路地裏の二・二六

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  • PHP研究所 (2025年1月31日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784569858296

作品紹介・あらすじ

昭和10年(1934)8月12日、陸軍省にて、相沢三郎歩兵中佐が軍務局長・永田鉄山少将を惨殺する事件が起きる。そのとき、部屋にはもう一人の人物がいた。憲兵大尉・浪越破六は、事件に語られていない真実があることを確信する。そんな折、浪越は渡辺錠太郎陸軍大将から、ある命を受ける。昭和の重大事件の裏で進行していた「もう一つの事件」を、歴史ミステリ作家が描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 超★5 激動の昭和初期にタイムスリップ、圧巻ストーリーテリングの歴史ミステリー #路地裏の二・二六

    ■あらすじ
    昭和10年、陸軍省で相沢中佐が軍務局長の永田少将を殺害する事件が発生。憲兵である浪越は、この事件を訝しんでおり捜査を進めていた。

    ある日、浪越は渡辺錠太郎陸軍大将から呼び出され、ある人物を調査するよう密命を受ける。陸軍参謀本部ではさらなる事件が発生、爆弾テロを扇動する国粋主義者が現れる。2.26事件が近づく昭和初期、浪越が見た事件の真相とは…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    超★5 おもろい!

    二・二六事件って、どんな事件だったか説明できます? 恥ずかしながら、私はほぼ100%忘れてました。

    歴史に興味がなくて、いつも学校の成績も悪かったんだよなー。こういう面白いエンタメとセットで歴史を教えてくれたら、もっと成績あがったと思うんですよ、うんうん。自らの不勉強さアピールは不要ですね、ごめんなさい。

    激動の昭和初期、皇道派と統制派の対立から発生した二・二六事件を背景に、その裏で起こっていたもうひとつの事件を描いた歴史ミステリーです。

    まず褒めたいのはストーリーテリングですよ、めっちゃお上手。主人公の浪越が私立探偵よろしく事件や人間関係を調べていくんですが、これが面白くってしょうがない。軍拡の皇道派と立法を重んじる統制派、その隙間から漏れ出る昭和初期の価値観の中で、隠された真実に対して鋭く切り込んでいくんです。

    浪越は頭脳だけでなく腕力もパワフルなんですよ、派手なアクションもたっぷり。また友人である陸軍中隊長の麦島、彼も熱い男でいい奴。男同士の真摯なやり取りも読みどころですよ。まさに屈強の日本男児なんですよね、令和の草食系男子もいいけども、こういう男子もいいよね。

    物語も中盤に入ると、少しずつ隠された秘密が明らかになってくる。危険度とサスペンス風味がどんどん増していき、どうなっちゃうのか怖すぎっ!

    終盤、事件の背景が紐解かれると、なんだかもう溶けそうになっちゃう、マジかよと。そもそもの事件のきっかけがあまりにも低俗で、わなわなと打ち震えましたね。

    そして怒涛のラストですよ、これまで読んできた昭和初期体験が一気に解き放たれ、あるべきところに着地するのです。なんつーか、涙が止まらないというか、素晴らしかった…

    本作は参考文献がたっぷりで取材力もスゴかったですね、大戦前の日本が目に浮かんできます。新しい戦前と言われている昨今、こういう時代もあったと学び直さなければなりません。現代の日本人こそ読むべき一冊でした。

    ■私と物語の対話
    大切な人を守りたい、困っている人を助けたい、たったそれだけのはずで、目的は見失っていないんです。でも、やり方を間違えるのは良くない。未来のある若者たちの不幸はもう見たくありません。

    私たちが生きている現代でも、いつの間にか世界秩序が少しずつ変わっている。間違った方向へ行かないように、私たちひとりひとりが見て、考え、行動しなければいけないと思いました。

