エレジーは流れない

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575243970

作品紹介・あらすじ

山と海に囲まれた餅湯町。餅湯温泉を抱え、団体旅行客で賑わっていたかつての面影はとうにない。高校生の怜は、今日も学校の屋上で同級生4人と仲良く弁当を食べていた。なんとなく暮らし、それとなく過ぎていく日常の中で迫ってくる進路の選択。自らの出生に疑問を持ちつつ将来を見詰める怜は果たして……。

感想・レビュー・書評

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  • 好き過ぎる〜三浦しをんさんの世界。

    バカな男子校生の会話につられて笑ってしまったかと思ったら、お母さんの愛にホロリと涙が出たり。
    本当にあるどこかの温泉街のお話で、そこで生きている人たちの毎日のお話なんじゃないかと思うくらい。
    特別じゃないけど、ちゃんと生き生きした生活があってそれはこれからも続いていくんだろうなぁって。「愛なき世界」のように、想像してにまにましちゃいました。

  • 高校二年生の穂積怜を主人公に、その不思議な家族や友人たちとの一風変わった日常が描かれた作品。前半は、男子高校生にありがちなちょっとおバカな話が多く、声を出して笑いながら読んだものの、後半はだいぶダレてしまって読み進むスピードが落ちた。しかし、けっこう面白かったので、三浦氏の他の作品も読んでみたい、と思った。

  • のどかな観光地で暮らす高校生たち。
    主人公には、母親が二人いるという、ちょっと複雑な事情があるが?

    山と海に囲まれた餅湯温泉。
    怜は、高校2年生男子。
    家は商店街のお土産屋で、シーズンにはまあまあだが、オフにはあまりお客も来ない。
    高台の別荘地にはお金持ちが暮らし、怜は月に一度はそこにある家の「お母さん」に会いに行く。
    土産物屋の寿絵と高台の邸宅に来る伊都子のどちらかが生母なのだろうが、はっきり聞くことも出来ないまま。
    それで当たり前に暮らしてきたが、進路を決めるとなるともやもやし始めた。
    これと言って、得意なこともやりたいこともないのである。

    美術部員のマルちゃんは喫茶店の息子で、竜人は干物屋の息子という商店街の幼なじみたち。竜人は運動神経抜群で、GFとラブラブなのが知れ渡っていたり。老舗旅館の跡取りの藤島というメンバーも加わって。
    心平の作った土器の騒動やら、ちょいおバカな男の子たちの繰り広げる騒動がおかしくて、楽しい。

    いたことのない父親はま~ろくなもんじゃないだろうと思っていた怜だが、ある日それらしい男を見かける。
    商店街の住人は皆事情を知っていて、怜たちを見守ってくれていた。
    のほほんとした雰囲気の温泉町のあったかさに、ほのぼの。
    ものすごいことは起きない、平和な暮らしの大切さ。
    読んでいて、愛おしくなります。

  • 「エレジー」という言葉は久しぶりに聞く。
    まず脳裏に浮かぶのは、あがた森魚の「赤色エレジー」だ。… 愛は愛とて何になる男一郎 まこととて 幸子の幸は何処にある男一郎ままよとて

    だが、この物語は餅湯温泉という温泉町が舞台なので、伊東温泉を唄った「湯の町エレジー」が本書のタイトルの「エレジー」の正体みたいだ。
    そしてかつてのような賑わいはなくなってしまった餅湯温泉であるが、「エレジー」は流れない(似合わない)!という話だ。

    なぜか母親が2人いる高校生が主人公。この謎解きも1つのポイント。
    本人はその理由をしらないが、町の人達は知っていたりする。
    よそ様の家庭のプライベートなことも筒抜けな観光地の人達との日々の暮らしの話。

    大きな事件が起こるわけでもなく、ありきたりな日常が繰り返され高校3年生になり、この先どうなるかなんて分からないままボヤーっと進路を決める夏で物語は終わる。

    本書のテーマの1つは「迷惑」との接し方なんだろう。
    社会で生きていれば大なり小なり必ず迷惑をかけるし受けもするのが当然だと知っておきなさい!ということ。
    相手が受け止めきれない「迷惑」はかけない気づかいも必要だし、時にめんどくさい「迷惑」を受け入れる寛容性も必要だ。
    「迷惑」をかけ合って人と人の繋がりができ「友情」や「愛」が生まれる。

