「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569842172

作品紹介・あらすじ

トランプが仕掛けた米中貿易戦争は、「中国製造2025」を潰すためだ。日本にも脅威となる中国国家戦略の実態が明らかになる!

感想・レビュー・書評

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  • 割合評価が高かったと記憶している同書を読了。かなり詳細に渡り調べ上げてあり、これでもかと出てくる登場人物達、もしかしたらもう少し時間が経てば歴史的/記録的な意味合いでより価値があがるかもしれないなんて思いながら読んだ。(とはいえ、マニアック過ぎるので、一般のアマ中国ウォッチャーには関係ないか・・な・・)

    なんとなく、私は前から指摘していた、こういう他のメディアは間違っている真相はこうだ、XXという名称は私が使い出した的な表現が時々あるのは少し気になるところではある。

    確かに1000人計画だの100年計画だの中国は壮大なビジョンっぽいものを掲げるが、実際にそんなに野心的な計画(野心があるのがわかるが)を綿密に積み立てて行こうとしているとは思えない。同じ理由でトランプ大統領が深読みしてその計画を潰そうとしている的なのも、どこか場当たり的に反応しているものが結果的に効果あったぐらいでしかないような気がしてならない。

    P.40(中国に共産党以外の民主党派がいる理由について)
    1949年10月1日に毛沢東は、中華人民共和国の誕生を宣言したが、4年間にわたる蒋介石率いる国民党との戦いである国共内戦で国土は荒れ果て、経済は疲弊し、中国共産党側には蓄財がなかった。「中華民国」という国家を倒して新中国を誕生させたわけだから、これは「革命戦争」と呼ばれていたことからも分かるように、「国家の資産」としての蓄財は、国民党側にあっても中国共産党側にはない。
    敗色が鮮明になると、蒋介石は多くの資産を台湾に移していった。そこで毛沢東は一家を画して、民族資本を温存するために、中華民国時代にさまざまな形で団体を組んでいた資本家らを民主党派という形で残すことにしたのだ。
    但し、絶対に「中国共産党の指導に従え」ということを、多くの政治運動を通して学ばせた。

    P.66(半導体産業基地が内陸部にある理由)
    これは毛沢東の「三線建設戦略」にある。(中略)1964年10月16日の朝5時に、原子爆弾を爆発させ、第1回核実験に成功する。(中略)このとき中国はすでにソ連との関係が悪化し、いつソ連から攻撃されるか分からないという状況に置かれていた。したがって国境を接した北側にはソ連という敵が、東海岸には日米安保条約や米韓相互防衛条約を結んでいるアメリカがおり、南には台湾がある。まだ蒋介石が健在で、アメリカの支援を受けて大陸の攻撃を目論んでいた。
    つまり毛沢東としては四面楚歌ならぬ、三面楚歌に陥り、内部に立て籠るしかなかったのである。この「北、東、南」を「三線」と称し、三線から中国を防衛すると言う意味で、この戦略を「三線」と称した。(中略)
    2014年の半導体産業の基金設立に当たって、なぜ中国では「上海、深圳、武漢、天津、安徽、甘粛、四川に集中するだろう」と言われたのか。

    P.130
    アメリカから戻ってきたのが銭学森という、弾道ミサイルに詳しい研究者だ。
    1911年生まれの銭学森は、1935年、清華大学の公費留学生として渡米し、マサチューセッツ工科大学に入学する。翌年、修士学位を取得し、39年にはカリフォルニア工科大学で博士学位を取得。1944年には米国国防総省の科学顧問に任ぜられる。その間に、「航空工学の父」と称せられたセオドア・フォン・カルマンに学んでいるので、銭学森の弾道ミサイル技術は、相当高かった。
    ところが1950年になると、銭学森は共産党のスパイとして逮捕され、軟禁されてしまった。それを知った毛沢東と周恩来は、あの手この手を使って、銭学森の奪還に努め、1955年に朝鮮戦争における米国捕虜との交換を条件として、中国に帰国させるのである。

