森に眠る魚 (双葉文庫)

  • 双葉社 (2011年11月8日発売)
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感想 : 450
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  • 本 ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575514643

感想・レビュー・書評

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  • 久々の角田光代作品、なかなか苦しい読書になりました。

    一人娘ですが、今思えば仕事が忙しいことを言い訳にあまり育児にも家事にも積極的に協力をしてこなかった…

    本書は育児中の母親達が主人公。

    あまりにも読んでいて辛くて、苦しくて…
    読了まで少し時間を要しました。

    読み終えて、本書を他のブク友さんにおすすめするかと問われれば答えはNOです…

    なので読まれる方は自己責任で(*´・人・*)

    (´ρ`*)コホン
    では、本書の内容について。


    育児を通じて親しくなった母親たちが受験をめぐる葛藤の中で関係を変容させていく様子を描いた作品です。
    この小説は、単なる「お受験」の物語に留まらず、閉鎖的な人間関係が生む緊張や、嫉妬・不安・絶望といった感情が複雑に絡み合う様子を緻密に描写しています。

    物語の序盤では、登場人物たちは理想的な母親像を追い求めながらも、互いに支え合う温かな友情を築いています。
    しかし、受験という現実に直面するにつれ、彼女たちは次第に追い詰められ、それまでの価値観が揺らぎ始めます。
    その過程で、かつての親しい関係が軋みを生じ、違和感が次第に明確な敵意へと変わっていきます。
    角田光代の筆致は、こうした微妙な心の変化を巧みに描き出し、読者に強い緊迫感を与えます。

    特に印象的なのは、母親たちが持つ「良い母であろう」とするプレッシャーです。
    彼女たちは受験を通じて、子どもだけでなく、自分自身も評価されるような気持ちに陥り、次第に他者との比較を繰り返していきます。その結果、友情は次第に「競争」へと変化し、暗い感情が露わになります。
    この過程は非常にリアルで、読者にも共感と恐怖を同時に抱かせるものです。

    また、本作は1999年に起きた「お受験殺人事件」をモチーフにしており、実際の事件を彷彿とさせる閉塞感や歪んだ心理描写が、物語全体に重くのしかかっています。
    現代社会における母親たちのプレッシャーや、密室的な人間関係の危うさを改めて考えさせられる作品であり、「受験」というテーマを超えて、人間の本質をえぐり出す鋭い視点が感じられます。

    『森に眠る魚』は心理描写に優れた作品であり、人間関係の変容とそれに伴う感情の乱れを緻密に描いています。
    この小説を通して、母親たちの置かれる厳しい現実や、受験というプレッシャーが生む影の部分を考えさせられました。
    単なる受験の物語ではなく、現代社会が抱える問題を映し出す一冊として、多くの読者に深い印象を残す作品だと感じます。

    <あらすじ>
    『森に眠る魚』は角田光代による小説で、東京都の文教地区で育児を通じて親しくなった5人の母親たちが、子どもの受験をめぐる葛藤の中で関係が変容していく様子を描いています。彼女たちは「受験は子どもの意志に任せる」と考えていましたが、次第に受験という名の森に迷い込み、友情が異様なものへと変わっていきます。

    この作品は、1999年に起きた「お受験殺人」とも呼ばれた文京区幼女殺人事件をモチーフにしており、事件そのものではなく、閉じられた女性同士のサークル内のいがみ合いに焦点を当てることで、彼女たちの感情(怒り、嫉妬、憎悪、不安、絶望、疑心など)が浮き彫りになっていきます。

    本の概要
    東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通してしだいに心を許しあうが、いつしかその関係性は変容していた。あの子さえいなければ。私さえいなければ…。凄みある筆致であぶりだした、現代に生きる母親たちの深い孤独と痛み。衝撃の母子小説。

    著者について

    1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞、96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、98年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2000年路傍の石文学賞、03年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、11年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞を受賞。

  • 1999年に起きた
    「文京区幼女殺人事件」をモチーフにした作品
    5人の「母親」が出会い、語らい
    そしてどんどんズレていく
    誰もが「彼女」になりうる危うさを抱えて
    もがいて、逃げて、苦しむ

    以前、母から言われた言葉がある
    「自分の子育てがそれで良かったのかどうかは、娘や息子がその子どもにどう向き合っているかで感じる」
    何とも子育てって途方もなく息が長い
    そして途切れることなく続く

    5人の母親に共感できる部分はない
    ただひたすらに
    子どもたちの幸せを願いながら読んだ
    再読

  • この小説は、1999年に東京の文京区で起こった幼女殺害事件をモチーフにしていると言われている。
    当時、自分の子どもも殺されたお子さんと同じくらいの年齢だったので、ニュースや新聞を注視していた記憶がある。

    そして本書。まぁ、本当に「子育て」という呪縛に絡めとられた母親達の姿を、恐ろしくリアルに、それぞれの心情の一つ一つを細やかに拾い上げている…うーん、流石としか言いようがない。

    そして、どの母親の気持ちも分かってしまう。
    皆不安なのだ。
    これでいい、うちはこうなの、と腹を決めてもどこか不安になる。
    それまでは、月齢で子どもを見ていたのに、幼稚園に入るといきなり横並び。
    生まれ月で差があるのは当たり前と思っても、やはり他の子と比べてしまう…などなど。
    自分で選んだ友だちではなく、子どもを介してできた友人だからなのか、自分のことならやり過ごせても、それが子どもとなるとそうはいかないものなのだ。

