Presents (双葉文庫)

  • 双葉社
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本棚登録 : 2017
レビュー : 244
  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575512403

作品紹介・あらすじ

私たちはたくさんの愛を贈られて生きている。この世に生まれて初めてもらう「名前」。放課後の「初キス」。女友達からの「ウェディングヴェール」。子供が描いた「家族の絵」-。人生で巡りあうかけがえのないプレゼントシーンを、小説と絵で鮮やかに切りとった12編。贈られた記憶がせつなくよみがえり、大切な人とのつながりが胸に染みわたる。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは生まれて初めてもらったプレゼントが何だったかを覚えていますか?

    それは、あなたのご両親が『ああでもない、こうでもない』と散々に思い悩み、あなたにいちばんふさわしいと思って与えてくれたものです。それは、あなたがあなたであることの証です。それは、あなたが一生を共にするものです。そう、それはあなたの『名前』です。そんな『名前』をあなたが気に入っているかどうかはわかりません。『もし私が春海という名前だったら、何かもっと違う日々を送っていたような気がする』、というように、一生を共にする『名前』だからこそ、もしそれが違ったものだったとしたら、今までの人生には違う景色が見えていたかもしれません。些細な歯車の組み合わせが変わってしまって、今のあなたの人生は存在しなかったかもしれません。でも、それでもあなたにいちばんふさわしいのは、やはり今のあなたの『名前』なんだと思います。そう、この作品は、〈名前〉から始まって、最後の〈涙〉まで、一生のうちに誰かからプレゼントしてもらうたくさんの贈りものの中から12の贈りものに焦点を当て、その贈りものを感じてゆく角田光代さんの短編集です。

    『いちばん心に残っている贈りものはなんですか?』と聞かれて、とっさに答えられなかったという角田さん。『贈りものってなんだろう。私が覚えているのは、品物であり、同時に品物ではない』と思い至ります。『それをくれた人、くれた人との関係。どちらかといえば、そちらをより濃く覚えています』というように、『贈りもの』というのは必ずしもその対象物そのものを指すとは言い切れません。この短編集には、そのことをより強く考えてしまう物語が詰まっています。ここでは、その中から二つ取り上げたいと思います。

    まず、一つ目、〈名前〉。『なまえのゆらい、というタイトルで作文を書く宿題があった』という冒頭。『家に帰って、私は母に自分の名前の由来を訊いた』、それに対して『あなたがうまれたのは春だったから、春子なのだと、じつにそっけなく母は答え』ます。『それまであんまり好きじゃなかった自分の名前が、ますますきらいになった』という春子。『春だから春子。なんにも考えていないことがばればれの、頭の悪そうな名前』と自分の名前が余計に嫌いになります。そして『春子という名前は捨ててしまおうと、そのとき決心した』春子。『こっそり、ノートの裏に新しい名前を書いてみた。春菜。春海。春香。春枝。うっとりした』という春子。『今日から私は春海になります』と友達に宣言する春子。『しかし私は春子だった。春子のまま大人になった。地味で、シンプルで、退屈な大人になった』と成人します。そして『結婚したのは三十一歳のときだ』という春子は、『私に負けず劣らず平凡な名前で、ノリオという』夫と結婚し『釣り合いがとれているような気がした』という春子は、『まったく私たちの暮らしは、大いなる平凡、大いなる退屈で成り立っている』という生活を送ります。そんな夫婦に『結婚して一年目に赤ん坊ができた』と生活が大きく変化する機会が到来。そして『私と夫は子どもの名前についてあれこれ考えをめぐらせる』という春子。自分の名前が嫌いだった春子は自らの子どもの名前にどういう結論を出すのでしょうか…。人が生まれて初めてもらう贈りものが『名前』だという考え方。思わず自分の名前の由来を思い浮かべ、親に不満を言ったことを思い出しました。自分の肉体以外で唯一一生を共にすることになるもの、それが『名前』。生まれて初めて受け取ったその大切な贈りものについて、とても味のある納得のいく結末の描かれ方に冒頭からすっかりこの短編集の世界の虜になってしまいました。

