- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575241303
作品紹介・あらすじ
何をやってもうまくできない紙屋が家族のコネを使って就職したのは老舗の製粉会社。唯一の特技・文を書くこと(ただし中学生の時にコンクールで佳作をとった程度)と面接用に読んだ社史に感動し、社長に伝えた熱意によって入社が決まったと思っていたが――配属された総務部では、仕事のできなさに何もしないでくれと言われる始末。ブロガーの同僚・榮倉さんにネットで悪口を書かれながらも、紙屋は自分にできることを探し始める。一方、会社は転換期を迎え……?
会社で扱う文書にまつわる事件を、仕事もコミュニケーションも苦手なアラサー男子が解決!? 人の心を動かすのは、熱意、能力、それとも……? いまを生きる社会人に贈るお仕事小説。
感想・レビュー・書評
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文字を綴るコミュニケーションについて考えさせられる本。
メール、提案書、標語、社内報の執筆サポート、議事録、社史……主人公が文書を綴る業務ひとつひとつに真摯に向き合う姿勢はアツいです。
また、上司、同僚、役員、家族との関わりの中で、できること出来ないこと含め、自身を知っていく、そして自分の特徴を生かして目の前の状況をどう動かせるか考え抜く。サラッと読めてしまうけれど奥深い本を読んでしまったという感じです。
文字というフィルターを通して人や物事を観る、という主人公の視点、面白かったです。文章や文字は書き手の思いが滲み出る場所であり、書き手が思っている以上に読み手の心に影響を与える。普段何気なく文字を打ち込んだり、書いたりしてますが、自分の書いたものがどんな影響力を持っているのか、今1度考えるきっかけになりました。
文字を綴ることを大事にする主人公だからこその考え方、「何がこの人にこのようなことを書かせてしまったのだろう?」この問い掛けが何度か登場しますが、私にとって新しい考え方でした。少し嫌な気持ちになる文章を読むと、「性格が悪いのか」「向こうにも事情があるのか」「それとも自分の捉え方が悪いのか」と、視野の狭い偏った考えに陥ってしまいがちです。主人公の、1歩引いて状況を客観的に見つめ、問題の根源を探っていくアプローチ方法は是非とも身につけたいです。
主人公さん、書くということに対して、ほんとに真っ直ぐでした。「文書として残すのは会社としての原則。その社内文書の改ざんを許したらそのうち外にも嘘をつくようになるのではないか。会社を不振に満ちた場所にしたくない。何よりも社員に嘘をつかせることになるのは嫌だ。」
私自身、社内規定や文書を扱う仕事をしており、いち会社を綴る人として、背筋が伸びる思いで読みました。データ改ざんのニュースとかたまにありますし……。同時に、自分の仕事の意義を見いだせず路頭に迷って悩んでいたので、グッとくるフレーズばかりでした。 -
いわゆるお仕事系の物語とは切り口が全然違っていて、とても斬新でした。面白くてずんずん読めます。不器用すぎる紙屋、がんばれ!読み終えてから、会社を綴るってそういう意味ねと納得。
社内ではギスギスしてても一皮むけば、実はみんな意外といい奴なんだよね。きっと。 -
紙屋は人よりも、読むことと書くことは得意
それ以外はてんでダメ。
コピーを頼まれて取れば、大量に紙を無駄にして、斜めに印刷してしまう。ひとつ仕事をすれば、全てにやり直しがはいる。
そんなダメダメな紙屋くん。得意なことといえば、読むことと書くことだけ。出来る兄の紹介で面接を受けることになり、その製粉会社の社史に出会って読む。先代の社長までの輝かしい時代を知っている古参のおじさんたちには気に入られる。
榮倉さんは、パンの開発をしている。見つけてしまった彼女のブログでは旧態依然とした会社やおっさんたちのことをあげつらい、面白おかしく書いて、溜飲を下げているみたいだ。
