43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層

著者 :
  • 双葉社
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レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575313239

作品紹介・あらすじ

2015年2月20日、神奈川県川崎市の多摩川河川敷で13歳の少年の全裸遺体が発見された。事件から1週間、逮捕されたのは17歳と18歳の未成年3人。彼らがたった1時間のうちに、カッターの刃が折れてもなお少年を切り付け負わせた傷は、全身43カ所に及ぶ。そこにあったあまりに理不尽な殺意、そして逡巡。立ち止まることもできずに少年たちは、なぜ地獄へと向かったのだろうか――。著者初の少年事件ルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • 事件のことをニュースで知ったとき、その異様な死体の状況が印象的で、後に犯人たちが捕まったときは、なぜ中学生の少年が、そんな危険な高校生たちと関係を持ってしまったのか、と思ったのを覚えています。

    読み終えて思ったのは、居場所の無さと世界の狭さによって引き起こされた事件だったのかな、ということでした。そして自分が思春期の頃に抱えていたものと、彼らの鬱屈は同じものだったのかもしれないとも思います。

    まずは居場所について。
    被害者少年、犯人グループ、いずれにも共通していたのは、それぞれの家庭環境による「居場所の無さ」だったような気がします。そして居場所がないゆえに、夜の繁華街やゲームセンターに繰り出し、被害者少年と犯人グループは同じコミュニティに属することになった気がします。
     
    彼らのコミュニティは、アニメやゲームを共通の趣味としていました。ここで問題なのは、アニメやゲームが趣味だった、ということではありません。そうした共通の趣味があるにも関わらず、彼らは趣味でしかつながらず、お互いの人間性からは目を反らしていたように感じたことです。

    普通の関係性ならば、共通の趣味の話をしているうちに相手の人間性に興味を持ち、もっと仲良くなりたいと思ったり、逆に「この人とは合わないな」と距離を取ることもあると思います。それが正常な人間関係だと思います。しかし彼らは、相手の人間性に対し不審や不満を持っても、そのコミュニティから抜け出ようとはしませんでした。それは、なぜなのか。

    ここが人間の難しいところだと感じました。家庭や学校に居場所が無く、趣味を媒介にした不完全で暴力的なコミュニティにいることでしか、人とつながれない。それに満足しているわけでは決して無いけれど、それでも誰かとつながっていたい。そんな人間の矛盾を、このノンフィクションから感じます。

    そして、世界の狭さについて。
    先ほどの居場所の話ともつながりますが、彼らの世界は自分たちのコミュニティと、それ以外という認識しか無かったのかな、という印象を受けました。そして何とか、彼らの世界に接続することはできなかったのか、と考えてしまいます。

    主犯格の高校生は、事件前から暴力事件を起こし、保護観察処分を受けていました。また相当酒癖が悪く、川崎での事件の直前にも飲酒をしていたそうです。この飲酒さえ無ければ、少なくとも事件が起こることはなかったのでは、とも思います。

    保護観察処分を受け、酒は飲まないと保護司とも約束していながら起こった事件。さらに、事件が起こるまでの経過を読んでいると、この事件は止められたのではないか、というポイントはいくつも見えてきます。そこには、保護司の人材不足や高齢化による監視の不足、スマホやSNSの発達による人間関係の不可視化と、様々な社会問題も見えてきます。

    家庭、学校、行政、福祉、いずれも彼ら個人、そして彼らのコミュニティに真に繋がることができませんでした。この事件から何か学ぶことができるとすれば、そのあたりではないかと思います。

    最終章の被害者遺族の慟哭は読んでいて辛かった……。近年、事件被害者やその遺族に関しての制度も整いつつあるとは思いますが、今回の場合は、被害者少年の父親が、事件の起こった川崎に滞在したときの滞在費も出ていなかった、と知ると、やはり根本的なものは、まだまだ欠けているのだと思わざるを得ません。

    そして司法や警察制度の不十分。もちろん被害者やその遺族の心情に完璧に寄り添うことは、社会正義的、捜査の都合上不可能だとは思いますが、それでももっとどうにかできないのか、と思わざるを得ません。だからこそ、父親の最後の言葉は、社会通念上は許されないこととは思いつつも、許容してしまう自分がいるのも事実です。

    今まで遠かった、被害者少年や犯人グループとの距離をこの本でようやく測ることができました。だからこそ、事件を止めるチャンスがゼロでなかったことが、心から残念に感じてしまいます。

    そして、彼らの姿を知るうちにこれまで抱いていた事件のイメージと、実際の事件に対しての乖離も強く覚えました。マスコミの当時の過剰な報道は、事件の性格上仕方ないこととは思いますが、しっかりと事件のその後と、事件から真に考えるべきことを浮かび上がらせる責任を、果たしてほしいものだとも思います。

