天下を計る

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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569831077

作品紹介・あらすじ

“算用”を武器に戦国を生きる! 秀吉の天下取りを裏から支え、家康の心胆を寒からしめた男・長束正家の生涯を描く著者渾身の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 戦国時代を輜重の面から描いた作品。人足、食糧、馬など計算して現実的な兵の数を決める。秀吉の下で頭角を現したが関ヶ原では徳川家では自分の居場所が無いと悟る。

  • 長束正家、豊臣5奉行の一人、高い算術能力を買われて、財政を一手に担う。
    吏僚としては、この時代では一流の武将であり、兵糧奉行として兵糧の輸送に活躍した。
    豊臣秀吉に仕えていたが、当時徳川氏と和平の機運あり、本多忠勝の妹栄子を正室としている。
    立場的には、石田三成と近しい立場にあり、豊臣家の武闘派武将と対立、関ヶ原で敗れ自刃している。

  • 長束正家を主人公とした歴史小説。正家は豊臣政権の五奉行の一人である。算術の才で仕え、秀吉の戦いの兵站を支えた。秀吉を描いた作品では弟の秀長は秀吉を支えた善人と描くが、本書の秀長は私腹を肥やす人物である。身内には良い親父が大きな組織になると害悪になる例だろう。一方で秀長は秀吉に直言できた人物だったと評価している。

    兵站の大切さが語られる。十万人の行軍ならば十万人分の補給を考えなければならない。『吾妻鏡』は奥州合戦の幕府軍を二八万騎、承久の乱の幕府軍を十九万騎とするが、現実離れしている。

    天下人は諸大名に号令して戦を行う。しかし、その兵站は秀吉と他の天下人で相違があった。他の天下人の場合、補給は諸大名が自分で行う。これに対して秀吉の場合は「兵三百を出せ」と言われたら、大名は基本的に兵三百を出した。兵站は石田三成ら奉行衆が手配した。その代わり米を某所に送れ、材木を某所に送れと命じられた大名もいた。この統一的なロジスティックスは九州征伐や小田原征伐では成功した。豊臣政権の空前絶後なところであり、天下統一までの秀吉は神がかっていたと言われるほどである。

    秀吉は恐怖政治の独裁者になっていた。「みな秀吉の顔色をうかがうばかりだから、こちらの言い分ばかり押しつける結果となり、奥羽大小名の不満は押さえつけられるばかりで、解消されることはない」(187頁)。これは市民に負担を押し付けるだけの現代日本の官僚組織と重なる。

  • 豊臣家の五奉行の一人、長束正家の一代記です。
    確か教科書でも出ていましたし、色んな小説に顔を出すので名前は知っているのですが、人物としての印象は薄い長束正家。五奉行の一人なので事務方の人間なんだろうな~くらいの知識しかありません。そんな人物を主人公に取り上げるのが、さすが岩井さんというところなのですが、私にはもう一つでした。Amazonなどでは高い評価を貰っている本ですが。。。
    経済視点から戦国時代を描いたことを高評価の理由として挙げている人も多いのですが、私はもともと特に秀吉など兵站を重視した武将が生き抜いたと思っていましたし(日本陸軍は余りに兵站を軽視し、第二次大戦で死没した日本兵の大半は飢餓や栄養失調によるものだったと言われている)、そこには余り感動もせず。
    岩井さんの描くどちらも腹黒い秀吉と家康の間で、主人公が彼等のような政治的・戦闘的武将と一線を画して「算用者」として筋を通し切れば爽やかな物語になった気がしますが、下手に政治的に挟まって忖度したりウロウロしている感じがするのです。

  • 豊臣秀吉を支えた、長束正家。算用者の目線で、戦国の世を描く時代小説。
    どんな軍勢も、食べ物が不足すれば士気が下がるし、実力も発揮できない。大きくなればなるほど必要量が増える兵糧や飼い葉を、どうやって確実に届けるのか。
    武功ではなく経済。裏方仕事という切り口が、新鮮で面白かった。
    嘘と間違いを嫌う、算用者。うまく立ち回れるわけではないけれど、まっすぐな人柄も、好ましい。

  • まず、主役が長束正家であるというのが意外だった。
    豊臣政権から関ヶ原までの流れを武功や知略、人間関係ではなくひたすら経済の面から語っているのがおもしろい。
    九州征伐、小田原攻め、朝鮮出兵についてもいかに兵糧を輸送するかというところがメインなので、わりと客観的に表現されていてわかりやすかった。
    長束正家という人物については、おそらくここまで男前ではないだろうと思う。文章については現代風な言い回しも多いので、かっちりした歴史表現を好む人は気になるかもしれない。

  • 豊臣政権の五奉行の一人である長束正家の生涯を描いた小説。長束を主人公にする小説など、ありそうでなかった。さすが岩井三四二氏、目の付け所が違う。戦国武将であるが文官であるので戦闘シーンは多くないが、兵糧や船舶の手配など、戦に欠かせない重要な裏方の仕事に触れることができる貴重な作品である。

  • 長束正家の話。
    奉行衆のうちでも地味なイメージ。
    堅物だったのか。真面目な能吏だったのか。戦争するには兵站が必要。当たり前のことだけれども軽視しがち。30万人の食糧を運送するなどとてつもない。
    秀長が少し悪者扱いされていた。旧体制の利益代表者として。死後の蔵に金銀が遺されていたのも、美談ではなく、不正や利殖によるものとの描かれ方。新鮮な面もあった。
    豊臣家に忠誠があったのか。義理か意地か。妻の実家の伝手もあるだろうに。徳川の世でも活躍したかもしれない。

  • 秀吉時代を経済の点から描写
    それが面白い

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著者プロフィール

1958年岐阜県生まれ。一橋大学卒業。1996年「一所懸命」で小説現代新人賞を受賞しデビュー。98年『簒奪者』で歴史群像大賞、2003年『月ノ浦惣庄公事置書』で松本清張賞、04年『村を助くは誰ぞ』で歴史文学賞、08年『清佑、ただいま在庄』で中山義秀賞、14年『異国合戦 蒙古襲来異聞』で本屋が選ぶ時代小説大賞2014をそれぞれ受賞。『太閤の巨いなる遺命』『天下を計る』『情け深くあれ』など著書多数。

「2017年 『絢爛たる奔流』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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