ガラスの海を渡る舟

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  • PHP研究所
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  • / ISBN・EAN: 9784569850122

作品紹介・あらすじ

「みんな」と同じ事ができない兄と、何もかも平均的な妹。ガラス工房を営む二人の十年間の軌跡を描いた傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『骨壺』と聞いてどんなものを思い浮かべるでしょうか?

    人の人生は有限です。どんなに長生きをしてもいつかはこの世に別れを告げる日が訪れます。そして、そんな私たちは火葬され、骨だけがこの世に残ります。そんな骨を納める器、それが『骨壺』です。私は数年前に父を亡くし、葬儀の手続きの中で生まれて初めて『骨壺』を選ぶという経験をしました。数千円から数万円と各種用意された中からの選択、なかなかに悩ましいものがあると感じたことを覚えています。しかし、そんな父の『骨壺』も納骨を終えたこともあり既に手元にはなく、『骨壺』がどのようなものだったかもはっきりしません。ただ、それによって父の死に伴う一連の行事というものは終了した、きちんと最後まで責任を持って執り行うことができたという安堵を感じてもいます。

    さて、そんな認識だった私が、えっ!という思いを抱いた作品をここにご紹介したいと思います。その作品には私に衝撃を与える一文が記されていました。

    『わたしと、わたしの兄が営んでいるソノガラス工房は、ガラスの骨壺をつくっている』。

    『骨壺』が『ガラス』でできているという衝撃に戸惑う私に、さらにこんな一文が理由を説明します。

    『骨壺といっても、お墓の下におさめるものではない。自宅に置いて供養するためのものだ』。

    亡くなった人の骨を『自宅に置いて供養する』、少なくとも私にはそのような発想、知識が今まで全くありませんでした。そして、そんな『骨壺』を選ぶ女性はこんなことを語ります。

    『おしゃれなもの、かわいいものが大好きな娘でした… あの子があんなあじけない陶器の骨壺に入るなんて、なんだかかわいそうで』。

    そう、『まだ若い娘さんに先立たれた女性』が、『自宅に置いて供養』したいという思いの先に選ぶ『骨壺』の存在。

    この作品は、祖父が遺した『ガラス工房』を継ぐ兄と妹の物語。そんな二人が『もめにもめ』ながらも、それぞれが思う作品を生み出し続けていく物語。そしてそれは、『ガラス』の炉に向き合う日々の中に、『ガラスの海の上で進む方向がわからなくなった時は、自分の、この手を見よう』という思いの行き着く先を見る物語です。

    『2011年9月』、『光多おじさんの店に入ったのは、今年に入って二度目だ』というのは主人公の里中羽衣子(さとなか ういこ)。『一度目は祖母の葬儀の後』、そして『今日はその祖母の四十九日』でした。そんな羽衣子は、八歳の誕生日、熱っぽかったのを無理して学校に行った時のことを思い出します。熱が上がり、迎えに来た祖父は、兄の『道(みち)が暴れて同級生に怪我をさせ』たことで、母が迎えに来れなかったことを説明します。『日頃「手のかかる子」である兄のほうばかり見ている母』が、結局、誕生日さえ自分を見てくれないことを不満に思う羽衣子。そんな羽衣子は工房で祖父の仕事を見るのが好きでした。『ガラスは、どんなふうにもなれるからな』、『羽衣子はこれから、なんにでもなれる。どんなふうにもなれる』と羽衣子を見る祖父。そんな時、光多おじさんの『ビール』を求める声に現実に引き戻された羽衣子は、ふと『窓から通りを見下ろす』と、道の姿がそこにありました。『人間が一か所に集まっている場所が苦手』という道、『複数の人間といっぺんに会話すること』など『苦手なものがたくさんある』道のことを『発達障害なのかもしれない』と思い続けてきた羽衣子ですが、母は『診断なんか必要ない』とはねつけてきました。そんな道のことで争いが絶えなかった両親、そんな中に父は、『わたしが八歳、道が十三歳の時に別居』しました。一方で『料理研究家・里中恵湖』として『東京と大阪を行ったり来たりする』母。そんな時、『四十九日も無事に済んだところで』と光多おじさんが話し出しました。『あの家と土地、どうにかしようや』と続ける光多おじさんのことを『うちの財産を狙っている』と母から聞かされたことを思い出す羽衣子。『お父さんの工房もあるし』と反論する母に『工房なんて、もうずっと閉めとるやないか』という光多おじさん。そして、祖父はうつむいたままという時間が続きます。そんな時、『だめです』と声がしました。『工房は再開します。おじいちゃんがやらないならぼくがやります』と続けたのはいつの間にか戻ってきていた道でした。そんな中に更に『工房、わたしがやる。お兄ちゃんにまかせるぐらいならわたしがやるわ』と今度は羽衣子が叫びます。それに、『二人でやります。それならいいでしょう光多おじさん』と言う道。そして、道と羽衣子が祖父の『ガラス工房』を継ぎ、『吹きガラス』の世界に魅せられていく物語が始まりました。

