夏の体温

  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575244984

作品紹介・あらすじ

「出会い」がもたらす「奇跡」を描いた全3篇

■「夏の体温」
2002年刊行、瀬尾さんのデビュー作『卵の緒』で描かれたのは、小学生男子の視点で綴った「親子の絆」。
それから、およそ20年を経て生み出されたのは、同じく小学生男子の瑞々しい「友情」物語です。
瀬尾さんご自身も「久しぶりに小学生の物語を書きました。子どもがいる空間は生き生きしていて、書いている間、とても楽しかったです」とコメントしている思い入れのある表題作です。

<あらすじ>
夏休み、小学3年生の瑛介は血小板数値の経過観察で1ヶ月以上入院している。
退屈な毎日に、どうしたっていらいらはつのる。
そんなある日、「俺、田波壮太。3年。チビだけど、9歳」と陽気にあいさつする同学年の男子が病院にやって来た。低身長のための検査入院らしい。
遊びの天才でもある壮太と一緒に過ごすのは、とても楽しい。でも2人でいられるのは、あと少しだ──。

■「魅惑の極悪人ファイル」
「物語に悪い人がほとんど出てこない」ことがよく知られている瀬尾さんの作品に、どんな悪人が、どのように登場するのでしょうか。
瀬尾さんならではの「極悪人」をお楽しみください。

<あらすじ>
容姿にコンプレックスを抱く、内向的な大学生の早智。だが大学1年生の時に発表した小説が文学賞を受賞し、にわかに注目を集める。
そして3作目。執筆に苦戦し、それまでの作風とは異なった「悪人」を主人公にした小説に挑む。
そのモデルに選んだのが、腹黒いと周りから言われている男子学生、倉橋だった。早智が取材を進めてゆくと……。

■「花曇りの向こう」
中学1年生の国語教科書に掲載された掌編。
この度、単行本初収録作品となります。
装画を手がけた人気漫画家・イラストレーター、カシワイさんの描き下ろし挿絵付きです。
まるで教科書のように、文章と挿絵をあわせて堪能していただけるかと思います。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『長期入院』したことがあるでしょうか?

    人生とはわからないものです。昨日までなんのことはない平々凡々とした日常を過ごしていたはずが、突然に入院を余儀なくされる、残念ながらそんな未来は誰にだって訪れる可能性があります。そしてそれは、子どもにだって言えることです。そんな中に、『低身長』と呼ばれる病気も存在します。成長ホルモンなどの身長を伸ばすホルモンが出ていない場合や、染色体や骨の病気によって身長が伸びない場合に起こるとされる『低身長』は、『二泊三日入院し、MRIをとり、薬を飲んで数十分おきに採血をする…』といった『検査入院』が必要です。しかし、その入院期間は『二泊三日』と短いものです。一方で、もっと長期にわたり入院を余儀なくされる子どもたちがいるのも現実です。

    さてここに、『血小板っていうのが少ない病気』を患い『長期入院』を余儀なくされた小学校三年生が主人公となる物語があります。そんな主人公が『三日で帰れる』『検査入院』で出入りする子どもたちの姿を見るこの作品。そんな中に同い年の男の子が入院してくることになった先を描くこの作品。そしてそれは、そんな作品を含む三つの物語の中に瀬尾まいこさんのあたたかい眼差しを見る物語です。

