大分断 教育がもたらす新たな階級化社会(「世界の知性」シリーズ) (PHP新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569846842

作品紹介・あらすじ

教育が格差を拡大させ、民主主義を破滅させる……今世界と日本に起こりつつある分断の危機を大胆に分析し、未来を見通す刺激的な論考。

感想・レビュー・書評

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  • 筆者は、フランスの歴史家、文化人類学者、人口学者。書名では、教育に関しての論説のように思えるが、そればかりではなく、色々なトピックで、広く世界情勢について論じている。日本についても論じられてはいるが、あくまでも中心は、フランス、ヨーロッパである。
    日本でも教育格差の問題が取り上げられることがあるが、それは、例えば東京大学入学者の親の年収は平均を大きく超えていて、良い教育を受けるためには、家庭が裕福である必要があり、結局は、親の所得格差が再生産されるのではないか、というような取り上げられ方である。すなわち、所得格差・階級格差の結果としての教育の機会の格差という捉えられ方だ。
    本書の主張は、もっとラジカルだ。すなわち、受けている教育そのものが階級格差を生み出し、固定化しているのだという主張。高等教育を受けた者は、そうでない者のことを理解出来ないし、理解しようとも思わない。逆も然りという主張。あまりピンと来ないな、と思ったが、筆者も、日本はそんな状態にはなっていないと書いていたので、まぁ、そうだよねと思った。

    本書の中で、虚をつかれた部分があった。それはテーマである教育とは関係のないところ。
    「日本は経済成長を諦めたように見える」という趣旨のことが書かれている部分がある。
    ある国の経済規模は、単純に言えば、一人当たりの生産性と人口のかけ算だ。ご存知の通り、日本は既に人口減少社会に突入している。筆者から見ると、一人当たりの生産性はともかく、日本は人口を増やす試みを諦めたように見えるということだ。少子化対策を政府はやっているのでは?と思うのだが、日本以外の先進国は基本的に多くの移民を受け入れて人口を増やそうとしているのに、日本にはそのような動きが全くなく、従って、経済規模を大きくする試みを諦めたように見えるという論旨だ。
    そうなの?と思って、ネットで、各国の人口に占める移民比率を調べてみた。
    アメリカ・ドイツ・イギリスは14-15%、カナダは20%強、オーストラリアは30%強。他のヨーロッパ諸国も、軒並み10%を超えているのに対して、日本は2%。確かに先進国の中では圧倒的に少ない。
    日本経済が停滞している理由でよく議論されるのは、上述の生産性。それはそれで問題なのだろうけれども、確かに経済規模は、生産性が一定であれば人口で決まるというのは、誰が考えても分かることで、そういう意味で虚をつかれた気がした。

  • 教育は社会的階級を再生産し格差を拡大させるものになっている が論旨です。

    高度教育が分断の根本であり民主主義を崩壊させているという驚くべき内容になっております。

    気になった点は以下の通りです。
    ・高度教育を受けたかといって、能力主義、優秀であるとはかぎらない
    ・高等教育の発展や不平等の拡大によって集団の道徳的な枠組みが崩壊している
    ・識字率が向上しているにもかからわず、教育レベルが低下している
    ・女性が自分より社会的地位が高い男性と結婚する、従来モデルが崩壊している
    ・民主主義は3種
      ①アメリカ・イギリス型 核家族・個人主義
      ②ドイツ・日本型 直径家族・長男継承型
      ③ロシア型 権威主義・平等主義
    ・日本型民主主義は、自民族中心主義、能力主義なので、教育格差を広げない
    ・グローバリゼーションと、世界化は違う
    ・ドイツは移民を増やしていて、ドイツ帝国をめざしている
    ・EU諸国は、通貨の発行権限を失い、財政の自立化を失って弱体化している。
    ・弱体化しつつあるアメリカは、いまほど、日本を必要にしているときはない
    ・最後に、「新しい事象はよく真実とは反対の見かけで立ち現れる」と述べています。

    構成は以下です。

    はじめに
    第1章 教育が格差をもたらした
    第2章 「能力主義」という矛盾
    第3章 教育の階層化と民主主義の崩壊
    第4章 日本の課題と教育格差
    第5章 グローバリゼーションの未来
    第6章 ポスト民主主義に突入したヨーロッパ
    第7章 アメリカ社会の変質と冷戦後の世界