    “「特別」に憧れる妹と、「普通」がわからない兄。とあるガラス工房でふたりが過ごした愛おしい10年間を描く感動の物語”と本の帯に書かれたこの作品。全5章から構成されていますが、それぞれの章題が意味ありげな漢字一文字となっているのがまず目を引きます。〈序章 羽〉、〈第一章 骨〉、〈第二章 海〉、〈第三章 舟〉、〈終章 道〉という5つの章ですが、最初と最後は二人の主人公、つまり妹・羽衣子と兄・道の名前というのがまずわかります。そして、書名の「ガラスの海を渡る舟」から二つの章題が取られていることも特定できます。そうなると残るのが『骨』となります。一般論としてなんとも不気味な一文字が残りました。そんな『骨』の元となるのが、『わたしと、わたしの兄が営んでいるソノガラス工房は、ガラスの骨壺をつくっている』という工房で作られる『骨壺』から取られたものです。そう、この作品は羽衣子と道という兄妹が祖父の遺した『ガラス工房』を継いでいく様が描かれ、そんな『工房』で主として兄の道が手がけるのが『骨壺』です。『骨壺』と聞くと、火葬の後、お骨を拾って入れるあの白い陶器の容器が思い浮かびます。私も、それ以外には想像できないことから、『ガラスの骨壺』って何?という思いに囚われました。しかし、世の中にはさまざまな考え方があり、この作品が取り上げるのは『骨壺といっても、お墓の下におさめるものではない。自宅に置いて供養するためのもの』という『手元供養』のための『骨壺』であることがわかります。手元に置くとなると『ステンレス素材のものや、陶器、蒔絵のものまで』『さまざまな素材とかたちの壺』があるようです。この作品では、『ガラス工房』が舞台となる以上、『ガラスの骨壺』に光が当たります。そんな『骨壺』のことを主人公の道はこんな風に語ります。

    『ここに来る人はみんな、骨そのものよりそこにおさめておきたいものがあります』。

    なんとも深い、とても意味深い感覚をそこに感じます。『骨壺』というものに対する感覚が一変してもしまいます。

    そんな『骨壺』も作る兄と妹の『ガラス工房』。この作品では、そんな『工房』で『吹きガラス』という手法によって作品を作り上げていく兄妹の姿が描かれます。『吹きガラスには、とにかく体力をつかう』というその現場。『竿そのものが重いし、炉の熱で化粧なんかすぐに流れ落ちてしまう』という過酷な現場の中で、『熱いガラスは生きものだ』と、『ガラス』に向き合うふたり。それは、『はじめたら完成するまで一時も動きを止められない』という緊張感に溢れるものです。そんな現場を”まさしく文学”という表現にまとめる寺地さん。そんな冒頭の一節を抜粋してご紹介しましょう。

    『溶解炉から放たれる熱は真正面からたえまなく襲いかかり、わたしの額をちりちりと焼く。視界は橙に染まり、こめかみからしたたり落ちる汗が顎をとめどなく濡らす… 熱はわたしからさまざまなものを奪っていく… 次第に、奪われているのか、自ら捧げているのか、それすらもわからなくなる。あらゆるものを捧げて、それでも手にしたいものが、わたしにはある』。

