中東複合危機から第三次世界大戦へ (PHP新書)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569830056

作品紹介・あらすじ

テロで世界を恐怖させるIS、トルコとロシアの激突、イランとサウジの国交断絶……。複雑な背景を解き明かし、真の「危機」を警告する!

感想・レビュー・書評

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  • 面白い視点も文章の書き方が難解だと面白く無くなってしまう

  • 【由来】
    ・ダイヤモンド3/26(東洋経済も)
    佐藤優

    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】

  • 2016

  • ISの拡散や、シリア政府崩壊とヨーロッパ難民問題について、いったいなぜそういうことが起きているのかわからない。しかし、これだけのことが起きているのだから、きっと知らなくてはならないはずだ。本書は、中東地政学や歴史の専門家がきちんと説明しているようなので、手に取った。そもそもこの本を読むまで、サウジがスンニ派(本書ではスンナ派と表記)、イランがシーア派ということもわかっていなかった。オサマ・ビン・ラディンが王族だったと聞いてそんな王族は大丈夫かいなと思っていたけれど、サウジには王子だけでも1,000人、王族は5,000人もいるらしく、それだけいるとスキャンダルも多いらしい。

    というようによくわかっていなかった中東情勢。著者は現在の不安定な現状を「中東で進行する第二次冷戦とポストモダン型戦争が複雑に絡む事象」だと分析し、これを「中東複合危機」と定義する。この混乱は、タイトルにあるように括弧付きの「第三次世界大戦」につながる懸念を著者は抱いている。中東に対するアメリカの距離を置いた態度やシリア問題を始め国内問題とも直結するロシアの中東問題への積極的関与も事態を複雑にしている。ロシアとトルコの対立についても中東問題の文脈を無視しては理解できないことも理解した。

    中東問題を理解するには、スンナ派とシーア派の歴史的な対立や、原油収益によるレンティア国家の危うさや、第一次大戦後のサイクス・ピコ協定以来の歴史などを知ることが必要だ。その上で、著者が2014年以前の中東秩序と国家の枠組みには戻ることはない理由として、ISによって領土・国境線に事実上の変更が加えられたこと、トルコ外交の孤立、ロシアのシリア干渉の強化、難民問題を挙げる。その核にあるシリア状況についての説明も非常に詳しいが、ISの台頭、アサッド政権の横暴、大国の事情などから、今ではもはや後戻りできない状況になり、大量の難民(本書では2015年末で420万人)を産んだ。これが新たな火種になり、EUにも揺さぶりをかける事態になっているのが現状である。

    また、一方で「イスラーム文明からISのような集団が生じた遺憾な事実を批判し、内部から克服する努力は良質なイスラーム社会の担うべき責任だ」とイスラーム世界を批判し、「内発的動きが世界中のあちらこちらから出てこない限り、究極的な問題解決は難しいのである」という著者の祈りともいうべき主張は重い。丸々一章分を割いて、イスラーム教成立の歴史を振り返り、本来のイスラーム教の教義やムハンマドの意志が人間の平等と弱者の救済にあって、それゆえにここまで広く受容されたことを丁寧に切実な調子で説明している。

    最後に、中東複合危機が難民の大量流入、ロシアとウクライナ、ロシアとトルコの敵対関係と絡みながら進んでいくだろうと予測する。さらにはISと中国のウイグル自治区にも言及する。

    著者は、2015年11月に起きたパリの同時多発テロを歴史の転換を画する事件として追憶されるだろうとした。この言葉を裏付けるように、この本を読んだ後、2016年6月末から、トルコ・イスタンブールのアタチュルク空港での自爆テロ(6月28日)、バングラデシュ・ダッカのレストランでの武装集団によるテロ(7月1日)、イラク・バグダッドでの連続爆破テロ(7月3日)、サウジアラビアでの同時自爆テロ(7月4日)が続いている。国際的なテロは、まだまだ今後も続きそうだ。イギリスのEU離脱もイスラム系移民問題がそのひとつの原因となっている。「第三次世界大戦」と煽るかどうかはおくとしても、中東問題が新しいフェーズに入って「複合危機」と呼ぶべき事態になっていることは間違いないと思う。

    「ISはむしろ結果であって、原因ではない」という。この著者の言葉は真剣に取り上げる必要があるテーゼである。もっと興味を持たれてもよいテーマなのだが。


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    2016年7月14日フランスのニースでトラックを使ったテロが発生した。その次の日、2016年7月15日、トルコで軍事クーデターが起きた。エルドアン大統領への不満を持った軍部による行動だとのこと。特にトルコの政情については、この本で書かれた懸念や影響についてこの後も国際社会は注視することになるだろう。僕らにも相応の知識が必要だ。

