破滅の王

著者 :
  • 双葉社
3.44
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本棚登録 : 320
レビュー : 62
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575240665

作品紹介・あらすじ

一九四三年、上海。かつては自治を認められた租界に、各国の領事館や銀行、さらには娼館やアヘン窟が立ち並び、「魔都」と呼ばれるほど繁栄を誇ったこの地も、太平洋戦争を境に日本軍に占領され、かつての輝きを失っていた。上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本は、日本総領事館から呼びだされ、総領事代理の菱科と、南京で大使館附武官補佐官を務める灰塚少佐から重要機密文書の精査を依頼される。その内容は驚くべきものであった。「キング」と暗号名で呼ばれる治療法皆無の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は、途中で始まり途中で終わる不完全なものだった。宮本は治療薬の製造を任されるものの、それは取りも直さず、自らの手でその細菌兵器を完成させるということを意味していた―。

感想・レビュー・書評

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  • 『夢みる葦笛』の「上海フランス租界祁斉路三二〇号」が好みだったので、図書館リクエストした本。(届いてから知ったよ、、、魔の二段組み……)

    舞台は…1943年 魔都・上海。

    各国の手駒が出揃うまでが長くて、途中でくじけそうになりました。
    点と点がつながっていく展開は推理ものみたいで、そこに科学も加わっていく。

    人間の手におえないものの渦に、どんどん巻き込まれていく様子が、ただただ恐ろしかった。真須木や址堂、藤邑の独白を読んだ時は、私のなかにも何かがしみ込んでくるようで指が震えた。
    人間の本質って一体、なんだろう…と、読んだ後も、ずっと考え込んでしまい頭から離れなかった。誰もが真須木たちのようになってしまう危険性を持っているということを忘れてはならない。

    正論と狂気は紙一重。
    紙一重というよりも境い目のない、表裏一体なのかもしれないと、この作品を読んで感じた。過度の自己愛と自国愛が生み出す万能感はどこか似ている。一度暴走するともう止めること(人の手で制御すること)は難しい。
    人間の手におえなくて勝手に動き出してしまうものが、本当の意味での破滅の王(キング)なのかもしれない。

  • 1943年太平洋戦争中の上海。細菌学科の研究員の宮本は、日本総領事館から呼び出され、領事代理と大使館附武官補佐官である灰塚少佐に重要機密文書の精査を依頼される。その内容は、治療方が未だみつかっていない細菌兵器であった。宮本は治療薬開発を頼まれ、灰塚少佐たちは細菌を追う。直木賞候補作ということで読んでみた…濃かった…そして長かった(歴史物が苦手なので流れを掴むまでやたらそう感じた)。開発者と細菌の行方で話が進む一方で、戦争の詳細の話、人体実験の話、大きな流れには逆らえないということ、非常に重いお話でもありました。読み応えあり。戦争は人を変えてしまうのか。何が正義かわからなくなってしまう。偏った欲望が戦争により人を狂わせるのか。登場人物たちはしっかり描かれ、特に軍人として生きる灰塚、科学者として生きる宮本、それぞれの運命がくっきり出ていました。欲を言えば、世界を守る物語でしたが、細菌が軸となり少々広げすぎか、宮本のより深い心情を出したり宮本灰塚色がより濃くても良いのでは。

  • 戦争は幸せになるためのものではない。戦争によって、どれほどの人たちの運命が狂っていったのか、未来が途切れてしまったのか、それを想像すると憤りと悲しさで息ができなくなる。一体、この思いは誰に、何に、ぶつければいいのだろう。

    上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本は、日本総領事館から呼び出され重要機密文書の精査を依頼される。しかし、その内容は「キング」と暗号名で呼ばれる治療法皆無の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は、不完全なものだった。宮本は、大使館附陸軍武官補佐官を務める灰塚少佐の下で軍属になり治療薬の製造を任される。「キング」の治療薬を完成させること、それはすなわち、自らの手でその細菌兵器を完成させるということでもあった。