    P.131
    海外から呼び戻した学者の中にはアメリカ帰りが最も多く、ほかにフランス帰り、あるいはイギリスから帰国した者もいる。中dめおフランスから帰国した放射能学者である楊承宗は、自分自身が戻ってきただけでなく、「お土産」も持ち帰っていた。
    1947年にフランスのキューリー研究所に留学して博士学位を取得したのだが、新中国誕生後、毛沢東の呼び掛けに応えて、中国に帰国しようとした。するとイレーヌ・キューリー夫妻が、炭酸バリウムによって純化された10グラムのラジウム標準資料を楊承宗にプレゼントしたのである。これは世界的に見ても、誰もが喉から手が出るほど欲しいものだった。彼女は中国の成功を祈ると言い、原爆成功と同時にフランスは中国と国交を結ぶにちがいないと言って、毛沢東に一つの「言葉」を送ってくれと頼んだのである。それは「もし原子爆弾に反対するのなら、自分の原子爆弾を持ちなさい」という言葉だった。

    P.187
    世界で初めて打ち上げに成功したこの量子通信衛星の名前は、紀元前5世紀ごろの中国の科学者であったお墨子(Mo-zi)にちなみ、「墨子号(Mochis)」と命名された。日本では墨子は中国の戦国時代の思想家として知られていつが、中国では「中国最古の科学者の一人」と位置付けられていることが多い。墨子は物理の内の光学(オプティックス)に関して興味を持ち、光の直進性や反射、あるいはピンホール(小さな穴)によって実像を結ぶなどを研究している。

    P.201
    ナチスの暗号を解読した功労者の一人に、イギリスのアラン・マシスン・チューリング(1912年6月23日〜54年6月7日)という暗号解読者がいる。彼がいなかったら、果たしてドイツを敗北においやることができたか否かも怪しいほど、彼の功績は大きい。
    しかし、チューリングには哀しい物語がある。
    少年のころから並外れた数学的能力があり、のちにチューリング・マシーンと呼ばれる現在のコンピュータの基礎を築いたようなチューリングには、同性愛的傾向があったのだ。当時のイギリスでは同性愛は犯罪行為だった。
    そのため彼は、1952年に逮捕され、「投獄か保護観察か」の二者択一を迫られる。投獄を逃れるために、女性ホルモンの投与を強制されるのだが、その屈辱に耐えかねたのだろう、1954年に自殺してしまった。誕生日前だったので、まだ41歳だった。青酸カリの中毒によるものとされたが、肢体のベッドの脇にはかじりかけのリンゴが落ちていたという。
    同僚によれば、「白雪姫」の映画を鑑賞した後、チューリングが「魔法の飛躍にリンゴを浸けよう、永遠なる眠りが染み込むように」と言っていたとのこと。

  • 中国製造2025は2015年5月に中国が発布した国家戦略で、ハイテク製品のコア技術を獲得するとともに、宇宙開発等も推進しようというもの。この背景には、2012年の尖閣問題で、日本製品不買運動が持ち上がったときに、結局スマホなどメイドインチャイナのハイテク製品に日本製のキーパーツが使われており、それが反政府運動に繋がりかねなかったという状況があった。
    新常態という概念も中国製造2025と関連づけられたものであり、成長率が多少低下したことはハイテクへの投資が優先されているから、と考えるべき。
    中国の半導体メーカーは世界トップに登り詰めており、その原動力になっている人材を精華大学など世界トップクラスの大学から国内で賄えるようになっている。また、量子コンピュータ、量子暗号の分野では中国が先駆けて墨子号を実用化させている。
    中国はアフリカ諸国との連携を深めており、米中関係で困った時の日本カードを使ってくるなど外交もしたたかに展開している。
    簡単に一帯一路一空一天を実現させていいのかという筆者の問題意識には強く共感する。コロナ後の世界の動きを踏まえてどう中国関連の情勢を筆者が分析するかは気になる。

  • 世界情勢は、毎年どころか日々刻々と変わる。

    この本も2019年1月の上梓なのだが、既に若干の既視感が見える。一帯一路、中国製造2025が最高にパワーのあった当時としては、かなり深い分析のなされた良書と思う。

