- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575512403
作品紹介・あらすじ
私たちはたくさんの愛を贈られて生きている。この世に生まれて初めてもらう「名前」。放課後の「初キス」。女友達からの「ウェディングヴェール」。子供が描いた「家族の絵」――。人生で巡りあうかけがえのないプレゼントシーンを、小説と絵で鮮やかに切りとった12編。贈られた記憶がせつなくよみがえり、大切な人とのつながりが胸に染みわたる。発売以来、ロングセラーとなって愛されている短編集。
感想・レビュー・書評
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表紙がかわいくて選んだ1冊
女性が一生のうちにもらう贈り物
生まれた時に「名前」をもらうところから始まり「涙」で終わる12の短編集。
驚いたのは、イラストレーター松尾たいこさんが主人公の女性の年齢とプレゼントされたもの(テーマ)だけで挿絵を描いたということ。
物語とは少し違うイメージの挿絵だったり、それも楽しい。
生まれてから死ぬまでに、私たちはたくさんのものを人からもらう。
形のあるものばかりではない。
感謝の気持ちを忘れず、贈る側にもなりたいと思わせてくれる小説だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あなたは生まれて初めてもらったプレゼントが何だったかを覚えていますか?
それは、あなたのご両親が『ああでもない、こうでもない』と散々に思い悩み、あなたにいちばんふさわしいと思って与えてくれたものです。それは、あなたがあなたであることの証です。それは、あなたが一生を共にするものです。そう、それはあなたの『名前』です。そんな『名前』をあなたが気に入っているかどうかはわかりません。『もし私が春海という名前だったら、何かもっと違う日々を送っていたような気がする』、というように、一生を共にする『名前』だからこそ、もしそれが違ったものだったとしたら、今までの人生には違う景色が見えていたかもしれません。些細な歯車の組み合わせが変わってしまって、今のあなたの人生は存在しなかったかもしれません。でも、それでもあなたにいちばんふさわしいのは、やはり今のあなたの『名前』なんだと思います。そう、この作品は、〈名前〉から始まって、最後の〈涙〉まで、一生のうちに誰かからプレゼントしてもらうたくさんの贈りものの中から12の贈りものに焦点を当て、その贈りものを感じてゆく角田光代さんの短編集です。
『いちばん心に残っている贈りものはなんですか?』と聞かれて、とっさに答えられなかったという角田さん。『贈りものってなんだろう。私が覚えているのは、品物であり、同時に品物ではない』と思い至ります。『それをくれた人、くれた人との関係。どちらかといえば、そちらをより濃く覚えています』というように、『贈りもの』というのは必ずしもその対象物そのものを指すとは言い切れません。この短編集には、そのことをより強く考えてしまう物語が詰まっています。ここでは、その中から二つ取り上げたいと思います。
まず、一つ目、〈名前〉。『なまえのゆらい、というタイトルで作文を書く宿題があった』という冒頭。『家に帰って、私は母に自分の名前の由来を訊いた』、それに対して『あなたがうまれたのは春だったから、春子なのだと、じつにそっけなく母は答え』ます。『それまであんまり好きじゃなかった自分の名前が、ますますきらいになった』という春子。『春だから春子。なんにも考えていないことがばればれの、頭の悪そうな名前』と自分の名前が余計に嫌いになります。そして『春子という名前は捨ててしまおうと、そのとき決心した』春子。『こっそり、ノートの裏に新しい名前を書いてみた。春菜。春海。春香。春枝。うっとりした』という春子。『今日から私は春海になります』と友達に宣言する春子。『しかし私は春子だった。春子のまま大人になった。地味で、シンプルで、退屈な大人になった』と成人します。そして『結婚したのは三十一歳のときだ』という春子は、『私に負けず劣らず平凡な名前で、ノリオという』夫と結婚し『釣り合いがとれているような気がした』という春子は、『まったく私たちの暮らしは、大いなる平凡、大いなる退屈で成り立っている』という生活を送ります。そんな夫婦に『結婚して一年目に赤ん坊ができた』と生活が大きく変化する機会が到来。そして『私と夫は子どもの名前についてあれこれ考えをめぐらせる』という春子。自分の名前が嫌いだった春子は自らの子どもの名前にどういう結論を出すのでしょうか…。人が生まれて初めてもらう贈りものが『名前』だという考え方。思わず自分の名前の由来を思い浮かべ、親に不満を言ったことを思い出しました。自分の肉体以外で唯一一生を共にすることになるもの、それが『名前』。生まれて初めて受け取ったその大切な贈りものについて、とても味のある納得のいく結末の描かれ方に冒頭からすっかりこの短編集の世界の虜になってしまいました。