    安っぽい表現で感想を書くことが憚られる、職人の息吹を感じさせる研ぎ澄まされた極めて美しい表現です。そんな中に、『ガラス工房』の熱さと、熱さに賭ける職人の魂の存在を確かに感じさせてもくれます。寺地はるなさんという作家さんは他の作品でも極めて美しい表現の数々で読者を魅了してくださいます。そんな表現の裏には地道な取材は欠かせないものです。この作品でも巻末に〈謝辞〉として『谷町ガラスHono工房の細井元夫さん』のお名前があります。そんなこの作品の舞台となる『ガラス工房』の名前は『ソノガラス工房』、看板は『sono』です。設定としては『祖父の苗字』とされていますが、恐らくは『Hono工房』さんに敬意を表して、ということもあるのかなと思いました。いずれにしても普段見ることのない『ガラス』作りの現場の”お仕事小説”としても楽しめるこの作品。これから読まれる方には、そんな『ガラス工房』の表現の魅力にも是非ご期待ください。

    そんなこの作品は、本の帯の言葉にあるとおり、” 「特別」に憧れる妹と、「普通」がわからない兄”の”ふたりが過ごした愛おしい10年間を描く”物語でもあります。兄弟や姉妹を描いた作品は多々あります。寺地さんの作品で言えば”誠実(まさみ)と希望(のぞみ)”という兄弟それぞれの苦悩を描く「希望のゆくえ」がありますし、姉妹の作品ということでは、京都の魅力をふんだんに盛り込んだ綿矢りささん「手のひらの京」をはじめ思い浮かぶ作品は幾つもあります。しかし、兄と妹という関係性にのみフォーカスした作品は私にはすぐに思い浮かべることができません。そんな物語でもう一つ印象的なのは、兄の道が『発達障害なのかもしれない』とはっきり記されている点です。もちろん、『…しれない』と表現は濁されてはいますが、少なくとも私が今まで読んできた600冊の小説の中でこの四文字をはっきりと書いた作品はなく、朧げながら匂わせるものがあった程度です。『発達障害』をはっきりうたうことは、読者にとっても、常日頃の障害への向き合い方、考え方が問われるものでもありますし、何より作者の寺地さんには相当な覚悟が求められるはずです。しかし、そんな覚悟を前提にしても寺地さんにはその先に描かれたい世界があった、それがこの作品で象徴的に登場する『特別』という言葉です。主人公の羽衣子が望む『特別な人間になりたい』という気持ち。そんな『特別』を、『周囲に足並みを合わせられず見下される類の特別』ではなく、『みんなが「すごい」と憧れ見上げるような特別な人間になりたい』と整理していく羽衣子。それは、彼女にとって一番身近にいる兄の『特別』さではなく、『ガラス』職人として秀でた存在になりたいという気持ちからスタートしていきます。そんな『特別』のために『わたしの中にあるはずの』『才能』を『ぜったいに、見つける』と強い意気込みを見せる羽衣子。そんな羽衣子は、兄と対立し、兄が手がけた『ガラスの骨壺』を毛嫌いしていくのはある意味当然の感情と言えます。しかし、一方で冷静にそんな兄のことを見据える羽衣子は、『道には見えないしるしがついている。この人は他の人間とは違います、というしるし。わたしにはついていない、しるしだ』と、兄にある『特別』が、単に見下しの対象である『特別』と異なることも感覚的には理解しています。ここに同じ『ガラス』職人という兄に対する妹の複雑な思いが見え隠れもします。そんな物語は、単に妹の羽衣子視点からのみ展開するわけではありません。兄の道の視点にも切り替わります。兄の道視点、それは上記した『発達障害かもしれない』とされる側の視点でもあります。そこには、『匂いや音にふつうの人より敏感であることは、あまり歓迎されないことのようだ』と自身の『障害』を認識する道の姿が描かれていきます。そんな二人がそれぞれの生きる道を見る瞬間を描く結末へと物語は展開していきます。そんな中に寺地さんが羽衣子の思いの中に見るもの。それこそが、

    『特別ななにかにならねばならない。唯一無二の、特別な存在にならねばならない。その呪いに、長くとらわれてきた』。

    という思いの先に見えてくる一つの世界。『ガラス工房』の職人として生きる二人の確かな明日を感じる物語の中に、「ガラスの海を渡る舟」という書名の絶妙さをとても感じました。

