二千七百の夏と冬(下)

著者 :
  • 双葉社
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本棚登録 : 370
感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575238648

感想・レビュー・書評

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  • 15歳のウルクは、ピナイ(集落の名)で父親がいないために
    バカにされたりしつつ、大人と同じように狩りができるように
    少しずつ腕をみがき、母や弟を大切に生活していた。
    ある日、山で迷った時に大きな陽の色のクムゥ(ヒグマ)を見る。

    誰も信じてはくれない陽の色のクムゥと父の死との関わりを知り、
    掟を破ったウルクは追放され、戻るためには
    海渡りと呼ばれる人達が持っているコーミー(コメ)を手に入れなければならない。

    少年の未知への世界への冒険と、生死をかけた陽の色のクムゥとの闘い、
    渡来系弥生人との出会いと恋が描かれる。


    とてもゆっくりした進み方ですが、丁寧に当時の生活が伝わる細かな表現で
    引き込まれていきます。
    少年の心の動きが繊細で、狩りの準備をする動作のひとつひとつにも
    喜びや焦りや、大人たちへの憧れとか、伝わってくるんです。
    どうして自分は父親のことを覚えていないのか、とか。
    いつか大物をしとめられるようにウサギやムジナで練習のように日々狩りをするところとか、
    弓の大きさとか、矢に使う羽根の形とか、
    描写がほんとに細かいんですね〜
    そして、いよいよ死闘を繰り広げる相手、陽の色のクムゥと対峙する場面の描写は
    とてもリアルで迫力があって、ページをめくる手がとまりません。

    その後、弥生人との出会いがあり、
    狩猟で生活していた縄文人との生活の違いが、ここも丁寧に
    弥生人の農耕の生活を細かく描写されます。
    容姿も言葉も全然違っていて、長であろう人ワウが贅沢な暮らしをしていることや
    ウルクたちが狩りをするために使う弓矢を
    人を殺すための道具に使っていることに驚くのです。

    少年を主人公にしながら、
    縄文人と弥生人の違いをくっきりとさせて、
    壮大なスケールで描かれるアクションアドベンチャーと言ってもいいくらいの
    わくわくドキドキのストーリーでした。

  • あー、もう、本当に大満足の一冊。
    身体のすみずみにまで太古の息吹が行きわたった。
    二千七百年前、なんていうともう想像もできないほどの大昔と思うのだけど、親の親の親の…と30回繰り返すだけでたどり着いてしまうんだね。そう考えると、意外と近い気がする…

    教科書でさらりと習うだけの縄文時代から弥生時代への変遷。それはある日突然がらりと変わるわけではなく、何年も何十年も何百年も、かけて少しずつ入り混じり行きつ戻りつしつつ移り変わっていったものなのであって。
    そしてそこには今の私たちと変わらない人と人のいさかいと心の交流があったのだ、ということに改めて気づかされた。
    二千七百年前にそこにいたであろう一人の若者の成長と苦悩、そして死は、「日本人の進化」、というだけでなく、国とは、国籍とは、人種とは、という今の私たちがさらされている大きな問題をも突きつける。
    私たちは私たちが思っているよりもはるかに大きな世界をこの身体の中に抱えているのかもしれない。

    先日の新聞で、精神病院が空いた病室、もしくは病棟全てを使って退院患者の住居とする、というのを読んで思った。
    『二千七百年』に描かれている「自分や自分の所属するムラと違う文化を否定する」もしくは「自分と見た目の違うヒトを受け入れない」という問題は、今も変わらず存在していて、そこに今の日本の限界というものがあるのかもしれない、と。
    島国に生きる私たちが、世界の中で平和的に生きていくために考えなければならないこと、それを考える機会をこの一冊は与えてくれた。

  • あっおぅ‼︎ロマンだなあ〜〜‼︎
    山田風太郎賞を受賞しているんですね。古代のお話…ということで、今まで何度か手に取り、後回しにしていましたが、いやいや読んで良かった!荻原浩さんにハズレなしです。これ、映像化して欲しいなあ〜〜。
    物語は、現代と古代を行き来しますが、ほとんどは古代です。
    私はラスト5行で涙が滲みました。(涙もろいのです)

    2,700年前が本当の本当にどうだったか?というのは誰にも分からないことだけれど、今作での描かれ方は、かなりリアリティを感じます。と共に、とても面白いのが“言葉“ 。
    これから読む方にはお楽しみでもあるので、あまりネタバレしませんが、たとえば、犬がヌー、兎がミミナガ、など(ちなみに、これはとても分かりやすい例)に始まり、食べ物や植物、色々なモノの名前が出てきて、「う〜〜ん、これは何のことだろう?」と考え考え読むのも面白かったです。

    そうそう、ちょっと前に、FBで「Gパン」と文の中で書いたら、お友達から「今どき珍しい」と言われ(^^;;「ジーンズ」…いや最近は「デニム」と言う〜なんて話もあったけど、こんなに短いスパンでも言葉ってどんどん変わるんだから、そりゃあ2,700年も経ったら、同じ言葉の方が凄い!って感じですよね。

    上巻は少し時間かかりましたが、下巻はもう止まらず‼︎
    特に、クマとの戦いのあたりからは、ノンストップでした。
    もちろん、本の後ろに参考文献はいっぱいありましたが、まさに『骨は語る』であり、骨から、これだけの発想で紡がれる物語。圧倒的な面白さ‼︎ さすがだなあ、荻原浩さん!