二つ目。〈鍋セット〉。『第一志望だった大学に合格した』という主人公は、母親と東京に新居を探しにやってきます。想定した予算では驚くほど狭く、しょぼくれた部屋しかないことに二人は驚きますが、『私鉄沿線の駅から徒歩八分』のアパートに住むことを決めます。引っ越し蕎麦を食べに行こうと出かけた二人。その帰りに『あっ、いやだ、おかあさん、忘れてた』と言う母親は『鍋』を買わないと、と雑貨屋に入り『鍋は大、中、小と三つ』を買い、『私』に持たせます。『鍋なんかいいよ』と言う『私』に『よくないわよ、鍋がなきゃなんにもできないじゃないの』、という母親。そんな『私』でしたが、やがて『この鍋で私は料理を覚えた』、とこの鍋を母親から贈ってもらったことがきっかけで、その先の人生がどんどん開けていきます。『だいじょうぶ、なんてことない、明日にはどんなことも今日よりよくなっているはずだ』という前向きな考え方。そういった気持ちになるには何らかのきっかけを求めたくなるものです。そのきっかけを『鍋から上がる湯気は、くつくつというちいさな音は、そんなふうに言っているように、私には思えた』と
鍋から上がる湯気が背中を押してくれる日々を送る『私』。そんな私は『あのとき、母にいったい何をもらったんだろう?』と、かつて鍋を贈ってもらったあの時のことを振り返ります。使いすぎてボロボロになった鍋を今も大切に使い続ける『私』があの日、あの時、母親からもらったもの。それは単にそのものだけではなく、そのものを贈ることにした母親の深い思いも含めた贈りものだったことに気づく『私』。人生の長い時間を経て、とても奥行きを感じさせるあたたかい短編でした。
『生まれてから死ぬまでに、私たちは、いったいどのくらいのものを人からもらうんだろう』と語る角田さん。この作品では〈名前〉からはじまり、最後の〈涙〉まで色々な贈りものを受け取りながら人は人生を歩んでいく、まさにその姿が描かれていました。そんな贈りものには、単なる品物だけでなく〈名前〉、〈涙〉のように、この作品を読んで初めて意識することになった贈りものもありました。『品物は、いつかなくしてしまっても、贈られた記憶、その人と持った関係性は、けっして失うことがない』と角田さんがおっしゃるとおり、品物は年月が経てば壊れたり、失くしたりと目の前から失われてしまうこともあります。でも、その贈りものにより繋がった何かは、決して失われることなく、その人が生きていく上で一生の宝物にもなりえます。
『私たちは膨大なプレゼントを受け取りながら成長し、老いていく』という私たちの人生。一見全く繋がりのない12の短編がまるで人が生まれてから亡くなるまでを描いた一編の大河小説を読んだかのような読後感に包まれるこの作品。各短編に絶妙なタイミングでアクセントをつける松尾たいこさんのイラストが登場するこの作品。角田さんと松尾さんから文字と絵のとても素晴らしい贈りものをいただいたこの作品。自分自身が受け取ってきたものを思い起こすと同時に、自身も素敵な贈りものを送ってあげられる人でありたい、そんなことも考えさせてくれた作品でした。 -
購入して「読んだあと」長年本棚にあったうちの1冊。
「旧い本を、ちゃんと1回読んでから断捨離しよう」計画の一環として。
2010年の9月に読んだもので、星はその時に付けたもの。(今回の星の数も同じだから、そのままに)
レビューは書いていなかった。
断捨離しようと思う、かつての購入本の再読は、大量の図書館本の隙間にちびちびと読み進めているので、本書のように、こと短編集だと1つ前の話すら覚えていない。
でも、14年前に読んだ時にはたぶん琴線に触れなかっただろうと思える話が、現在の私には響くなぁ。
最後の76歳の女性の死に際の話とか。
まあ、これも最終章で今読み終わったばかりだから覚えているだけなのだけれども。 -
20ページを読んだだけで感動して泣いてしまいました( ; ; )
生まれて1番初めにもらうプレゼントは名前。私たちみんな生まれてから知らずのうちに名前がつけられている、だから“名前”を親からのプレゼントなんて、ほとんどの人が考えたことなかったのではないでしょうか。
それに気がつけた時、初めの物語を読んで両親に深く感謝しました。
プレゼントをキーワードに短編集が詰まっていますがどれも角田光代さんらしい、あたたかくて心情がふるわされる物語でした。
人生で私たちはたくさんのものをプレゼントされている。
それは目に見えないものも、私たちを取り囲むすべてのものにも言えるのかもしれません。