    『今日だけで三人目。夏休みになると、ライトなユーザーがどっと増える』と『プレイルームに』『不安そうな母親と』入ってきた『見た目は二歳くらいの女の子』を見るのは主人公の高倉瑛介(たかくら えいすけ)。『実年齢はそれに二年プラスして四、五歳』だろうと見る瑛介は『お前らがここで過ごす日々なんて、たかが知れてる』、『午前中だけ薬飲んで点滴して、何度か採血。午後は遊んで過ごせるし、何より三日で帰れる』、『手術や長期入院なんていう深刻な事態にはならない』と思います。とは言え、『初めての入院は緊張するよな』とも思い直した瑛介は『どうぞ』と『ままごとのリンゴを手渡し』『レジスターのおもちゃ』で遊ばせてあげます。『お兄ちゃんありがとう』と母親に言われ、『いいえ』と椅子に座る瑛介は、『時間はまだ九時過ぎ。また、長い長い終わりの見えない一日が始まる』と思います。瑛介が入院している『県立病院』には『重病患者は西棟に、ここ東棟にはぼくのような経過観察をしている患者や、検査入院の子どもたちが滞在してい』ます。そんな病院に『入院して一ヶ月と七日が経った』という瑛介は、『小学校三年生』になって『なぜか足にあざができるようにな』りました。消えないあざに『いくつか小児科をめぐって、最終的にこの病院にたどり着いた』瑛介。そんな瑛介の入院する東棟には『低身長検査の子ども』が多数入院してきます。『二泊三日入院し、MRIをとり…』という検査の手順にも詳しくなった瑛介ですが、『たいそうな顔つきでやってくる』彼らを『うっとうし』いと感じます。彼らを見て『「うわ、小せえ」と驚いたふりしてつぶや』くも『飽き飽きし』、『「早く退院したいな」などとささや」くも』それは長続きしませんでした。そして、『ここ最近、ぼくは小児科東棟のスーパーバイザーとして動くことにしている』という瑛介。そんな『病院には保育士の三園さんが』『朝の九時から五時まではプレイルームや保育室』で働いています。『五十歳は過ぎている』という三園は、採血のとき『あーすぐ終わるよ。たぶん大丈夫ー』と言い、『検査結果を聞きにいく前も、「ま、たぶん大丈夫なんじゃないかなー」と言』います。『たぶんって、なんだ』と思うも『ぽっちゃりした三園さんの丸い声で「大丈夫」と言われると、ほんの少し安心する』瑛介は、『三園さんの大丈夫は「たぶん」付きでも、本物の気がする』と感じます。そんな一方で、『外の空気に触れたい。歩ける足が、伸ばせる手があるのだから、今吹いている風に触れてみたい』と思う瑛介。そんなある日、『そうそう、大ニュースがあるよ』と三園さんが近づいてきました。『今日の夕方から小学三年生の男の子が検査入院するんだって。瑛介君と同じ学年だよね』と言う三園に『小学三年生。しかも男子』と思う瑛介は『「やったー」と叫びそうにな』ります。『これはビッグプレゼントだ』と思う瑛介は、『低身長』で『検査入院してくるのは幼稚園児がほとんど』であり『まるで話が合わな』かった今までを思います。『早く会いたいのに、夕方まで待たないといけないなんて』と思う瑛介に『瑛介君、仲良くなれるといいねー』と言う三園。『少ししか一緒にいられないんだ…二泊三日。あまりにも短い、ぼくの夏休みがようやく始まる』と思う瑛介が『俺、田波壮太』と入院してきた壮太と過ごす二泊三日の大切な時間が描かれていきます…という中編〈夏の体温〉。極めて瀬尾さんらしい優しさに満ち溢れた好編でした。

    “きみと過ごした夏。ぼくの退屈な日々は、いっぺんに変わった”という帯の記述と、それが瀬尾まいこさんの作品であるというこの二点だけでそこには胸を打つような素晴らしい物語が描かれているだろうという予感に満ち溢れるこの作品。そんな帯の記述そのままに展開する中編〈夏の体温〉の他に中編〈魅惑の極悪人ファイル〉、そして掌編〈花曇りの向こう〉という三編から構成されています。作品間に関係性は全くなくそれぞれ独立した作品であり、中編二つは「小説推理」に掲載されたもの、そして驚きなのは、掌編〈花曇りの向こう〉が、光村図書出版の「国語I」、なんと中学校一年生向けの教科書に収録されている作品だという事実です。瀬尾まいこさんは2011年まで中学校で国語の先生をされていらした経歴をお持ちです。そんな瀬尾さんが書かれた国語の教科書に掲載された作品が読めるという、もうそれだけでこの作品はとても贅沢な気がします。

    では、そんな三つの作品についてそれぞれの内容に触れてみたいと思います。

    ・〈夏の体温〉: 『血小板っていうのが少ない病気』を患い、『県立病院』に長期に入院を続ける主人公の高倉瑛介は、『小児科東棟のスーパーバイザーとして』、主に『低身長の検査』で入院してくる『幼稚園児』の相手をしてあげる日々を送っています。『外の空気に触れたい。歩ける足が、伸ばせる手があるのだから、今吹いている風に触れてみたい』と願う瑛介。ある日、そんな病棟に瑛介と同じ『小学三年生の男の子が検査入院』してきました。『俺、田波壮太』と挨拶する壮太と『紙飛行機飛ばし競争』をするなどすっかり打ち解けていく瑛介の『あまりにも短い、ぼくの夏休み』が描かれいきます。