    『まとも。ふつう。常識。世間… そういったものがぼくを世界から弾く言葉だと思っているのだ』という兄の道。

    『みんなが「すごい」と憧れ見上げるような特別な人間になりたい』という妹の羽衣子。

    そんな二人が祖父の遺した『ガラス工房』で、それぞれの作品の制作に向き合っていく様が描かれるこの作品。そこには、『三月にあの地震がおこって』という2011年3月11日の東日本大震災の年を起点に、それから10年後、『病院は今、新型コロナの影響で面会禁止になって』という2011年のコロナ禍という世の中の背景事情も上手く取り入れる中に、『ガラス工房』で働く兄と妹の確執と協働が描かれていました。寺地さんならではの美しい表現と印象深い言葉に魅せられるこの作品。『ガラス工房』の職人の”お仕事小説”の側面も感じさせるこの作品。

    “才能が あってもなくても わたしたちは 一歩ずつ 進んでいくしか ないのです”と、寺地さんが手書きで記された本の帯の言葉が心に染み渡る素晴らしい作品でした。

  • 面白かった。
    一気読み。

    祖父からのガラス工房を営むそれ兄妹。
    兄は自閉症?
    家族のそれぞれの想い。

    ガラス作品は大好きなので、サクサク読めた。

    人はそれぞれ違う。
    理解することも難しい。
    でも それぞれ違って当たり前。
    理解出来なくても、それを認める。
    うん、大事なことだ。

    とても良い作品だった。
    多くの人に読んでもらいたい。
    映画化なんてされないかしら?

    • aoi-soraさん
      杉江智さん検索してみました!
      芸術作品ですね
      滑らかな曲線が美しい…
      こちらもチャンスがあれば見たいです(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)
      ずっと一輪挿...
      杉江智さん検索してみました!
      芸術作品ですね
      滑らかな曲線が美しい…
      こちらもチャンスがあれば見たいです(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)
      ずっと一輪挿しが欲しくて探しているの
      情報ありがとう(⁠・⁠∀⁠・⁠)
      2024/03/29
    • Manideさん
      いるかさん、こんばんは〜

      いい作品ですよね〜
      私、この作品読んだ後に、ガラスコップを作りに行きました。影響受けやすいので(笑)
      いるかさん、こんばんは〜

      いい作品ですよね〜
      私、この作品読んだ後に、ガラスコップを作りに行きました。影響受けやすいので(笑)
      2024/03/31
    • いるかさん
      Manideさん おはようございます。

      コメント ありがとうございます。
      ガラス製品好きにはたまらない一冊ですね。
      私もいろいろガ...
      Manideさん おはようございます。

      コメント ありがとうございます。
      ガラス製品好きにはたまらない一冊ですね。
      私もいろいろガラス製品をもっているので、興味津々。
      よりガラス製品が好きになりました。
      そしてガラス骨壺で手元供養も考えたいと思います。
      2024/04/01
  • ◇◆━━━━━━━━━━━━
    1.感想 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    よかったです。こういう作品が好きです。
    発達障害であろう兄と、負けん気の強い妹が、ガラス工芸を通じて、繋がっていく感じが、とてもよかったです。
    おじいちゃんと孫という、つながり作品としても、とてもよかったです。
    なにか、こう、サスペンスのような起伏はなく、さらっ〜と時間が流れていく感じがいいんだろうな〜、きっと。

    特別なものを追い求める羽衣子が、「なにかがあるはずだ。まだ誰も気づいていないなにかが。」と、自分にしかない特別なものを探しているところは、自分に重なって笑えました。さらに向こうへ、自分を超えていくことは、幾つになっても追い求めてしまいます(笑)


    全245Pで、文字は大きくて、さらっと読めてしまいます。テスト勉強で本を読めてない中での、息抜きとしては最高の1冊となりました。
    とてもよかったです(^_^)

    ◇◆━━━━━━━━━━━━
    2.あらすじ 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    羽衣子、道、2人の兄妹、それぞれの立ち位置でストーリーが展開していく。

    第一章は、2021年4月の羽衣子からお話がスタート。
    そこから、2011年に遡って、2人がガラス工房を開始するまでが描かれている。

    第二章は、2020年3月の道からお話がスタート。
    2人の距離は縮まって、いい兄妹になっていく。

    第三章は、2021年4月の道からお話がスタート。
    2人は、出会いと別れを乗り越えて、新しい一歩を踏み出していく。


    ◇◆━━━━━━━━━━━━
    3.主な登場人物 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    羽衣子 ういこ
    道 兄