世界はプレゼントで溢れているのかもしれない、と気が付かせてくれたとても感動できる小説でした… -
初めて読むのにピッタリだから、と友人に勧められて読んだ最初の角田光代さん作品。
12のお話が入った短編集。そもそも短編集はあまり読まないのだけど、この本はとても良かったです。一つ一つのストーリーが様々な感情を呼び起こす素敵な作品で、それらがプレゼントという一つのテーマで結びついている面白さもあります。
中でも、特に"寂しさ"の感情を描いているように感じた作品「鍋セット」と「うに煎餅」の2作品はすごく心が動かされました。
人間が成長して、大きく変わっていくことは嬉しいと共に、ふと振り返ると寂しさもある。その寂しさは、その時の自分をかけがえなく思えている証でもある…人は、"その時"にしか出せない輝きがあるんだなあと思いました。自分の様々な思い出とも重なり涙が出てしいました。
人は生きて成長していく上で、様々なプレゼントを貰って生きているのだな、と気付かせてくれる素敵な作品でした。
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自分に「名前」があるのは、あたりまえだと思っていたけど、名前は親からもらう最大のプレゼントなのですよね。
今まで関わった人たちから、形のあるもの、ないもの、いろんなものをもらって今日まで来ていることを思い知らされました。
角田さんの本を読むと力が湧いてくる。
この本もまさに私にとってPresentそのものです。 -
個人的な話になるけれど、本作を買った日は思い出深い1日だった。
というのもその日は出産を終えた妻と子供の退院の日で、病院に早く着きすぎてしまったため時間潰しに本屋に行ったのだけど、その際、たまたま本作が目に留まった。
双葉文庫40周年記念のクレヨンしんちゃんの装丁がかわいかったのと、帯にあった「わたしもあなたも、産まれて初めてもらうプレゼントは名前」というフレーズがとても気になって購入。子供がうまれたばかりということもあり、「名前」という作品には特に感銘を受けた。
本作は「プレゼント」をテーマにした短編集。一作あたりが10分くらいで読めるので、移動時間の合間なんかに少しずつ読んでみるのもよさそう。
ちなみに各話には与えられた「テーマ」から着想された挿絵があって、例えば「名前」というテーマに対して作家さんの描く物語と、イラストレーターさんの挿絵が意外と違っていたり、また逆に似ていたりしてなかなか面白い。
各話はどれもやさしい物語で、読後感は爽やか。かなりオススメの作品です。というわけで⭐︎5つ。
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初読み作家、本のチョイスをハズしたのでしょうか? 辛口感想です。女性が人生でもらう色々なプレゼントをテーマにした物語。短編集だから?人物像が薄く共感しずらいなぁ。そして『浮気』のワードや絡みが多くて、美しいはずのテーマが興醒め。浮気、したり、されたり、疑ったり、自ら暴露したり…そんなに浮気に翻弄されるなんて、女をみくびってはいけないよ(笑)
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セシルの夕陽さん
辛口採点、および、
女をみくびってはいけないよ(笑)の一文に、シビレました! りまのセシルの夕陽さん
辛口採点、および、
女をみくびってはいけないよ(笑)の一文に、シビレました! りまの2021/02/03 -
りまのさん、コメントとフォローありがとうございました! 辛口コメント、時々します(笑)
初読み作家さんだったのですが、ファンも多いので初...りまのさん、コメントとフォローありがとうございました! 辛口コメント、時々します(笑)
初読み作家さんだったのですが、ファンも多いので初読本の選択ミスしたのだろうと思います。
今後ともよろしくお願いします。2021/02/03 -
セシルの夕陽さん
こちらこそ、フォローと、コメント、どうもありがとうございます!どうぞよろしくお願いいたします♪ りまのセシルの夕陽さん
こちらこそ、フォローと、コメント、どうもありがとうございます!どうぞよろしくお願いいたします♪ りまの2021/02/03
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いろいろな、ほんとうにいろいろなプレセントの形。
あとで考えてみると、自分にとってはとっても大事なプレゼントだったのだろうな、と思い返すような、そんなプレゼントの集まり。すばらしい。
挿絵もほんわかしていて、とてもいいですね。
最後のプレゼントは暖かくて、そして悲しい。