残月記

著者 :
  • 双葉社
3.18
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本棚登録 : 3489
感想 : 331
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575244649

作品紹介・あらすじ

近未来の日本、悪名高き独裁政治下。世を震撼させている感染症「月昂」に冒された男の宿命と、その傍らでひっそりと生きる女との一途な愛を描ききった表題作ほか、二作収録。「月」をモチーフに、著者の底知れぬ想像力が構築した異世界。足を踏み入れたら最後、イメージの渦に吞み込まれ、もう現実には戻れない――。最も新刊が待たれた作家、飛躍の一作!

感想・レビュー・書評

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  • 月にまつわる短編が2編と中編が1編。


    「そして月がふりかえる」
    月がふりかえった時、全てを失った男の物語です。
    大槻高志という43歳の大学准教授の男が同姓同名の男とファミリーレストランのトイレですれ違ったタクシー運転手と人生入れ替わってしまうお話。
    こんなことがあったら怖いです。ホラーです。


    「月景石」
    石を集めるのが好きな女性が29歳で亡くなった叔母とよく似た少女と出逢います。
    交際相手の男性からもらった月景石を抱いて寝た時にみた不思議な夢。


    「残月記」
    これは涙が止まりませんでした。
    真実の愛のお話だと思います。
    月昂者という感染症に罹った一人の男性とその恋人のお話です。
    2027年下條拓による独裁政治が執り行われています。
    月昂者は見つかれば隔離されますが、宇野冬芽は自ら希望して月昂者同士の剣闘者として生きることを選びます。剣闘の勝者に与えられる勳婦(やはり月昂者)として出逢った山岸瑠香はノルマをこなし引退して二人で暮らす夢を密かに持ちますが…。

    以下一部、ネタバレしています。これから読まれる方はお気をつけください。



    冬芽と瑠香はクーデターに巻き込まれて別れ別れになり、その後は一度も逢うことができません。
    冬芽はクーデターの参加者として、殺されたといわれますが。実はそれから十数年にわたり木像を彫り続けながら密かに生きていました。
    冬芽と瑠香が最後どうなったのかは読まれて確かめてください。
    私はわんわん泣きました。

  • ざらざらとした違和感。月の企みに困惑する「そして月がふりかえる」。現実と夢の狭間を月がファジーにする「月景石」。月に呪われ、月に誘われ、月に祝福される「残月記」。どれも極上のファンタジーでホラーでSF。
    良い本に出会いました。

  • 表題作は文句なくおもしろい!

    月にまつわるファンタジー的作品3編を収録。
    それぞれが全く独立した作品で、長さは長めの短編〜短めの長編といったところ。
    この作品集のコンセプトに慣れるのには、なかなか時間がかかった。

    一編目の「そして月がふりかえる」は正直読み進めるのがつらくて(作品の批判をしているわけではないですよ。たぶん個人的に精神状態とか、この作品を読むのに適さない時期だったんだと思います。)リタイアしそうになったので、オーディブル聴き放題の力も借りて読み進める。
    二編目の「月景石」までの評価は3。
    本屋大賞ノミネートの理由がわからなかった。

    しかし、3遍目のタイトル作「残月記」、これが素晴らしかった。文句なしに5点!
    200ページを超える近未来ディストピア小説。
    地震災害、独裁国家の誕生。致死性の感染症の蔓延…
    なかなかリアルに日本の将来を描いているような気がして、とても落ち込ませてくれます。

    「残月記」一編でも、十分単行本として成立すると思う。だから、「残月記」を一編目に持ってきたほうが良かった気がするけど、一番最後にしたこの構成の狙いはなんだろうな?
    ちょっと、わからなかった。

  • 「月」をテーマとした3作品「そして月がふりかえる」「月景石」「残月記」が収録されています。

    正直なところ読み始めた時はなんかイメージしてた感じと違い、最後まで読めるのか心配になりました。

    大好きな本屋大賞ノミネート作の為、勝手に自分の中で期待値が上がりすぎていたようです。

    ところが表題作でもあり、巻末におさめられた「残月記」は後半にかけて取り憑かれるように読み進めていました。

    読み終えて、内容は全く違いますが、「一九八四年」(ジョージ・オーゥエル)を彷彿させられましたが、よくよく考えれば本作もある意味でディストピア小説ですよね。

    「残月記」って男と女の愛の物語でもあるんです。

    しかもある意味で純愛。

    でも、しっかりダークなんですよねー。

    うまく伝えられない自分のボキャブラリーの無さが情けないʅ(◞‿◟)ʃ

    説明
    内容紹介
    近未来の日本、悪名高き独裁政治下。
    世を震撼させている感染症「月昂」に冒された男の宿命と、その傍らでひっそりと生きる女との一途な愛を描ききった表題作ほか、二作収録。
    「月」をモチーフに、著者の底知れぬ想像力が構築した異世界。
    足を踏み入れたら最後、イメージの渦に吞み込まれ、もう現実には戻れない――。
    最も新刊が待たれた作家、飛躍の一作!
    著者について
    1974年宮城県生まれ。関西大学法学部政治学科卒業。
    2009年『増大派に告ぐ』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。
    13年、受賞後第一作の『本にだって雄と雌があります』で第3回Twitter文学賞国内編第1位。
    本書は9年ぶりとなる待望の新刊。

