会社を綴る人

著者 :
  • 双葉社
3.40
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本棚登録 : 685
感想 : 98
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575241303

作品紹介・あらすじ

何をやってもうまくできない紙屋が家族のコネを使って就職したのは老舗の製粉会社。唯一の特技・文を書くこと(ただし中学生の時にコンクールで佳作をとった程度)と面接用に読んだ社史に感動し、社長に伝えた熱意によって入社が決まったと思っていたが――配属された総務部では、仕事のできなさに何もしないでくれと言われる始末。ブロガーの同僚・榮倉さんにネットで悪口を書かれながらも、紙屋は自分にできることを探し始める。一方、会社は転換期を迎え……?
会社で扱う文書にまつわる事件を、仕事もコミュニケーションも苦手なアラサー男子が解決!? 人の心を動かすのは、熱意、能力、それとも……? いまを生きる社会人に贈るお仕事小説。

感想・レビュー・書評

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  • ★3.5

    注意散漫で自信がなく、何をやってもうまくできない紙屋(30代・独身)は、
    なんとか老舗の製粉会社に就職することができた。
    しかし配属された総務課では、あまりの仕事のできなさに何もしないでくれと言われる始末。
    営業部のおじさん達にイジられ、ブロガーの同僚にネットで悪口を書かれながらも、
    唯一誇れる文章への愛をたよりに紙屋は自分にできることを探し始める。
    会社で扱う文書にまつわる事件を、社会人偏差値低めなアラサー男子が解決!?
    人の心を動かすのは、熱意、能力、それとも?

    主人公は30代・独身の紙屋くん(仮名)
    気象予報士兼タレントの父、料理研究家の母、サウジアラビアで巨大ビルを建設中の兄を持つ。
    華麗なる家族の中でひとり何をやってもうまくできない紙屋くん
    唯一の特技・文を書くこと(ただし中学生の時にコンクールで佳作をとった程度)
    やっとのことで製粉会社に初めての正社員として採用される。
    だがやはり仕事は、何をやっても駄目駄目。
    そんな彼に、少し苛々(笑)
    同僚でブログを書いてる榮倉さんの嫌な面も目について嫌な気持ちになった。
    でも、唯一誇れる文章への愛・文章を書くという特技をいかして、
    徐々に職場の皆に受け入れられていく。
    紙屋くん自身も少しずつ少しずつ変わっていく。
    コピー機すら扱えない紙屋くんに最初少しイラッとしましたが、
    不器用とすら言える位の実直な性格がとても切なさを感じる位素敵だった。
    嫌な面が凄く出てた榮倉さんも紙屋君と接するうちに変わっていった。

    前半は、ダメダメな紙屋君の成長は微笑ましいものの
    不器用過ぎる彼をいつのまに応援していた。
    そんなに感動・感激は少なかったのですが、
    後半、会社が資本業務提携する辺りからどんどん入り込んでいった。
    どうなるのかとハラハラしつつも胸が熱くなりました。
    じわじわと来ます。

    お仕事小説としてとっても素晴らしかったと思います。
    わかり易く仕事が出来ないって決めつけられた人…。
    凄く厳しくパワハラそのものだよって思える様に接する上司。
    覚えが悪いからって仕事を教えない先輩。
    実際に多々目にしてきてとっても嫌な感情を抱いていますが、
    どんなタイプの人も会社で輝ける場所があるんだと思う。
    ラストに社史を載せられていたのにやられたなぁ。
    紙屋くんのその後、錦上製粉のその後とっても気になります。
    紙屋くんとっても魅力的でした。お兄さんも素敵だった♪

  • 【本棚を探索】第3回『会社を綴る人』朱野 帰子 著/大矢 博子 |書評|労働新聞社
    https://www.rodo.co.jp/column/120990/

    社内文書が好きすぎて|朱野帰子|note
    https://note.com/kaerukoakeno/m/maa43a0212d03

    株式会社双葉社|会社を綴る人|ISBN:978-4-575-24130-3
    https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-24130-3.html

  • 文字を綴るコミュニケーションについて考えさせられる本。

    メール、提案書、標語、社内報の執筆サポート、議事録、社史……主人公が文書を綴る業務ひとつひとつに真摯に向き合う姿勢はアツいです。
    また、上司、同僚、役員、家族との関わりの中で、できること出来ないこと含め、自身を知っていく、そして自分の特徴を生かして目の前の状況をどう動かせるか考え抜く。サラッと読めてしまうけれど奥深い本を読んでしまったという感じです。

    文字というフィルターを通して人や物事を観る、という主人公の視点、面白かったです。文章や文字は書き手の思いが滲み出る場所であり、書き手が思っている以上に読み手の心に影響を与える。普段何気なく文字を打ち込んだり、書いたりしてますが、自分の書いたものがどんな影響力を持っているのか、今1度考えるきっかけになりました。

