- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575513448
作品紹介・あらすじ
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化!"特別収録"中島哲也監督インタビュー『「告白」映画化によせて』。
感想・レビュー・書評
-
本屋大賞1位文庫本をコンプリートしようシリーズです。2009年受賞。2010年映画化。
当然、映画は映画館で鑑賞済みです。読めば気が滅入るのはわかっていましたから、なかなか手に取れませんでした。お陰で目標の「流浪の月」公開まで間に合いませんでした。仕方ありません。
映画は素晴らしかったですね。でも嫌いでした。まぁみんなそうでしょう。人が真に怒ればこんな顔になるのだということを、わたしは松たか子から教わりました。能面の表情、ゾッとする瞳‥‥。この文庫本の素晴らしいのは、公開直前の中島哲也監督のインタビューが載っていることです。監督はかなり核心に近づいた発言をしています。その事にふれる前に、少しあらすじを紹介しましょう。
シングルマザー中学校女性教師の森口悠子(松たか子)は、娘の愛美(芦田愛菜)を生徒に殺されました。森口は最後の授業で、そのことを公表し、生徒の飲んだ牛乳に十数年間苦しんで死ぬようにあるモノを入れたと告白します。そのあと、二人の生徒を助けようとする女生徒(橋本愛)、一方の生徒の母親(木村佳乃)、その息子の生徒(藤原薫)、そしてもう一方の生徒(西井幸人)の、その後のいきさつと真の告白が描かれます。今映画サイトを調べると、クラスメイトとして能年玲奈(のん)や、三吉彩花、井之脇海も出演していました。12年前ですから、さぞかしみんな若いことでしょう。
デビュー作には、その作家の良くも悪くも総てがが詰まっている、というのは(私だけではありませんが)わたしの持論です。湊かなえの長編は初めて読みました。1番に思ったのは、人の脆さや危うさをこんなにも見つめている人なんだ、ということでした。次に思ったのは、徹底したエンターテイナーだということでした。1番目はみなさんがたくさん仰っているので省略します。2番目は、90年代に起きた2つの大事件を、上手いこと影響受けやすい生徒たちに刷り込ませて、小説形式としては新しくない告白形式の中に落とし込んで、ちゃんと新しい、みんなが関心を寄せる商品に仕上げていることです。でも、告白形式にはひとつ大きな落とし穴があります。中島哲也監督はそのことを見抜いていました。
ーーー 子供たちとの話し合いの中では、何か気づかれた点はありましたか?
中島 そうですね。子供たちにとって、結構言葉を信用しているんだなぁと思いましたね。出演者の中学生達には原作を読ませましたし、さらに台本も読ませた上で、話し合いを2週間ぐらいかけてやったんですけど、書かれているものへの信用度合いというのがとても高いんです。「別に、この本に出てくる人間が、みんな本当のことを言っているとは限らないだろう」って言うと、「えーっ!なんでですか?」って驚くんですよ。「だって君たちも嘘をつくだろう」って返したら、「そりゃ、つきますけど」って。そう言うのは面白かったですね。こいつらなら簡単に騙せるなって(笑)。なんだかんだ言って、彼らは人が嘘をつくものだとは思いたくないんですよ。みんな優しいんですね。(314p)
問題のラストですが、
わたしは森口先生はウソをついていると思いました。何か他のやり方を考えたはずです。でないと、あんな破滅型の終え方をするくらいならば、もっと前にやっていたはずだからです。
でも、デビュー作なので、それを匂わすことさえしませんでした。完成度が低くくなると思ったのか、エンタメに振りすぎて筆が滑ったのか?
映画では、中島監督の「解釈」ではありますが、それを汲んで作っています。今思えば‥‥。
中学生たちで1番騙せそうだったのは、多分能年玲奈じゃなかったのかな?