    「キング」を生み出した科学者真須木。
    彼が何故このような細菌兵器を生み出したのか。そして「キング」がばらまかれた先に、何を見ようとしていたのか。
    彼を狂気へと向かわせたもの。それは単に彼の弱さや独りよがりの正義といったものが招いたものではないとわたしは思う。
    日本軍へ逆らう者たちへの人体実験。
    それが、彼を人として幸せになることが許されない「絶望」の淵に落とし、そこから産み出されたものが「狂気」であり「キング」だったと思うからだ。
    自分が優秀な研究者だったはずなのに、いつのまにか、残虐な殺人者になっている。この事実に精神が崩壊しないためにも「命令されたのだから仕方ない」「戦争中なんだから仕方ない」と自分に言い聞かせるしかない。そうでなければ心が壊れてしまう。ついに彼が出した結論が「キング」を使った戦争のない世界をつくることだった。けれど、これは決して許されるべきものではない。

    「キング」を利用しようとする者。「キング」を葬ろうとする者。双方の思惑が入り乱れ始めたとき、物語は動き出す。何人もの科学者の命と「キング」の数多くの感染者の命を犠牲にしながら。宮本たちは「キング」の治療薬の開発に全身全霊を賭ける。
    科学者は、どれほど相手が気にくわなくても、決して科学を悪用することで、特定の国家や民族を排除してはならないと宮本は語る。人は国家のためにあるのではないと。もし、真須木の傍らに宮本がいたら。もし、宮本が真須木の立場だったら……物語は別の方向に進んでいただろうか。それとも、やはり同じ結末を迎えていたのだろうか。

    戦争に正義などあるわけがない。そして、科学は戦争のためにあるわけではない。
    けれど、自分の信念を疑ったことなど一度もない人間の行動が、国益のためにと暴走しはじめたとき、それは人としての良心の呵責をも超越する。その人間が示す正義の前には何も届かない。

    この物語には、何かをやり遂げたり、ヒーローと呼べる人物はいないと思う。戦争が終結したところで、命あるものたちの人生は終わることなく続いていく。抱えきれないほどの自責の念や喪失感を背負って、それでも自分のすべき事を追い続けていくしかない。黙々と道を歩いていくしかないのだ。

  • 2018年上半期直木賞候補作品。初読み作家。
    1943年、上海自然科学研究所で細菌の研究員として働く宮本敏明は、灰塚少佐から呼び出される。そこで新種の細菌 「R2v」 (キング) についての機密文書を見せられ、治療薬の製造を依頼される。しかし、治療薬を開発することは、細菌兵器として完成することにもなってしまうということだった。。。
    登場人物の中には実名の者もいて、ノンフィクションなのかとも思ってしまう。時代背景の説明に割かれる分量が多いが、勉強にもなった。戦時中の故、通常ではあり得ないことも正しいことになる場合もあるのだろうが、だからこそ最後は人間一人一人の良心が問われることも。

  • 2018.11.10.前半星5後半星2で合計星3という感じだった。
    以前、ラ・パティスリーシリーズで好きだった上田早夕里さんが直木賞候補ということで読んだ作品。上田さんは元々SF作品が主流かなという認識で、もれ聞くこの作品の特徴は歴史に基づいたSF作品という理解だったが読み終わってそれでいいかなとおもっている。第二次世界大戦、日本軍、細菌兵器というと731部隊というと日本の闇という感じで本を前にしてなかなか読み始める気持ちになれなかったが、読み始めると冷静な筆致で落ち着いて読み進めることごできた。優秀でありながら日本軍の一員として非道なことに巻き込まれていく優秀な医師たちが描かれていき、無理なく物語に入っていくことができたのは大変良かった。治療法のない細菌兵器、キングことR2vを巡ってなんとかその治療薬を作ろうとする医師、そしてそれをサポートする少佐を軸に描かれていく。
    後半の結末に向けての描かれ方がいくら架空の話とあってもあまりに非現実的で荒い描き方であったのが非常に残念だったと思うが、多くの当時の資料をおそらく深く読み込まなければ書かれなかった作品と思うと作者に敬意を払いたいと思った。
    あと、直木賞選者の講評を読んでから読んでしまったのが残念。選評はたしかに当たっているところもあったが、ある種のバイアスがかかってしまうのでこれからは読んだ後に講評を読まなければいけないと思った。