  • 2.26事件の裏で起きていたもう一つの事件。

    陸運省にて相沢三郎歩兵中佐が、軍務局長・永田鉄山少将を惨殺する事件が起きた。
    その後に続く幾つもの死は、語られていない真実が隠されていて…。

    浪越憲兵大尉を中心に動いていく不可解な事件の真相が明らかになるにつれ麦島妙子の関わりに驚愕する。

    昭和の大きな事件の裏…ということかもしれないが、これも時代が影響していたのかと感じた。


  • 歴史的な出来事の裏で起きた事件を描くのがお得意の伊吹さんの最新作。
    今回はタイトルで分かる通り、二・二六事件。

    冒頭から陸軍内で起きた殺人事件。直情径行型の軍人が、行き過ぎた愛国心で暴走した事件のように見えるが、その裏に事件を起こそうと誘導する人物も垣間見える。

    探偵役は憲兵大尉の浪越。思わぬ大物から間諜として二名の人物の内偵を命じられた彼だが、その中でまた殺人事件と出会う。

    探偵の仕事はタイムスリップに似ている。
    一つの事件を起点に、関係者たちの真実に迫ることは彼らの過去を遡ることでもあり、その捜査の中で新たな過去の事件にも出会う。
    皇道派と統制派の衝突や、そこに入り込む私欲に塗れた活動家、彼らが使う愚連隊の少年少女たち…人間関係が広がりそうで、実は本質は狭いところにあったというのが興味深い。
    また、この時代と浪越の環境ならではの捜査ということもあり、事件は隠蔽されているものが多いし、資料も簡単には見せてもらえない。憲兵はどこに行っても嫌われ者だが、警察の方もなかなかやり手で面白い。

    途中、伊吹作品に出てきた探偵・鯉城が登場したので浪越のバディとなるのかと期待したが、ただの通りすがりだった。また彼の活躍も見たい。

    何となく途中から真相の一端というか、キーパーソンは見えてきたのだが、終盤は切ない。
    その後の歴史を知っているだけに、浪越がどう頑張ってもこの事件を止められるわけではないことは分かっているのだが、だからこそ男臭い友情もきれいに見えてくる。
    しかし依頼者の最期についての浪越の行動の原理は理解出来ない。犯人の行動原理はやり過ぎとは言え理解できなくもない。
    だがやはり人が簡単に死に過ぎる。そういう時代だった言うなら、そんな時代は二度と来てほしくない。

  • 2.26事件ではなく、そこに至るまでの陸軍内部の不穏な空気や、若手将校たちの熱の昂りが描かれている。
    難しい名前や肩書き、将校の分類を頭に入れながら読むのに最初苦労するけど、掴めてからはさくさく読めて2日で読了。
    当時の様子が生々しく伝わり、2.26事件が起こるべくして起きたことが理解できておもしろかった。
    ミステリー要素も楽しめたし、黒幕の人の心情も時代背景を考えればあり得そう。
    長くて難しいけど読み応えのある一冊。

  • 繋がりが巧い一冊。

    伊吹さんだからやっぱり面白い。

    昭和10年の8月、陸軍省で起きた殺人事件を発端に2.26事件と同時進行していた、まさに路地裏の事件をカーキ色と血の緋色で描きあげた歴史ミステリ。

    主人公の憲兵が探偵役となり徐々に真相に迫っていく過程は点と点の繋がり、2.26への時の繋がりまでもが巧い。
    そしてあの京都の探偵、鯉城の絡め方も。

    幾重にも包まれた"なぜ?"が一枚ずつ剥がされゆく度に時代の裏側を知り、表しか見えていなかったことを思う。

    改めて歴史のたらればと容易に血が流れる時代の怖さとやるせなさを感じた。

  • 著者初読み。
    ブクログのレビューで見かけて、読んでみた作品。
    歴史物にはめっきり弱いけど、何故かニニ六絡みの小説に目が無く、すごく読む前からワクワクしてた。
    だが…
    昭和10年に起きた陸軍中佐による軍務局長殺害事件。
    陸軍は事実を一旦隠蔽するが、憲兵の浪越に真実を探る内々の命令が出る。
    早速、関係者を当たろうとする浪越を嘲笑うように、同じような殺害事件が発生する。
    前後して、何人かの人物が亡くなり、全ての事件は繋がっていると見越した浪越は次から次へと真相を追い求める。