    里中恵湖 母
    園光利 そのみつとし、祖父、ガラス作家
    光多 おじさん

    繁實正和 しげみ
    繁實咲

    葉山灯 あかり、ますみ葬祭
    茂木
    小山慎也



    • Manideさん
      さわわさん、こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      参考になる部分があればよいですが…

      aoi-soraさんの感想にあるように、心...
      さわわさん、こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      参考になる部分があればよいですが…

      aoi-soraさんの感想にあるように、心に沁みる言葉がたくさんある作品だと思います。

      登場人物たちの心の波が見えるようで、
      海を渡る舟というタイトルもぴったりな作品だと思います(^^)
      2023/04/24
    • りりうさん
      そうなんですね!ぜひ読んでみます!ありがとうございます!
      そうなんですね!ぜひ読んでみます!ありがとうございます!
      2023/04/28
    • まーさん。1733348番目の読書家さん
      この兄妹の合作のガラス作品が見たい!と思ました。個性ある人間は天才扱いされますが、特性を捉えた人間は秀才扱いされます。そんな二人の人間性ある...
      この兄妹の合作のガラス作品が見たい!と思ました。個性ある人間は天才扱いされますが、特性を捉えた人間は秀才扱いされます。そんな二人の人間性ある醍醐味が要だなーと思い本を閉じました。
      2023/04/29
  • 最近寺地さんの作品を少しずつ読み進めてます
    どの作品も考えさせられます…


    こちらもじんわりと染み込んできて
    今までの自分を振り返ってしまうような作品でした


    人と同じことをするのが難しい道と
    人とは違う何かが欲しい羽衣子

    相容れない二人の姉弟で
    祖父のガラス工房を引き継ぐことになります


    最初は反発し合う二人が
    ちょっとずつ変わっていく姿は
    読みながらしみじみしました


    発達障害かもしれない道側の思考が
    書かれていたのがとても興味深かったです


    どういう考え方をするのか、
    どうしてそう考えるのかが
    よくわかりました
    もちろん人によって様々でしょうが。


    また羽衣子側の気持ちも
    よくわかるんですよねー


    発達障害云々関係なく
    兄弟がいると、
    こっちをみて欲しい!に
    全部答えられなかったりして…
    自分の子供への接し方を考えたりしました。




    人と違うということ
    障害と向き合うということ
    死を受け入れるということ

    そんなことを考えさせられました




    印象残ってるところをいくつか書いときます
    胸にずっしりときました。


    「どうして?」と責めるのではなく
    「どうしたらいいか」を
    一緒に考えてくれる人は
    家の中では祖父だけだった



    いつまでも悲しむな
    元気を出してね
    みたいなことばは
    励ましているようで
    実は全然違うんです
    その人の感情を否定してる



    そら、なんかの障害とセットで
    特別な才能に恵まれた人間もおるやろ
    でも障害があるからかならず才能もあるはず
    見ないな考え方、俺は嫌いや
    それこそ差別と違うんか
    あなたは他人と違った人間だけど
    特別ななにかを持ってますね
    ならこの世に存在していいですよ
    認めてあげますよって言うてるみたいで
    ぞっとするなあ






  • とても良かった!
    心穏やかに読み進められるところ。
    読後感も、温かく優しい気持ちになれるところ。
    やっぱり寺地はるなさん…良いなぁと思った。

    子供の頃から、お互いにわだかまりを持つ兄と妹が
    それを少しずつ溶かしていった10年間のストーリー。
    祖父が遺したガラス工房を継ぐことになったふたり。発達障害と思われる兄の道(みち)。
    特別な才能が欲しくて「自分」を追い込む妹の羽衣子(ういこ)。
    ある日工房に「ガラスの骨壺が欲しい」という変わった依頼が入り……というお話。

    兄と妹という近い関係性ならではの難しさがあり
    リアル感もあって伝わってくる。
    兄と妹、それぞれがお互いに疎ましく思うような心情は、見事に表現されていてずっと、共感しながら読んだ。
    またふたりがピュアで、不器用でも真っ直ぐで
    懸命に頑張る姿がとてもいいなと思った。

