誰かが足りない

著者 :
  • 双葉社
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本棚登録 : 1694
レビュー : 349
  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575237412

作品紹介・あらすじ

足りないことを哀しまないで、足りないことで充たされてみる。注目の「心の掬い手」が、しなやかに紡ぐ渾身作。偶然、同じ時間に人気レストランの客となった人々の、来店に至るまでのエピソードと前向きの決心。

感想・レビュー・書評

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  • どこか懐かしい雰囲気のテーブルと椅子を
    温かい光が照らす、素敵な表紙写真。

    そんなイメージそのままの
    素晴らしくおいしい料理と、感じのいいもてなしで
    なかなか予約の取れないレストラン、ハライに
    同じ10月31日の午後6時に予約を入れることになる、
    6組のお客の物語。

    就職に挫折して以来、流されるままに生きる「予約1」の青年は
    「少しでもうれしいほうへ」と連れていこうとしてくれていた恋人の
    気持ちを汲み取れず、離れていった思い出の中の彼女を。

    「予約2」の、進行する認知症に怯えるおばあちゃんは
    つまらない嫉妬から、生きているうちにハライで一緒に食事をして
    しあわせな時間を共有する機会を逃してしまった、今は亡き夫を。

    形だけの出世で、仕事と人間関係のストレスだけが増えた
    「予約3」のOLは、いつのまにか去った恋人ではなく
    本当に辛かった時に不器用なやりかたで助けてくれた幼なじみを。

    死に至る病を笑顔で告白した母が亡くなって以来、人を信じられず
    ビデオカメラのレンズを通さなければ人と接することのできない
    「予約4」の青年は、そんな兄を気遣いながら、
    いじめに遭っている友達にまで手を差し伸べていた妹と、その友達を。

    「予約5」の、ブッフェレストランでひたすらオムレツを焼き続ける青年は
    心をこめて焼き上げたオムレツを「できそこない」と突っ返しつつも
    思い出の曲「水星」のクラリネットパートを偶然にも一緒に口ずさみ
    昼寝のために部屋を貸してほしいと頼み込む、ちょっと変わった女性を。

    そして、人の「失敗の匂い」を嗅ぎわけてしまう「予約6」の女性は
    失敗を察知したのに救えなかった叔父への罪悪感から
    思わぬ形で救いの手を差し伸べることになった青年と、
    まるで運命の糸が引き寄せたかのような因縁を持つ、青年の彼女を。

    それぞれの物語の始まりには
    喪失の痛みや、思いを分かち合う誰かに巡り会えていない焦りを
    どうしようもなく抱えていた彼らが、
    ラストシーンでは、おいしそうな匂いの漂うハライの店内で
    空いている向かい側の椅子に座る、「足りない誰か」を
    待つことのしあわせを噛みしめながら、待っている。

    踏み出すための小さなきっかけを懸命に掴み取ろうとする姿を
    宮下奈都さんらしい、ハッとする言葉を散りばめて
    丁寧に描いた、素敵な作品です。

  • 宮下さんのエッセイ「はじめからその話をすればよかった」で、本書のことがかかれていた。
    読者人気は6編にばらけたが、自分がとても好きな1編がある、ということで、どれだろう?とドキドキしながら読み進めた。

    悲しい、むなしい、やりきれない、寂しい、怖い、、、
    「誰かが足りない」ことで湧き上がる感情を抱えている登場人物たち。
    でも、それぞれにきっかけがあって、少しずつ、心が前を向く。
    時計の秒針が進んでいくようにゆっくりと、でも同時にダイナミックに、心が動き出す様子が描かれる。

    「心の掬い手」って、本当にその通りだと感じた。
    自分の中にもある、さらけ出せないようなネガティブな感情も、宮下さんの物語を読むことで行き場を見つけて、昇華されていく。

    私は、最後のお話が一番すきだったな。

  • 大切な「誰かが足りない」人々が集まる、10月31日の午後6時。
    場所は広場に面したとてもおいしいレストラン「ハライ」。

    物語は、それぞれが誰かが足りないという思いを自覚して受け止めていき、おいしいものを食べようと「ハライ」に行こうと思うまでを描いています。
    どの話も、それぞれの心のしこりが温かいスープで溶けていくようでほんのりやさしんのだけど、ちょっと印象が弱い。
    実は、ちょっぴりホラーな話かと勝手に思っていたりしたので。
    いい話ではあるけど、何かが足りない感じがしました。

    いろいろ停滞してくさくさしても、おいしいごはんを食べようと思うだけでちょっと元気になれるんだよね。

  • さらっと読めます。
    切なくて、ほのかに暖かい。

    「ハライ」という名のレストランは、煉瓦作りの古い一軒家。
    料理が美味しいと評判で、予約を取るのも大変だという。
    席に座って、あたりを見回し、空いている席を見て、誰かが足りないのかと思う…
    「ハライ」に予約を入れた人物、それぞれの物語が描かれます。

    予約1は、北の町から出てきた青年の話。
    大学で4年、勤めて4年。
    この町を8年間動かなかった人間は、同級生にも少ない。
    両親が待っていることを知りながら、帰らなかった。
    一時は内定した会社が卒業前に倒産、今は水口商事というチェーンのコンビニで働いているのだ。
    学生時代から付き合っていた未果子が、ある日突然、他の男と結婚すると知る。
    この町で就職したのは、未果子のことがあったからだったのに。
    未果子が美味しいと言っていた「ハライ」という店のことをふと思い出す。聞き流していたが、一緒に行こうと言うべきだったのではないか…?