総務に配属された紙屋くんは、みんながインフルエンザのワクチンを接種してくれないので、【再送】メールでお知らせをするように指示される。この文章ではダメだ。と、紙屋くんが書いたメールで、次々とみんなが任意のワクチンを接種してくれる。
人に伝わらなかったら、文章の意味なんてない。
この物語を読んでいて、会社にはたくさん文章があることに改めて気がついた。
“会社を構成する夥しい数の文書を大事に思う人が会社には一人くらいは必要なのかもしれない”
私もなんとなく、似たような案件の文章をコピペして、メールやお知らせに使ってた。自分にも誰かにも伝わらないわけだ。
紙屋くんはその、ボケたところを見込まれて、臨時重役会議の議事録の係を命じられる。
“私は自分が綴る文章には真実しか書きたくなかった。それだけだ”
そうして紙屋くんが起こしたことに、泣けて泣けて、朝のドトールで泣きながら読んだ。最後の最後まで『書くこと、伝えたいこと』を不器用にも諦めなかった。
こうして、本の感想を書くこと。日記を書くこと。誰かに何かを、伝えること。自分の気持ちを残しておきたいこと。文章を「自己満足で書いている」と、どこかで思っていた。
書いて残すことで、たまに誰かに何かが伝わることがある。私もやっぱり嘘は書きたくないし、残したくない。書くことは、やっぱり楽しい。 -
中学時代、読書感想文で佳作を受賞したことのみが心の支えとなり、読んで文を綴るだけが取り柄の男(紙屋)が主人公。なんとか製粉会社に入社するが(入社にあたっては、その会社の社史を読み面接にて社長や役員の支持を得た)、ミスばかりだが、文章を書くことで周りの信頼を得てゆく。そんな中、会社は大きな危機を迎え…。
『わたし、定時で帰ります』、『対岸の家事』で大いに共感し、今度はどんな内容かなあと期待を込めて読んでみました。地味な主人公だけれど、それがよかったかも。不器用ながらも自分のできることで力を発揮して活躍する、良い物語でした。登場人物たちの弱いところも実際の会社にいそうな方達ばかりで人間味があり現実感ありで読ませました。誰もが力を発揮できるのは難しいかも知れないけれど、希望を持てました。 -
唯一の取り柄が文章力しかない主人公。
それしかないと思っていた弟。出来が良くて両親の自慢の兄に比べたら何もない自分が惨めでもあった。
何もない、そう、思っていたのは自分だけでその取り柄を兄は羨ましいと思っていた。
取り柄とは他者から見たらものであることが多い。それを自分の武器だと思うことが出来たから会社で役割を果たせたのだと思う。
社史なんて、誰も読んでない。そんなものでもちゃんと2000円も出して買って隅々まで読める男。だからだと思う。ここまで生き残り会社を動かせたのは。
自分ができることをとりあえず真摯にやってみる。それってとても大切だけど意外に蔑ろにしがちだ。
泥臭くて要領が悪くてたまったもんじゃない。
そう思われる。でもそういうことも、ちゃんとやる。
効率を求める社会では確かにお荷物だ。でもそれだけ真っ直ぐで正直ならいつか見つけてもらえるということか。
人は自分が苦労して手に入れなかったものは、元々持っていたものにはあまり有り難みを感じない。
背が高いからバレー選手に、足が長ければモデルに。
歌が上手いなら歌手に。
なればいいのに。と言われそんな簡単なものでもないし、興味もない。自分の苦労などわかるもんか。と思うこともあるだろう。
でもその、あなたにとって有り難みの欠片もないものに憧れる人も少なからずいる。
下手に構えず自分のパーツの一つして受け止めてあげることも大事な気がした。
私の中にあるけども私の気付けていないパーツがもしかしたらあるのかもしれない、そんな希望が持てた。 -
19/01/13
自分は榮倉さん側で、できれば淡々と仕事をやり遂げる栗丸さんになりたかったような人間なので、紙屋さんと働くことになったらもう相当ストレスだろうと思う。
思うけれど、言葉や文章のちから、綴ることの大切さは忘れずにいたいし気を払いたいので、その重みがすとんとはいってくる物語だった。追記。綴ることの大切さより前に、自分が少しでも得意なこと、思いがあることでがんばることの重みもありました。
兄家族が素敵。