  • 教育が格差をもたらし、民主主義を破壊する。逆かと思ってたが。
    日本の課題はやはり人口減少。

  • エリートと大衆な関係性の変化や、能力主義の問題点など、現在の社会状況を、興味深い切り口で説いている。
    日本に対する「少しばかりの無秩序を受け入れよ」という大きな方向性は、その通りだと思う。ただ、移民受け入れによる良い影響は分かるが、同時に起きるであろう悪影響は、見えていないため、ある程度の検証は必要であるように感じる。
    トッド氏の考え方を十分に理解できていない部分もありそうなので、他の著作を読んで理解を深めたい。

  • 教育の高度化が進み、高度教育を受ける層が増えなくなってから、教育は同じ層を再生産することになっており、分断を作り出している。そのことにより、エリートと大衆は分断され、民主主義は崩壊している。民主主義といっても、家族制度が違うアングロサクソン、日本とドイツ、ロシアといったところでは違うルートをゆく。格差を生み出すのは行き過ぎたグローバル化であり、保護主義とは自由主義の一種であり、全体主義とは全く違う。


    EUはドイツに支配されており、ドイツや中国の推し進めるグローバル化によって世界的な分断を生み出しているのだと思った。分断とは、それぞれがポジショントークに終始し、それぞれの層が固定化することであり、それでは民主主義は機能しないのだと思った。

  • エマニエル・ドット氏にインタビューをした内容をまとめて、昨年(2020年)7月に発刊された本。自国であるフランスを中心に欧米と日本の政治と民主主義について述べられている。貧富の格差の拡大と教育に加え、保護貿易化、移民の反対等により、国家が分断されていると主張している。参考になった。

    「今や高等教育は学ぶ場というよりも、支配階級が自らの再生産を守るためのものになっており、お金がある家庭は、子どもたちがある分野で成功するための保証として家庭教師を雇います」p26
    「データを見る限り、中等、そして初等教育においても学力が低下していることが確認されていました。これはフランスだけではなく、もしかすると世界的な話かもしれないと思っています」p51
    「(学力低下)私は、どちらかというと子供たちが読書をしなくなっているということに理由があると思っています」p52
    「民主主義は3つの種類に分けられると考えています。それは「フランス・アメリカ・イギリス型」「ドイツ・日本型」「ロシア型」であり、家族構造に由来しています」p70
    「しばしば非難されるのは「日本人には自分たちが特別だという意識があり、自民族中心主義思想を持っている」という点です。今、日本の文化は文学や料理、サブカルチャーを筆頭に、世界で敬意を払われるものになりました。日本は平和的でエレガントだと言われます。しかし、昔は人種差別的だと言われたこともありました。そうした印象を与える自民族中心主義思想から、日本には移民はいらない、という考え方も生まれます。これが西洋の考え方と違う点で、日本が非難される理由です」p74
    「これからの日本に必要なのは「少しばかりの無秩序」であると私は謹言したい。男女間での無秩序、家族内での無秩序、そして移民を受け入れることで発生する無秩序。日本社会のように完璧を求めることは、ある程度発展した社会では逆に障害になってしまうからです」p106
    「自由貿易は、先進諸国において残忍な形で不平等を拡大し続けています。自由貿易が優遇するのは資本家と高齢者です」p113
    「民主主義の考え方、つまり「人はみな平等で自由」という理想は素晴らしいですが、それがうまくいくためには人々の教育レベルが均一でなければならず、お互いに理解し合えて、そして時には衝突し合うことも可能でなければいけません。今のEUではそれは不可能なのです」p132
    「もし私が「ヨーロッパの終わりはどう訪れるか」と尋ねられたならば、おそらく「支配国であるドイツがなにがしか不条理なことをしでかすことで訪れる」と答えるでしょう」p135
    「日本は移民の大規模な活用を拒否し、国力の低下を食い止める闘いをあきらめてしまいました。ところが、ドイツでは世界で最も年老いた2つの国のうちの1つでありながら、経済力については全くあきらめていません(移民による労働力若返り政策)」p138
    「様々な理由から、サウジアラビアは近々崩壊すると思います」p175