    ・〈魅惑の極悪人ファイル〉: 『ストブラ。皆がそう呼ぶその男は、無機質な部屋を見まわした… 知人のものを窃盗し、それを迷いなく部屋に置く…』と『スマホのボイスメモに吹き込む』のは主人公の大原早智。『ストブラって何?俺の名前、倉橋ゆずるだけど』と反論され『大学の人がストブラって呼んでるんですよ』と説明する早智は『収集しているものとかありますか?』と『調査を進め』ます。『小学生の時から何かしら文章を書いていた』早智は『大学一年生の四月に、県が主催している文学賞を』受賞、出版された事で小説家となり、三作目執筆のために『腹黒』と呼ばれる同級生の倉橋を紹介され取材を進めます。

    ・〈花曇りの向こう〉: 『なんや、また気が重そうな顔して』とおばあちゃんに言われ『「胃が痛いんだ」とおなかを押さえ』るのは主人公の宮下明生。『小学校卒業と同時に、ぼくはばあちゃんの家に引っ越してきた』という明生に、『転校なんて、明生、慣れたもんやろ…ちょちょいのちょいや』と言われ『中学入学って言ったって、だいたいみんな小学校からの仲間なんだ。簡単にいくわけないだろ』と返す明生は、『小学校で二回、それに今回』と『通算三回も引っ越しをしている』今を思います。そして、登校し、教室へと『おはよ』とつぶやきながら入る明生が席に着くと、『となりの川口君が声をかけてき』ました。

    三つの作品は小学生男子、大学生女子、そして中学生男子がそれぞれの物語で主人公を務めていますが、その内容は見事にバラバラです。『長期入院』を余儀なくされた瑛介、大学生作家として取材を進める早智、そして転校生として新しい環境に対峙する明生というそれぞれの舞台。そんなそれぞれの舞台で同級生と接していく中で主人公の心の中に現れる感情の変化、心の機微が、瀬尾まいこさんの筆で繊細に描かれていきます。いずれの作品も何か大きなことが起こるわけではありません。それぞれの作品の最初と最後で主人公が置かれた環境が大きく変化することもありません。しかし、そこに確実に変化する主人公の心模様の違いを感じられること、これがこれら三つの作品に共通することであり、瀬尾まいこさんの作品の一番の魅力をそこに感じることができるものでもあります。いずれも瀬尾さんらしさを堪能させていただける魅力に満ち溢れていると思いますが、掌編〈花曇りの向こう〉が国語の教科書掲載作だと思うと、こんな教材を元に学習できる中学生はとても贅沢だと思います。本来読めないはずのそんな作品を収録いただいた双葉社のご配慮に感謝したいと思います。

    そんなこの作品ですが、全体としての読み味としてはやはり表題作でもある中編〈夏の体温〉に間違いなく引っ張られます。『血小板っていうのが少ない病気』で長期入院を余儀なくされる小学校三年生の瑛介視点で描かれていく物語は、彼の他に入院してくる子どもたちの大半が『低身長の検査』で二泊三日という短期間で入院してきてはすぐに退院していく状況を見る中に複雑な感情を抱く瑛介の心持ちが描かれていきます。『たかが検査で重々しい空気出すなよ』と彼らを見下したり、『同情を集める作戦に出』たりと彼らに接していく瑛介は、やがて『スーパーバイザーとして』主に幼稚園児の彼らを優しく迎えていきます。あまりに健気としか言いようのない瑛介の姿が描かれていく物語は、瑛介視点だからこそ、そこに感情移入しながら読み進める読者の心にストレートに響いてきます。保育士の三園、そして母親との関係性など、物語は、小学校三年生という瑛介の姿、気持ちを読者に赤裸々に見せていきます。だからこそ、そこに瑛介と同じ『小学三年生の男の子が検査入院』してくるとわかった時の喜びは読者にも強く伝わってきます。とは言え、入院してくる壮太との時間は二泊三日しかありません。あまりに短いその時間を瑛介はどのように過ごしていくのか、どのように感じていくのか、そしてそこに何が生まれるのか。この作品の中では一番長いとは言え、あくまで中編という位置づけのこの作品ですが、そこには読者の心を打つ瑞々しいまでの”友情”が描かれていました。この中編だけでも読む価値のあるこの作品。”子どもがいる空間は生き生きしていて、書いている間、とても楽しかったです”と語られる瀬尾さんの魅力がこれでもかと味わえる”瀬尾まいこワールド”全開な物語がそこには描かれていました。