  • 序盤は登場人物と勢力図の把握に苦労して挫折しかけたが中盤以降は入り込めた。SFだけどノンフィクションかと錯覚するほどのリアルさ。受賞候補になったのも納得できる。補記までしっかり読むべし。

  • 細菌学を研究する宮本は、日本総領事館に呼び出され、ある存在を知ってしまう。
    世界を破滅させかねないその存在をめぐり、さまざまな思惑がからみあっていく。
    使い手の思惑によって、おそろしい存在にも、人類を救う存在にもなりえる、科学。
    戦時中という悪しき方向へ行きがちな時代に、良心を手放す人間もいれば、善をつらぬき通そうとする人間もいる。
    科学者として、最後までキングに向きあいつづけようとする宮本と、同じくなんとかしようとする人たちがすがすがしかった。

  • 2018.4 上田早夕里さんの小説というより服部真澄さんの小説みたいでびっくりしましたが、変に大袈裟ではなく上質なハラハラドキドキ感で読ませてもらいました。

  • 圧倒的な情報を著者のセンテンスで紡ぐ。
    一歩引いた目線は、むしろ緊迫感とことの恐ろしさを倍増させ、ただただ圧倒されるのだ。
    圧巻。

  • 主人公である宮本氏の功績や徳のある人がらを主軸に、第二次世界大戦中の「R2v」を巡る攻防が展開される。最初のうち「王」の意味が分からなかったが、やがてこの恐ろしい細菌を使って目的に向かう面々の姿が明らかになると、その目論見が見えてくる。史実を使った小説で、灰塚などノワールものに出てきそうな濃いキャラクター。映画の断片を見ているような気分だった。最後に登場人物の後日の履歴があり、興味深かった。

  • ★★★☆☆

  • 28:めっちゃ熱かった。科学と正義、そして戦争。科学の進歩が危険と表裏一体であると知ってなお、研究を進めることが人類全体の幸福に繋がると信念を抱く科学者たちがめちゃくちゃ格好良く、けれどその信念がいかに脆く、詭弁となりうるかも同時に描かれる。たまらん……すき……。
    宮本の「我々は、作り出したものに対して、責任を取り続けなきゃならないんです」っていうのが、ほんと今のあれこれにじわっとくる。

  • 第二次世界大戦の前後で開発された細菌(R2v)をめぐる群像劇。細菌兵器として使われる恐れがあるR2vを日本と中国、ドイツなどが奪い合うような廃棄しあうような戦いがある。戦争が引き起こす狂気により、細菌の恐怖を感じつつも、細菌ひとつに振り回される関係者の姿は滑稽でさえある。人が戦闘であれ細菌であれ、たくさんの人が死ぬことを滑稽であると表現するのは良くないことと認識はしている。人の生き死にをかけた戦争が悪いのだ。

  • 731部隊の話は、過去何度も耳にした事があるが、ここまで詳細に書かれているとは・・。
    登場人物がほぼ実名なのも驚いたのと、部隊所属の研究者が戦後大手メーカーや有名大学で重職についている事実には震えが来た。

    薬害エイズ宜なるかな・・


    戦時下の満州を舞台に、新種のビブリオ菌・R2v(通称キング)を巡り、各国の細菌兵器開発の思惑に科学者の怨念が絡まり事態はカオスへ・・。
    軍人・灰塚が科学者・宮本を従え、キングの正体を探る中二人の間に生まれる奇妙な友情。

  • 今回の候補作の中で一番印象に残ったのは本作でした。
    とはいえ、手放しで絶賛できるかというとそうでもなかったりするのですが。

    まず気になったのは、人類が滅亡するかもしれないというスケールの大きな話の割には、真須木という科学者がR2vを作った動機がやや安直に感じられた点です。
    人間なんて所詮その程度ということなのでしょうが、個人的には物足りなく感じました。
    また、全体的に説明調の部分が多いところも、スリリングな展開の勢いを削いでいる印象です。
    いっそのこと歴史的事実なんか全部無視して、もっと大胆な筋書きにしてもよかったのではないかという気もしました。