    そして親子間や、複雑になってしまった父と母の関係性は、やるせなく感じるところ。
    またそれが、ふたりの不仲の原因のひとつとして影響しているのではないかという点なども悩ましく思った。

    また生きること、死ぬことについて。
    もの作りの仕事に向き合う考え方(才能、センス)や、悩みなど。
    普通であること、特別であること等 について
    も登場人物の台詞等から教えてもらえたり
    考えさせられたりすることも多かった。

    それから
    兄が他の人から酷い事をされたと…知った時の事、
    羽衣子が、関西弁で猛烈に怒り狂う場面があった。
    これこそ、隠しようもない兄への愛だなぁ…って
    よくわかって凄く微笑ましかった!
    やっぱりねー、そうだよね―と思った。

    そして読み終わりちょっと考えたこと。
    天国に行ってしまったお祖父ちゃんも、
    ふたりの孫が助け合ってガラス工房で働く姿に
    さぞかし…やっと…、安心していることだろうなあ…。
    長い間ずっと心配していただろうから…。
    良かったね―と思いながら本を閉じた。

    それから本の装丁をみてみたら…。
    表表紙から裏表紙に返してよくよくみると
    ふたりが…………。
    表紙も、素敵だった






    • かなさん
      チーニャさんの優しいレビュー、
      じっくり読んで、ふたたびあったかい気持ちになれました(^^)
      寺地はるな先生の作品は、優しい気持ちになれ...
      チーニャさんの優しいレビュー、
      じっくり読んで、ふたたびあったかい気持ちになれました(^^)
      寺地はるな先生の作品は、優しい気持ちになれますね!

      この作品を読んで、ガラスの骨壺ってどんなものか、
      ちょっと気になって、ネットで調べてみたりもして
      すごくきれいなんですよ!
      ガラスの骨壺で故人を供養したいと思う遺族の気持ちもまた
      尊いものだと感じました。
      2023/02/06
    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      かなさん、ありがとうございます
      (^ー^)

      私は「手元供養」の物は……
      陶器の物や、ペンダント型の物などを少しは知ってましたが、
      ガラスの...
      かなさん、ありがとうございます
      (^ー^)

      私は「手元供養」の物は……
      陶器の物や、ペンダント型の物などを少しは知ってましたが、
      ガラスの物はこの本ではじめて知りましたよ……。
      私もやっぱり画像検索してみました。とてもキレイで、色々あるんですね!!

      手元供養という考え方も、
      この作品のなかでは、

      「骨そのものより そこにおさめておきたいものがあるのです―」
      と…表現されていて、
      深く感じて読みました。

      かなさんのコメントにあったように
      ガラスの骨壺で手元供養したいという遺族の気持ちの尊さについては、ホントにそうだなぁと、
      同様に思いました!!

      この本はかなさんの本棚にあったので読みました~
      読めて良かったです。
      ありがとうございました~(^^)
      2023/02/06
  • 溶鉱炉で作業する描写に熱気と気迫が伝わってきて息を呑み物語に引き込まれていきました。幼い頃からの軋轢がある中、祖父のガラス工房を継いだ兄妹の10年の歩み。
    特別扱いされてきた兄は発達障害の気配があり、日頃から兄を庇う母に不満を抱きながら大きくなった妹と、なんでも普通にこなせる妹に気後れし、起伏のある感情をぶつけられ苦手意識を拭えないまま大人になった兄が一緒にガラス工房をはじめるとか、工房だけに熱い攻防が繰り広げらそうな予感。親戚、家族間にも遺恨を抱え解決できないまま進むストーリー。
    骨壷作りには協力的でなかった妹だけど、祖父のための骨壷を作るうちに理解を示すようになり思い出たっぷりの容器で作るこれがユニークで笑えました。
    記憶には形がないから壊れることはない。でも、薄れる。遠ざかる。だからとどめておくために物に託す。それをみたらいつでも思い出せるようにガラスの骨壷を作る。
    やがて食事も一緒にするようになり、いろんなことがおこる。作中に輝く言葉がいくつもありそれを拾い集めるだけでもジワァーっとくるし、抑え気味に書かれているユーモアもさりげなく上品に響きました。看板に書かれた骨壷ありますの文字もそりゃないはって思えたし、祖父のために作った骨壷にそんな内緒話があったのかって嬉しくなりました。
    大阪人が本気で怒ると巻き舌になり「クルゥアッ!」になるらしいし、すごい迫力に怯んでしまいそう。
    妹の作ったガラスのアクセサリーも輝いて生き甲斐を見つけたり。それぞれ違う個性で共存する姿に魅せられました。