    二つ目。〈鍋セット〉。『第一志望だった大学に合格した』という主人公は、母親と東京に新居を探しにやってきます。想定した予算では驚くほど狭く、しょぼくれた部屋しかないことに二人は驚きますが、『私鉄沿線の駅から徒歩八分』のアパートに住むことを決めます。引っ越し蕎麦を食べに行こうと出かけた二人。その帰りに『あっ、いやだ、おかあさん、忘れてた』と言う母親は『鍋』を買わないと、と雑貨屋に入り『鍋は大、中、小と三つ』を買い、『私』に持たせます。『鍋なんかいいよ』と言う『私』に『よくないわよ、鍋がなきゃなんにもできないじゃないの』、という母親。そんな『私』でしたが、やがて『この鍋で私は料理を覚えた』、とこの鍋を母親から贈ってもらったことがきっかけで、その先の人生がどんどん開けていきます。『だいじょうぶ、なんてことない、明日にはどんなことも今日よりよくなっているはずだ』という前向きな考え方。そういった気持ちになるには何らかのきっかけを求めたくなるものです。そのきっかけを『鍋から上がる湯気は、くつくつというちいさな音は、そんなふうに言っているように、私には思えた』と
    鍋から上がる湯気が背中を押してくれる日々を送る『私』。そんな私は『あのとき、母にいったい何をもらったんだろう?』と、かつて鍋を贈ってもらったあの時のことを振り返ります。使いすぎてボロボロになった鍋を今も大切に使い続ける『私』があの日、あの時、母親からもらったもの。それは単にそのものだけではなく、そのものを贈ることにした母親の深い思いも含めた贈りものだったことに気づく『私』。人生の長い時間を経て、とても奥行きを感じさせるあたたかい短編でした。

    『生まれてから死ぬまでに、私たちは、いったいどのくらいのものを人からもらうんだろう』と語る角田さん。この作品では〈名前〉からはじまり、最後の〈涙〉まで色々な贈りものを受け取りながら人は人生を歩んでいく、まさにその姿が描かれていました。そんな贈りものには、単なる品物だけでなく〈名前〉、〈涙〉のように、この作品を読んで初めて意識することになった贈りものもありました。『品物は、いつかなくしてしまっても、贈られた記憶、その人と持った関係性は、けっして失うことがない』と角田さんがおっしゃるとおり、品物は年月が経てば壊れたり、失くしたりと目の前から失われてしまうこともあります。でも、その贈りものにより繋がった何かは、決して失われることなく、その人が生きていく上で一生の宝物にもなりえます。

    『私たちは膨大なプレゼントを受け取りながら成長し、老いていく』という私たちの人生。一見全く繋がりのない12の短編がまるで人が生まれてから亡くなるまでを描いた一編の大河小説を読んだかのような読後感に包まれるこの作品。各短編に絶妙なタイミングでアクセントをつける松尾たいこさんのイラストが登場するこの作品。角田さんと松尾さんから文字と絵のとても素晴らしい贈りものをいただいたこの作品。自分自身が受け取ってきたものを思い起こすと同時に、自身も素敵な贈りものを送ってあげられる人でありたい、そんなことも考えさせてくれた作品でした。

  • 初めて読むのにピッタリだから、と友人に勧められて読んだ最初の角田光代さん作品。

    12のお話が入った短編集。そもそも短編集はあまり読まないのだけど、この本はとても良かったです。一つ一つのストーリーが様々な感情を呼び起こす素敵な作品で、それらがプレゼントという一つのテーマで結びついている面白さもあります。

    中でも、特に"寂しさ"の感情を描いているように感じた作品「鍋セット」と「うに煎餅」の2作品はすごく心が動かされました。人間が成長して、大きく変わっていくことは嬉しいと共に、ふと振り返ると、寂しさもある。その寂しさは、その時期の自分をかけがえなく思えている証でもあるような…人は、"その時"にしか出せない輝きがあるんだなあと思いました。自分の様々な思い出とも重なり涙が出てしいました。

    人は、生きて成長していく上で、様々なプレゼントを貰って生きているのだな、と気付かせてくれる素敵な作品でした。

  • いろいろな、ほんとうにいろいろなプレセントの形。
    あとで考えてみると、自分にとってはとっても大事なプレゼントだったのだろうな、と思い返すような、そんなプレゼントの集まり。すばらしい。
    挿絵もほんわかしていて、とてもいいですね。
    最後のプレゼントは暖かくて、そして悲しい。

  • ちょうど具合が悪いときにお布団のなかで読んだからか、『料理』が身に染みた。この家族の感じがまさに今。普段、滅多に体調不良を起こさない私だから、こんな時は気弱になっちゃって、もう死んじゃったらどうしようまで考えてしまう。ダンナや子どもたちからの抱えきれないほどの贈りもの。父と母からもらった言葉にできないほど大切な贈りもの。貰ってばかり。ああ、わたしはみんなにまだ贈りものを渡してないよ。だから、まだ死ねない。大げさだけど、弱ってるときは悪い想像が膨らんでいく。そんなことグワングワンしてる頭で涙ぐみながら考えてるから、ラストの『涙』は本当にあったかくて切ない気持ちになった。

  • 自分に「名前」があるのは、あたりまえだと思っていたけど、名前は親からもらう最大のプレゼントなのですよね。
    今まで関わった人たちから、形のあるもの、ないもの、いろんなものをもらって今日まで来ていることを思い知らされました。
    角田さんの本を読むと力が湧いてくる。
    この本もまさに私にとってPresentそのものです。