    何処に行っても冴えないゆるキャラがいたりする今日。
    この場所も「もち湯ちゃんストラップ」があり、餅湯温泉の(エレジーではない)能天気なメロディーが駅前のアーケードに流れている。

    ------
    三浦しをんさんと言えば、辞書編集とか林業とか生物学の研究など、特殊な世界を垣間見せてくれる作家さんというイメージもあったが今回はそうではなかった。

  • 特に夢のない男子高校生の青春小説。

    怜には母親が「2人」いる。
    おふくろとお母さんで呼び分け、それぞれの家で過ごす生活を送ってきた。

    なぜ2人いるのか。生みの母はどちらなのか。そして父親は誰で、どこに姿をくらましたのか。
    年頃で、それぞれの母にどこか遠慮をしているところもあり、ずっと聞けないでいた。

    ほかのみんなは、当たり前のように父と母が1人ずついて、普通の家族団欒を過ごしている。
    そんな中で自分の出生について気になるのは、誰しもが通る道なのではないだろうか。

    後半、父と母について明らかになる。
    そしてそれについて見守ってきた、街全体のあたたかさにも気づく。

    街全体で見守って育ててくれるような、そんな街っていいなと思った。
    そして友達とつるんで、バカをして、将来について悩みを語り合う高校生。
    青春だなあ。

  • 長閑な温泉町の餅湯。高校生の怜は商店街の土産物店で母と二人で暮らしているが、月の第三週には山手の「お母さん」の家に泊まりに行く習慣があった。真実を追求しないまま将来も描けない自分に嫌気はあるが周りの愉快な友人達とのんびりした日々を過ごしている。ある日ある人物との遭遇で日々に終わりが……劇的には来ず怜の内面がゆっくり変化していくのがゆるい餅湯の雰囲気に合っていていい。友人の愉快なエピソードがいちいち馬鹿だー、とにやにや。そんな友人達がお馬鹿な様でいて要所要所でイケメンな内面を見せるのもいい。竜人がモテるのも心平がいまいちなのも納得。お互いの重すぎない思いやりぶりが友情っていいな、とほっこりする。縄文式土器事件もありえねー!という展開だが楽しい。しかし商店街の結託ぶりが怖すぎる。一歩間違えたらホラーだ。

  • まず本のカバー、嶽まいこさんの絵がとても良い。
    今まで表紙なんて殆ど気にしたことなかったです。
    すぐ自分のカバーをつけてしまっていたから。
    今回はストーリーの町がそのまま描かれているので
    何度も見ました。楽しかったです。

    エレジーとあるので、悲しいお話かなと思ったら
    とても楽しい面白い小説でした。
    街のみんな仲良くてプライバシー筒抜け。
    いいですねー。
    自分もそういう所にいたいか、というと
    それは違うけど。

    「夢なんかなくて、穏やかに生きていきたい」
    という高校生たち。
    自分は高校時代「夢いっぱい。どの道を選ぼうか」と
    いつも思っていました。
    結局、実力もなく努力もしないので、どれも叶わなかったのですが。
    でも今はほとんど悩みなく、穏やかに楽しく生きています。

    三浦しをんさんの作った、多様性の時代の高校生なのか。
    それとも最近の高校生は皆そうなのか。
    あるいは夢ばかりいっぱいの私が変だったのか。
    今のところわからないままです。

  • のどかでさびれた餅湯温泉商店街。
    高校2年の怜は、その一角で土産物屋を営む家に暮らす。
    店を手伝い、家事もして母を助けている。
    さらに怜にはもうひとり母親がいて、ふたりの間を行き来し、父親がいないという複雑な家庭環境だ。
    小さい頃からそれが当たり前だと思って育ち、友人たちの家庭との違いに気がついた後も、自分を大切にしてくれる母たちにその理由を聞けないでいた。

