が望ましいとする考え方には、十分納得・共感できました。
    左翼の新しい方向を目指そうとする作者の最終的な方向性にはあまり共感はできませんでしたが、途中の議論はとても勉強になりました。安倍政権への対抗軸を見いだすのに四苦八苦している民主党には、特によく研究していただきたい考え方だと思います。

  • 本書の主張の根幹は「リスク・決定・責任の一致が必要」と「予想は大事」の二点である。
    リスクが一番あって、そのリスクにかかわる情報を一番持っている人が決定し、その責任を引き受ける仕組みが最適。
    端的に言えば、役所が企業の細かいところにまで首を突っ込むのではなく、リスクを取り最も重要な情報を持っている現場に判断を任せよ、そのリスクを出来る限り小さくさせるために予想の確率を挙げられる行政をせよ、ということ。
    裁量行政ではなく、明確なルールに規制されて政府のすべての行動がはっきりと予測できること。
    リスクの取れない役所は、リスクのある判断をしてはいけない。
    ハイエクは明確に、そのことを主張している。

    一章ほど使ってナッシュ均衡の解説があるのだが、初めてその使い方に触れられて納得感が湧き興味深かった。
    世の中の事象には、同じ人たちが同じ条件のもとでも、全員に辻褄の合う複数の均衡点があり、経済学では「制度」が典型的な例であるらしい。
    複数ある中からどの制度が取られるのかは、歴史的経緯に依存し、それを成立させるのが人々の振る舞いについての各自の予想なのだという。
    戦後の日本特有の各制度、年功序列、終身雇用、企業別労組、内部昇進、株式相互持ち合いなどは、すべて日本の歴史的経緯に基づいた均衡点の一つである。
    複数の均衡間を移動するには、そこに落ち着くことになった人々の複数の予想・知識を同時に変えていく必要があり、大変に難しいこと。
    今の国内政治状況を見ても明らかであり、金融緩和でデフレを脱却しようとする対策も正にここに手を打っている状況なのだ。

    ベーシックインカムについても一章を割いて論じている。
    これこそ行政担当者の裁量が入り込まない、著者の主張に最も近い施策であるのは明白であり、政府の大きい小さいに関わらず、ベーシックインカムの率の変更だけで新自由主義的にも社会主義的にも給付規模を調整出来る。
    更には給付金の不足に対しても自動的にお金を発行したり、余剰分を政府が吸収する形にしておけば、景気対策に対してもこの延長で対応が可能だろうとも言っている。
    確かに給付金というセイフティネットに対しては裁量の入り込まない優れた政策だと思うのだが、景気変動への対応まで可能なのかについては少々懐疑的になってしまう。
    この政策の理念は「労働と生存を切り離すこと」、つまり飢えることのない範囲で給付金を出すことであり、その意味では優れていると考える。

    予想の大事さは景気のコントロールにも当てはまり、金融緩和にしろ引き締めにしろインフレ率を一定範囲に抑えこむためには、ターゲットを明確にし続ける必要がある。
    フリードマンの主張の重要さはそこにあり、日本の金融緩和でも黒田総裁が2%としつこく言い続けることが大事だという。
    ケインズの言っていたことも、結局はインフレ目標政策であり、市場にインフレ目標値に達するまでは緩和が続くことを信じ込ませるのが重要だと言うことだ。

    この辺りまではかなりの納得感で読み進めてきたのだが、最後に落とし穴があった。
    この予想確定政策の重大なハードルは、グローバル化した経済の中では世界で基準を合わせる必要があると言うのだ。
    ベーシックインカムの給付水準、インフレ目標値、いずれも国の間で差があれば、結局利得の得られる国に企業、労働者が惹きつけられて思ったような結果が得られないのだ。
    そのためには労働運動や市民運動が世界的な連携を実現して動く必要があると言う。
    ここに来て一気に実現性が遠のく気がして、残念な気分で本を閉じた次第である。

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著者プロフィール

松尾 匡(マツオ タダス)
立命館大学経済学部教授
立命館大学経済学部教授。1964年、石川県生まれ。専門は理論経済学。著書に河上肇賞奨励賞を受賞した『商人道ノスヽメ』(藤原書店)、『不況は人災です! 』(筑摩書房)、『「はだかの王様」の経済学』(東洋経済新報社)、『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)など。共著に『これからのマルクス経済学入門』(筑摩書房)、『マルクスの使いみち』(太田出版)、『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう─レフト3.0の政治経済学』『「反緊縮!」宣言』(ともに亜紀書房)などがある。

「2019年 『MMT現代貨幣理論入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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