風神雷神 Juppiter,Aeolus(上)

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569843872

作品紹介・あらすじ

ある学芸員がマカオで見た、俵屋宗達に関わる意外な文書とは。「風神雷神図」で知られる天才画家の生涯に、大胆な着想で挑む物語。

感想・レビュー・書評

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  • 俵屋宗達といえば、琳派の祖と言われるが、この「琳派」という言葉自体も1972年の東京国立博物館における創立百周年特別展で使用されて以降の呼び名のようである。俵屋宗達と言えば、例平家納経時の「願文見返し絵」に始まり、本阿弥光悦との「鶴下絵和歌巻」、二曲一双の「舞楽図屏風」など本作「風神雷神」以外にも素晴らしい作品が数多くある。

    もともと、俵屋宗達のその生没も不明であるため、宗達の生涯について正解というものはない。俵屋宗達の「風神雷神図屏風」については、先に柳広司先生の「風神雷神」を読んでいたのだが、まったくストーリーは異なっていた。

    柳先生の宗達は幼き頃に養子として、養父の仁三郎によって扇屋を営む俵屋に迎えられる。家督を継ぐまでは伊年という名前であり、養父の隠居により、名前を宗達としそして物語は二十代半ばの伊年の描写から始まる。
    対して、原田マハ先生の俵屋宗達は、12歳の時に織田信長の前で杉戸に描いた2匹の白象の褒美に宗達という名前を信長から拝受される。
    ただ、信長前で描いた2匹の白象が養源院の白象であることを匂わせるために、思っていたので、この段の下りには違和感を持つ。

    なぜなら、浅井三姉妹であり、豊臣秀吉の側室の淀殿(茶々)が、父母の菩提を弔うために秀吉に願い健立したのが、養源院である。そして、伏見城の戦いで自決した徳川方の武将達が放置されていた血のりの床板を、供養のために天井(血天井)に配したいわくつきの寺である。しかも、その後火事で焼失し、淀君の妹であるお江により再建されることになる。その時、本阿弥光悦の口添えによって宗達が推奨されており、宗達は養杉戸に「唐獅子図」、「波に麒麟図」、「白象図」、襖絵に「金地着色松」を描いている。杉戸絵の題材になっている「唐獅子」と「白象」は普賢菩薩、文殊菩薩の乗り物とされ、その表情や躍り上がろうとする躍動感が非業の死を遂げた徳川の家臣たちの霊を慰めたと言われがあるからである。
    真実がわからないが、このような通説があるため、白象の杉戸が信長の城にあることに私が違和感を持った。
    その点では柳先生の「風神雷神」においては、この説によって物語が進み、その際の伊年の心情が記されている。

    本作の上巻を読む限り、琳派の祖と言われながら記録が残っていない俵屋宗達の大きさを表現するために、フィクションを前面に押し出している。
    もちろんフィクションでありながら歴史背景には忠実で、歴史登場人物のこの時代を生き抜く策意についてはわかりやすく描写されている。また、展開のテンポも良く読みやすい。
    例えば、使節団として、ローマに向けて出発する設定になっており、時の権力者である織田信長が、なぜキリスト教布教に寛大であったのかという理由設定とこの使節団の派遣を上手く説明している。

    アレクサンドロ・ヴァリ二ャーノが織田信長に決して話せない「遣欧使節」を思いついた二つの理由がある。第一が日本での布教の継続のために西欧の権力者からの資金援助を得るため。第二が少年たちに西欧を見聞させ、帰国後に彼らを布教の先頭に立たせることで、日本の信徒がついてくるであろうということ。
    その狙いは、イエズス会の先達であるフランシスコ・ザビエルが日本にもたらした信仰の灯火を盤石にすることであった。との記載になるほどなぁと、納得をする。

    また、一方で、織田信長にとっての「遣欧使節」の意味も説明がされている。日本を手中にし、次に陥落すべき都としてローマは攻めるに値する都なのか、本来であれば自分が行ってみたいところであるが、その夢を宗達に託し、ローマの「洛中洛外図」を作成するよう命ずる。宗達が作成するであろう「ローマ全図」をみながらローマ攻略を検討する。このことも信長なら考えそうなことだと納得する。