    印象に残ったところを少し。
    ーーーーー
    一人の人間が、生まれてから死ぬまでの人生の長さを、まあ天寿を全うしたとして、仮に九十年としましょうか。これを二倍にしただけで、もう江戸時代になる。五倍で戦国時代。十倍なら平安時代だな。つまり、人が人生を三十回くらい繰り返せば、二千七百年くらいになっちゃうんですよ。

    すべてを知ろうとしてはならない。悪しき精霊は、なにもかもを知り、すべてを得ようとする者の心に忍び寄る。だが、ウルクは知りたかった。すべてを。

    命令や役目を何も与えられず、めざすところもわからず、寒さや空腹や渇きに追い立てられることもなく、大切なことに分別を働かせるのは、思っているよりも難しいことだった。自分で考える。自分で決める。自分で自分を動かす。

    ピナイの人々は、常に神が自分たちを見守っていると思いこんでいるのだろうが、世界がとてつもなく広いことを知ったウルクには、神々がちっぽけな人間ひとりひとりをきちんと見届けているとは思えなかった。

    歴史をつくっているのは国家や政治や経済じゃない。歴史は恋がつくっているのだ。

    何の努力もせずに手に入れられる戸籍を誇ったって、自分自身は一センチも前に進めない。
    ーーーーー

  • むかし、たつみや章の『月神の統べる森で』という本を読んだことがありまして…あの本も縄文から弥生への過渡期を舞台とした作品ですごく面白かった記憶があるので、今回の荻原作品もすぐに入り込めました。今作も異文化が触れ合う時の戸惑いやら喜びやらも描かれてて良かったんですが、うーんちょっと物足りなかったかな?言わばウルクとカヒィの最後は冒頭でもう分かっているわけだから安心して読めるんだけど、もうちょっとウルクたちの暮らしとか冒険も見ていたかったなぁ。いやぁでも荻原流・古代版ボーイミーツガール、面白かったです。☆4・5

  • 縄文人と弥生人、歴史の中でしか見たことのない表現だけど、彼ら・彼女らもまた日々を精一杯いきていた。
    涙があふれる。
    現代の物語が挿入されていたけれど、もっと長くて内容があってもよかったのに~あまり丁寧にかいたら、フィクションじゃなくなってしまう事柄だから?想像を広げられる小説で、出会えてよかった。

  • 人を魅了するものは災いのもととなってしまう運命なのか。
    米、それはとても甘くて美味しい食べ物。
    たくさん収穫するには、それなりの土地も必要。
    ただ、その土地を手に入れるには権力も必要か。
    あたしなら持ち帰ろうとせず、土地に馴染もうと安易な方法を選択しそう。

  • ウルクの厳しい旅の様子に手に汗を握る。2700年前が本当にこんな状況だったのだ、と心底思えるほどの臨場感。
    そして弥生人たちの集落にたどり着いたときのウルクの気持ちや戸惑いがそのまま伝わってくる。
    どうして人と人の間に階級があるのか、なぜ人に向けて弓をひくのか、「イクサ」ってなんだ、などなど、ウルクの疑問がとても新鮮なのだが、次第に悲しくなってくる。2700年たっても人は何も変わってない。
    ウルクたちは弥生人のような争い方はしないだろうが、迷信にとらわれ、小さく小さくなって暮らしている。知識があることの良さを知らない。
    ウルクとカヒィの行く末は、もうとっくにわかっていることなのだが、それでもその詳細は最後まで読まないとわからない。そして、最後まで読んだ時、哀しさと同時に希望もまた感じられたのであった。

    読み応えのある素晴らしい作品だったなあ。

  • なんやこれ

  • 縄文時代や弥生時代の小説は初めてで、こんな感じかぁ~て、でも、陽の色のクムゥの習性が上手く書けてて題名はとっても素敵だし、ドンドン読み進めて行けました。

  • 縄文時代と弥生時代の時空を越えた話(いわゆるタイムトラベルもの)かと勘違いして読み始めたど、なるほど過渡期の異文化交流の話だったか。熊との死闘が手に汗握る。

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著者プロフィール

1956年、埼玉県生まれ。成城大学経済学部卒業後、広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターに。97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞。14年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞。16年『海の見える理髪店』で直木賞。著作は多数。近著に『楽園の真下』『それでも空は青い』『海馬の尻尾』『ストロベリーライフ』『ギブ・ミー・ア・チャンス』『金魚姫』など。18年『人生がそんなにも美しいのなら』で漫画家デビュー。

「2022年 『ワンダーランド急行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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