    他の方のレビューにもあったが、これはニニ六関係なく、ただの探偵小説。
    当時の憲兵の権限がどれだけのものだったか、分からないけど、どこにでも顔を突っ込み、誰に対しても偉そうな浪越にどうも入り込めなかった。
    これまでニニ六関係の小説は、実際にクーデターを起こした側や狙われた側などを描くものが多かったけど、今作はニニ六は単なるおまけ。
    著者が描く歴史ミステリーの他の作品は面白いのかもしれないけど、歴史に疎い自分には他の作品はもういいかな。
    ただ探偵小説としては王道なので、単純にミステリーを楽しむ作品としては、いい作品だと思う。
    この男性が主役にしかならない時代に女性の登場人物をうまく使ってる印象を受けた。
    結局、何が言いたいかと言うと、王道ミステリーにニニ六を無理やりくっつけてしまった、自分にとっては、何とも微妙…

  • 昭和10年8月、陸軍省にて相沢三郎歩兵中佐が軍務局長・永田鉄山少将を惨殺する事件が発生。その際、醜態を演じ、事件後に自害した山田元兵務課長。憲兵大尉・浪越破六(なみこし ばろく)は、渡辺錠太郎陸軍大将から、山田の身辺調査の命を受ける。相沢が襲撃直前に言葉を交わした古鍛冶兼行大佐と襲撃現場に居合わせた六角紀彦憲兵大佐。浪越が二人のキーマンの調査に乗り出す中で、さらなる事件が…

    二•二六事件の舞台裏で起きていたかも知れない事件を描いた歴史ミステリ。政治腐敗や君側の奸を排除して天皇親政を実現することを目指す皇道派。一方、第一次世界大戦後の世界情勢を踏まえ、総力戦体制の構築を目指す統制派。相沢事件を皮切りに、皇道派と統制派が火花を散らして対立に向かっていく世相が事件を通して描かれる。

    主人公の憲兵大尉・浪越破六は統制派•渡辺の命を受けて、皇道派が起こした殺人事件の調査にあたる。危ない場面に度々出くわしてはタフに乗り越える浪越はハードボイルドなキャラクター。誰がどういう思想を持ってるのかわからない状況で、時に立場を偽りながら対人折衝をする様はサスペンスフルで、スパイ小説的な面白さもある。

    実在人物と架空人物両方出てきて登場人物が多いのが難点。謎解き要素は控えめ。この時代の歴史に興味がある人にはオススメ。

  • 長い。
    時代背景にも恥ずかしながら疎かったので、最初はあまり面白くなく、読み進めるのが辛かった。
    後半ようやく面白くなってきてからは一気に読み進めることができた。
    226事件が成功していたら、どんな日本になっていたんだろう。
    今の腐った政治家を見ると、青年将校たちみたいな人が今いたらなぁと思ってしまった

  • めっちゃ面白かった。時代の変わり目を描くのが抜群の作家さんならではの作品。時代は昭和10年からの不穏な軍部の動きから始まる。史実を巧みに絡ませながら、歴史に残る事実、もしかしたら、あるいは、と読者を翻弄させる語り。短文ならではの緊迫した臨場感。伊吹ワールド全開。

  • 憲兵の浪越が皇道派の青年憲兵の自死についての調査から次々と暗殺事件にまきこまれ、ついにはクーデター計画を突き止める。話は長く事件も人物も多く読みづらかったが、面白かった。

  • 二・二六事件の裏で起きていた「もう一つの事件」を虚と実を織り交ぜて描く歴史ミステリ。

    永田鉄山や渡辺錠太郎、相沢三郎など実在した人物のエピソードを盛り込みながら、フィクションとしての主役・浪越憲兵大尉が叛乱の裏で起きていたある事件を解明していくというミステリ。

    これほどの殺人事件を起こした犯人の動機が今ひとつ納得いかなかったけれど、真相が明らかになっていく過程はなかなかスリリングで面白かった。なぜわざわざこの時代背景?とも思ったけど、浪越のなんでもありの行動はあの時代じゃないと成り立たないし、何より浪越と麦島の同期の絆がもたらす感傷はあの騒擾が絡むからこそなんだろうなと納得。