    文字を綴ることを大事にする主人公だからこその考え方、「何がこの人にこのようなことを書かせてしまったのだろう?」この問い掛けが何度か登場しますが、私にとって新しい考え方でした。少し嫌な気持ちになる文章を読むと、「性格が悪いのか」「向こうにも事情があるのか」「それとも自分の捉え方が悪いのか」と、視野の狭い偏った考えに陥ってしまいがちです。主人公の、1歩引いて状況を客観的に見つめ、問題の根源を探っていくアプローチ方法は是非とも身につけたいです。

    主人公さん、書くということに対して、ほんとに真っ直ぐでした。「文書として残すのは会社としての原則。その社内文書の改ざんを許したらそのうち外にも嘘をつくようになるのではないか。会社を不振に満ちた場所にしたくない。何よりも社員に嘘をつかせることになるのは嫌だ。」
    私自身、社内規定や文書を扱う仕事をしており、いち会社を綴る人として、背筋が伸びる思いで読みました。データ改ざんのニュースとかたまにありますし……。同時に、自分の仕事の意義を見いだせず路頭に迷って悩んでいたので、グッとくるフレーズばかりでした。

  • 2022.5.3読了
    会社を綴る人、のタイトルから社史に関わる作品なのかなと思い、本作を手に取った。
    社史といえば、昔読んだ三浦しをんさんの「星間商事株式会社社史編纂室」が面白かった。今だったらそんな部署、滅多にお目にかかれないのではないだろうか。
    本作の主人公もそんな部署ではなく、総務部に配属される。
    文章を読み書きするのが好きで、それが唯一の取り柄だと自覚する紙屋はダメ元で受けた製粉会社にどういうわけか採用され、毎日のように何かとやらかしている。
    けれどある事から、文章の力で自分はこの会社でやっていこうと奮い立つのである。

    紙屋が文章について「読まれない」事に苦心している場面がある。
    総務部の紙屋は、社内の通達などをメールで送るのだが、先輩社員の用意した雛型ではまったく読まれないのである。
    それで紙屋はどうやったら読まれるのかを考えるのだが、その結果出来上がった文章はちゃんと社員達に読んでもらえたのだ。

    社内メールの雛形なんて、最早記号でしかないのだろう。それでいいのかもしれない。
    けれど紙屋は読まれるように努力する。はじめは先輩からせっつかれて仕方なくやる。そのうち、文章を書くことだけがこの会社で自分のできる唯一のことだ、と自分に言い聞かせ自分なりの文章を綴っていく。
    紙屋がだんだんと、周りの社員達に認められていくのが自分ごとのように嬉しかった。

  • いわゆるお仕事系の物語とは切り口が全然違っていて、とても斬新でした。面白くてずんずん読めます。不器用すぎる紙屋、がんばれ!読み終えてから、会社を綴るってそういう意味ねと納得。
    社内ではギスギスしてても一皮むけば、実はみんな意外といい奴なんだよね。きっと。

  • 紙屋は人よりも、読むことと書くことは得意
    それ以外はてんでダメ。

    コピーを頼まれて取れば、大量に紙を無駄にして、斜めに印刷してしまう。ひとつ仕事をすれば、全てにやり直しがはいる。

    そんなダメダメな紙屋くん。得意なことといえば、読むことと書くことだけ。出来る兄の紹介で面接を受けることになり、その製粉会社の社史に出会って読む。先代の社長までの輝かしい時代を知っている古参のおじさんたちには気に入られる。

    榮倉さんは、パンの開発をしている。見つけてしまった彼女のブログでは旧態依然とした会社やおっさんたちのことをあげつらい、面白おかしく書いて、溜飲を下げているみたいだ。

    総務に配属された紙屋くんは、みんながインフルエンザのワクチンを接種してくれないので、【再送】メールでお知らせをするように指示される。この文章ではダメだ。と、紙屋くんが書いたメールで、次々とみんなが任意のワクチンを接種してくれる。

    人に伝わらなかったら、文章の意味なんてない。

    この物語を読んでいて、会社にはたくさん文章があることに改めて気がついた。

    “会社を構成する夥しい数の文書を大事に思う人が会社には一人くらいは必要なのかもしれない”

    私もなんとなく、似たような案件の文章をコピペして、メールやお知らせに使ってた。自分にも誰かにも伝わらないわけだ。

    紙屋くんはその、ボケたところを見込まれて、臨時重役会議の議事録の係を命じられる。

    “私は自分が綴る文章には真実しか書きたくなかった。それだけだ”