    『外に出て遊びたい。早く学校に行きたい…どうしてぼくがこんな目にあうんだ…』

    そんな思いの中に『長期入院』の日々を送る小学校三年生の瑛介が主人公となる表題作〈夏の体温〉など三つの作品が収められたこの作品。そこには、瀬尾まいこさんならではの”友情”の有り様が描かれていました。人と人が接する中に浮かび上がる心の機微を感じるこの作品。それぞれに読み応えのある物語世界を堪能できるこの作品。

    ここまで優しさに満ち溢れた世界が描けるものだろうか?と、瀬尾まいこさんの作り上げる物語世界に改めて感服する他ない傑作だと思いました。

    • みきっちさん
      さてさてさん、こんばんは(^^)いいねありがとうございました。春に仕事を変わり本としばらく離れて居ましたが最近また読みやすい物から読書再開で...
      さてさてさん、こんばんは(^^)いいねありがとうございました。春に仕事を変わり本としばらく離れて居ましたが最近また読みやすい物から読書再開です(^^)さてさてさんの本棚や感想チラ見して、さてさてさんの感想をしっかり読みたいから早く入手しなくては!とスイッチ入りました笑。時々またのぞかせて頂きます٩(^‿^)۶
      2023/08/25
    • さてさてさん
      みきっちさん、こんにちは!
      仕事が変わられる等生活に大きな変化があると、落ち着いての読書はなかなかすぐにはいかないかもしれませんね。
      読...
      みきっちさん、こんにちは!
      仕事が変わられる等生活に大きな変化があると、落ち着いての読書はなかなかすぐにはいかないかもしれませんね。
      読みやすいものから再開、またレビューをお待ちしております。
      2023/08/26
  • ◇◆━━━━━━━━━━━━
    1.感想 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    3つの短編集です。

    どのお話もその作品の世界に入りやすく、サクッと読み終わってしまいました。
    登場人物が少ないですが、その数人の心を感じ取って、読み手も心を震わせていくような作品でしょうか…
    物語が、さら〜っと流れる感じだから、物足りなさを感じるのかもしれないですね。

    重い作品を読んでいて疲れたので、ちょっとふんわりしていそうな作品を読んでみようと手にした本でしたが、期待通り、読後感は「ふわり」でした。「ふわり?」と、つっこまれそうですが、同じ感覚になる方いたら、嬉しいです。

    魅惑の極悪人ファイルが面白かったかな…


    ◇◆━━━━━━━━━━━━
    2.あらすじ 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    全177ページ。
    短編集3作で、3作目は数ページしかない。


    ①夏の体温
    入院中の小3瑛介が、検査入院でやってきた壮太と出会う。
    つらい入院生活の中でのちょっとした出会いは、瑛介の心を癒していく。

    ②魅惑の極悪人ファイル
    大学生で小説を書く大原は、次の作品のために本当の悪者を大学内で探し、取材を始める。その出会いをきっかけに、現実の世界に目を向けるようになっていく。

    ③花曇りの向こう
    数ページのお話し。中学生の明生は転校して3週間経つが、いまだに友達がいない。そんな中、駄菓子屋で同級生とパタリと会う。


    ◇◆━━━━━━━━━━━━
    3.主な登場人物 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    ①夏の体温
    高倉瑛介 小3、8歳
    田波壮太 小3、9歳

    ②魅惑の極悪人ファイル
    大原早智 さち
    倉橋ゆずる ストラブ、ストマックブラック、腹黒、大学生

    ③花曇りの向こう
    明生 あきお
    おばあちゃん
    川口くん

    • ちゃたさん
      Manideさん

      たくさんのいいね!ありがとうございました。こちらの作品私も見ました。専門書ばかり読んでガチガチに固まった頭を解きほぐして...
      Manideさん

      たくさんのいいね!ありがとうございました。こちらの作品私も見ました。専門書ばかり読んでガチガチに固まった頭を解きほぐしてくれました。瀬尾さんの作品ならではだと思います。「魅惑の極悪人ファイル」個人的にハマりました。ストブラ、普通にいいやつでした。
      2023/01/18
    • Manideさん
      ちゃたさん、こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      すみません、全く気づいておりませんでした…