「流浪の月」読了まで、あと3作です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この世には殺人事件が溢れている。『誰でもよかった』、たまたまその時そこにいただけのことで奪われる生命。『復讐』という言葉が刻まれる瞬間。
『殺人は悪である、と本能で感じる人などいるのだろうか。』、小さい頃から、良いことをしなさい、悪いことをしてはいけない、と言われて育った人は多いと思います。でも何が良くて何が悪いのかは相対的なものでもあります。動物含めても蜘蛛、豚、牛、犬、猿そして人、どこで線引きがされるかは国によっても時代によっても大きく変化し、長い人類の歴史においても絶対的な答えのないある意味究極の難題です。人に備わっているのは自己防衛本能のみ。だから、『殺人が犯罪であることは理解できる。しかし、悪であることは理解できない。人間は地球上に限りなく存在する物体の一つにすぎない。何らかの利益を得るための手段が、ある物体の消滅であるならば、それは致し方ないことではないだろうか。』、そんな風に考えてしまう修哉。どこまでも自分に都合の良い考え方だとは思います。そもそもそんなことを誰もが考え出すとこの世は成り立ちません。でも、そう思う気持ちに誰も満足のいく回答が出来なければ、回答をしてあげなければ、彼は納得しないでしょうし、彼の考え方が勝ってしまいます。そして、悲しい歴史は繰り返され続けます。
作品内で語られるK市児童殺傷事件、H市母子殺傷事件、いずれも90年代後半にこの国を震撼させた事件として人々の中に記憶されています。未成年が起こした凄惨な殺人事件。未成年の事件が起こる度に、家庭環境が、教育現場がと、大騒ぎが繰り返される世の中は変わりません。この作品では、まさしく学校現場を舞台に事件が起こります。警察が事故と結論したはずなのに、それは事件だという真実。加害者も被害者遺族もそれを知っているという不思議な均衡。物語は、そんな背景の上に登場人物が順番に第一人称となって様々なことを『告白』していくことで展開します。「告白」、それは『秘密にしていたことや心の中で思っていたことを、ありのまま打ち明けること』という意味の他に、『自己の罪を神の前で打ち明け、罪の許しを求めること』という意味も持っている言葉です。作品中では気持ちを整理するためにつけた直樹の母親の日記が描かれます。人は文字で、言葉でその心の内を『告白』します。
人は秘密が大好きです。それでいてそれを黙っていることを苦痛にも感じてしまいます。でも、その秘密が罪の意識を感じるものであった時、書くこと、語ることでその苦痛を和らげようとします。複数の登場人物が順に第一人称となって語るそれぞれの心の内、それぞれが思う真実。こういった形式で描かれた作品は他にもありますが、この作品では、告白だけで物語が進んでいくこと、それぞれが見ていた相手の捉え方、認識に致命的に大きなズレがあったことがわかることで、読み手の中に大きな衝撃を積み重ねていきます。
そもそも人はコミュニケーションをしなければ生きていけない生き物です。『殺意とは一定の距離が必要な人間が、その境界線をふみこえてきたときに生じるものなのだと、初めて気付いた。』、修哉が気付く殺意の瞬間、殺意の理由。でもこの『一定の距離』が人によって異なることが、問題を複雑にします。コミュニケーションの手段である言葉だって同じです。『死ね』、場面によってはドキッとしますが、驚くほどに日常にありふれた言葉でもあります。『なんとなくむしゃくしゃする気持ちを、ボキャブラリーの少ないあいつは、「死ね」という言葉でしか表現できなかっただけなのだ。』、そう、人によってこの言葉を使う感覚が異なる、この言葉の意味するところさえも異なってしまう。重い言葉のはずなのに認識が一致せずにズレてしまうコミュニケーションの難しさ。出版されて10年も経つ作品なのに、このサイト内だけでも毎日のように感想が書き込まれています。作品を読んで何かを語りたくなる衝動、でも同じ登場人物の同じ『告白』を読んでいるのに、感じるところは千差万別です。改めてコミュニケーションが如何に難しいことかが分かります。
作品中、森口先生は休職明けに自分に二つのルールを課しました。『子供たちを呼び捨てにしない』『出来る限り同じ目線に立ち丁寧な言葉で話す』、彼女なりに生徒たちとの関わり方を、コミュニケーションの取り方を考えた上でのルールでした。それでも事件は起こりました。でも、私はそれでもこれをヒントにしたいと思います。人と対峙する時、年齢や性別、相手との力関係を問わず、目の前の相手と同じ立ち位置で、同じ目線で、同じ気持ちに寄り添うということをより意識したいと思います。
小説は学ぶものなのか。単なるエンタメなのか。綺麗事では語れない、願っても救われないのは事実です。でも、何かしら学びを感じたくなる、何かしら読後の自分の中で決着させたくなる、そういう思いを強く感じた作品でした。 -
なんとなくストーリーは知っているけど、これまで読んだことがなかったので、本作を手に取りました。確かに本作を読むと、登場人物たちの主観で物語を進める構成や、薄暗い雰囲気でもなぜかスルッと読めてしまう不思議な魅力と怒涛のラストの展開を感じ、湊かなえさんの原点だなと改めて思いました。
本作は主人公である教師、森口が生徒たちに自分の娘が殺されたこと、その犯人が自分のクラスの中にいることを告白することから始まります。本作はその謎を解明することよりも、教師の森口の復讐劇に重きが置かれています。そして、その復讐の結末がもたらした顛末が関係者の口々から語られるというもの。
中学生の心情を描くのが特に上手いなと。何かに酔ってるような無敵感はそれこそ中学生特有の感情で妙に納得感ありました。笑 -
人をワクワクさせ、感動させ、心を明るくしてくれる物語が「良い本 好きな本」と定義付けられてるいるのであれば、こちらの作品は一般論で考えれば真逆の言葉を付けられるのだろう。
ですが私はこの作品にワクワクし、感動し、スカッとした。作中に登場した実物達の闇に当てはまらない人間なんているのだろうか。愚行をこれでもかと見せ付けられ私のお胸はキャパオーバーだ。
不動の湊かなえ最高傑作だなぁ。
事実が徐々に判明していく繊細な伏線と回収の数々であり、少年A 少年B 少女A 母親 そして森口先生。
たったこれだけの人物達が織り成すゆっくりとダークな色味をまとったままジワジワ右肩上がりで盛り上がりを見せる本作は至ってシンプルだ。
脳内再生される松たか子ver森口先生の美しさにはもう何も言うことは無い。 -
私にとって湊かなえデビュー作品。
章ごとに描かれた主要人物の語り部がリアルで、言葉選びに遠慮が無いところに残酷さを感じ読み入ってしまった。
読者を置いてけぼりにする放り出しのラストが良かった。 -
これは、すごいなぁ...