    そうして紙屋くんが起こしたことに、泣けて泣けて、朝のドトールで泣きながら読んだ。最後の最後まで『書くこと、伝えたいこと』を不器用にも諦めなかった。

    こうして、本の感想を書くこと。日記を書くこと。誰かに何かを、伝えること。自分の気持ちを残しておきたいこと。文章を「自己満足で書いている」と、どこかで思っていた。

    書いて残すことで、たまに誰かに何かが伝わることがある。私もやっぱり嘘は書きたくないし、残したくない。書くことは、やっぱり楽しい。

  • 中学時代、読書感想文で佳作を受賞したことのみが心の支えとなり、読んで文を綴るだけが取り柄の男(紙屋)が主人公。なんとか製粉会社に入社するが(入社にあたっては、その会社の社史を読み面接にて社長や役員の支持を得た)、ミスばかりだが、文章を書くことで周りの信頼を得てゆく。そんな中、会社は大きな危機を迎え…。
    『わたし、定時で帰ります』、『対岸の家事』で大いに共感し、今度はどんな内容かなあと期待を込めて読んでみました。地味な主人公だけれど、それがよかったかも。不器用ながらも自分のできることで力を発揮して活躍する、良い物語でした。登場人物たちの弱いところも実際の会社にいそうな方達ばかりで人間味があり現実感ありで読ませました。誰もが力を発揮できるのは難しいかも知れないけれど、希望を持てました。

  • 唯一の取り柄が文章力しかない主人公。
    それしかないと思っていた弟。出来が良くて両親の自慢の兄に比べたら何もない自分が惨めでもあった。

    何もない、そう、思っていたのは自分だけでその取り柄を兄は羨ましいと思っていた。

    取り柄とは他者から見たらものであることが多い。それを自分の武器だと思うことが出来たから会社で役割を果たせたのだと思う。

    社史なんて、誰も読んでない。そんなものでもちゃんと2000円も出して買って隅々まで読める男。だからだと思う。ここまで生き残り会社を動かせたのは。

    自分ができることをとりあえず真摯にやってみる。それってとても大切だけど意外に蔑ろにしがちだ。
    泥臭くて要領が悪くてたまったもんじゃない。
    そう思われる。でもそういうことも、ちゃんとやる。
    効率を求める社会では確かにお荷物だ。でもそれだけ真っ直ぐで正直ならいつか見つけてもらえるということか。

    人は自分が苦労して手に入れなかったものは、元々持っていたものにはあまり有り難みを感じない。
    背が高いからバレー選手に、足が長ければモデルに。
    歌が上手いなら歌手に。
    なればいいのに。と言われそんな簡単なものでもないし、興味もない。自分の苦労などわかるもんか。と思うこともあるだろう。

    でもその、あなたにとって有り難みの欠片もないものに憧れる人も少なからずいる。
    下手に構えず自分のパーツの一つして受け止めてあげることも大事な気がした。
    私の中にあるけども私の気付けていないパーツがもしかしたらあるのかもしれない、そんな希望が持てた。

  • 仕事のスキルがほとんどなく、派遣社員として30半ばまで生きてきた主人公。
    建築会社に勤め、海外で活躍する兄をはじめとする「まぶしい」家族に囲まれて肩身が狭い思いをしながら、細々と暮らしていました。兄のツテにより、製粉会社に正社員として就職し、総務部に配属されますが、コピーも電話番もできず、社内メールもひな形を遣わずに考えて何時間もかける体たらく。
    仕事ができない、使えないヤツとみられていますが、文章を読み、文章を書くことには一生懸命な彼の姿勢に、次第に周囲は彼の文章によって動かされるようになります。

    以前読んだ『わたし、定時で帰ります』につづくお仕事小説でしたが、前作でも感じたような、物語としての”薄さ”が感じられました。
    主人公の仕事に対する取り組み方や、彼の行動自体は共感すべき点もあるし、「会社としてどうあるべきか」という理念について古い会社を知る古参の社員と、新しい社員たちの間にある溝を少しずつ埋めていく過程など、池井戸潤の小説にあるようなテーマでもあるのですが、池井戸作品にくらべやはり「軽い」と感じます。

    主人公が信じているように、「誰かに伝えよう、と思いをしっかりと持って綴る文章の力」は確かに強いものがあります(この書評も、あるいは読んでいただいた方に何らかの参考になれば、と思ってはいるのですが……)。そういった意味では、この作品を通して作者が読者に強く訴えたかったメッセージとは何なのか、エンタテインメント性だけなのか、そこがうまく伝わってこなかったのかな、と感じます。

  • 19/01/13

    自分は榮倉さん側で、できれば淡々と仕事をやり遂げる栗丸さんになりたかったような人間なので、紙屋さんと働くことになったらもう相当ストレスだろうと思う。

    思うけれど、言葉や文章のちから、綴ることの大切さは忘れずにいたいし気を払いたいので、その重みがすとんとはいってくる物語だった。追記。綴ることの大切さより前に、自分が少しでも得意なこと、思いがあることでがんばることの重みもありました。

    兄家族が素敵。

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著者プロフィール

東京都中野区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2009年、『マタタビ潔子の猫魂』(「ゴボウ潔子の猫魂」を改題)でメディアファクトリーが主催する第4回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞し、作家デビュー。13年、『駅物語』が大ヒットに。15年、『海に降る』が連続ドラマ化された。現代の働く女性、子育て中の女性たちの支持をうける。主な作品に『賢者の石、売ります』『超聴覚者 七川小春 真実への潜入』『真壁家の相続』『わたし、定時で帰ります。』など。

「2022年 『くらやみガールズトーク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

朱野帰子の作品

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