      いつも、不定期に皆さんの本棚みるの...
      ちゃたさん、こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      すみません、全く気づいておりませんでした…

      いつも、不定期に皆さんの本棚みるので、いいねとか、コメントがまとまってしまってます。すみません…

      難しい本とか、重い内容の本とか読んでいると、気持ちが下向きになる時がありますよね。そういう時は、こういう作品がいいですよね。

      倉橋、腹黒は面白かったですね。
      2023/01/26
  • 夏休み中、小学校3年生は楽しく遊んでいるだろう時に自分は血小板数値低く、経過観察で1ヶ月以上入院している。ただでさえ夏休みで遊びたい盛り。瑛介は病院内で鬱屈した日々を過ごす。そんなある日、同学年の壮太君が病院にやってきた。陽気にあいさつするが、低身長のための検査入院らしい。しかし明るく遊びの天才で一緒に過ごすのがとても楽しい。楽しすぎてしまうと、退院時のお別れが非常に悲しい。壮太君の明るさに瑛介だけではなく自分も救われた。人間辛い時だけではなく、楽しい時もある。あの夏の思い出もいずれ昇華できるに違いない④

  • 硬くなった心がじんわりとしてくる。温かな血が通ってくる。やはり瀬尾さんの作品はシンプルにいいなと思わずにはいられませんでした。
    〈夏の体温〉
    小学生とか学生時代の、その時だけならではの友情ってあります。大人のそれとはまた質が違うもので、わずかな期間であっても瑞々しく思い出の1ページに残るものです。
    私も幼い頃入院したときがあって、死ぬほどヒマで爆発しそうでした。だから、瑛介の気持ち、わかるなぁ。そこで過ごす壮太との一瞬の、でもかけがえのない思い出が綴られる様子が心に響いてきます。お互いがけして軽くはない病を抱えるなかで、互いの苦しみや哀しみに想いを馳せながらながら生きる姿にもジーンときました。
    パワー全開な子どもたちならではの、熱い熱い夏の体温がぎゅっと詰まった作品でした。
    〈魅惑の極悪人ファイル〉
    大学生の早智は学生でありながらなんと小説家。でもどっちかというと陰キャ街道を歩んできた。それがまた、倉橋という「極悪人」を取材します。この二人の対比がコミカルでコントのようで笑えます。
    数々の山越え谷越え?!、早智の心の中に「友達」という「人」が生きづくという早智にとってはミラクルな成長が描かれる快作でした。私も心の中で快哉を叫んでました。瀬尾さんの描くキャラって陰キャも陽キャも魅力的なんですよね。
    〈花曇りの向こう〉
    掌編。今の中学生は瀬尾さんの作品で授業受けれてうらやましいな~とシンプルに思いました。
    中学生の微妙な心理を描くの、ホントにうまいな~と思いました。元中学校の先生だからさすがというべきか。

  • ここ連日の猛暑がヤバくて夏の体温は上がりっぱなし。
    皆さま熱中症には気をつけましょう。
    屋外で無理してマスクするのはやめましょう。
    あと、節電をがんばりすぎるのもやめましょう。

    友情がテーマの3つの短編を収録。
    瀬尾さんらしくハートウォーミング。
    安心してお読みください。

    複数の方が指摘されるようにサラッとしているので、重いものを読んだ後のお口直しにちょうど良いかも。

    • naonaonao16gさん
      たけさん

      憂鬱な朝です…
      何もやる気が起きません…
      とりあえず今日を過ごすことが目標になりそうです…笑

      そうか、愛ですよねこれは!
      だか...
      たけさん

      憂鬱な朝です…
      何もやる気が起きません…
      とりあえず今日を過ごすことが目標になりそうです…笑

      そうか、愛ですよねこれは!
      だからこんなに落ち込んでるんだ!笑
      昨日のために生きてきたんだと痛感しております…
      2022/07/04
    • たけさん
      naonaoさん

