「性」の進化論講義 生物史を変えたオスとメスの謎 (PHP新書)
- PHP研究所 (2021年8月12日発売)


- 本 ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569850382
作品紹介・あらすじ
●巨大過ぎる牙のマンモス、体長より眼が離れたシュモクバエ……
●不合理に見える進化の謎は「オスとメスの生物史」で解ける!
●性と進化にまつわる驚きの事実が満載の「全く新しい進化論」!
生物の進化を語る上で欠かせない「自然淘汰」。そんな自然淘汰の中でも、特徴的なのが「性淘汰」だ。これは「繁殖に有利な」種、つまり異性を巡る競争に有利な種が生き残り、そうでない種が滅びるというものである。
しかし、「繁殖に有利な特徴」は、必ずしも「生存に有利な特徴」とは限らない。したがって、「異性を巡る競争には有利だが、生存には不利な特徴」などの、「世にも不思議な進化の数々」が現れてくるのだ。
そもそも、無性生殖をしていた生物は、なぜ有性生殖をするようになったのか? オスとメスの関係は進化にどのような影響を与えてきたのか? そこには、想像をはるかに超える壮大な生物史のドラマがあった――。素晴らしくも不思議な「性の進化論」について、その根本から丁寧に解き明かす!
感想・レビュー・書評
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長谷川浩一の『線虫 1ミリの生命ドラマ』を読んだ時に、メスだけで単為生殖可能だが、有性生殖に切り替えも可能だという種がいるという話を読んで、より詳しく知りたいと思って本書へ。
生物の中には、メスしかいないものも結構いる。トカゲやヘビにも、メスしかいない種が存在する。単為生殖の方が増殖のコストが低いのだし、自分の遺伝子を複製して残せるのだから、そっちの方が良いのでは、とも思う。しかし、そんな種にも有性生殖を選択する場面はあって、有性生殖のメリットがあるという事が分かる。
有性生殖の狙いは多様性だ。一律の条件で死なないように、個体の性能を分散させておく。その中で競争力のある個体が淘汰されて進歩していく、という事ではなく、不確実な環境変化において生存する個体を残すために。しかし、お相手と確実に出会える保証がないような個体数の少ない種は、そんな贅沢は言えないから、自分一人で種を残す。出会いがあり、体力があれば、有性生殖が選択される事がある。
善悪や能力の有無は、人間の価値観では、必ずしも測りきれない。多様性とは面白い考え方で、一糸乱れず作戦遂行すべき軍隊ならば、一人の余計な行動が索敵されて命取りに。逆に、隕石が落ちた場所に秩序だったコロニーがいれば全滅だが、捻くれ者や集団の規律を守れないものが他所に行っていれば助かる。従わないもの、知性の低いものが、命を繋ぐケースだってあるのだ。同質性が強い場合と多様性が強い場合は、状況や作戦、指揮官の能力による。
ー 生物の体は、うまく機能するようにできている。そのため、遺伝子に突然変異が起きて、生物の体の一部が変化したときに、体の機能がさらに向上する可能性はほとんどない。たいてい、体の機能は低下するだろう。突然変異の大部分は、有害な突然変異なのだ。しかし、生物には自然淘汰が作用している。自然淘汰には、適応力の低い個体を除去する働きがある。したがって、有害な突然変異を持つ個体は除去されて、その結果、有害な突然変異自身もなくなっていくことになる。これなら、有害な突然変異が起きても心配なさそうだ。いや、有害な突然変異が起きた個体にとっては気の毒なことだけれど、集団全体で考えれば、有害な突然変異は消えていく運命にあるのだから。
こういう話以外にも、一方では身勝手というか、「性的対立」の話も面白かった。ショウジョウバエのオスの精液の中に、他のオスの精子を殺す毒が入っているという話だ。この毒をメスに注入すれば、他のオスの精子より自分の精子のほうが卵と受精する確率が高くなるので、注入したオスにとっては好都合である。しかし、この毒は、メスにとっても有害である。オスに毒を注入されたメスは、体が弱って寿命が短くなってしまうという。メスにとっては大変な迷惑だ。メスが産卵するのは今回だけではない。通常なら、この先、何回も産卵することができただろう。それなのに、毒によって寿命が短くなれば、作れる子の数が減ってしまう。つまり、この毒によって、オスの子は増えるが、メスの子は減る。オスとメスの利害が一致しない。
何だか、人間にも「性的対立」っていうのはある気がして。色々考えた結果、やはり単為生殖も可能だったら良かったのかも、と。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あまり新しい情報なかった。わかり易い例を使い、自然淘汰を説明している。
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性がなぜあるのか。
結局、答えはよくわからない。
今何かの役にたつからといって、
それが起源だとは限らないから。
進化は目的をもたない。
将来の備えのために進化はしない。
自然淘汰って、すごい力だな、
と改めて思わせてすれる。
個体間に差があって、子供の数が多いだけで
働き出すのだから。
結果、これだけの多様性が生まれているのだから。 -
過去の同じ著者の本と比べて、かなり真剣に読んだつもり。そうでないと、理解できないから。もっとも、読んでいる場所はいつも通り電車の中で、途中でうつらうつらすることも多かったのだけれど。一番印象に残っているのはオーストラリアに住むカエルのウペロレイア。カエルはオスが鳴いてメスをひきつけるが、身体が大きいほど低い声になるはずなので、なるべく低い声が選ばれると予想できるが、それがそうとも言えないらしい。ウペロレイアのメスは、決まって自分の体重の70%くらいのオスを選ぶらしい。このカエル、メスとオスがペアになると、メスがオスを背中にのせて泳いでいく。そしてメスが卵を1粒生むと、そこにオスは精子をかける。あまりにオスが重すぎると、産卵の途中でメスが力尽き、おぼれ死んでしまうことがあるらしい。自然界にはまだまだ知らないことがいっぱいあるわけだ。ヒトの女性が男性の汗臭いTシャツをにおい、どのにおいを好むかを調べてみる。そうすると、自分とは対立する遺伝子を多く持つ男性を選ぶことが多いという。そうすることで、遺伝子の多様性を保ち、絶滅することを防いでいるのかもしれないけれど、これはどうなんだろう。いっしょに暮らしていると、細菌などをふくめて、同じものを共有することが多くなって、においが似てくることはありそうだけれど。まあでも、ペアを組むにあたっては、視覚や聴覚より、味覚や嗅覚の感じ方が似ている方が大事な気はするなあ。同じ臭さでも、あまり気にならないものと、もう本当に耐えられないものがあるから。
著者プロフィール
更科功の作品





