鳥を探しに

著者 :
  • 双葉社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (664ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575236859

感想・レビュー・書評

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  • 詩人の平出隆の二作目の小説。二冊目にしてこれか、と思えるほどの堂々たる大作。厚さ約5センチ。二段組み659頁という造本は、まるで辞典サイズ。詩人のこの作品にかける思いが伝わってくる。もともとは「小説推理」に2004年の暮れから2008年の夏まで連載していたものである。

    表紙では、Ich Romanと、一人称小説をうたってはいるが、なかなかどうして、そんなひと言で括ってしまえるようなしろものではない。簡単に言えば、用意した数冊の本を一度ばらばらに解体し、二、三ページずつ、きりのいいところでまとめ、それらを時系列にそって、トランプの7ならべでもするように数段に並べておいて、はじめは一段目と二段目を交互に紙取りし、次には、三段目と四段目を交互に、その次は二段目と五段目というように紙を取っていったものを最後にもう一度全部綴じるとできあがる、そんな本なのだ。

    話者である「私」は、左手堅という名の詩人で、編集者でもある。といえば分かるように、これは作者平出隆に限りなく近い人物として創造されている。小説は、その「私」が、祖父である左手種作の遺した原稿を頼りに、実はそれまであまり深く知ろうとはしてこなかった祖父や父の姿に迫ろうとする探索行を描いている。

    問題は、複数の時系列に沿って、断章形式でぽつりぽつりと提示される探索行の間に挿入される、祖父種作の遺稿にある。在野のエスペランチストで、中西悟道とも親しかった鳥類研究者。独学で学んだ外国語を駆使し、極地探検の記録や金鉱堀りの手記等、少なからずの文章を翻訳している。作者は、祖父の行状を探ったり、祖父の遺稿に登場する人物を調べたりする探索行を記した文章にそれら複数の祖父の遺稿を、やはり断章形式で挿入していく。

    読者としては複数の物語が同時進行していくのを追うだけでも大変なのに、その間に、鳥やら樹木やらに関する図鑑の解説ふうの文章まで読まされるわけで、趣味を同じくする人には楽しいのかも知れないが、一般の読者には正直、抵抗のあるところだろう。ただ、弁護するわけではないが、左手種作の手になるとされる文章、平易である上に格調さえ漂うもので、現代日本語の書き手として定評ある作者の文章と交互に並べられても、なんら遜色のない達意の名文である。であるからか、たしかに膨大な量の文章なのだが、終わりに近づくにつれ、この続きが読めなくなる寂しさが襲ってくるから不思議である。

    自装の表紙に惹句めいた短文が書かれている。「孤独な自然観察者にして翻訳者でもあった男の/遺画稿と遺品の中から/大いなる誘いの声を聴き取りながら育った私は/いつからか、多くの《祖父たち》と出会う探索の旅程にあることに気づく。/絶滅したとされる幻の鳥を求めるように/朝鮮海峡からベルリンへ、南北極地圏の自然へ、そして未知なる故郷へ。/はるかな地平とささやかな呼吸を組み合わせ、/死者たちの語りと連携しながら、数々の時空の断層を踏破する/類ない手法―コラージュによる長篇 Ich-Roman」

    すべてはここに語り尽くされている。これはそのような作品である。

  • 星があれなのは読書ツールで対応しきれないほどの
    分厚さ!!だったからなのです。
    もう驚きの厚さよ。
    直近の上下巻よりもさらにパワフルよ。

    一人の男性が追いかけた、祖父の記憶。
    父の死期が近いことを感じつつ、
    彼は祖父の人生を追いかけていく…

    詩人の各作品はどうしてこんなにも
    透き通っているのでしょうか。
    本当に不思議でしかないです。

  • 言葉では言い尽くせない素晴らしい読書体験でした。読み始めてから約2週間、毎日帰宅後この本を読むことに一日の重きを置いていました。650ページ強の質量はするりと日々の過程の中に馴染み、移ろいて彩りと気配となって、言葉に生命が宿る瞬間を捕らえます。詩人の鋭さよりもここでは素直な言葉がひとつひとつ零れ落ちぬようゆっくりと語られています。小説の核となる実祖父種作のスケッチによる装丁も美しく、カタチとして眺めるだけでも十分に充たされます。想念は渦巻き、まだまだ余韻はつづきます。

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著者プロフィール

多摩美術大学教授

「2011年 『私と世界、世界の私』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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