      愛のためには憂鬱な朝も大切
      …ですよ。

      たぶん。
      naonaoさん

      愛のためには憂鬱な朝も大切
      …ですよ。

      たぶん。
      2022/07/04
    • naonaonao16gさん
      痺れました。

      いってきます。
      痺れました。

      いってきます。
      2022/07/04
  •  破りたくても破れない自分の殻。誰かや何かのせいにして現状に甘んじるのは簡単で楽だけれど……。
     そんな自分を変えるきっかけをもたらしてくれた「出会い」を描くヒューマンドラマ短編集。
              ◇
     夏休みの県立病院小児科病棟。検査入院してくる子どもが毎日1人はいる。採血等の検査を待つ子どもたちはおしなべて悲壮な顔をしているし、泣き出す幼児も少なくない。
     その様子を瑛介はプレイルームで眺めながら、不安だろうなと思う。けれど、3日もすれば退院できるじゃないかとも思う。

     小3の瑛介は、もう1か月以上も入院している。
     ゴールデンウィーク明けぐらいから足に痣が頻繁にできるようになった。心配した母に連れられ病院めぐりの末たどり着いたのがこの県立病院だ。
     検査の結果、痣の原因は血小板の少ないことだと判明。投薬治療をしながら経過観察することになったのだった。

     重症患児が入る西病棟から一般患児用の東病棟に移って3週間。未だに退院の目処は経っていない。
     症状が劇的に改善するような病気ではないのはわかっている。けれど病棟に缶詰め状態でいるのは、8歳の瑛介にとってつらいことだった。そんなある日、瑛介と同学年の男児が東病棟に入院してきた。
         ( 第1話「夏の体温」) ※全3話。

          * * * * *

     人との出会いによって閉塞感から解放されたという経験は、誰にもあるのではないでしょうか。
     進学や就職といった環境の大きな変化の他に、ほんの偶然によるものであっても、その出会いで目の前が開けたように感じることがある。そんなドラマが、瀬尾まいこさんらしい温かなタッチで描かれていました。


     個人的には表題作が最も印象的でした。もう少し紹介しておきます。

    第1話「夏の体温」
     瑛介を解放してくれたのは、田波壮太という少年でした。
     壮太の病気は低身長症という骨の発育不良によるもので、9歳ですが幼稚園児ぐらいの身長です。けれど常に明るく元気な壮太は瑛介に大きな影響を与えていきます。

     相手との距離を測りながら言葉を選んで接する癖のある瑛介にとって、自然体で懐に飛び込んでくる壮太の気さくさは、肩の力を抜いてくれるに十分でした。
     病気についてもポジティブ思考で割り切って捉える壮太と接するうち、瑛介の鬱屈した気持ちが薄れていきます。

     検査入院の壮太は2泊3日で退院していくのですが、別れのシーンとともに後日談が胸を打つ展開でさすが表題作だと思いました。


     他の2作品についても少し紹介します。

    第2話「魅惑の極悪人ファイル」
     主人公は女子大生の早智。容姿にコンプレックスがあり、社交性にも欠ける女性です。

     早智は小学校〜高校を通して女子たちのグルーブに入れてもらえませんでした。
     孤独の時間を埋めるため空想の世界で遊ぶことが多くなった早智。いろいろな自分を想像し、それをノートに書き留めたりしながら日々を過ごします。
     
     そんな早智をカースト上位の女子たちは暗いキモいと嘲笑しますが、高校卒業時にノートの内容を1つの物語にまとめ、さる文学賞に応募したところ優秀賞を獲得。入学した大学でも注目の人になり、侮蔑の対象にされることはなくなりました。けれど、友人のいない日々は変わらず続いているのでした。

     早智自身どうすれば友人ができるのか、それがわかりません。容姿や社交性へのコンプレックスもあり、早智は孤独感に囚われています。

     早智はある日、3作目執筆のため、同じ大学に通う倉橋という男子学生に取材を申し込みます。倉橋は学内で「腹黒い」と噂される男で、悪人を描いた新作の主人公の参考にしようと考えたからでした。

     ずいぶん失礼な取材の申し込みだと思うのですが、倉橋は特に怒るでもなく早智の依頼に応じます。
     コミュ障 vs 腹黒。取材の行方は?