    ひとにどう思われようと、気にせず奔放に生きる友人やまわりの大人たち。
    でも怜は「なにが無難か」を常に考え、相手に気を使ってしまい、とても奔放になど生きられない。
    夢も打ち込みたいこともない。
    そんな自分が、これでいいのかと悶々とする。

    次々と起こる騒動に振り回されながら、やがて進路選択の時期を迎え、
    「なりたいものはないのか?」と問われて…

    『夢なんかひとっつもない! ただ毎日なるべく平穏に生きていきたいだけなのに』
    『なんで歌とか漫画とか大人はすぐ夢の話すんだよ、夢も希望もないのがそんなに悪いのかー!!!』

    怜が叫ぶ。


    今や若者だけでなく中高年でさえ、「挑戦する気持ちが大事」とか「いくつになっても夢を持とう」と言われる。
    夢を持っていない人はダメだと言われているようで、特に夢も持たずに生きている自分に罪悪感すら感じていた。
    でも、日々平穏に暮らしたいと思って生きる、夢はなくてもそれだけでいいじゃないか!

    個性的な登場人物たちと怜が繰り広げる日常は、まさしく青春真っ只中。
    懐かしさと愛おしさが心を満たした。

  • 山と海に囲まれた餅湯温泉街を舞台に高校生の青春が描かれていた。主人公・怜の家はお土産屋"ほづみ”を営んでいる。怜をめぐる悪友たち。真面目な美術部員のマルちゃんは喫茶店の息子。運動神経抜群の竜人と心平、竜人は干物屋の息子で野球部所属していて愛美とラブラブの仲。心平はサッカー部に所属している一方、器用で土器作りが得意。老舗旅館の跡取りの藤島。
    怜には母親が2人いて行き来して暮らしている。高台に住む伊都子の元夫が”ほづみ”の寿絵との間にできた子だと怜は後々に知ることになる。伊都子と寿絵のあっけらかんとした関係性はある意味で理想かもしれない。突如、浮ついた父親が怜の前に現れる(一目でわかるほどそっくり)。昔からの地元住民はそこらあたりの経緯を知っていて、怜を守る防衛団・『餅湯商店街危機管理グループ』を組んでいた。その設定はいかにも三浦さんらしく笑ってしまった。怜は男の子だからだろうか、女の子だったらもっと自分の出自に悩むだろうに。
    博物館に展示されていた縄文式土器が盗まれる事件で、心平が昔作った土器が混じっていると分かり、面白く読めた。
    サラリーマンの家に育った私には、彼らほど地元愛がなかったので羨ましい。彼らの故郷・餅湯にはエレジー(哀歌)ではなく「もっちもっち、もちゆ~」のメロディーが流れている。彼らが成長したその後を読みたい。

    追加
    「男は外に出ると7人の敵がいる」への考察が興味深い。”さびしい”と感じる人は、外での人間関係にも仲間がいると思い期待するから裏切られた時にがっかりするのだ。もともと外の世界は敵だらけと考える人には「寂しい」という感情が湧かないのは極めて当たり前なのだということだった。
    時々寂しくなる私は人に甘えているということなのだろうか。

  • 海と山に囲まれた餅湯温泉の商店街にある土産物店で母と暮らす高校生男子の物語。

    商店街の人たちとの関わり合いや同級生たちと過ごす高校生活。

    全体的にほのぼの感漂う柔らか〜い雰囲気。
    だけどちょっと複雑な家庭…
    それを暗く見せず、辛く見せず、良い感じにまとまっているのが読み易かった。

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著者プロフィール

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』で、デビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で「直木賞」、12年『舟を編む』で「本屋大賞」、15年『あの家に暮らす四人の女』で「織田作之助賞」、18年『ののはな通信』で「島清恋愛文学賞」19年に「河合隼雄物語賞」、同年『愛なき世界』で「日本植物学会賞特別賞」を受賞する。その他小説に、『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『きみはポラリス』、エッセイ集に『乙女なげやり』『のっけから失礼します』『好きになってしまいました。』等がある。

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