  • [不穏に次ぐ不穏]シリアの混乱やISISの台頭、トルコとロシア間の不和や欧州への難民流入など、数多くの危機を「中東複合危機」と位置づけながら、その行き着くところを考察した作品。主に2014年から2016年初頭までの出来事が大きな画の中でまとめられています。著者は、東京大学名誉教授を務める歴史学の泰斗、山内昌之。


    一見したところ「ぐっちゃぐちゃ」になってしまった中東地図を、地政学や歴史を踏まえながら俯瞰的に眺めた視点から再構成しており、最近の中東情勢を整理するために非常に役に立つかと。それにしてもこの2年間で、こうも中東が変貌したのかと驚きを隠せませんでした。


    中東においては、国家という枠組みがあちらこちらで破綻や機能不全に陥り、その力の間隙を「土着」の、そして「場外」からの力学が同時に埋めようとしている様子が本書から読み取れます。タイトルはかなり刺激的ですが、その意味するところは本書を読めば十分に伝わってくるかと。

    〜こうして中東複合危機は、難民の大量流入や、ロシアとウクライナ、ロシアとトルコとの敵対関係と絡みながら、中東欧州複合危機に発展しかねない。その先に見えてくるのは、フランシスコ法王の夙に明言した「まとまりのない第三次世界大戦」であろう。その軸がイスラームの悲劇になることだけは確かなのである。〜

    本書の射程に入ってくる時間枠が比較的限定されているため、いわゆるタイムリーに読んでおいた方が良い作品かと☆5つ

  • 著者の山内昌之氏は、中東・イスラーム史や国際関係史を専門とする歴史学者。
    本書は、中東で進行する第二次冷戦とポストモダン型戦争が複雑に絡む「中東複合危機」を、歴史や地政学の観点から分析するとともに、その危機が第三次世界大戦をもたらすというシナリオを検討したものである。
    著者はまず、現在の世界の状況を、自由主義対共産主義、資本主義対社会主義というイデオロギーの差異を基本とする国家のブロック対立を特徴としていた「第一次冷戦」に対して、中国、ロシア、イランのような、均質なイデオロギーを持つわけではないが、独裁や権威主義的な統治様式に依拠する国家群が、米欧本位で作られた国際政治経済・国際法のシステムに正面から挑戦する「第二次冷戦」と呼ぶ。
    更に、自由や人権を基礎にした市民社会や国民国家を尊重するモダン(近代)の原理を否定しながら、カリフ国家やイスラーム法の実現というプレモダン(前近代)の教理を主張するISが、世界各地でテロを起こしている状況を、「ポストモダン型戦争」と呼び、その第二次冷戦とポストモダン型戦争が結びついたシリア戦争、ひいてはそこから派生する政治現象を「中東複合危機」と定義している。そして、その中東複合危機がグローバルに広がろうとしている点に21世紀の難点が集約されているのだという。
    著者は、2015年年末から2016年年初にかけて起こった2つの事件は、そうした状況を象徴する事件として、世界史上の記憶に残るものであろうという。一つは、言わずもがなのISによるパリでの同時多発テロであり、二つ目は、サウジアラビアがシーア派指導者を処刑したことに激昂したイランが、テヘランのサウジアラビア大使館を焼き討ちにしたため、サウジアラビアがイランと国交断絶を表明し、イスラーム教スンナ派とシーア派の対立が先鋭化したことである。因みに、ローマ法王フランシスコは、前者のテロ事件の象徴性を、「まとまりを欠く第三次世界大戦の一部である」と表現したのだという。
    そして、上記を分析するために、「大文字のイスラーム」(戦争やテロ行為を辞さない人々が依拠するイスラーム教)と「小文字のイスラーム」(多くの人々が穏やかに信仰するイスラーム教)の違い、スンナ派とシーア派の分裂と抗争、ISの生まれた背景と実態に加えて、過去に何度も戦ってきた仇敵であるロシアとトルコの対立、それにイランを加えたトルコ・イラン・ロシアの三竦みの状況等を詳しく取り上げている。
    今後について、著者は、宗教やイデオロギーの対立が鎮静化するとは思えず、中東複合危機の終焉には相当に時間がかかるとし、むしろ、難民問題が中東とヨーロッパの政治状況を不可分に結びつける「中東欧州複合危機」ともいうべき新段階を出現させることにより、「まとまりのない第三次世界大戦」に突入しかねないと結んでいる。
    中東地域を中心に複雑な対立構造が絡んだ国際情勢の現状、及び予想される将来を冷静に把握・分析するために、意義ある一冊である。
    (2016年2月了)

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著者プロフィール

一九四七(昭和二二)年札幌に生まれる。
現在、東京大学大学院総合文化研究科教授、学術博士。中東調査会理事。
最新著書として、『岩波イスラーム辞典』(共編著、岩波書店)、『歴史の作法』(文春新書)、『帝国と国民』(岩波書店)、『歴史のなかのイラク戦争』(NTT出版)など。

「2004年 『イラク戦争データブック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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