     
    第3話「花曇りの向こう」
     小学校卒業と同時に ( 恐らく関西の ) 祖母宅で暮らすことになった明生。顔見知りが誰もいない中学で、クラスの中に居場所が見つけられずにいます。
     話の輪に入れない。自分の気持ちをどうことばにしていいかわからない。自然、クラスで浮いた存在になって ( いると思いこんで ) しまいます。
     
     そんな状態なので、明日に控えた野外学習が明生は憂鬱でしかたありません。
     教室のあちこちから聞こえる、おやつをいっしょに買いに行こうと相談する声。でも明生には誰からも声がかかりませんでした。
     結局、1人で買いに行くことにしたのですが、みんなが集まるスーパーに足を向ける気にならず、裏通りにある寂れた駄菓子屋に行くことにした明生。何を買うか選んでいたところ目についたのが……。


     全話で共通するのは、友だちを作るのに構える必要はないということでした。

     素直に気持ちをことばにしてみる。 
     相手の顔を見て笑顔で話してみる。
     相手の言うことにきちんと耳を傾ける。

     ちょっとしたきっかけで「自然体」で接することを知る主人公たち。
     ああ、難しいことじゃなかったんだとわかった、小学生の瑛介、大学生の早智、中学生の明生。

     読後感のよい一冊でした。 

  • 先日読んだ『罪と罰を読まない』がなかなかに面白かったので何か三浦しをんさん読もうかなと思って…って三浦しをんさん違うわ!瀬尾まいこさんだわ!
    漢字+ひらがなの名前と女性ってことしか共通点ないわバカタレ!

    作風もぜんぜん違うし!三浦しをんさんはキリって感じで瀬尾まいこさんはふわって感じだわ!(伝わらんわ!)

    中編が2本と超短いのが1本、ふわっとしてました

    ちょっとだけありそうでなさそうでありそうな日常を描く瀬尾まいこさんお得意のやつ
    分かりやすいテーマがあるわけじゃないけど、ちょっとだけ何かが心の中に残ったような気がする
    そしてそのちょっとのところは読む人によって違う気がする

    違っていいのだ!(シャキーン)

    • ひまわりめろんさん
      さわわさん
      こんにちは!

      あんまり何も考えずにレビューを書いていますので、着目もなにもないんです
      むしろさわわさんの大好きな本にあまりに適...
      さわわさん
      こんにちは!

      あんまり何も考えずにレビューを書いていますので、着目もなにもないんです
      むしろさわわさんの大好きな本にあまりに適当なレビューを書いてしまい申し訳ない気持ちです
      さわわさんの本選びになにかしら良い影響を与えることができたら私も嬉しく思います
      よろしくお願いします
      2023/05/11
    • ののみさん
      ひまわりめろんさん、こんにちは。
      本当にごめんなさい!返信が来てるのに気付いてたんですが、それに返したつもりでいて……(言い訳に聞こえますが...
      ひまわりめろんさん、こんにちは。
      本当にごめんなさい!返信が来てるのに気付いてたんですが、それに返したつもりでいて……(言い訳に聞こえますが本当です。私の日常にはありふれています。)
      いえいえ、私にとって大切な本ではありますが、ひまわりめろんさんの面白くて素敵なレビュー、私大好きなんです。お世辞じゃないですよ。ブクログで活動するたびにひまわりめろんさんの登録本増えてやしないかと……急がないで平気です!なんか余計なことばかり口走ってしまう……本当にごめんなさい。大切な本だからこそひまわりめろんさんも読んでいるのが嬉しいです。馴れ馴れしくしてしまい申し訳ありませんm(._.)m長々と綴ってしまった……三浦しをんさんと瀬尾まいこさん……笑
      改めて返信ありがとうございます。
      2023/05/27
    • ひまわりめろんさん
      さわわさん
      こんにちは

      気にしなくて大丈夫ですよ
      駄文を積み重ねているだけですが、さわわさんの読書生活の一助になっていればうれしいです
      こ...
      さわわさん
      こんにちは

      気にしなくて大丈夫ですよ
      駄文を積み重ねているだけですが、さわわさんの読書生活の一助になっていればうれしいです
      これからも気軽にコメントして下さい
      自分もそうしますw
      2023/05/27
  • 「魅惑の極悪人ファイル」が面白かった。
    空想の世界に生きていた”私”が、一人の青年=ストブラとの交流を通して少しずつ変わっていく。
    思わず応援したくなりました♪

