夜行観覧車

著者 :
  • 双葉社
3.27
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本棚登録 : 7756
感想 : 1167
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575236941

作品紹介・あらすじ

高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。その家族と向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。『告白』の著者が描く、衝撃の「家族」小説。

感想・レビュー・書評

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  • 自分的にはかなり好きなタイプだった。この前読んだ花の鎖もそうだけど、人物の目線が変わっていくタイプ。
    主に遠藤家と高橋家のふたつの家族の目線で進んでいく。
    個人的には登場人物の中では彩花が好きだった。癇癪を起こしてしまう決して良い性格ではないけど、どこか忘れられないところがありました。

  • 何か自分の想像を遥かに超えるような事が起こった時、人は孤独を恐れ、人との繋がりを求めます。2011年に東日本大震災が起こった時に散々叫ばれた言葉、それが『絆』だったように思います。人と人との絆、繋がりを考える時、家族をまず頭に思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。そんな家族に我々は何を求めるのか。内閣府の調査によると『団欒の場、憩いの場』と答える人が圧倒的なようです。一緒にいることによって安らぎが得られる、安らぎを感じられるということかと思います。一方で隣近所との関係はどうでしょうか。同じ調査では、『会った時に、挨拶をする程度』が望ましいと答える人の割合が近年増えてきているようです。適度に距離を置いた繋がりを求める傾向にあるということでしょうか。でも、隣近所と言っても不思議なもので、たまたま同じ町内という括りに入ることによって、何だかその存在がとても気になるようになります。積極的に関係するつもりはないのに、存在は気になってしまう。それによって何かしら影響を与え合うこともあるかもしれません。人は近くにいてその存在の影響を受けずにいることなどできないのかもしれません。

    『市内で一番の高級住宅地、ひばりヶ丘。ひばりヶ丘に家を建てた。真弓の夢は一戸建ての家に住むことだった』という真弓。『啓介と結婚し、彩花が生まれ、家を建て、自分の人生は想像以上に思い通りにいったのではないか、と思えた期間は、果たして一年あっただろうか』と、念願の一戸建てでの生活にも暗雲が立ち込めます。『彩花が受かっていれば自分も今頃同じような愚痴をこぼしていたかもしれない。でも、癇癪を起こされることもなかったはずだ』と、中学受験失敗を機に親子の関係に亀裂が入ってしまった遠藤家。『確か十時頃だったかな。声が聞こえました。助けてとか、許してとか。それに対して、アーとかオーとか。なんか、ドシャンって壁に重いモノをぶつける音もしてたっけ。そんな感じです』という音が遠藤家の前に建つ高橋家から聞こえたのを聞いた真弓と彩花。パトカーの到着、そしてマスコミの取材班が多数取り囲む高橋家。『救急車で運ばれたのは高橋家の主人、弘幸で、頭を殴打されていたって。ねえ、すごいよ。殺人事件だよ』と隣家を襲った事件が、やがて遠藤家にも影響を及ぼしはじめます。そして、まさかの家庭崩壊の危機に陥いる遠藤家。高橋家の三人の子どもたち、そして隣人の小島さと子も巻き込んで、平和だったひばりヶ丘の閑静な住宅地の日常が大きく揺らいでいきます。

    登場人物に順に光を当て、第一人称を移していくという湊さんお得意の手法が巧みに駆使されるこの作品。特徴的なのは、単に各登場人物に順番に視点を移していくというのみならず、遠藤家、高橋家、それぞれの家族の中での視点移動を入れ子に二重に視点を回していくという凝った方法がとられています。第一人称が変わる度にどんどん事件の全容がはっきりしていきますが、それだけではなく、家族の中での視点移動によって、その家庭内でのある行動が他の家族のそれぞれからはどのように見えているのかという点が垣間見えるのがとてもリアルです。また、独り身で登場する小島さと子だけは、海外に暮らす息子と電話で話すという設定で第一人称が移ります。同じパターンでなくこのように変化をつけることでストーリーにいい塩梅で起伏が生まれるだけでなく、結末の段で効果的な役割も果たすことになります。このあたり、お得意の視点移しの枠にとどまらない工夫を感じました。

    また、一般的に殺人事件などが起こると、テレビのワイドショーや週刊誌がセンセーショナルに書きたてることで、それに影響された人々がネットで様々な中傷を書き込んだりしてどんどんエスカレートすることがあります。これを湊さんは『事件が起こり、警察につかまり、裁判所で刑が下されるだけでは、裁きを受けたことにはならない』と登場人物に語らせます。そして、『見ず知らずの人間から中傷を受け、社会的に葬られることにより、加害者だけでなくその家族や親戚たちも、取り返しのつかないことを起こしてしまったと認識し、深く反省することができるのではないだろうか』と語らせます。本作の高橋家の人々も散々な状況に陥りますが、そこから、立ち直るために思いを巡らせて、その関係を逆に強くしていきます。そして、同様に壊れかけた遠藤家含め、やはり家族の繋がりはどこまでいっても特別なものであるということを改めて感じました。家族は他の人間関係と違って、選ぶことも変えることもそこから逃げることもできません。人間関係の中でも特別な関係、それが家族です。そうであるが故にそこにはある種の諦めの境地が漂う時もあるかもしれません。逃げたくても逃げられない家族、でも一方で、追い詰められた時に、他の親しかった人たちが全て去ってしまった時でも、最後の拠り所となるのが家族です。それもあってこの作品の結末で、壊れかけた家族に少し光が見えたところはせめてもの救いでした。