読後の感想を一言で言うと、「虚無」だ。
何も残っていない。
いや、後味の悪さは残っている。でも、その感覚に質感がないというか、のっぺりしていて、何が嫌なのか、何が不快なのか、わからない。
上手く表現出来ないのだけど、自分が人間でなくなってしまう感じ、というか、世界がガラガラ崩れるというか..、どういう感情を抱いていいのかわからない、というか。
こんな読後感って、なかなか味わえない。
序盤から圧倒的な文章力でぐいぐい読ませる。
いつの間にか小説の世界観にどっぷり嵌る。
でも、4章あたりから嫌な予感がしてくる。
もしかして、この小説、最後まで読んでも、どこにも連れて行ってくれないんじゃないか?出口がないんじゃないか?空虚な世界を永遠にループするようになっちゃうんじゃないかって。
それでも、きっと、大どんでん返しが待っている、このぐるぐる感はオチのための必然なんだろう、と期待して読み続ける。
しかし…
やっぱり、僕はどこにもたどり着けなかった。
何とか、
かろうじて出口はあったけど
…念のため、言っておくと、この小説をディスっている訳ではじゃないです。
自分の表現できない読後感を持て余しているだけで。
2009年本屋大賞受賞作 -
ミステリー書評
読書レベル 初級〜中級
ボリューム 300頁
ストーリー ★★★★
読みやすさ ★★★★★★!
トリック ★★★
伏線・展開 ★★★
知識・教養 ★★★
読後の余韻 ★★★★★
一言感想:
イヤミスが好きな方にオススメの一冊です。
読みやすい!そして何とも言えない読後感が印象的でした。
読み始めは、「会話」が極めて少ない手紙(独白)に近い文章の構成に、読みづらさ(つまらなさ)を感じましたが、物語の展開とテンポの良さから、途中から逆にこの読み心地がクセになってしまい、気付けば一気読みでした(笑。
爽快感は全くなし(笑!でも、クセになる読み心地は忘れられません。面白かった! -
事件が事故になった。覚悟して読むべき一冊。
物語は関係する人物による告白、手記、手紙などで綴られる。各々の主観で語られるため、誰について強く感情移入をしたかは読者によって変わるだろう。
あるシングルマザーの中学教師の4歳の娘が、教師の働く学校のプールで死体となって発見された。自己都合により娘を学校に連れてきていた女性教師の森口悠子。
後悔と共に、教え子である犯人を憎み復讐を企てる。
平和な一般家庭に見えた。真面目で優秀な生徒。心の闇を抱えて生きた少年。
愛に飢え、歪んだ価値観に陶酔した渡辺修哉。彼の偽りに引き込まれた下村直樹。成績優秀だがどこか孤立していた北原美月。それぞれの視点で徐々に明らかになっていく事の真相。
伏線の回収もうまく、徐々に辻褄が合ってくる。
登場人物の人間性もそれぞれの主観でありありと語られる構成になっているので感じ取りやすい。
非常にネガティブの強い本書。
頭の中で時系列で整理してみるが行きつくのは、やはり森口の娘の死をどう決着させるかという部分。決して癒されないが、娘を殺した人間を許せない。森口の気持ちは痛くわかる。罪を犯した子供だけに責任はないのかもしれない。皆がそれぞれの生い立ちがあり、様々な事情を抱えている。
だからって......
子供だからとか、同情はいらない。森口を支持しよう。極端な考え方だが仕方ない。あなたの復讐は間違ってない。読んでいて私の頭は少し熱くなっていたな。
読了 -
面白かった。こんなに面白い読書があるのかと思うくらいに。名作と言われてるが故になかなか手を出さずにいたうちの一冊。間違いなく今までの人生で1番没頭した読書体験だった。
一度も飽きることなくページをめくっていることすら忘れさせる作品は今までで始めてだ。湊かなえ、恐ろしい。面白すぎるよ、これ。