  • 丁寧な取材だと感じた。救われない環境、運、人が生まれて生きていくことの難しさを感じた。

  • 書店で平積みになっているのをふと見かけ、確か、帯に宮部みゆきがコメントを寄せていて、気になっていた本。このたび図書館で借りて読了。主たる語り手である被害者の父親が、自分の現況と最も近いこともあり、どうしても重ね合わせながら読み進めることになる。何重の意味でも被害者になるってことは、法体制とかから考えても厳然たる事実なんだろうけど、やはり強い疑問を覚える。強い復讐心についても語られるけど、これもやはり、理性で抑えきれるものでは到底ないものと思える。『故人はそれを望まない』的なフレーズも頭に浮かんだけど、あくまで私個人の気持ちの問題であり、気をそらせるための詭弁にも思えたりして。とか何とか、こういう系のノンフは憤懣やるかたないことが多いけど、色々と考えさせられる。

  • 相当な話題になった事件なので被害者の遼太君の顔は覚えていました。
    川崎の河川敷で全裸の遼太君がこと切れており、その体には切り付けられた跡が43箇所有ったという事件です。
    誤解を恐れず言えば、殺人を犯してしまう事自体は理解出来るというか、想像の範囲内です。そうでなければ色々な映画やドラマや本で、動機を考えつく事すらできないですから。一般的に想像する動機として、金銭的な欲望、性的な欲望、保身、衝動的な怒り、そして復讐。
    この事件で理解し難いのは、殺すほどの動機が無いという事です。サイコパスだったりするなら異邦人的な訳の分からなさで「そうか、こいつは理解できないくらいの異常者だから理解不能なんだ」という事で終わるのですが、この犯人である少年3人はこれだけ残忍な事をしているのに、その後何も策を講じる事も無くそのまま放置して、服を燃やして証拠隠滅図るも、遺体はそのままという杜撰さ。3人も関わっているのにこの無能さは、殺人をしたという事自体が彼らにとって必然ではなかったという事なんでしょう。覚悟が有ったらもっと何とかしようとしますから。
    彼らは刑期を終えてもまたなんらかの事件を起こしそうな気がします。自分の心の中を見つめ直しても何も出て来ないのではないでしょうか。それくらいすっからかんな人間に感じます。
    ちなみにこの本を書く事によって、加害者だけではなく被害者家族も問題ありと判定されそうな内容です。第三者なので冷静に読んでいますが、彼の弟妹が読んだとしたら居たたまれないだろうなと思いました。
    しっかりとしたルポタージュです。それだけに情報の取捨選択難しかったろうと思います。

  • 船戸結愛ちゃん虐待死事件に怒りがおさまらなかった。
    同じ怒りを感じたのが、2015年の上村遼太くん殺害事件だった。
    本書の著者・石井光太氏の本は以前読んだことがあった。
    ギリギリの取材を重ねて書くジャーナリストである。
    上村くん事件の本は他にもあるようだが、著者への信頼から本書を購入した。
    2015年2月20日未明、上村遼太くんは3人の少年によって43回も刺され、2回川を泳がされ殺害された。凍える身体と朦朧とした意識の中で、多摩川の河川敷を23.5メートルも這って生きようとした。
    この事件の背景を知りたかった。
    加害者はどういう生い立ちなのか。上村くんはなぜ殺されたのか。殺害までの経緯を知りたかった。
    この事件は、社会からこぼれてしまった少年が、その喪失感を埋めるように、同じような生い立ちの年下の少年を殺したものだった。「社会からこぼれる」といっても、その発端は家庭にある。上村くんの両親も離婚し、母親は新しい恋人をマンションに引き込んでいた。加害者である少年Aは体罰といじめ、少年Bは離婚と貧困といじめ、少年Cは放任の中で育っていた。4人とも家庭環境が悪すぎる。
    しかし、人を殺す理由にはなるはずもない。上村くんが殺される理由にもなるわけがない。
    加害者の3人は悲しいほどコミュニケーション不在であった。信頼できる人がいない。信頼ということが分からない。人間は人の間でしか生きられない。人間関係の中でしか自分を保てない。その空虚を埋めるには、弱い者の上に君臨するしかないのだ。まるで、弱肉強食の畜生のように。
    船戸結愛ちゃん虐待死事件の構図も同じように思えてならない。逮捕時、父親は無職であった。

  • 川崎で起きた、中学生の少年がリンチで死亡した事件。
    彼は先輩たちから43回もカッターで切りつけられていた。

    冒頭からかなり読んでいてキツい場面で始まる。
    殺された少年がどんな状態だったのか、身体の様子が書かれている。
    他に、リンチの様子が描かれている所では覚悟していたものの、思わず口を手で押さえるほど、読んでいてつらかった。

    この事件はもちろん、私も知っている。
    当時、ニュースやワイドショーで目にした。
    だけど、特にこの事件が特異だと思った訳でなく、特に興味ももってなかった。
    はっきり言ってこの本も、何となく目に入って、前にこの作者の本を読んだ事があったから読むか、くらいで読んでみた。
    読んでの感想は、私がニュース、ワイドショーで知ったのとそれほど大きなイメージの違いはなかったということ。