    高級住宅地に頑張って居を構えたら…、子どもがお受験に失敗したら…、人ではなくその人の職業を目当てに結婚前提で付き合う彼女がいたら…、決して創作の世界の中だけでなく、世の中にありそうなこういった微妙なシチュエーション。そのたらればの人生の先に待っている未来を生々しく描き出したこの作品。起こった殺人そのものにではなく、一見どこにでもいそうな普通の家族が、その関係の中でのちょっとした気持ちのズレをきっかけに大きく壊れていく恐ろしさを感じました。

    湊さんの作品としては結末の嫌な感じは少なめ、どちらかと言うと光が差すのを感じる結末でした。しかしその一方で、第一人称が移っていく中で、感情移入できるような登場人物がいないというなんとも読書中気持ちの持っていく場のない、もやもやとした不快感が終始付き纏うところに、やはり湊さんだ、と感じた、そんな作品でした。

  • 2021/08/15読了
    #湊かなえ作品

    高級住宅街に無理押してマイホーム。
    小さな歯車の噛み違いから家族関係
    が壊れ始める。
    結局家族に必要なものって
    会話とか思いやりとかなんだよなあ。

  • おそらく、再読です。でもちっとも覚えてない。そして、初めて読んだ時よりも違う読み方をしています。
    最初は湊かなえさんの描く、ドロドロとした人間像を中心に読んだのでしょう。
    でも今は。
    親子関係、特に母子関係、を中心に読みました。とてもリアル。「ポイズンドーター・ホーリーマザー」を読んで、改めて湊かなえさんの描く母子って根深くて苦しいなって思っていたけれど、「夜行観覧車」も、とてもリアルに描かれていて。
    「ポイズン~」のベースとなるような作品でした。

    高橋夫婦の会話から、何も分かっていない遠藤夫婦に引きました。これじゃ、彩花はしんどいよね。
    日常は意外と普通に過ぎていく。そんな中で何気なくかける言葉に、子どもが日々傷ついたり、苦しんでいたとしたら。子どもに逃げ場はない。親は、子どもに期待する。そして特に、母親にとって子どもは分身のような存在だ。けれど、子どもは、親の期待通りに生きないし、ましてや分身なんかでは決してない。
    子どもの人生を決めるのは子ども自身だから。作品に登場した、主に4人の子どもたちの人生に幸があることを祈っています。

  • かなり前の作品ですが、湊かなえ作品は何を読んでも面白い!
    人間の負の感情をあらゆるキャラクターで表現するのが本当に上手です。
    中高生、母親、父親などなどあらゆる世代のその時の感情が的確に表現されているので、読んでいてなんか色々思い出してきて自分の心もモヤモヤしてきました。笑
    ただ、ちょっと登場人物が多すぎて一気読みできない時は「誰だっけ?」となってしまいました。

  • 女社会の序列やエゴが、イヤというほどありありと書かれている。そして、必ず歪みが出るのだなぁ。人間、身の丈が大事である。

  • 娘に勧めてもらって湊かなえ氏の「夜行観覧車」を読みました。
    湊氏らしい展開で、とても楽しく読めました。

    一見幸せそうな 高級住宅地に住む家族の心の中のそれぞれの思いがテーマになっています。
    どうしても人と比べてしまうことから不幸が訪れます。
    「告白」に続き映画化もされそうな作品だと思いました。

    「幸せ」は決して人と比べてのものではないと思いました。。

  • 湊さんの物語とても好きだけど、今回は登場人物たちがピリピリしすぎてて、読みながら自分もピリピリ…少々疲れてしまった。
    これからの人生できっとストレスがすごいかかる時期もくるんだろうけど、そんなときこの物語を反面教師にして、思い詰めないようにしたいなって思った。

  • なんということだ…
    湊かなえさんの物語を読んでいると、自分がいかに他人の意見や情報に影響されやすいのかということを痛感させられる。まんまと彼女の思惑通りにあっちに悲しみこっちに憤り、どの人間も間違っているわけではなく、すべてその人の感覚からは正しい行動であり、別な価値観から見た結果、間違った行動であるということが複雑に絡み合っている。私自身、こういうことを子供に教えていこう、と決めていることがあるが、果たしてそれが万人に良いことなのか、私の価値観の中だけなのか、、、何がきっかけで、娘の価値観が形成されてゆくのかも未知。親である前に、人でいるということは、こんなにも難しく困難で複雑なことなんだと、これまた考えさせられる心理描写の本でした。☆10!

  • これまでよりは、ほんの少し後味がいい? 
    視点が変わり、それぞれの本音から次第に真相が。
    高級住宅地ひばりヶ丘に住む3つの家族。
    遠藤真弓は憧れの住宅地に住むようになったが、娘の彩花がおかしくなってしまった。
    近くの進学校受験に失敗して、知っている子のいない滑り止めの中学に通う羽目になった彩花は学校になじめず、家では爆発してわめくようになっていたのだ。
    なすすべもなく逃げ腰の父親・啓介。
    ある日、向かいの家で大きな声と物音が。
    問題がなかったように見えた高橋家の父親が殺され、品のいい母親が容疑者となる。
    しかし、次男・慎司は行方不明。
    その夜、真弓はコンビニで慎司に出会っていた。
    私立K中学のバスケ部の人気者で、ちょっとアイドルの俊介に似ている慎司に、彩花はひそかに憧れを抱いていたのだが…
    一家の長男は関西にいて、すぐには事件も知らずにいたが。親が再婚したので母とは血が繋がっていないが、分け隔て無く育ててくれたと思う。
    長女の比奈子は事件の関係者として疎まれ、親友の歩美からさえメールが来なくなったことに悩む。
    比奈子は母親に弟ほど期待されていないことを感じていた。
    お隣のお節介おばさん・さと子は常に近所の動向を見張っている。
    ただ嫌な脇役かと思うと、そうでもない。
    誰しもとんでもない部分も持っている!
    思いこんでしまうこともあるが、話し合えばわかることもある。軌道修正する可能性はあるという展開に。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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