  • 久しぶりの社会観や文明論といった大きな枠組みを論じた本。Globalization は不可逆な流れであり自由貿易は促進するべきである、保護主義は内向きな排斥主義であり移民の流入制限は排斥運動だ、という世の中の流れに対し、
    過剰な自由化によりGlobalization fatigue(グローバリゼーション疲れ)が起きている、globalizationを抑制しても世界化(mondalisation)は消えないし、適切な保護主義は有用、移民の一定程度の抑制は国家という単位に帰属意識を持つ上で必要、等カウンターの意見を次々と提示する。
    「フリードリヒ・リストの保護主義の定義によると、それは自由主義の一端でありながら、国家(ネーション)の存在を認めるもの」(p117)という保護主義の捉え方は、自由貿易を礼賛しトランプの関税戦争を馬鹿げていると一顧だにしない今日では偏見を打破する上で重要。
    能力主義については階級化を招いているという主張はサンデルの本を最近読んだこともあり新鮮味はなかったが、国家という運営単位を維持する上で現在最有力になっている指針である、と考えると、国家の帰属意識の揺らぎを説明するピースになっている思う。
    宗教論争に隠れて社会の本当の問題である階級格差の拡大に目が向かないのが問題、という点は、BLMなどの人種対立やPCによるキャンセルカルチャーに連日のニュースが支配されて社会の格差にいつまでも目を向けられないアメリカにも深く刺さる指摘。
    トランプ後のアメリカ然りブレグジット然りどの国も新しい国家像や指針を見出せていない中、こうした既存の価値観に対する疑義はとても納得感がある。
    保護主義や移民に対するネガティブな意見を民主主義の要素として肯定するなど、国家を基準とした見解が多く、殊更にグローバル化や既存の枠に囚われない企業個人を賞賛する今日では珍しい。民主主義を実現する社会単位として国家はまだまだ基盤となると改めて思わされる。
    読んでいると歴史は繰り返す、という見方を改めて思い知る。国家という伝統的な単位を視点に置き、社会階層が流動化すると混乱が起き、また新しい階層が生まれ、、という波の繰り返しに現代も当てはまるように感じた。
    新書で社会分析をするとどうしても論拠が書ききれず、アメリカや日本ついての見解には首を傾げる部分もあるが、広い視点を得る上で読んで良かった本。

  • マルクスの資本に基づく階層社会とは?
    マルクスの資本に基づく階層社会が、現在は「教育」での階層社会となりつつあり、欧米では、お金で高等教育が買える時代となっている。

    なぜ学力が低下しているのか?
    現在、学力の低下が起きているのは、6歳から10歳の時期に子供達が読書をする習慣が低下しているから。読書は、脳をフォーマット化する機能を持っている。

    社会的分断と家族構造はどうして関係しているのか?
    現代は、高等教育を受けた人の割合が30〜40%あり、必ずしも優秀でない人々がエリートになっており、「集団エリート」化している。
    エリートとは、江戸時代のように、一部の優秀な人が、物事を変える力がある人を指している。



    民主主義とは?
    フランス・アメリカ・イギリス型
    核家族で、個人主義のため、自由と平等を目指す。
    農村においても兄弟間に平等主義があふ。

    ドイツ・日本型
    直系家族構造があるため、親が後継の子供を管理する権威の原理と兄弟間男女間の不平等がある、階層民主主義である。

    日本は、自国は、特別、移民はいらないとの自民族中心主義意識がある。

    ロシア型
    権威主義と平等主義に合致したタイプの民主主義。一体主義的な民主主義。人々は、投票することができるようになり、選ぶことができるようになった。

    「グローバリゼーション(モノと資本の流通〕」は終わるが、「世界化(人々が国を越えて交流)」は終わらない。


    民主主義の機能不全はどうすれば良いのか?
    交渉
    エリートを非難するのではなく、エリートと大衆の階層を認める。

    グローバル化はなぜ日本を縮小させるのか?
    日本はポピュリズムがない。ポピュリズムは、グローバル化による社会の格差が政治的な形で表出
    したまもの。

    日本がグローバル化から完全に自由だったならば、人口の均衡を保つ術を見つける時間もあった。

    今となっては、経済が厳しいため、出生率の回復の支援にお金を注ぎ込むことができてない。

    日本は、地震のリスクがあるのに核を危険な発電にのみ利用し、平和のための核を持たないが、フランスは核を利用するつもりはないが、持つことでドイツとバランスを保っている。

    日本が、これからすべきことは?
    日本は、女性が普通に仕事をして子供が産める環境が必要である。
    江戸時代を無秩序を参考に。
    少しばかりの無秩序、移民の受け入れなどが必要だ。

  • このような大きい視点の話を聞くと、世間のこまかいネガティブなできごとにいちいち反応せず受け流せるようになる。「結局、人口が減ってるからしょうがないよね。」みたいに。本書の内容とは無関係だったとしても。

  • 資本主義下における自由貿易が教育格差をもたらし、階級格差を作り、欧米の社会を分断した。分断化した社会では民主主義は機能しない。求められる策は、二極化した現実を受け入れて、橋渡しをしていく行為。

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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