    とはいえ、戦時下における個人の矜持、そして科学者としての倫理はどこまで国家に対抗できるのかというテーマは現代にも繋がるものがあり、とても興味深く読めました。
    日中戦争下の中国という、一歩間違えばネット民から袋叩きに遭いかねないような舞台を選んでいますが、不特定多数の読者を意識してでしょうか、とても丁寧かつニュートラルな立ち位置で描かれており好印象です。
    史実と創作の融合についても、これぞプロのお仕事という感じで違和感のない仕上がりになっています。
    最後に描かれるサプライズについては、人によって評価は分かれるところかもしれませんが、私はあの形でいいと思いました。何のことか気になる方は、是非読んでみてください。

  • 第2次世界大戦前後の支那、満州を中心に、日本人の関わりを描きつつ、新種の細菌にまつわる兵器開発と阻止の重厚な読み応えのある展開。
    前半は、時代や土地の状況がなかなか入ってこず、読むのに時間がかかったが、中盤以降はテンポよく読めた。
    18-82

  • 太平洋戦争中、中国で生体実験にまで手を染めて細菌兵器の開発を行っていた731部隊がモデルとなっている。そんな恐ろしいことをするのは、私たち普通の人間ではない怪物だろうと思いたいが、この作品にもあるように、当時の日本、しかも軍の絶対服従の空気の中で、仕方なく従っているうちに壊れていってしまった人が多かったのかも。真須木のとる行動は、最近読んだ「アメリカンウォー」の主人公を思い出させる。世界への深い絶望が、彼らに同じような行動を取らせるのか。

  • 未来系のSFであるオーシャンクロニクルと違い、第二次世界大戦中の中国における細菌兵器の話なので、その災厄の重さがよりリアルに感じるが、どうしようもない状況の中で、思惑の異なる人々が交差する様子はオーシャンクロニクルと同様面白い。

  • 大東亜共栄圏の名のもとに、満州が建国され、中国や諸外国と日本が衝突を繰り返しはじめた時代に、上海にある自然科学研究所で細菌学について研究をしている宮本。
    世情がきな臭さを増す中、日々学問を究めようとする彼の元に、灰塚と名乗る軍の人間が訪れる。協力を求められた宮本は、渡された文献から、恐るべき生物兵器の萌芽を知る・・・。

    科学は人を幸福にするのか、災禍をもたらすのか。
    人間は国家のために殺し合う生き物なのか、国境を越えて助け合うことができるのか。

    大きく重いテーマが、緊迫した状況の中、描かれる。
    登場人物それぞれに自身の信義があり、矜持がある。

    フィクションとはわかっていても恐ろしい話だった。
    実際に戦時中はこんなことがあったのかもしれない。
    過去だけではなく、現代でも、戦時中の国、あるいは、普通に外交をしている国でも近しいことが起きているのかもしれない。

    どの国も放棄しようとしない核問題だって、まさに「科学は人間にとって幸福か災禍か」の解のない問いそのものだろう。

    科学の恩恵を享受しながら、私たちは非常に危ういバランスの中を生きているのかもしれない。そんなことを読んでいて考えた。

  • 全く知識がないところに、ただ凄いなという感想。上田さん、こういったものも書かれるのですね。舞台は中国事変後の大陸、実在した上海租界、上海自然科学研究所などを舞台に、治療方法が皆無の新種の細菌をめぐるサスペンス。史実と虚構が入り交じり、その展開に引き込まれる。しかし、この時代の大陸での出来事を書くのは、さじ加減が難しいだろうな。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。2011年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。同作は「SFが読みたい! 2011年版」国内篇第1位に選ばれ、『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』の各表題作、『華竜の宮』の姉妹編『深紅の碑文』と合わせて《Ocean Chronicleシリーズ》と呼ばれ、読者からの熱い支持を集めている。近著に『妖怪探偵・百目』シリーズ、『薫香のカナピウム』など。

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