ガラスの海を渡る舟

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  • PHP研究所
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本棚登録 : 686
感想 : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569850122

作品紹介・あらすじ

「みんな」と同じ事ができない兄と、何もかも平均的な妹。ガラス工房を営む二人の十年間の軌跡を描いた傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 2015年の6月、幸運に恵まれてわたしは一冊の本に出会った。
    その作品のたったひとつの台詞は今も尚、わたしの脳裏に刻み込まれてこの先も決して消えることはない。

    『心に棺桶を』

    何度も繰り返されるこの台詞にノックアウトされて、早六年、わたしは寺地はるなという作家を静かな情熱で追いかけたきた。
    そしていま、こうして『ガラスの海を渡る舟』にたどり着いたのだ。

    冒頭の骨壷のシーンを見た時に、あの『心に棺桶を』が蘇った。 
    あぁ、これは間違いない。
    また、あの時と同じくらい、いやそれ以上に心を持っていかれる。
    その予感はもはや確信に近く、その熱い海を渡る間、まず後頭部が痺れ、じわりじわりとその痺れは全身に広がっていくのがわかった。

    寺地はるなさんはいつだっていろんな家族を描く。今回もそれは例外ではなく、既刊のどの家族とも違っていながら、どこかが似ているようにも感じる。
    それは巷にあふれる家族が似ているようで同じでないのと同じだ。
    特別であることはあたりまえなのか、もしくはその言葉は暴力なのか。
    普通ってなんだ。大丈夫ってなにが。前を向かっていったいどっちが前?
    不器用に生きる彼らの世界は私たちが生きる世界と同じで、だからこそ目を逸らせない。だって、そこにいるのはわたしたちだから。

    特別にはなれなくとも他と同じものなんてなく、失った人との向き合い方も人それぞれ。

    骨壷に入れるものは骨ではない。
    かつてビオレタで菫さんが作っていた棺桶と同じように、道が作る骨壷にひとつとして同じものはないのだ。

    海を渡るのに舟なんて、心許ない。
    そう思って読み始めた本作は、やっぱり脆い『舟』であった。それでも、道と羽衣子は、時に背中を合わせ、時に手を取り、時に同じ方向を向いて、このガラスの海をこの舟に乗って渡っていくのだろう。

    不思議と涙は流れない。
    ハートにしまった何かがじわりと温まるのを感じた。それはかつて仕舞い込んだわたしの『棺桶』なのかもしれない。

  • 「愛すべき、だって兄妹なんだから」
    舟を漕ぎだした兄とガラスの中に佇む妹。

    祖父のガラス工房を継ぐことになった兄の道は発達障害(未診断)で人の気持ちが分からず、人とのやり取りが下手、実生活でも様々な困難がある、妹のことが苦手。でも才能に恵まれる。妹の羽衣子はしっかりしているところと純真なところが混じった普通の子、そして兄のことが大嫌い。

    道と羽衣子は言い争ったり折り合いをつけたりしながら寄り添うことを覚えていく。家族の中での自分をそれぞれ見つけてこのままで大丈夫と、さらなる未来に向かっていく。

    難しい話ではなかったので10代の子にも読んでほしい。

    初めて#NetGalleyJPを利用しました。

    https://www.netgalley.jp/book/232419/review/798056

  • 誰かが感じる痛みは誰かのもので、私がそれを背負うことはできない。でも痛みを感じている誰かのそばにいることはできる。
    私は私であなたはあなたで、それぞれにそれぞれの人生があり完全に分かり合うことなんてできはしない。
    それでもがんばったときにがんばったねと、苦しい時に苦しいね、と言って欲しい時がある。
    兄妹という関係の中で、その心のやりとりはとても難しい。
    家族なのに、家族だから、わかるしわかりたくないし。

    ガラスはもろい。どんなに美しいものでもどんなに大切なものでも、ほんの少しの力で壊れてしまう。
    壊れてしまうものだからこそ、その冷たくて透明なガラスに閉じ込めたい思いがある。
    生きている限り見ることのできないその人の骨を、その人への思いと一緒にそっとしまうとき、人はひとつなにかを手に入れるのだろう。失うことで得るもの。閉じ込めることで見えるもの。
    寺地はるなの小説が見せてくれる限りなく美しくはかない人の心。
    ガラスって冷たいけど温かいんだよ。人の心もきっとそうだと思う。