    • つくねさん
      かなさーーん、こんにちは♪

      こういった伝統工芸っぽい背景に家族のいざこざが見え隠れする設定ってわりと好みなんです!
      ガラスの骨壺なん...
      かなさーーん、こんにちは♪

      こういった伝統工芸っぽい背景に家族のいざこざが見え隠れする設定ってわりと好みなんです!
      ガラスの骨壺なんてあるんだって知りませんでした。
      アールデコ調の香水瓶なんかに入れたら素敵なきがしました。
      実は、認知症になった母の介護が難しくなりグループホームに入れたのですが、母の家を整理してたら、父の位牌と骨壺がでてきて、本人は墓に入れて供養するより身近に置いておきたかったようで20年近く隠し持っていたのですが、扱いに困ってしまい専門業者に頼んで遺骨をパウダー状にしてもらったことあるんです。そして、ペット用の遺骨のペンダントにいれて母にプレゼントしました。メモリアル・ペンダントとか言うらしいです。そんなことを思いだしながら読んでました。

      2023/11/14
    • かなさん
      しじみさん、こんにちは!
      そういえば、以前、お父様の遺骨を故郷の山が一望できる場所に
      散骨したとお聞きしたことがありましたね!
      お母さ...
      しじみさん、こんにちは!
      そういえば、以前、お父様の遺骨を故郷の山が一望できる場所に
      散骨したとお聞きしたことがありましたね!
      お母さまの手元にもお父様の遺骨、ちゃんと残されたんですね。
      20年も大事にされていたものだもの…
      手元供養ができたら、そんないいことはないです。
      認知症になったとしても、
      大事にしたい思いがそこにありますね(*^^*)
      2023/11/14
    • つくねさん
      かなさん、よく覚えてくれてますね ( ;∀;)

      パウダーにしても結構な量で手元供養分と身内に分骨しても
      余ってしまったので残りは故郷...
      かなさん、よく覚えてくれてますね ( ;∀;)

      パウダーにしても結構な量で手元供養分と身内に分骨しても
      余ってしまったので残りは故郷の一望できるお山に散骨しちゃったんです。"(-""-)"

      最近は更に認知症が進んじゃって、
      私のことはもう全然解ってくれないし、
      言葉も朧になって意味不明で諦めていますが、
      父のことは未だに夕方になると帰ってくるって言ってますよ。
      2023/11/14
  • 初めて読む、寺地はるなさん。
    静かに、でもしっかりと心に沁みる文章。
    大好きな作品になりました。

    ガラス工房を営む祖父の死後、工房を受け継いだ兄妹の10年間の物語。
    ガラスの骨壷を制作する兄の道と、それに反対する妹の羽衣子。
    子供の頃から互いの事を理解できず、あまり良好な関係とは言えない二人。
    それでも互いに、自分にはない良いところを認め、時には嫉妬心を抱きながらも尊敬し合う。
    そんな二人がガラス工房で共に過ごすうちに、成長し認め合っていく様子にじんわりと胸が熱くなります。

    羽衣子の小さな心の動きまでを丁寧に描いているのに、どこかさらっとした文章が、なんとも心地よいのです。
    終章の「おはよう」「おはよう」と言い合う場面、そしてあっさりとしたラストがまた絶妙で好き。


    昨年義父が亡くなった際に、手元供養とか手のひらサイズの骨壷があることを知り、へぇーと思っていました。
    道の作る吹きガラスの骨壷は、大切な人を亡くした人の心に寄り添う温かな存在なのかなと想像します。

    この一冊の中には、心に響く言葉がたくさんあります。
    その中のひとつ
    「新しいことは、いつだってとても静かにはじまる」
    ちょっとワクワクしませんか?

