- Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575234831
作品紹介・あらすじ
追い求めているものは「伝説」なのか?北国の街に交錯する、密やかな思惑と駆け引き。恩田陸の無限のイメージが、遠い記憶を呼び覚ます。
感想・レビュー・書評
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シリーズ第一作「MAZE」で非凡な才能を見せた神原恵弥。その彼が北国のH市を訪れた。不倫相手を追いかけていった双子の妹の和見を連れ戻すためだが、もう一つ重大な目的があった。それはH市と関係があるらしい『クレオパトラ』と呼ばれるものの正体を掴むこと。人々の思惑や駆け引きが交錯するなか、恵弥は何を知ったのか。粉雪舞う寒空に広がる、恩田陸の無限のイマジネーション。(google book より)
またもやシリーズ続編から読んでしまった。でも、今度はシリーズものだということにすら気がつかずに読んでいた。この1冊で内容は完結している。
主人公・神原恵弥は、中肉中背、30代、外資系の製薬会社の研究員、頭脳明晰で、写真のごとく記憶できる特殊能力を有する。まさにモテ男のはずであるのに、バイセクシャルである。バイセクシャルな方には嬉しい限りであろうが。
男性が男性らしい言葉を使い、女性が女性らしい言葉を使う。男性らしい言葉、女性らしい言葉って、誰が決めたんだろ?いきなり、女性的な言葉を発するカッコイイ男性登場で考えてしまった。
恵弥は女系家族で育った。多忙な高級官僚の父は、留守がちのため、祖母、母、姉妹の8人暮らし、幼い時から女性言葉が飛び交う環境であった。自分以外は女性となると、周りに感化されるか、反抗するかのいずれかであろう。なので恵弥の場合は、感化されたのだなぁと思った。男性でありながら女性言葉を使う。そして、ホモセクシャルではなくバイセクシャルというのが、これもまだ彼の持つ記憶力同様に特殊能力のように思えてしまう。
少々強引だが、名前も、『弥』という漢字は使われてはいるが読み方が『めぐみ』なので、男性でも女性でもどちらの性でも使用できる名前なので、バイセクシャルであっても違和感はない。
そして今回、渦中の人物である恵弥の双子の妹・和見は弁護士である。洞察力があり、優秀な妹。優秀な兄妹が「クレオパトラ」をめぐるやりとり、腹の中のさぐり合いが不気味に映る。
本作の「クレオパトラ」は天然痘のワクチンの製造とし、恵弥、和見、和見の不倫相手・若槻慧博士、若槻博士の妻・若槻慶子(旧姓 辰川)、国立感染症研究所の主任研究員である多田直樹がこの話のキーパーソンとして複雑に絡んで物語が展開していく。
国立感染症研究所のホームページによると、以下の文章がある。
「天然痘は紀元前より、伝染力が非常に強く死に至る疫病 として人々から恐れられていた。また、治癒した場合でも顔面に醜い瘢痕が残るため、江戸時代には「美目定めの病」と言われ、忌み嫌われていたとの記録があ る。天然痘ワクチンの接種、すなわち種痘の普及によりその発生数は減少し、WHO は1980年5月天然痘の世界根絶宣言を行った。以降これまでに世界中で天然痘患者の発生はない(IDWR 2001年第40号掲載)」
WHOによる天然痘根絶宣言により、日本においても1980(昭和55)年には法律的にも種痘は廃止され、現在に至っている。なのに本作が天然痘ワクチンの製造について進んでいくことに対して、『なぜ、根絶宣言しているのになぜワクチンが必要であるのか?』その理由がわからず、これはもしかして、最終的にバイオテロの話しに展開していくのではないかと予想。ワクチンではなく、ウイルスそのものに話が展開し、バイオテロとして落ち着くのではないかと疑っていた。
しかしながらバイオテロまでには進展しなかったし、話が最後は人間関係と共に収束し、自分の想像に多少なりの自信があったので、若干の消化不良で終わった。
機会が有れば、「MAZE」を読んでみようと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
神原恵弥を主人公に置いたミステリィ。H市に妻子持ちの男を追いかけていった双子の妹を連れ戻しにきた恵弥は、その個人的な目的とは別に彼は噂の『クレオパトラ』についても調べに来ていた。だが妹と再会してすぐ、男が死んだことを知らされる。その男こそ『クレオパトラ』について調べている人物だった。『クレオパトラ』とは何なのか。男の死は事故なのか、殺人なのか。様々な人間の思惑と感情の蓄積とが絡まりあい、終わりまで飽くことなく読める。季節も近くて個人的に良かった。終わり方もあっさりしすぎず、種明かしをしすぎず、まとまり過ぎずで好ましかった。
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女言葉を話す主人公(男)がいたら面白いのになぁと思っていた矢先、恵弥という男性が私の前に現われて感激!
日常のささいな疑惑や推理が積み重なると、何でもないことでも260ページ近いミステリーになるんだなぁ。 -
MAZEの恵弥に惚れてしまい、また会えると即購入。しかしながら・・・・MAZEの時ほどの感動は味わえず、ちょっと残念だった作品。
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とても現実的で日常的に怖いはなしなのにファンタジーめいてしまうのは、作者の文体ゆえなのか、それとも扱っているテーマが深刻かつ世界的すぎていっそ喜劇みたいだからだろうか。
わりとスケールは大きいのに、非常に個人レベルでそれも主観的情緒的に扱われるところで、非現実感、不安定な感じの読後感になったのかもしれない。
とりあえず世界をまたにかけているわりに、恵弥さんは詰めが甘すぎやしませんか。
そして最後まで私は「橘くん」が切り札だと思ってました。穿ちすぎた。 -
シリーズの中で1番面白かった。タイトルが秀逸。
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シリーズ前作「MAZE」の方がファンタジー色が濃くて好み。アンソロの「ショートショートドロップス」に載ってた恩田さんの「冷凍ミカン」なんかの本でエピソード使われてたなと思い出しての再読。登場人物の駆け引きが面白いから事件を少し簡単にして2時間の心理サスペンスドラマに仕立ててもよさそう。
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なるほど~『ブラック・ベルベット』の前にはこんな話があったのね~納得~。まぁ、あるかもしれないもの、を探すのは確かにロマンではありますわな。やっぱり恵弥のキャラクターにはどうもなじめないけど…『MAZE』も再読してみようか…(^-^;