    もちろん、思ってたのと違う事もある。
    私はあまり詳しく当時のニュースを見てなかったので、リンチをしたのがもっと大勢だと思っていたら、3人だったし、母親のイメージも思ってたのとちょっと違った。
    もっと自堕落な女性かと思っていたら、ヘルパーの資格をとって働いていたり、当時も朝、晩とずっと働いていたとここでは書かれていた。
    ただ、お金にだらしなく、感覚的にちょっと普通とズレている所があったらしい。
    そして、加害者の中では首謀者とされる少年が最も凶悪かと思いきや、意外にも別の少年が凶器となったカッターを差し出したということ。
    その少年は犯行を今だ否認しており、裁判の際はヘラヘラ笑っていた、という事から実際はその少年が一番凶悪な印象をもった。

    この本ではインタビューに応じてくれた被害者の父親の立場からしか描かれてなく、加害者も、被害者の母親の見解もない。
    犯行の様子も首謀者の少年の言質からしか書かれていない。
    他の二人の少年は嘘をついたり、言う事がコロコロ変わって話に信ぴょう性がなかったかららしい。
    だからどうしても片手落ち感がぬぐえないし、何か全てが書かれているという感じもなかった。
    最も知りたいのは少年と実際一緒に住んでいた母親の心情だった。
    また、読んでいて違和感を感じたのは、取材に応じた父親が子供たちの事を語る時、常に殺された少年とその下の妹としか接触をもってない様子なこと。
    長男がいるらしいけど、その子の事はまるで存在がないような感じで、そこにも何か言えないような、家族のゆがみがあるのかな・・・と感じられた。

    この本の中で作者はこの事件に何故、世間の人がこれほど関心をもつのか疑問だと書いてある。
    私は何となく分かるような気がする。
    あの事件の事を聞いた時、そういう事件があったのか・・・と思う程度だったのが、殺された少年の写真を見た途端、心がつまった。
    まだ子供で、無邪気であどけない笑顔の少年。
    あの笑顔を見たら、何でこんな子があんな酷い殺され方を・・・と思う。
    言葉で伝える事より、ビジュアルは一瞬で胸にくる。
    それは巷の人も一緒だったのでは・・・?と思う。

  • 事件発生は2015年2月。まもなく5年を迎える。この本の発売も2017年12月。2年が経つ。
    事件を知ろうとするには、少し遅すぎたかもしれない。それでも知ってよかった。
    殺害現場である河川敷に供えられた大量の花束。いつの間にか設置された焼香台。大学ノートに書き残される慟哭。
    「運が悪かった」実父の言葉は何故か説得力がある。
    少年は不良ではあったが、人懐っこく素直であった。そんな人物像が浮かんでくる。
    加害少年についても考える。主犯は発達障害、ADHD。酒が入ると狂暴になることはわかっていた。
    アメリカに行ったりフィリピンに行ったり。母親に振り回された2人目の加害少年。
    できることはあった。しかし、できないのが現実だった。
    運命であったのかもしれない。
    でも、現実は変えられる。もっと多くの人が問題を考えれば。

  • そんなことで人が殺されてしまうのか。そんなことで人を殺してしまうのか。親、学校、友達、狭い世界でしか生きられなかった彼等。その世界でしか子供は生きられないからこそ、殺されたり殺したりするのか。なんともやりきれんわ。

  • 何となく気になっていた事件だったけど、最近何かと川崎がフォーカスされているので読んでみたが、思いの他、多面的な要素があり、複雑な事件だったのだの気づいた。
    家庭環境と友達が、人格形成に大きく影響を及ぼす傾向が強い。

    これを読んだ後だと、当時のワイドショーが如何に浅く、人を傷つける報道をしていたのだとよく分かった。

  • 川崎中1男子生徒殺害事件のルポ。事件のことは覚えていたけれどおぼろげだった。起こった経緯、背景、主犯格の少年とその仲間の少年たちの生い立ちなどを丁寧に取材した一冊。読み終えたあと著作を見たら「遺体」があって聞いたことあるな、と思ったら「美しい顔」で剽窃された方の本の一冊やん!

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著者プロフィール

作家。
1977年東京都生まれ。大学卒業後にアジアの貧しい国々をめぐり、ドキュメンタリー『物乞う仏陀』(文春文庫)でデビュー。その後、海外の貧困から国内の災害や事件まで幅広い執筆活動を続けている。NHK「クローズアップ現代+」などにも出演。
著書に、児童書に『ぼくたちはなぜ、学校に行くのか。』『きみが世界を変えるなら』(共にポプラ社)、『みんなのチャンス』『幸せとまずしさの教室』(共に少年写真新聞社)、『おかえり、またあえたね』(東京書籍)がある。一般書として、「新潮文庫の100冊 2015」に選ばれた『絶対貧困』『遺体』(共に新潮文庫)、『原爆』(集英社)、『43回の殺意』(双葉社)など多数。

「2020年 『地球村の子どもたち 途上国から見たSDGs ③平和』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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