  • 小説推理2016年2月号そして月がふりかえる、2017年7,8月号月景石、2019年4月号〜7月号残月記、の3話を2021年11月双葉社刊。3話とも月が出てくる。脈絡のない不思議というか不気味というかそういうファンタジー世界の話で、同調できないまま終わってしまった。驚きがありインパクトもあったが心地良さとは無縁でした。

  • 想像を超える世界観だった。
    全三編「月」がテーマの異世界の物語。
    どれも夢のなかのような不思議な感覚と恐怖感をおぼえる。
    「残月記」は特に強い衝撃を受けた。
    近未来の日本で月昂という感染症にかかった青年の話。
    独裁政治下。月昂にかかった者は収容され隔離される。男は剣闘士、女は勳婦として生きる選択ができる。剣闘士として生きることを決意した青年は、勳婦になった一人の女性を愛するようになる。
    特殊な状況だからこそ二人だけの世界ができあがったんだろうとも思う。
    純粋な愛の物語。愛する人のために懸命に生きる姿が心に残った。

  • ちょっと遅めの夏休み。
    わんぱく息子が特急富士回遊に乗りたいとのことで、大月駅から某遊園地へ家族で向かう車中で紐解き始めた本書。
    最初の主人公の名前が大槻高志。
    幼い頃に母親から「月が追いかけてくるのは名前が”おおつき”だからよ」と冗談で告げられたのを幼心に信じ込み、すごい秘密を知ってしまったと沸き立つシーンを振り返るところから始まる。
    ただの音の繋がりではあるものの、にわかに物語への期待を寄せてしまう偶然の一致。

    本書は短編、中編、長編といってもいいぐらい長めの長編の3編から成るホップ、ステップ、ジャンプの構成。
    それぞれの物語としての繋がりはないものの、月、夢が重要な要素として貫くSF作品であることが共通する。

    あまりSFは好んで読むことはないし、読めば読んだで、ああやっぱりなんか世界観に馴染めなかったなと感ずることが多く苦手意識があるのだが、辻村深月さんの『かがみの孤城』や村上春樹作品など少し不思議な世界の物語系だと結構楽しめたりもする。
    本書は後者にあたる、意外なツボを刺激された一冊。

    最初の2作品は、それまではさも普通の小説のように語っていたところで急に訪れるこれまでと違った世界に「えっ!?」という感じで引き込まれるし、3作品目の表題作はのっけから当然のように出てくる月の満ち引きに関連する病“月昴”を巡るディストピア設定をうまく書き込んでいて、これはこれで引き込まれる。

    「残月記」の男女それぞれが担う苦役なんてのは今の世相からすると、未来を描くにはステレオタイプ過ぎてどうなのって思いもよぎるけれど、切なさに胸打たれる結末があるだけに一概に糾弾するのも興をそぐ。
    LGBTQやジェンダーレスが世間の目を集める中、偏りなき設定とステレオタイプの生むある意味使い古された興の両立って結構難しいバランスなのではとふと思ったりもした。

    全体としてこの作家さん、自分はなかなか好きな読み心地でした。
    ただ、夢を使った場面展開については一冊の単行本の中であればむしろ共通点として面白く感じるが、次作も使うようであれば”またか”と思ってしまうだろうな。

  • さすが本屋大賞ノミネートということで、かなりの読み応えでした。

    3編すべて「月」と「人間」の奇妙な関係の物語です。
    みなインパクトがありましたが、タイトルの「残月記」は長編がゆえのおもしろ要素がたくさん詰まっています。
    内容は辛いものなんですけど。

    世の中の進化によって、こんなことは解決できるんじゃないかと思うのも、あまり期待してばかりではいけないのでしょうか。
    歴史は 繰り返す。
    近頃、二度と繰り返さないとの決意が揺らいじゃいませんか。

  • 浮遊感が続く一冊。

    月がまるで地球を飲み込むような、人たるものを飲み込むような不思議な三つの物語は読後もしばらく地に足がついていないようなそんな浮遊感の余韻が続く。

    月に時間を盗まれ左右されていくような展開は何とも表現できない。
    怖さよりもただ不思議な時間を貪りたくなる。

    表題作が描く世界は残酷さの森に根を張るかのような愛、嘘偽りのない純粋な愛が沁みた。

    それは誰も土足で足を踏み入れることさえも許されない、月が閉じ込めた永遠の愛。

    最近、敢えて眺めるのを避けていた満月。

    今ならちょっと眺めても良いかなって思える。

  • 「そして月がふりかえる」
    「月景石」
    「残月記」
    自分の中では、「そして月がふりかえる」の世界観に驚いた。
    自分は何も変わっていないのになぜ受け入れてくれないのだろうか?
    つい、ちょっと前までは普通の家族だったはずなのに。
    月に魂が奪われたわけでもないだろうに…
    どうにもならずにすんっと終わる。

    「月景石」枕の下に入れて眠ると信じられない摩訶不思議な世界を見てしまう。
    これは、どうなんだろう。
    やっぱり、悪い夢なのか。

    表題作でもある「残月記」なんだけど、どうも自分の中では受け入れられない世界なのである。
    消化できずに読了。




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著者プロフィール

1974年生まれ、宮城県出身。小説家、ファンタジー作家。関西大学法学部政治学科卒業。2009年『増大派に告ぐ』で、第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビューした。2013年『本にだって雄と雌があります』で、第3回「Twitter文学賞国内部門」の第1位を獲得した。

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