残り者

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575239607

作品紹介・あらすじ

時は幕末、徳川家に江戸城の明け渡しが命じられる。官軍の襲来を恐れ、女中たちが我先にと脱出を試みるなか、大奥にとどまった「残り者」がいた。彼女らはなにを目論んでいるのか。それぞれの胸のうちを明かした五人が起こした思いがけない行動とは-!?

感想・レビュー・書評

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  • ”大奥”と聞けば、「お鈴廊下」や将軍の寵を競り合う女たちの正室と側室をめぐる抗争劇のような陰湿なイメージがあった。男性の目により描かれた多くのメディアの影響からだろうが、固定観念に縛られていた自分が恥かしい。今までの大奥物語を払拭する作品を送りだしてくれた作者に感謝したい。
    当時大奥では1000人の女たちが働き、大奥女中は江戸時代の女性たちのあこがれの職業だったという。武家はもとより大店の町人まで、娘たちを大奥に送り込み、娘の出世や引いた後の良縁を望んだともあった。
    物語には江戸城明渡しの日に居残った5人の女たちが登場する。「残り者」とは、官軍の襲来を恐れ大奥女中たちが我先にと脱出する中、大奥にとどまった5人の女。呉服之間のりつ、御膳所のお蛸、御三之間のちか、御中臈(おちゅうろう)のふき、呉服之間のもみぢ。彼女らはそれぞれの事情で大奥に働き、お針子や賄いなどの仕事にプロ意識を持っていた! 自立していたのだ! 技能集団でもあった大奥は、給金を支払い組織化されていたと今更ながら知り驚く。
    彼女らが居残った理由を読んでいる間に、江戸幕末の明渡しの時代背景や大奥の様子などが分り面白い。
    生活に貧窮しているりつの母が、大奥で働く伯母を「姉上もお寂しい事。誰にも嫁することなく子の一人もお産みにならずに」と、評しているのにも、今も昔も変わらない複雑な女の心境に納得できた。
    りつには緊張すると頬が強張り、見方によっては笑っているようにみえる癖があった。この癖が与えられたことで、りつは一大事にも冷静沈着に判断できると信頼を勝ち得たのだろうなぁ~。
    久しぶりに息子にも似た癖があったのを思い出した。部活の先輩や上司に注意された時「お前、反省しているか!」と、彼らの感情を逆なでして困ると愚痴っていた。
    今あの癖はどうなったのだろうか?

  • 江戸城明け渡しの前夜、大奥に奉公する5人の女中が退去命令に背いて大奥に残る。
    生まれる前から当たり前に存在し、未来永劫続くと信じられてきた江戸幕府。
    女中達にとっては「家」であり、女が自らの足で立てる唯一の「職場」。
    その生き甲斐と誇りを奪われ戸惑うのも無理はない。

    今までの大奥に対する陰湿なイメージとは違って、女達のイキイキとした大切な「場」であったことが分かった。
    奉公する場も居残る理由も異なる「残り者」5人は明け渡しに納得し、無事新たな道に踏み出せるのか!?
    天晴れな5人!
    読後、清々しい気持ちになれた。

  • 江戸幕府の終焉に伴う江戸城明け渡しの日、大奥の女たちが去った後にまだ残る五人の女の一晩の話。
    その後の篤姫や和宮の話は取り上げられることもあるが、名もなき奥女中や更に下の女中たちから見た江戸城明け渡し、大奥への想いなどは興味深く、新鮮だった。
    この五人の女たちはこの一晩があったからその後の時代の変化にも上手く乗れたようだが、大奥でしか生きられない女たちもいたはずで、その後の人生は様々なだったのだろうなとも思うと切なくもなる。

  • おもしろかった

  • りつに共感

  • 初出 2014-〜15年「小説推理」

     さすが私のひいき朝井まかて。今まで描かれることのなかった呉服之間や御膳所という大奥の職掌の人物を取り上げて、江戸城明け渡しという激動の日を、そこにいた人々がどういう思いで受け止めたかを描いている。