    • aoi-soraさん
      Manideさん
      ガラス工房!!
      私もやってみたい!!
      でも私って何やってもセンスなくて(^^ゞ
      おそらく失敗するか、諦めるかになりそうでは...
      Manideさん
      ガラス工房!!
      私もやってみたい!!
      でも私って何やってもセンスなくて(^^ゞ
      おそらく失敗するか、諦めるかになりそうではあります(T_T)
      手作りのグラスは使ってますか?
      毎日が少しワクワクしますね♪
      2023/09/06
    • Manideさん
      レスが早い(^-^)

      そう、使っちゃうんですよね〜
      単純な人間は、、、嬉しくて。

      最近は、シャンディーガフにハマっているので、ビールとジ...
      レスが早い(^-^)

      そう、使っちゃうんですよね〜
      単純な人間は、、、嬉しくて。

      最近は、シャンディーガフにハマっているので、ビールとジンジャーエールをいれて、一人楽しんでます。

      誰でもできますよ〜、
      ほぼお店の人が作る感じだから(笑)

      今度、さりげなく、アカウント画像を作ったグラスに変えておきます。
      (*☌ᴗ☌)。*゚楽しみにしててください。
      2023/09/06
    • aoi-soraさん
      オシャレですね~(⁠人⁠*⁠´⁠∀⁠`⁠)⁠。⁠*゚⁠+
      画像、楽しみにします♪
      オシャレですね~(⁠人⁠*⁠´⁠∀⁠`⁠)⁠。⁠*゚⁠+
      画像、楽しみにします♪
      2023/09/06
  • 寺地さんは2冊目だが、最初に読んだ『水を縫う』の設定と非常に近い。前作が祖母と姉弟と離婚した母、今回の作品は祖父と兄妹と別居した母。このような家族構成が好きなのだろうか?
    発達障害らしき兄は周囲と上手く行かないが、家族からは大事にされ、それが妹にとっては耐えられない反発心となっている。祖父がやっていたガラス工房を小さい頃から出入りしていた二人は、祖父が亡くなったことで伯父に処分されそうになった工房を勢いで継ぐ事になってしまった。反発しながらも工房を立ち上げた二人はすれ違いの日々。
    才能ある兄に嫉妬する妹。両者の気持ちが痛いほど伝わってくる。徐々に歩み寄る妹と兄。優しい気持ちになれる本だった。

  • 穏やかで単調で、読んでいてちょっと退屈に感じてしまった。
    心が疲れた時に読んだら、道のまっすぐな言葉がもっと沁みたかも。
    心に留めておきたい言葉がいくつも出てきた。

  • なんか目が合った

    いやいやいやそんなわけあるかい!
    と、図書館をぐるっと一周して戻ったらやっぱり目が合った
    この本と

    そうかお前俺に読んで欲しいのか
    面白くなかったら承知しないぞ

    まるで主人公が捨て猫を拾う場面だ

    そして

    めちゃめちゃ面白かった!!
    そういうことってあるよね
    本好きなら共感のお手紙が届きまくるよね

    道と羽衣子の兄妹は祖母の法事の席で祖父のガラス工房を継ぐことを宣言します
    そこから始まるあれやこれや、特にお互いをぶつけ合って変わっていく兄妹の関係性がとってもいいんです

    めちゃめちゃニヤリとさせられたセリフを2つ
    「クルゥアッ!」
    「なにがですか?」
    この2つのセリフが飛び出す場面でニヤニヤが止まらなくなることうけあい!
    読んでみて!

    • ひまわりめろんさん
      そうなんだよね
      表紙がすごい良かったんよ

      たぶんみんみんも好きだと思うよ!
      そうなんだよね
      表紙がすごい良かったんよ

      たぶんみんみんも好きだと思うよ!
      2022/07/30
    • みんみんさん
      やっと借りれたよ〜!
      読んだらレビューあげるね\(//∇//)\
      やっと借りれたよ〜!
      読んだらレビューあげるね\(//∇//)\
      2022/08/21
    • ひまわりめろんさん
      楽しみ!
      たぶんどんぴしゃだと思う
      楽しみ!
      たぶんどんぴしゃだと思う
      2022/08/21
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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

寺地はるなの作品

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