    ただ、最初に読んだ作品のインパクトが強く、宗達が美化されており、個人的には現時点においては期待していた展開ではなかった。

    柳先生の作品は俵屋宗達の伝記として事実理解の奥行きが広がる感がある。それ故に宗達作品の紹介、解説そしてその時代の解説・評論という視点で表現されており、読後、俵屋宗達の作品についてもっと関心が高まる仕掛けがある。
    しかしながら、本作はその生涯が謎であるため、大胆な発想で、フィクションとして作品が味わい深い。下巻でどれくらい私が食いつくか、カラヴァッジョがどのように登場するか楽しみである。

  • 京都国立博物館研究員で、江戸初期の謎の絵師、俵屋宗達の研究をしている望月彩の元をマカオ博物館の学芸員レイモンド・ウォンが訪ねてきて、彩をマカオへ招きます。
    マカオで、彩は一枚の西洋画の油絵『ユピテル・アイオロス』を見せられます。そして、それとともに天正遣欧使節の四人の使節の一人、原マルティオによる日本語の古文で書かれた絵の説明書きの古文書をも見せられます。

    そして物語は、天正八年(1580年)の肥前・有馬。
    12歳の原マルティノらのキリシタンの少年たちが学ぶセミナリオへ。
    マルティノらの前に見知らぬ少年、14歳の野々村伊三郎宗達が現れます。
    宗達という名は織田信長より、褒美に与えられたものだといいます。

    そして次は宗達の物語に。
    宗達と織田信長との出会い。
    「余が見たことのない珍しきものを描いてみよ」といわれ、白と金色だけで象を描いた宗達。
    信長より名を授かり、絵師の名門、狩野一門へと入門します。
    狩野永徳は越後の虎、上杉謙信に届けた『洛中洛外図』を信長に認められており、次は宗達にもう一枚の十二の扇からなるまことの『洛中洛外図』を手伝うように命じられます。
    完成後、永徳は褒美に「宗達を養子に」と願いでますが、信長は「それはならぬ」と言い宗達に、パレードたちとともにローマへ行き、ローマの『洛中洛外図』を描いて持ちかえってこいと、ひそかに命じます。それは信長と宗達だけの密談で、表向きは印刷技術の勉強と、ローマ法王に永徳とともに描いた『洛中洛外図』を献上するということになっています。

    そして、4人の天正遣欧使節とパレード達とともに1582年ローマへと出発しますが、そこで、宗達はまず、原マルティノと親しくなり、他の少年たちともじょじょにうちとけて、船旅は続きます…(下巻へ続く)

    この本の表紙にもなっている『風神雷神』という絵は中学校の美術の教科書の表紙で見た覚えがありますが、俵屋宗達という名前は全く覚えていませんでした。
    狩野永徳と宗達の作画の場面が大変生き生きとして読まされました。織田信長の言動も大変茶目っ気があり面白く読みました。

    • やまさん
      まことさん
      こんにちは。
      いいね!有難う御座います。
      『左近 浪華の事件帖』シリーズは、3冊で終わりです。
      来年の1月に4冊目が出る...
      まことさん
      こんにちは。
      いいね!有難う御座います。
      『左近 浪華の事件帖』シリーズは、3冊で終わりです。
      来年の1月に4冊目が出る予定です。
      楽しみにしていてください。
      やま
      2019/12/04
    • まことさん
      やまさん♪こんにちは。
      こちらこそ、いつもありがとうございます!
      来年の1月、楽しみですね!
      やまさんのレビューを楽しみにしています。
      やまさん♪こんにちは。
      こちらこそ、いつもありがとうございます!
      来年の1月、楽しみですね!
      やまさんのレビューを楽しみにしています。
      2019/12/04
    • まことさん
      kanegon69さん♪
      コメントありがとうございます!!
      すごくお久しぶりな気がします。
      この本は私、ネタバレで書いてしまったので、...
      kanegon69さん♪
      コメントありがとうございます!!
      すごくお久しぶりな気がします。
      この本は私、ネタバレで書いてしまったので、これから読まれる方が困るのではないかと思っていましたが、大丈夫でしたでしょうか。お正月用とはさすがですね!
      私は、図書館で1番目に真新しい本で読むことができましたが、後に待っている方がたくさんいらしたので、すぐ返却しました。
      kanegon69さんのレビューも楽しみにしています(*^^*)
      2019/12/29
  • 心くすぐられた一冊。