     貧乏旗本の娘阿藤りつは伯母の世話で大奥に上がり、足を引っ張り合って上を目指す小間使いの御三之間勤めに疲れ、呉服之間へ移って針仕事に生き甲斐をもって働いていたが、退去の日主天璋院(13代将軍家定夫人篤姫)に従って一橋邸に行くべきところ、大奥がなくなり職場を失うことに戸惑いひとり呉服之間に戻る。

     りつは、天璋院の飼い猫を探す御膳所の御仲居お蛸、天璋院が大奥に戻るのを待つという御三之間のちか、若侍のようだと人気の御中臈ふき、静寛院宮(14代将軍家茂夫人和宮)の呉服之間のもみぢに出くわす。出て行きたくないとふて腐れるもみぢと針仕事の腕比べをすることになり、日が暮れてふきは自分の部屋に4人を泊め、それぞれが身の上や大奥での仕事への誇りを語る。ふきは天璋院や静寛院宮が薩摩や京に帰らず徳川に残り、徳川家の存続と江戸の市民を守ろうとしていることを説き聞かせる。真の「残り者」は5人の女ではないのだと。
     翌朝、隠し部屋から引き渡しと略奪を目撃し、抜け道を通って危地を脱出する。

     最後に明治17年の彼女らが集う。
     ほっとする。江戸びいきの私としては、こういう人々がいて、苦労して生き抜いたことに胸が熱くなる。

  • 天璋院、静寛院宮が最後まで守ろうとした大奥で
    ずっと大奥で働くのだと思っていた女たちが
    突然、明日はどうなるかわからずに江戸城を出る日
    りつ、お蛸、ちか、もみぢ、そしてふき
    5人の女がそれぞれの理由で、感情で大奥に残る2日間
    本当にあったお話なんじゃないのかと思う
    こういうことがあったっておかしくないよと思う
    心の奥がジーンとなるような気持ちで読みました

  • 全力でもみぢを推したい

  •  時は幕末、慶応4(1868)年4月10日。
     江戸城無血開城の前日談を綴った歴史小説。
     城明け渡し直前の大奥内部の人間模様を描いた群像劇。
     天璋院が大奥からの退出を命じた後も、様々な事情から居残った五人の女たちの、一夜にして濃厚な関わり合いと心情が懇切に描かれている。
     呉服之間の針子・りつの視点で、御膳所の仲居・お蛸、御三之間の女中・ちか、静寛院宮(和宮)の針子・もみじ、天璋院付きの御中臈・ふきとの出逢いを通じ、大奥の組織構成と業務分担、幕府に対して果たした役割や機能、其処を我が家として生きた女性たちの矜持と人生観が詳述される。
     大政奉還=徳川幕府の瓦解という、巨きな時代の変化と世相を受け入れきれず、割り切れぬ想いに焦がれた彼女たちは、同病相憐れむかのように、時に嘯き、時に詰り、相手の痛みを探り合い、己の本心を手繰り寄せ、収束させてゆく。
     そうして、五人が陰ながら見届けた、大奥の終焉。
     人生を懸けて、大切に守り、仕えてきた場所が、文字通り土足で踏み躙られる現場を目撃した、痛みの臨場感が胸に迫る。
     バラバラにされた心の拠り所を掻き集め、胸に抱き、外へと向け、彼女たちは新たな一歩を踏み出すことになる。
     人生における勝負どころで敗けた時、挫けた時こそ、人間性が露呈すると言われるが、彼女たちの『残り方』は『敗け方』を追求した真摯さであり、如何に見事に人生の始末をつけるかが問われていることを象徴したものと思う。
     そして、いつの時代も、手に職を持つ者の生き強さは際立っているのだと感じられる。

  • 読んでる最中もとっても面白かったし、
    読了感もすばらしい。
    気持ちのいい小説でした。
    大好き。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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