  • 早く読まなきゃ夏休み終わっちゃう!って借りてる本の中から優先的に読んでみた。
    この夏は足を骨折しているせいで仕事以外はほぼ引きこもりみたいな生活をしているけども、病院の中はもっと窮屈だよなぁ。
    しかも私のギプスのように終わりが見えている訳じゃないもんなぁ。
    上の子を産んだ時、私は予定通りに退院できなかったの。
    帝王切開の術後の傷の問題でね。
    周りがどんどん退院していく中で、終わりの見えない入院期間に突入した時は気分が滅入ったもんなぁ。
    でもどの話も最後に希望が見えるのがいいよね。
    裏表紙に隠された意味に気付いた時にもよくできた本だなって思った。

  • 病棟のプレイルームのTVでは「猛暑です!この暑さは危険です!」と
    騒いでいる。空調設備の整った病棟は
    そんな事を感じさせない。

    瑛介の夏はさんざんだった。夏休み前に
    入院し、もう1ヵ月を過ぎた。
    ――検査入院のヤツはいいよな――
    夏休みになった途端、2泊3日の検査
    入院が増えた。年下の子ばかり・・・・・
    そこへ検査入院だが、「俺、壮太!よろしくな!」「俺、瑛介!」ふたりは同級生
    だった。瑛介にとって、壮太は久しぶりに遊ぶことのできる相手だった。
    うれしくて、うれしくて――
    でも・・・壮太は明後日には退院してしまう。ふたりは意気投合した。お互いに
    焦って、時間を使った。遊んだ!

    ――瑛介には、毎晩日課があった――
    夜、暗いプレイルームでおもちゃ箱を
    ひっくり返すのだ。それは翌日には、
    綺麗になっている。いつも、いつも・・・
    事を済ませて、壮太に会ってしまった。
    ――まさか、見られなかっただろう―
    ところが・・・・・壮太が退院した夜、おもちゃ箱をひっくり返すと、カサカサッ、
    変な音がした。電気をつけて見ると、
    それは紙飛行機の山だった。壮太と遊んだ紙飛行機は、友情の山だった。

    ――そして、手紙が届く。「マジでヤバイぜ」外の暑さを教える為に、バッタの
    死骸が同封されていた!瑛介は直ぐに返事を書きたくて・・・・ここで涙が出た。
    壮太はなんていいヤツなんだ。ふたり
    にはこれからもずっと、友達どうしで
    いてほしい。きっと、きっと・・・・・

    私は小6の時に検査入院をした。
    隣のベットのおばさんの娘さんと、友達になりず~っと文通をしていた。
    今でこそ、年賀状のみになったが、結婚します、子供ができました、忙しくしています、娘が結婚します!、息子が大学生になります!おばあちゃんになります
    と確か今年の年賀状にありました。

    ――話が逸れました。
    この本は、3話入っていて「夏の体温」
    「魅惑の極悪人ファイル」そして、とても
    短い「花曇りの向こう」これは、中学校の
    教科書に載っているそうで、3回目の
    転校でおばあちゃんと暮らすが、友達に
    馴染めない男の子の話。

    2番目の話は、私にははっきり言って
    ピンとこなかった。
    瀬尾さん、ごめんなさい(>_<)
    夏の体温★5、魅惑の★2、花曇り★3
    夏の体温だけならば、この本は★5に
    なるのです。


    2022、9、13 読了

    • ポプラ並木さん
      アールグレイさん、
      夏の体温は⑤ですね。
      自分も楽しめました。
      友人の温かさ、素直さに嬉しくなりました。
      子を持つ親として、色々考えてしまい...
      アールグレイさん、
      夏の体温は⑤ですね。
      自分も楽しめました。
      友人の温かさ、素直さに嬉しくなりました。
      子を持つ親として、色々考えてしまいました。
      2023/10/16
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著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒業。2001年『卵の緒』で「坊っちゃん文学賞大賞」を受賞。翌年、単行本『卵の緒』で作家デビューする。05年『幸福な食卓』で「吉川英治文学新人賞」、08年『戸村飯店 青春100連発』で「坪田譲治文学賞」、19年『そして、バトンは渡された』で「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』等がある。

瀬尾まいこの作品

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