    謎のヴェールに包まれた 絵師、俵屋宗達。

    恥ずかしながらお名前も知らなかった自分には未知なるアートの世界への幕開け、謎だらけの彼の生涯を紐解く旅の始まりの予感にいきなり心をくすぐられた。

    次第にマハさんの描く作画への情熱の塊を心に持つ宗達の人物像がくっきりと色味を帯びて自分の心に居座り始める。

    信長との絡み、洛中洛外図に筆をひく瞬間は惹きこまれたな。

    そして使命を胸に日本の外へ。

    全てはローマへたどりつくために。下巻へ。

  • 京都国立博物館研究員の望月。マカオ博物館の学芸員、レイモンド・ウォンが望月に導かれ、望月はあるものを目にする。「風神雷神」が描かれた西洋絵画と、天正遣欧少年使節の一員・原マルティノの署名が残る古文書。古文書の中には「俵…屋…宗…達」とあり…。
    天才少年絵師・俵屋宗達がルネサンスに会う、壮大な物語。
    上巻はローマに行くまでの物語。宗達が人間味あふれてて読んでて楽しい。この時代のこと宗達のこと予備知識なしで読んでいるので、より一層興味ひかれ、またロマンを感じる。ま、一つの物語として、頭の中でも空想は広がります。洛中洛外図作成について、狩野家との繋がり、俵屋の家業、そんな内容の上巻。
    下巻へ続く。

  • 「風神雷神図屏風」。その俵屋宗達が出てくるのだから、厭が応でも興味がわく。加えて秀逸なのが、絵画の解説や「洛中洛外図屏風」作成の様子だ。歴史だけでなく、自分の知らない美術についての扉を開いてくれる。自分がはじめて知る世界はいつも心を踊らせてくれる。
    俵屋宗達✕天正少年使節については、原田マハさん独特の透明感ある文章で、すっと旅のなかに入っていける。ローマに着いたときに、どのような化学変化が起きるが楽しみだ。美術✕歴史✕旅のダイナミズムを下巻でも楽しみたい。

  • 「風神雷神図屏風」の1ファンとして読まなければいけない本でした。〈上〉は狩野永徳、俵屋宗達の絵師としての凄さがそれはもうヒシヒシと伝わってきました。
    引き続き〈下〉を読んで、下の方で感想を書こうっと。

  • 著者のアート小説(長編)は、現代パートからスタートし、キュレーターに作品の来歴や現代的な評価を語らせた後、作品創作を巡る過去の物語(本編)が紡がれる、というのがお決まりのパターン。本作では、プロローグでキュレーターの彩に、国宝「風神雷神図屏風」の構図の妙と、作者俵屋宗達が謎に包まれていることを語らせたあと、16世紀にタイムトリップ。

    本編は、「風神雷神図屏風」を描いた謎の天才絵師、俵屋宗達と、天正遣欧少年使節団(4人)の一員としてローマ教皇に謁見した原マルティノの二人の少年を中心とした戦国時代の壮大な冒険譚。信仰心篤いピュアなキリシタン少年と、ひたすら芸術を追求するピュアな少年絵師の絆の物語。

    「宗達」と言う名前は、天才少年絵師が織田信長から直々に給ったもので、信長にすっかり気に入られた宗達は、信長の命で狩野永徳と共に洛中洛外図を完成させ、更には、その洛中洛外図をローマ教皇に献上すべく、遣欧使節団と共にローマへ派遣される、だなんて…。なんと大胆なプロットなんだろう。登場人物は悉く実在の人物なのだが、ストーリーの大部分はフィクション。時代小説になるのかな?

    登場人物が生き生きとしていて、展開もスピーディーなので、物語にぐいぐい引き込まれていく。陰謀や裏切りなど、人間の負の面がほとんど描かれておらず、安心して読めるのもいい。

    上巻は、宗達とマルティノの生い立ち、二人の出会い、そして長崎から船出した使節団がマラッカに到着し、インドのゴアに向けて再び出航したところまでを描いている。

    下巻、ローマでの教皇謁見の場面などの山場が楽しみ!

