仏果を得ず (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
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本棚登録 : 3898
レビュー : 493
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575514445

作品紹介・あらすじ

高校の修学旅行で人形浄瑠璃・文楽を観劇した健は、義太夫を語る大夫のエネルギーに圧倒されその虜になる。以来、義太夫を極めるため、傍からはバカに見えるほどの情熱を傾ける中、ある女性に恋をする。芸か恋か。悩む健は、人を愛することで義太夫の肝をつかんでいく-。若手大夫の成長を描く青春小説の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 祝・文庫化☆

    健こと健太夫(たけるたゆう)は文楽の研究所を出て、義太夫を語るプロの技芸員として修行中。
    師匠の銀太夫に、三味線の兎一郎と組むように言われる。気難しい兎一に振り回されながらも、成長していきます。
    「女殺油地獄」の与兵衛の妙な色気の秘密など、面白かったです。
    仮名手本忠臣蔵の勘平腹切の段は、すごく盛り上がります!
    旅行も多い健は、ラブホテルの一室に住んでいるんですが、管理人の誠二とは友達。
    恋愛に悩む健に誠二の言う「幸せにしたろとか、助けてあげんとか、そんなんは傲慢や。地球上に存在してくれとったら御の字、ぐらいに思うておくことや」ってのは、決まった相手のいない人間のセリフだが〜悩みすぎる人には、けっこう良い忠告かも。

    単行本は、2007年11月発行。

  • 文楽という一般には馴染みの薄い伝統芸能の世界を、若手男子の成長物語という展開で馴染みやすく仕立てた、どことなく漫画調の娯楽小説。

    物語を語る太夫(たゆう)、楽を奏でる三味線、一体の人形を3人がかりで操る人形遣いが揃って成り立つ芸術である文楽。
    一対一で演じることも多い太夫と三味線は、特に相性が重要で、生涯これと決めた相棒を持つことも多い。

    30歳の若手太夫である健(たける)は、5月のある日、師匠で人間国宝でもある銀太夫(ぎんたゆう)から、腕はいいが変人と名高い若手三味線弾きの兎一郎(といちろう)とコンビを組むように命じられる。
    6月の公演はすぐ目の前。健は渋々ながら、命じられた演目を兎一郎と練習しようとするけども…。

    毎回演目が変わる度に、現代人からしたら、なかなか理解しがたく突拍子もない、時に不条理ですらある行動をとる登場人物たちの気持ちを理解し、なんとか役になりきって語ろうと奮闘する健の姿を、文楽では有名な八つの演目を各章のタイトルとして採用し、演目のあらすじを簡潔に盛り込みながら、巧みに描いています。

    健がたどり着く解釈が正しいのかどうかは私にはわかりませんが、この解釈には納得できるものが多く、おかげで、文楽に馴染みのない層にも楽しめるようになっています。
    そんな健を、なんだかんだで見守る、兎一郎はじめ、みんな一癖も二癖もあるある銀太夫師匠や兄弟子たち。彼らの近すぎでもなく遠すぎでもない適度な距離感は好ましいです。

    若者を主人公にしているせいか、恋愛要素もあります。ただし、これに関しては必要だったのかは微妙なところ。
    演目の登場人物たちの一見不可解な行動の裏に秘められた深い心と、健の悩める心境を重ねるための演出の一つだとはわかるのですが…。
    二度会っただけの若い男が住んでいるラブホテルに押しかけていきなりコトに及んじゃう小学生の子を持つ母親って、魅力的で芯があるどころか、色々な意味で心配ですけど…としか思えなくて…。結局最後まで読んでもそれは変わらず。

    読む前に想像した以上のものは出てこなかった、全体の軽い展開も、ちょっと寂しいです。

    でも、文楽初心者に文楽の世界を垣間見させる仕組みとしては、この軽さ具合がかえってとっつきやすくていいかもしれません。お約束の安定感みたいな感じでしょうか。

    ちなみに、私自身、全く造形がないながら、偶然過去に何度か文楽を劇場に観に行ったことがあるのですが、見事な演目は、まるで酔いしれるように恍惚とした素晴らしい時間が味わえますので、まだ経験したことなくて興味のある方は、一度劇場に足を運ぶことを強くお勧めします。

    特に、太夫と三味線をメインとしたこの小説ではあまり取り上げられていませんでしたが、見事な人形の動きは、本当に官能的で見惚れるほど美しく、一見の価値ありだと思います。

  • 面白かった!文楽は一度見たことがあるだけでも、充分楽しめる。
    ただ、演目が健の気持ちと重なるので、知っていたら楽しさ面白さもグッと違うのかもしれない。
    文楽って重くておかたいイメージだったけど、登場人物がゆるいので、たいへん身近に感じた。
    「油地獄」の与兵衛が「女にモテそうなヤンキー」とか言われてるし!