    それにしても簡単に人を殺しすぎだし、陸軍も隠蔽し過ぎかな〜笑

  • 史実とフィクションを盛り込んで、しかもミステリー仕上げとなっているから最初は登場人物や階級などに戸惑いもあったけれど、読んでいくうちにどんどん吸い込まれていく感じがした。学生時代から明治、大正、昭和初期の歴史が苦手で(戦国時代ほど英傑がいないからという理由w)、教科書を読んでもちんぷんかんぷんだったのが、こうやって小説化し、フィクション織り交ぜての人物の関連性が分かってくると面白くなるだなぁと感心した。いかんせん苦手意識が先立つあまり、読むには時間がかかったが、後半は一気に進む。
    その理由が延々と会話のシーンでネタ晴らしとなるので理解はするがだったら最初から会話だけの説明でいいやんとなる。所謂手紙オチと同様。せっかくの捜査がたった一人の人物との答え合わせを延々と引っ張ることで全貌が明らかになるとか白けてしまう。いいモチーフだけに残念。

  • 2025/06/06読み始め
    2025/06/10読了

  • 歴史に残る大事件、2·26事件の発生前を舞台にした物語。
    タイトルに惹かれて読んでみたが進むにつれて別に2·26事件にクローズした作品じゃなかったので拍子抜け。

    推理ものとして読むなら面白いかもしれないが、歴史小説として読むならイマイチ。

  • ニニ六事件の舞台裏。よく練られたストーリーだけど、武骨な終わりだ。

  • 25/04/29読了
    暴力につぐ暴力で笑ってしまう。渡辺との、あるいは麦島との会話や向ける心情をもう少し読みたかった、

  • 流石伊吹亜門。本当に今ミステリの最前線を走ってるんだな。前年の夏からスタートして、最後には2.26が待ってるんだという緊張感が心地よい。薄々感じてた主人公のヤバさが押し出される瞬間も大好き。

  • 憲兵の浪越大尉は渡辺教育総監からの密命により、内偵調査の任を受ける。しかし聴取のために訪れた彼が目にしたものは、思いがけない殺人現場だった。現場の不審な状況に疑念をおぼえた浪越は調査を進めるうちに、恐るべき謀略へとたどり着く。重厚な読みごたえの歴史ミステリです。
    もちろん歴史ベースはそのままなので、この不穏な情勢の行く先に二・二六事件が起こるということは明らかなのですが。その裏で起こっていたとされる数々の事件もまた負けず劣らずの大事件。むしろこちらの事件の方が派手派手しく事は大きいものの、現代の視点からすると犯人の動機と狙いには共感できるかもしれません。一方で二・二六事件に際して浪越がとった決断の理由……これは当時の時代情勢がなければ、現代の者には共感しづらいのですが。しかし切実なものを感じました。

  •  二.二六事件を背景にした、陸軍内の殺人事件をめぐるミステリー。

     憲兵の浪越大尉は陸軍教育総監の渡辺から、軍内部のクーデター計画に協力的な幹部を調査してほしいと頼まれた。浪越は対象者の一人、古鍛治大佐の元を訪れたが、浪越が見たのは二人の死体がある殺人現場だった。

  • 相沢中佐による永田少将惨殺事件。憲兵大尉・浪越は事件には語られない「真実」があると確信する。陸軍兵学校の教官の不審な死と関係者の死。

    軍人たちの面子だったり価値観が…。二・二六事件についての小説は面白いな。色々な事件が繋がっていく感じがとても良かった。

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著者プロフィール

ミステリ作家。1991年、愛知県生まれ。同志社大学ミステリ研究会出身。「監獄舎の殺人」でミステリーズ!新人賞を最年少受賞。2018年に同作を収録した『刀と傘 明治京洛推理帖』(東京創元社)で単行本デビューし、翌年に本格ミステリ大賞を受賞した。このほか著作に、『刀と傘』の前日譚となる『雨と短銃』(東京創元社)、『幻月と探偵』(KADOKAWA)がある。

「2022年 『京都陰陽寮謎解き滅妖帖』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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