  • ● 2012年の尖閣諸島国有化がきっかけの反日デモ。日本製品の不買運動を行ったものの、メイドインチャイナと書いてあるその中身は日本製品のパーツが詰まっていた事に気づいた。最後は不満の矛先を政府に向けることとなる。
    ●大学生。一流は金融、二流はIT、三流は工学
    ●iPhoneの利益構成。アップル80ドル、部品の日本が20ドル、組立中国は数ドル。
    ●かつて低賃金で働いていた農民が、日本のGDPを抜きはじめた2010年頃から仕事を選びはじめ、工場はベトナムやタイに移るようになる。そこで農村を都市化して職場を捻出する計画を立てる。
    ●独裁国家を統治する党に軍が直属していると言う構築の中で、民主主義国家が対抗するのは至難の業である。
    ●ハイシリコン総裁は49歳女性。エンジニア。
    ●SCOBAスコバ。中国人シリコンバレーの頭脳集団。企業を渡り歩く。
    ●量子暗号、どちらかの状況に変化が起きると、もう片方にもすぐさま同じ影響が及ぶ。そのため、こっそり盗聴やハッキングができなくなるという効果がある。その量子暗号通信に2018年、世界で初めて成功した。次は量子コンピュータ。
    ●次世代の宇宙ステーションを狙う
    ●アフリカ53国、まるで新しい国連


  • 会社で回覧。
    中国の中国製造2025の成り立ちを解説。
    反日デモは反政府デモの表の姿でもある。
    国家戦略の一端を知ることができた。
    脅威に感じると共に、日本の国家戦略はどうなのか知りたい。

  • 製造強国を目指すべく2015年に発表された「中国製造2025」について、半導体、量子通信衛星などの分野から詳述。今後、特に量子通信技術など一部の分野において世界を中国がリードすることで世界の覇権を握ろうとしている。
    書評で気になり購入。よく理解していなかった中国製造2025の中身について、イメージを掴むことができたのはプラス。一方で時折話が脱線する点、加えて内容がかなり中国寄りな点が気になる。特に半導体については実際に記述通りなのか気になる部分があり、関連書籍を複数読み比べて自分なりに解を探る必要があるのではないか。

  • ブログで断片は読んでいたが、1冊の本としてまとまったものを読んでみると、著者の主張の説得力が増すように思う。

    やはり中国人ネットワークは人材の宝庫だし、そこに強い決意と、豊富な資金とアサインメントが加わると、結果はついてくる。
    幕末の我が国の拡大スケール版のようだ。

    共産中国の下で進行しているのが、甚だ残念なのだが。

    著者の推す対応策において、我が国がどう関与したらよいとしているのかが、今一つ見えてこない。
    中共を助ける真似はするな、というのはわかるが、どうすれば...?

  • 出張者のお土産。米中貿易摩擦でトーンダウンしているように見える「中国製造2025」。それがなぜ必要とされ、それがなぜ米国に恐れられるのか。
    これを考えた習近平すごいし、それに気づいたトランプもすごいな。
    果たして、「一帯一路一空一天」となるかどうか。

  • 遠藤先生が、テレビの経済番組で中国を語る時の勢いや情熱が好きで、本書を手に取りました。

    実はあまり時間がなく、本書は目次だけメモを使用かと思っていました。目次だけとはいえ、興味のあるページは本文を参照するわけですが、遠藤先生の語り口調と同じく筆の勢いも魅力的で、結局全部を一気に読んでしまいました。

    中国事情に精通している方にとっては、目新しい情報ではないのかもしれませんが、日本国内で限られた情報のみで「中国」を見ている者にとっては、大変参考になりました。

    量子暗号、量子コンピュータ、一対一路、BRICs+などについて書かれています。強い口調で中国を批判するかに見える遠藤先生ですが、「ホァーウェイ」にこだわるあたり、やはり中国愛が根っこにあるのかな、と思いました。

  • 明日、新しい時代である「令和」を迎えるにあたり、部屋の片隅に読みかけとして置かれていた本を一斉に整理することにしました。恐らく読み終えたら、面白いポイントが多く見つかると思いますが、現在読んでいる本も多くある中で、このような決断を致しました。

    星一つとしているのは、私が読了できなかったという目印であり、内容とは関係ないことをお断りしておきます。令和のどこかで再会できることを祈念しつつ、この本を登録させていただきます。

    平成31年4月30日(平成大晦日)作成

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著者プロフィール

1941年中国吉林省長春市生まれ。1953年帰国。東京福祉大学国際交流センター長。筑波大学名誉教授。理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・セブン 〈紅い皇帝〉習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(以上、朝日新聞出版)、『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(WAC)、『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)など多数。

「2015年 『香港バリケード』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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