  • これは、これは…! ずいぶん大胆なフィクション?! 
    読み始めてすぐの感想です。 
    プロローグに、俵屋宗達という人についてはほとんど知られていないとあります。
    その分、想像力の羽が伸ばし易かったということなのでしょう。
    そう納得して読むと「14歳の俵屋宗達少年 の大冒険」として
    楽しむことができました。

    まず、時代背景がとても面白いのです。
    1549年、フランシスコ・ザビエルが渡来。
    1573年、信長が足利義明を追放し、室町幕府が滅亡。
    1576年、信長による安土城築城。
    戦乱の時代が、いったん 治まったかにみえた時代でした。
    信長はキリスト教に寛容で、南蛮もの を進んで受け入れたといいます。
    この作品では「宗達 少年」が信長に気に入られ
    狩野永徳と出会って腕を磨くことになっています。
    これは、全くのフィクションのようですが、
    “だからこその面白さ” が物語を盛り上げます。

    胸を打たれたのは、狩野永徳が描いた『洛中洛外図』のエピソード。
    この美術品が戦いの抑止力として働いたという、歴史上の事実です。
    この絵は「京にあらずして京を愉しむもの」であり、
    すぐれたものは一城にも値すると表現されています。
    信長は、上杉謙信に上洛されては困ると同盟を結びました。
    そして、その証として六曲一双の屏風絵を贈ったとのこと。
    山形の上杉博物館に所蔵されているそうです。

    ところで、このフィクションで「宗達 少年」は
    「天正遣欧使節団」の一員として長崎から出航することになります。
    1582年2月20日のこと。
    ローマまで最短でも片道3年はかかるという航海に乗り出した少年たち。
    ところが、同年6月に本能寺の変が起こります。
    後ろ盾をなくした使節団は何も知らずに航海を続けるのですが…?
    下巻が楽しみです。

  • 名前は知られていながら、実はその生涯は明らかではない、俵屋宗達。
    その名を記した古文書が伝える、物語とは。

    先進性と豪胆さをもち、のびのびと生きる、俵屋宗達。
    真面目で敬虔なキリシタンの、原マルティノ。

    登場人物が活き活きと魅力的。

    道中立ち寄った、それぞれの国の空気感、文化、芸術。
    新しいものを見たときの、彼らの感動や衝撃にも臨場感があり、ともに旅をしている気分になる。

    タイトルから俵屋宗達メインかと思ったら、天正遣欧少年使節が中心で、意外。

    • KOROPPYさん
      >まことさんへ
      ほんとうにびっくりしました(笑)
      好みとか情報収集の仕方が似てるんじゃないかなって思ってたりします。

      複数巻の作品...
      >まことさんへ
      ほんとうにびっくりしました(笑)
      好みとか情報収集の仕方が似てるんじゃないかなって思ってたりします。

      複数巻の作品は、上巻にまとめてコメントするようにしているので、下巻は登録しないんですよ~(^^;
      2019/12/04
    • まことさん
      KOROPPYさん♪
      そうですよね!私もびっくりしました。
      感動したところも、同じとは、嬉しいですよね(*^^*)
      下巻はすでに、読ま...
      KOROPPYさん♪
      そうですよね!私もびっくりしました。
      感動したところも、同じとは、嬉しいですよね(*^^*)
      下巻はすでに、読まれていたのですね。
      あと、KOROPPYさんは、確か伊坂幸太郎さんが、ご縁で、フォローさせていただいた記憶があります♡
      これからも、どうぞ宜しくお願いします!
      2019/12/04
    • KOROPPYさん
      >まことさんへ
      読書って絶対的指標がなくて、個人的な感覚の世界なので、感性が近い人のレビューを参考にするの、とっても大事ですよね。
      こち...
      >まことさんへ
      読書って絶対的指標がなくて、個人的な感覚の世界なので、感性が近い人のレビューを参考にするの、とっても大事ですよね。
      こちらこそこれからもよろしくお願いします(o^―^o)
      2019/12/04
  • 少年遣欧使節の4人に、織田信長の密命を受けた天才少年俵屋宗達が加わってローマを目指すワールドワイドなエンタメ小説です。遣欧使節の4人は隣国の侵攻を受け社会が不穏です。領主や家族との交流や信仰心を持った領国民の様子など地道にバックグラウンドを書き込んでいると、なぜローマを目指すのかといった肝心の使命で揺らぐことにはならないでしょうが、原田さんは地に足をつけず、ライトに描きたいのですね。下巻はいよいよヨーロッパ。思いっきり弾けてください。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

原田マハの作品

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