- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575240665
作品紹介・あらすじ
一九四三年、上海。かつては自治を認められた租界に、各国の領事館や銀行、さらには娼館やアヘン窟が立ち並び、「魔都」と呼ばれるほど繁栄を誇ったこの地も、太平洋戦争を境に日本軍に占領され、かつての輝きを失っていた。上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本は、日本総領事館から呼びだされ、総領事代理の菱科と、南京で大使館附武官補佐官を務める灰塚少佐から重要機密文書の精査を依頼される。その内容は驚くべきものであった。「キング」と暗号名で呼ばれる治療法皆無の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は、途中で始まり途中で終わる不完全なものだった。宮本は治療薬の製造を任されるものの、それは取りも直さず、自らの手でその細菌兵器を完成させるということを意味していた―。
感想・レビュー・書評
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1943年太平洋戦争中の上海。細菌学科の研究員の宮本は、日本総領事館から呼び出され、領事代理と大使館附武官補佐官である灰塚少佐に重要機密文書の精査を依頼される。その内容は、治療方が未だみつかっていない細菌兵器であった。宮本は治療薬開発を頼まれ、灰塚少佐たちは細菌を追う。直木賞候補作ということで読んでみた…濃かった…そして長かった(歴史物が苦手なので流れを掴むまでやたらそう感じた)。開発者と細菌の行方で話が進む一方で、戦争の詳細の話、人体実験の話、大きな流れには逆らえないということ、非常に重いお話でもありました。読み応えあり。戦争は人を変えてしまうのか。何が正義かわからなくなってしまう。偏った欲望が戦争により人を狂わせるのか。登場人物たちはしっかり描かれ、特に軍人として生きる灰塚、科学者として生きる宮本、それぞれの運命がくっきり出ていました。欲を言えば、世界を守る物語でしたが、細菌が軸となり少々広げすぎか、宮本のより深い心情を出したり宮本灰塚色がより濃くても良いのでは。
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2018年上半期直木賞候補作品。初読み作家。
1943年、上海自然科学研究所で細菌の研究員として働く宮本敏明は、灰塚少佐から呼び出される。そこで新種の細菌 「R2v」 (キング) についての機密文書を見せられ、治療薬の製造を依頼される。しかし、治療薬を開発することは、細菌兵器として完成することにもなってしまうということだった。。。
登場人物の中には実名の者もいて、ノンフィクションなのかとも思ってしまう。時代背景の説明に割かれる分量が多いが、勉強にもなった。戦時中の故、通常ではあり得ないことも正しいことになる場合もあるのだろうが、だからこそ最後は人間一人一人の良心が問われることも。 -
序盤は登場人物と勢力図の把握に苦労して挫折しかけたが中盤以降は入り込めた。SFだけどノンフィクションかと錯覚するほどのリアルさ。受賞候補になったのも納得できる。補記までしっかり読むべし。
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細菌学を研究する宮本は、日本総領事館に呼び出され、ある存在を知ってしまう。
世界を破滅させかねないその存在をめぐり、さまざまな思惑がからみあっていく。
使い手の思惑によって、おそろしい存在にも、人類を救う存在にもなりえる、科学。
戦時中という悪しき方向へ行きがちな時代に、良心を手放す人間もいれば、善をつらぬき通そうとする人間もいる。
科学者として、最後までキングに向きあいつづけようとする宮本と、同じくなんとかしようとする人たちがすがすがしかった。 -
2018.4 上田早夕里さんの小説というより服部真澄さんの小説みたいでびっくりしましたが、変に大袈裟ではなく上質なハラハラドキドキ感で読ませてもらいました。
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圧倒的な情報を著者のセンテンスで紡ぐ。
一歩引いた目線は、むしろ緊迫感とことの恐ろしさを倍増させ、ただただ圧倒されるのだ。
圧巻。 -
新型肺炎感染に耳目をひきつけられているなかでの読書となった。15年戦争の中で石井の731部隊のしたことは知っていたが、人間がどう振る舞うかはその人の人間性による。すばらしい主人公だった。
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主人公である宮本氏の功績や徳のある人がらを主軸に、第二次世界大戦中の「R2v」を巡る攻防が展開される。最初のうち「王」の意味が分からなかったが、やがてこの恐ろしい細菌を使って目的に向かう面々の姿が明らかになると、その目論見が見えてくる。史実を使った小説で、灰塚などノワールものに出てきそうな濃いキャラクター。映画の断片を見ているような気分だった。最後に登場人物の後日の履歴があり、興味深かった。
著者プロフィール
上田早夕里の作品






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