  • 「女性が一生のうちにもらう贈り物」がテーマの短編集。
    12の短編を読むと、一生のうちに実に色々なものを貰っているんだな、と気づく。

    「名前」「ランドセル」は自分も親から貰い、自分も子供に与えたもの。自分が与えてみて初めて、与えた親の気持ちを知ったような気がする。
    「ぬいぐるみ」のラストは泣けた。
    贈った品物はいつか無くなってしまうかもしれないが、贈られた記憶や送り主との関係は無くなることはないはず。

    私も残りの人生において、どんな贈り物を貰えるのか楽しみにしよう。
    それが角田さんからのプレゼントだと思うから。

  • 人生における贈り物。
    それは姿も形も様々。
    ある人にとっては何でもない物事かもしれない、でも自分にとってはかけがえのないもの。
    そんな大切な贈り物にまつわる短編12編。

    『名前』
    名前は両親から子供への初めてのプレゼントです、と言われる事がある。
    近年はDQN、キラキラネーム、なんて言ってやり玉に挙がる事も多い。
    確かにいくら何でもそりゃないよ、というもの(嘘か真かわからないが)もあるが、多くの場合、色々な思いが詰まっているはずだ。
    だから迷信かもしれないけれど字画を気にしたり、やたら派手な名前になったりもする。
    でもそこにある思いは、この子が幸せになりますように、そんな思いなのだ。

    『鍋セット』
    私が一人暮らしを始めたのは親と喧嘩したからだった。
    出て行ってやるよ、と右も左もわからず引っ越しを始めた。
    その引越しの荷物の中に母がこっそり鍋を入れておいてくれた。
    その鍋でカレーを作り、夏の泊まり勤務だというのに朝から出しっ放しにして腐らせたり、大量のオカラ炒めを作ってしまったり。
    この物語を読んでそんな幾多の失敗を思い出す。
    私もいつか子供たちに鍋をプレゼントする日が来るのだろうか。
    煮炊きをきちんと教えて、自活できる強さを与えてあげられるだろうか。
    ル・クルーゼやバーミキュラ、ストゥブなんてかっこいいやつじゃなく、普通の雪平鍋や両手鍋とともに巣立てるように。

    『絵』
    怒りすぎてしまう母親。
    これは私か?
    「何を叱っているんだかわからなくなって、ただ泣かしたい衝動だけが残る」
    そんな情けない母親だが、子供の描いた絵を見て泣いてしまう。
    ごちゃごちゃした、子供のいる家特有の姿、汚い玄関、掃除してもすぐに汚くなる家。
    でもそれはそこにみんなが住んでいるから。
    今日は抱きしめてあげよう。
    いや、今日だけじゃなく、明日も明後日も何度でも。
    片付けて、叱って、汚れて、片付けて、抱きしめて。

  • 装丁も素敵。
    ごく日常的な出来事を各短編でベースに一生を紡いでいく形式。その折々では自分でも掬い取ることのできない、小さな心の綻び、劣等感、悲しみ、つまづきなどに、角田さんの筆致で光を当ててくれている感じ。

    各作品中、出来事を経て、自分で気づき、折り合いをつけた救いの気持ちもとても心地よかった。

  • 女性が一生のうちで受け取る贈り物。
    形のない「名前」や「初キス」から、「ぬいぐるみ」や「うに煎餅」に至るまで12個の贈り物をテーマにした短編集です。
    イラストは松尾たいこさん。文と絵で織りなす、光り輝くプレゼントたちの物語です。

    まるで包装紙のようなかわいらしいブックカバーに目を引かれました。
    キラキラしていて、温かく、どこか懐かしさのある一冊です。きっと読みながら、自分も贈られた数々のものを思い浮かべていたからだと思います。
    形のあるものにせよ、そうでないものにせよ、何かを贈られる時人はそのものだけでなく、相手の想いを一緒に受け取っています。だからこそ、贈り物は記憶に残るんでしょうね。

    偶然にも主人公はアラサーが多く、ピンポイントに「わかるわかる」と深く頷いてしまうものもありました。
    どの物語もいいけど、まずは「合い鍵」が好き。
    8年付き合った彼に、好きな人がいると別れを切り出される彼女の話。
    「ぼくらの線は交わらない」の台詞が、そして8年間の重みがリアルでした。ラストも大好き。わかるわかる。

    それから「うに煎餅」
    100点の男を自ら逃す30歳女の話。
    どんな豪華な贈り物より、心に届くものがある。
    主人公が20歳だったら、あるいは40歳だったらまた違うラストになっていたかも。そんなことを思いながら楽しく読みました。

    私たちは知らず知らずのうちにも、たくさんのものを贈られて生きていると思います。
    そこに詰まっているのは日常の幸せであり、感謝であり、エールでもある。
    読み終わって、この人生もまた神様からの、あるいは両親からの贈り物だと気付いてちょっとじーんとしました。贈り物にもいい一冊だと思います。

  • 女性が一生に貰える大切なプレゼント。

    それを、誕生から終焉まで書かれていてよかった・・・。

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