    「小学校三年生の女の子に、甘いって言われた。やっぱり俺、世話物を語るのに不向きなのかもしれない。」なんて言ってる健が、どんどん成長していくのを見守ってくのが楽しい。

    「登場人物はすべて、舞台のうえで精一杯に、それぞれの生を生きているだけ。本当にそうだ。そして、そんな彼らを生かす難しさといったらどうだ。」
    「そうだ、このひとたちは生きてる。ずるさと、それでもとどめようのない情愛を胸に、俺と同じく生きている。文字で書かれ音で表し人形が演じる芸能のなかに、間違いなく人間の真実が光っている。」
    「だが、この場内で本当に生きているのは、不思議なことにいま死にゆかんとする早野勘平ただ一人だ。命を持たぬはずの勘平の人形だけが輝きを放つ。」
    どんどん健が成長していく様子がうれしい。あ、また時代を伝える系?こういうのに本当に弱い。
    これまでの300年とこれからの300年、もちろん変化もあるだろうけど、受け継がれていくもの思う。

  •  「仮名手本忠臣蔵」が好きだと言う健に兎一郎は「長生きすればできる」と言う。何とも無責任な!と思ったけど、兎一郎という相三味線と生涯をかけて芸を極めることになる健は、「大丈夫です。長生きしますから」と答えるんだよな。カッコいいと思う。長生きはカッコ悪いみたいに言う人もいる。かつてのオイラもそうだった。きっと自分になにができて、なにがしたいのかがわからなかったんだと思う。いまは若い頃よりやりたいことがたくさんある。若い頃みたいにはできないことも増えてきたけど、それでもやりたい。そんなふうに暮らすことが素敵だと素直に思えるようになった。健の長生きは加齢によってさらに芸が昇華されるということだけど、オイラが長生きしたいのはこんな楽しいこと止められない!っていう理由だ。楽しいことばかりじゃないし嫌なこともたくさんあるんだけど、それを味わえるのも生きているからだ。
    ”金色に輝く仏果などいるものか。成仏なんか絶対にしない。生きて生きて生きて生き抜く。俺が求めるものはあの世にはない。俺の欲するものを仏が与えてくれるはずがない”
    まったく同感である。でも、誠二は健にとってある意味、生き仏かもしれないな。
    健が真智さんとミラちゃんと幸せに暮らせることを切に願う!

  • 「舟を編む」に比べると文楽へのストイックさが伝わりにくかった。しかし著者の文楽愛は伝わった。

    ヒロインとの恋と文楽に苦悩しながら、成長していくストーリーだが、ラストは兎一兄さんとの恋が成就した錯覚に陥った。

  • 文楽なんて見たこともないし、興味もなかった。でも読み終わったら、もう見たくてみたくてたまらなくなる。三浦しをん版「タイガー&ドラゴン」ってところだろうか(タイガー&ドラゴンは宮藤官九郎が脚本を書いた落語家のドラマ)
    難しいこと考えずに、あははと笑いながら読める。読んで幸せになって、なんかやる気がでる。三浦しをんのお仕事ものってそういうところがあるよね。

  • 登場人物が、全員女性好みな感じ。
    (主人公は情熱的且つモテるし、相棒は無愛想だが実力のあるイケメン、女性陣もさっぱりした人ばかり)
    予想以上に恋愛小説。
    でも、普通の生活送っていたら興味ももたなかった世界を、ここまで読ませて、ちょいちょい泣かせるのはとても良かった。
    登場する文楽は悲劇なものばかりなのに(そういうものなのかな?)、気持ちのいいハッピーエンドで読後も爽やか。
    個人的には、日頃の心のうちのもやもやが言葉にしてあった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「気持ちのいいハッピーエンドで読後も爽やか。」
      勝手な想像だけど、話を文楽と対比するコトで、新たな文楽ファンを生み出す作戦なのではないでしょ...
      「気持ちのいいハッピーエンドで読後も爽やか。」
      勝手な想像だけど、話を文楽と対比するコトで、新たな文楽ファンを生み出す作戦なのではないでしょうか?
      きっと三浦しをんぼ思惑通り、「チョッと観てみようか」と思う読者が多く出た筈です。。。
      2013/01/04
  • 引き込まれたぁ