    予約2は、認知症になっている女性。
    「最近何かニュースはありましたか」と家族にもよく聞かれるのをあまり好きではない。
    (認知症の進行ぐあいを確かめるための質問らしい)
    夫が亡くなったことを忘れてしまったり、気がついて悲しんだり。
    孫娘のあかりと、ハライに行く約束をするが、そのいきさつも忘れてしまう。
    ただ、夫とハライに行こうと楽しみに考えるのだった。

    予約3は女ひとりで係長になり、何かと尻ぬぐいばかりさせられるのに残業代がつかなくなっている女性。
    隣の家のヨッちゃんの車が駐めてあるのに気づく。

    予約4は、引きこもりの青年とその妹の暮らし。
    兄は、カメラを回しながらでないと人と話せない。
    3年前に母が病気で亡くなってから、人が信じられなくなっていた。
    姉が結婚をためらっているのに気づいて、杖か楯のようにビデオカメラを抱えて人前に出るようになる。
    高校生の妹は兄を心配し、家に友達を連れてくる。

    予約4はブッフェレストランで料理している男性。
    よく来る女性客に、本格的に作ったつもりのオムレツを出すと、これはぐちゃぐちゃの失敗作だと言われてしまう。
    彼女が疲れている様子なのが気になり…

    予約5は、子どもの頃から、なぜか、失敗の匂いに気がつくという女性・留香。
    叔父が失踪し、後悔していたが…
    失敗がいけないんじゃない、そこで絶望しなければいいんだ、というメッセージ。
    そして、おいしい物を食べましょう☆

    2011年10月発行。

  • 美味しいレストランの料理や店員さんが大活躍の最近ありがちな本かと思ったら、レストランに予約を入れるまでの人々の物語だったので、料理の美味しそうな描写でお腹が空くなんてことは特にありませんでした。
    ままならない人生に中で、美味しいものを食べるという事をポッと灯った灯台のように得描いていて、劇的ではないけれど身に染む切なさを描くのがとても上手い。短期的に見れば美味しいものを一回たべただけで 何が変わるわけでは無いけれど、死ぬまで無数に食べてきたもので出来ている人間という存在として、大事な人と一回でも多く食卓を囲みたい、美味しいお店で笑い合って食事をしたいという感情を大事にしたい。そう思わせてくれる本です。
    たった一回の食事が思い出になる。そういう事も有るし、積み重なった何千という食事の記憶が一つに重なって僕らを形作っているとも思います。

  • 人気のレストランの同じ日同じ時間を予約した人たちの
    それまでのお話。
    一篇々々はじんわりいい話だけど
    最後に一つ何か仕掛けがほしかった。
    例えばレストラン側の目線とか。
    あと帯の書店員絶賛ぶりは逆効果。

    【図書館・初読・2/5読了】

  • 何かが足りない

  • 「美味しい」とだれからも評判を得ているレストラン「ハライ」。同じ日にそのレストランの予約を入れることになる、6組の客のそれぞれの物語を描いた短編集です。
    登場人物たちそれぞれが、今現在にぼんやりとした不安を抱いています。その想いは「誰かが足りない」という言葉に集約されて表されます。物忘れが進んできた老婦人、とあることをきっかけにビデオを通してしか世界と触れ合えない青年、ランチに来る客に淡い想いを抱く料理人。それぞれのささやかでリアルな感情のゆらめきが、さざなみのようにやさしく丁寧に描写されます。
    展開はあくまでそっとしたもので、大きな感動を呼ぶつもりもない、ほんのりあたたかな気持ちになる、寄り添うようなお話ばかりです。けれどそのささやかさこそが、ちょっと贅沢な食事をして味わう幸福に似たものであるように感じました。
    そこで訪れる幸福は、日常のなかで味わう「幸せ」とはまたちょっと違いますし、いつも欲しいというものでもないでしょう。けれど、たまには与えられたいという温かさが、確実にそこに行けばあるというのは、とても心強いものだと感じたのでした。「ハライ」、行きたいな、いいなあ。そう思わせる雰囲気を感じさせられたことで、この本は成功していると、そう思いました。

  • 心に隙間が空いたような、満たされていない気持ちを抱えた人たちが登場する短編集。

    喪失感を乗り越えて新たな時間が進んでいくという様なストーリーにはなっていますが、うーん、なんか暗い気分のままなのはなぜ?

    決して嫌いなストーリーではないんですが、良かったとは思えませんでした。

    読み終わってもほとんど印象に残らず。

    この作家さんの文体が私の好みと合わなかったのかもしれません。

  • 普通の短編集で良かった気もする(・ω・)
    無理矢理ハライに持って行ってる感が拭えないけどあっさり読みやすかった。ホッと一息。

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プロフィール

宮下 奈都(みやした なつ)
1967年福井県生まれ。上智大学卒業。2004年、「静かな雨」で文學界新人賞に入選し、デビュー。日常に起こる感情の揺れを繊細で瑞々しい筆致で描きだす作品で知られる。『スコーレNO.4』が書店員から熱烈な支持を集め、注目を浴びる。
代表作に、2016年本屋大賞、ブランチブックアワード2015大賞、「キノベス!2016」などを受賞した『羊と鋼の森』があり、2018年6月に映画公開される。ほか、福井からトムラウシに移り住んでいた頃の日々を描いた『神さまたちの遊ぶ庭』や、福井での身辺雑記や本屋大賞受賞前後のエピソードなどを描いた『緑の庭で寝ころんで』がある。

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