  • 大阪の商店街にあるガラス工房。ここには二人の兄妹が経営している。周囲と馴染めない兄と「平均的」な妹。祖父が亡くなったのをきっかけにガラス工房を引き継いだが、二人の関係は噛み合っていなかった。そんな時、ガラス製の骨壷を境に二人が大きく成長していく。


    寺地さんが描く登場人物の心理描写がとても丁寧で、心にスーっと入ってきて、心に染みりました。

    人においての「普通」とは何か?や「死ぬ事」について様々な人の考えが登場するのですが、どれも理にかなっていて、難しいテーマだと感じました。
    ただ、共通して言えることは、相手に自分の考えを押し付けすぎないことが大切だと感じました。

    人にはそれぞれの考えがあって、全く同じということは少ないです。どうしても意見が対立してしまいますが、お互いを尊重しあい、そういった意見もあるんだという認識を持たないといけないなと思いました。

    作品で重要となるガラス製の骨壷。個人的に知らなかったのですが、ネットを検索すると、骨壷から想像する質素なイメージとは違い、芸術的な美しさがあって、意外でした。

    ガラスは一度傷がつくと完全には戻りません。でも元の形に近づけることはできます。そういった工程が、兄妹との仲を表現しているようで読んでて心が優しくなりました。

    特に妹と恋人の件では、兄がカッコ良く視えました。はっきり物事を言うことは、ちょっとウザく感じてしまいますが、相手への明確化につながるということを考えると、仕事にも使えるなと思いました。
    部下への指示やマニュアル化など多方面に使えるので、今後の参考にしたいと思いました。

    ガラス工房を舞台にした物語。「家族」との絆がふんだんに盛り込まれていて、一つ一つの会話のやりとりが辛くもあり、感動もしたりと心に染み渡ってきて、良い作品だったなとしみじみ感じました。

  • 寺地はるなさんの新刊

  • 2021/09/15予約  5

  • 燃えるような海を、自分を信じて進む。
    夜明けに息を吹きこんで、記憶を形に残す。
    これは、ガラスのようにきらめく美しい物語。

    主人公の二人の兄妹は、日々ぶつかり合って、長い歳月の中で、どこが強くてどこが脆いのか、互いに認め合いながら絆を深めていく。

    二人の関係性に入っていたヒビですら、光を受ければ、それはまるで美しい要素のひとつのように愛おしく思う。

    沈んだ心を掬いあげてくれる言葉の数々が、自分の欠けた部分を包むように反射して、なんにも上手くいかない自分を、そのまんま受け入れられるような気がしました。

    海を彷徨うような日々で、思うような場所にたどり着けなくても、心のままにくり返して積み重ねて、いつだって前を向いて自分を信じてあげよう。
    そんな風に思えました。

  • 大阪の心斎橋からほど近いエリアにある「空堀商店街」。
    そこには、兄妹二人が営むガラス工房があった。

    兄の道は幼い頃から落ち着きがなく、コミュニケーションが苦手で、「みんな」に協調したり、他人の気持ちに共感したりすることができない。
    妹の羽衣子は、道とは対照的に、コミュニケーションが得意で何事もそつなくこなせるが、突出した「何か」がなく、自分の個性を見つけられずにいる。

    正反対の性格である二人は互いに苦手意識を抱いていて、祖父の遺言で共に工房を引き継ぐことになってからも、衝突が絶えなかった。
    そんなガラス工房に、ある客からの変わった依頼が舞い込む。それは、「ガラスの骨壺が欲しい」というもので――。

    『水を縫う』『大人は泣かないと思っていた』の寺地はるなが放つ、新たな感動作!
    相容れない兄妹ふたりが過ごした、愛おしい10年間を描く傑作長編。

  • 不器用な兄妹が、家族のゴタゴタを乗り越えて頑張るハートウォーミングな話。

  • 普通のことがうまくできないけど、普通の人と違う感性を持つ兄と、何でもそつなくこなせるけれど、特別な才能に憧れる妹。そんな兄妹2人が営むガラス工房のお話。
    「手っ取りばやく一人前になる方法なんかない。毎日同じ時間、同じ量の仕事をするんや。そうやってすこしずつ身につけることしかでけへん」
    兄に追いつきたくて焦って、無理をして倒れてしまう羽衣子にかけられた言葉が、自分の中にも染みてくる。
    焦らず、目の前のことをしっかりやっていけば、それが道になる。勇気をもらえる言葉。

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著者プロフィール

作家

「2021年 『ガラスの海を渡る舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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