    すごいねぇ
    「すまし顔の仏果なんぞ要るものか、俺は生きて生きて生き抜いて、鬼になっても生きぬいて我が意を通してやるぅぅぅ」って、ギトギトの執念を描いているのになんかしっかり現代的でサラッとしてる。

    義太夫の人情の難しいところを健の恋の道ゆきになぞらえて解説してくれるなんて、なんとまぁ心憎い。

    巧いなぁ。読んでよかった。


    -追記-
    芸能などの“表現者”にはその技を極めるために「この技を得るためには、その心境に到達するためなら死んでもいい」という肉体を通り越す程の精神性の高まりがあるようだけれど、そもそも“表現”は肉体でおこなうものだから、「死んでもいい」と思うと同時に「死んだら何にもならん!」と、肉体への執着も人一倍持っているんだろうなぁ
    だから「仏果を得ず」なんだな

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「巧いなぁ。読んでよかった」
      読むのが愉しみ~
      「あやつられ文楽鑑賞」を読んで、早くこの作品を読みたくなっているんです。
      「巧いなぁ。読んでよかった」
      読むのが愉しみ~
      「あやつられ文楽鑑賞」を読んで、早くこの作品を読みたくなっているんです。
      2012/08/30
    • sophyさん
      nyancomaruさんへ
      特に力が入っちゃったレビューに「いいね!」をつけていただいて
      とってもうれしいし、張り合いがでました。
      ありがと...
      nyancomaruさんへ
      特に力が入っちゃったレビューに「いいね!」をつけていただいて
      とってもうれしいし、張り合いがでました。
      ありがとうございます(*^o^*)
      2012/09/01
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「張り合いがでました」
      他のも拝見させて貰いますね!
      「張り合いがでました」
      他のも拝見させて貰いますね!
      2012/09/07
  • 文楽版「ガラスの仮面」だなと思った。
    自分ではない何者かになって語るという芸能の魔力は、人形浄瑠璃の義太夫にもあることを初めて実感した。
    歌舞伎もそうだが、昔からずっと継承されている物語を、いかに実感を持って演じるかという世界は、極めても極めても届かない奥の深い世界なのだ。
    その魔力に魅入られた健の様子が、時に微笑ましく、時にもどかしく、いきいきと描かれている。
    たぶん、実際の文楽を鑑賞しても、この物語に描かれているような世界を体感できるかどうかはわからない。小説でスポットライトを当ててくれるから、「ああ、いいな」と思えるのではないだろうか。
    人形遣いの人の話も読んでみたいと思った。三浦しをんならどう描くだろうか。

  • 人形浄瑠璃・文楽の知識が無くても興味をそそられる描写が多い 師弟関係など伝統芸能界が垣間見えた

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      三浦しをんのエッセイ「あやつられ文楽鑑賞」を読みましたが、観察眼に脱帽!絶対に「仏果を得ず」も面白いと確信!近々読みます。
      三浦しをんのエッセイ「あやつられ文楽鑑賞」を読みましたが、観察眼に脱帽!絶対に「仏果を得ず」も面白いと確信!近々読みます。
      2012/08/27
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著者プロフィール

三浦 しをん(みうら しをん)。
1976年、東京生まれの小説家。出版社の就職活動中、早川書房入社試験の作文を読んだ担当面接者の編集者・村上達朗が執筆の才を見出し、それが執筆活動のきっかけになった。小説家の専業になるまで、外資系出版社の事務、町田駅前の古書店高原書店でアルバイトを経験。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞受賞。2012年『舟を編む』が本屋大賞に選ばれ、翌年映画化された。2015年『あの家に暮らす四人の女』が織田作之助賞受賞。また、『風が強く吹いている』が第一回ブクログ大賞の文庫部門大賞を、2018年『ののはな通信』が第8回新井賞を受賞している。
Cobalt短編小説賞、太宰治賞、手塚治虫文化賞、R-18文学賞の選考委員を務める。最新刊に、『愛なき世界』。

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