    子どもが幼稚園の頃の一時期を、東京の武蔵野エリアで過ごした。
    緑が多く、のんびりした所だと思っていたらとんでもないかった。
    国立、私立ともに小学校が結構あり、お教室には行かないけど、国立はとりあえず受けるという人も多く、皆教育熱心だった。
    いずれまた転勤になると、他人事でいられたので良かったが、当事者のお母さん達は本当に大変そうだった。

    しかし、この母親の苦悩と苦労を、後に子どもがどれだけ感謝するものなのだろうか…。
    2020.6.21

  • テレビドラマ「名前をなくした女神」を彷彿させる小説であった。
    このドラマは、当時ママ友が「怖いよ〜」と夢中になっていて、勧められて観ていた。
    今度は逆にそのママ友に、この本を教えた。
    ドラマの原作ではないらしいが、調べているうちに、1999年に起きた事件に辿り着き、色々と考えさせられた。

    子供のことやお受験が絡むと、ママ友(女性)は怖いなぁ〜〜。
    特に容子さんみたいな人に関わりたくないと思った。

  • まさに自分も誰かのママ友で、ママ友を持つ身。
    この本はママ友はもちろん、ママとしての自我がリアルでゾッとする。

    登場するママたちの渦を巻くような心の中、ママ友へのザラっとした感情、それを封じ込めて笑顔を貼り付けるところ。パパ友ではないであろう、ドロドロなのにキラキラで、楽しくもあるし、どっと疲れる日常が書かれている。

    私もそうだよ、人には言えないけど同じように感じて嫌になることがあるよ、と、共感すること多数!
    女ってただでさえ難しいのに、子供の母という共通点だけで繋がるややこしさ。これはもう苦行というかホラーだと思う。

    コロナの影響で保育園行事が縮小したり、みんなで集まってイベントする機会が減り、家族だけで過ごせたこの3年は楽だった。
    今年度はどうなるかな。戦々恐々としている。

    解説も良かった。

  • 小さな子供を持つ5人の母親のお話です。
    仲の良いママ友だった母たちですが、子供のお受験を意識し始めた頃から、関係性が一気に崩れていってしまいます。

    誰だって、自分の子供が他の子より劣っているなんて認めたくない。
    幼い子供の成長は千差万別だし、まだまだ隠れた才能が沢山あるだろう子供たちを一律に比べること自体がおかしいと思うのですが、
    "劣っている子の母"のレッテルを貼られたくないという焦りから、狂気じみた行動までも取るようになってしまう。

    思うに、育児をするお母さんたちは、ずーーーっと大きな不安と孤独感を抱えているのではないかと思います。
    誰も正確を教えてくれないし、皆と一緒だから良いという訳でもない。
    これで良いのかな、間違ってなかったかな、という心配がいつもあって、だからこそ、周りと比べて少しでも我が子が劣っている所を見つけると、不安で不安でたまらなくなってしまのではないでしょうか。

    …なんてことを、まだ結婚も出産も経験していない身分で書いてしまいました。笑


    いや〜、それにしても母親たちのどす黒い感情がリアルすぎて苦しい小説でした。
    ママ友、怖いなぁ。。。

  • 仲良しだった何人かのママ友たちの関係が、小学校受験によって崩壊していく話。

    話に出てくるママ友たちは、それぞれが何か(男女関係だったり過去の自分だったり)に満たされない想いを抱えている。そこに小学校受験の優劣がつけこんでくる。受験に受かったからと言ってそれらが満たされるわけでもないのに…。

    受験でなくとも、誰かと比べて優劣をつけて安心したくなる気持ちは理解できる。だからこそ自分にも起こり得そうな気がして怖くなる話だった。

    最後は未来が見える終わり方で良かったと思う。

  • どんなホラーやサスペンスよりもゾクゾク怖かった。
    1人の人間として必要とされたいのに、子どものおまけのような存在として扱われるってやるせない。

  • 本文を読み終わるまで不快だった。
    子供のことをまるで考えていない母親しか出てこない。自分のエゴを満たすためにお受験をさせ、他と比較して優越感を得ようとする諸々。

    しかし、解説を読んでまた違った視点が芽生えた。「人の親も人である」ということ。子を産んだ瞬間から母親になるわけだが、「母親のプロ」など存在しないこと。誰しもが手探りで子供の幸せの為に奮闘し、戦友を募り、共闘したいと願う。受験戦争という代理戦争では、一度火がつくと取り返しのつかない冷戦状態となる。

    それにしても、登場する5人の母親達の心理はどうしようもなくアンビバレントな状態が続く。価値観の違いによって、自分の今まで正しいと信じてたものが信じれなくなり、正しくないと切り捨てたかったことに執着するようになる。

    自分の母は一体どういった心理状態だったのか、それを確かめられずとも、こうした疑似体験によって、感覚を理解することはひとつの親孝行の形だと勝手に思う子のエゴ。

  • 1999年の文京区幼女殺人事件をモチーフとしていることを後で知り驚いた。幼稚園でのママ友たち4人は、最初は学生時代のようなノリで和気あいあいと付き合っていた。小学校受験をきっかけに、じわりじわりとその関係にヒビが入っていく。

    子育て中の母親の孤独って、こんなにしんどいものなのかとびっくり。なんだろう、これって母親だから、というより、相手のものをほしがったり人と比べたり、もともとそのようなタイプの女性たちが出逢ってしまったから生じた亀裂ではないかと思ってしまった。
    狂気に駆られていく、その内面の描き方が凄まじい。


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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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