贖罪 (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
3.63
  • (720)
  • (2011)
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  • (47)
本棚登録 : 19913
感想 : 1384
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575515039

作品紹介・あらすじ

取り柄と言えるのはきれいな空気、夕方六時には「グリーンスリーブス」のメロディ。そんな穏やかな田舎町で起きた、惨たらしい美少女殺害事件。犯人と目される男の顔をどうしても思い出せない4人の少女たちに投げつけられた激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせることになる──これで約束は、果たせたことになるのでしょうか?

ベストセラー『告白』の著者が、悲劇の連鎖の中で「罪」と「贖罪」の意味を問う、迫真の連作ミステリが双葉文庫で文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 『喜怒哀楽』、人間が持っている基本的な感情を表すと言われる言葉です。一日の終わりに今日一日を振り返ってみて、どの感情に支配されていた時間が長かったのかを考えてみます。喜びや、楽しみの時間が多くを占めていたなら、その日はとても幸せな一日だったと言えるでしょう。哀しみに支配されている時間が長すぎると精神的には危険信号が灯る場合もあります。そして、怒り。他の感情と違ってこの感情は、自分の内だけの問題に留まらず、他人に影響を及ぼしてしまうこともある最も危険な感情です。人の怒りのピークが維持される時間は6秒と言われます。この6秒をコントロールする術-アンガーマネジメント-。でもこれに失敗すると、相手を深く傷つけ、その怒りをコントロールできなかったがために、その後の自分自身に取り返しのつかない未来を、哀しみを連鎖させる人生の分かれ道になってしまう分岐点となることもあります。

    『東京から転校生でやってきたエミリちゃん。お父さんが足立製作所の重役をしている』という彼女と友達になった4人。おとなしいけどしっかりしてる紗英、みんなの中で一番がんばって頼りになる真紀、スポーツがよくできて足の速い晶子、工作が得意で器用な由佳、そして何にでも積極的でみんなをリードするようになるエミリ。そんな5人の前に突然現れた一人の男。『おじさん、プールの更衣室の換気扇の点検に来たんだけど、うっかり脚立を忘れてしまったんだ。ネジをまわすだけなんだけど、肩車をするから、誰か一人手伝ってくれないかな』これが現代の小学校4年生だったらどうでしょうか。こんな言葉についていくかはわかりません。でも彼女たちは従った。そして、その先に悲しい光景が広がりました。

    残された4人。悲しい光景を前にした4人が手分けしてとった行動、役割、それによって彼女たちにそれぞれの後遺症を残します。『おとなになったら殺される。生理が始まったら殺される 。無意識のうちに自分のからだに暗示をかけ続けていた』、『事件のあとの生活?身の丈以上のものを求めると不幸になる』、『わたしのいるところで、子どもが殺されてはいけない。わたしが守らなければならない。今度こそ、しっかりしなければいけない』しかし、それぞれが心に深い傷を負ったのは単に悲しい光景を見ただけではありませんでした。

    娘が無残に殺された現実。その現場にいながらきちんとした目撃証言さえできなかった4人を責める殺された彼女の母親。彼女らをわざわざ呼び出し、怒りの感情に任せて『あなたたちは人殺しだ。犯人を見つけるか、わたしが納得できるような償いをしなければ、復讐をする』と言い放ったこと、これが後遺症を決定的なものにしたのでした。

    湊さんと言えば衝撃的なデビュー作である「告白」が一番に浮かびます。この作品はそんな湊さんの3作品目にあたります。「告白」と同じように登場人物が順番に登場してひたすらに長く語って、その中から次第に真実が浮かび上がってくるという構成も同じです。でも随分と受ける印象は異なりました。この作品では、連鎖ということが一つ大きな主題になってくるように感じました。怒りが頂点に達してコントロールできなくなり、取り返しのつかない行動として現れてしまう、それがまた次の怒りの感情を生んでいくという負の連鎖です。そして、書名どおりの『贖罪』の日々だけが残った。『贖罪』の人生を生きていく他ない人たちが残った。

    湊さんらしい、うぐぐ、と後味の悪い結末。小説の世界のことではありますが、怒りの感情をコントロールできないことでこれだけの負の連鎖を巻き起こすというのも、人生とても怖いものだと改めて思いました。

    とても読みやすい文章であるが故に、後味の悪さがストレートに自分の気持ちに入ってきてしまいましたが、終章のお陰でちょっと救われ、最悪な気分に落ち込むことは免れました。でも、逆に『贖罪』ってなんだろうといつまでも余韻の残るそんな作品でした。

    • トミーさん
      先日湊かなえの
      エッセイを読みました。作品とは違う
      生の湊かなえがいろいろとわかりもっともっと湊かなえが好きになりました。
      ぜひ「読まれたか...
      先日湊かなえの
      エッセイを読みました。作品とは違う
      生の湊かなえがいろいろとわかりもっともっと湊かなえが好きになりました。
      ぜひ「読まれたかもしれませんが」読んでほしいな。山猫珈琲。
      この題は湊かなえの好きなものだそうです。
      2020/03/27
    • さてさてさん
      トミーさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      エッセイはあまり読んだことがなかったのですが、先日読んだ三浦しをんさんのぐるぐる♡...
      トミーさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます。
      エッセイはあまり読んだことがなかったのですが、先日読んだ三浦しをんさんのぐるぐる♡博物館にハマりまして、エッセイの面白さを知りました。おすすめいただいた山猫珈琲も是非読んでみたいと思います。
      どうもありがとうございました。
      2020/03/28
  • 目の前の当たり前 が誰かの一言によって簡単に囚われ、縛られ、大きく狂い出し、人生を思いがけない方向に転換させてしまう。言葉の力って良くも悪くもやっぱり凄いものだ。人を救うこともあれば簡単に底に落とす事だって出来てしまう。しかも人はそれを善意や悪意で使いこなしているわけでは無い。誰もが誰かに何かの影響を与えているんだなぁ。

    悲しいですね。悪人がいないんですもの。
    愛や誰にでもある筈の当たり前の保身に身体を委ね、罪に耐えられない心を放棄すればどれだけ楽になるか分からないのにそれをしない、出来ない少女達。ここに、極悪人がいてくれればこのもどかしさを全てぶつけてやると言うのに。

    この物語には 悪意 が存在しない。何もかも正義で片付けられるとは限らないのだ。麻子さん含め、彼女達をあの様な形で見届けた事に不快感は無い。

  • 主要人物5人それぞれが独白形式で、過去・当時の忌まわしい事件の真相、トラウマ、生き様が語られて1つの真実へと集約されていく展開にグイグイと引き込まれ、一気に読了。

    その過程でそれぞれに起こる負の、不幸の連鎖は救いようがない上に、語り手が時折放つ冷めた言い回しがとてもリアルで、より感情移入させられた。

    「とつきとおか」の章で、由佳が麻子へ放った心情が特に刺さった。

  • 1日中嫌な汗が出た。わが娘・エミリの暴行死、その母親から発せられた4人の娘の友達への復讐と脅迫「わたしはあなたたちを許さない、時効までに犯人を見つけなさい。私が納得できるよう償いなさい」。4人は十字架を背負い、その罪に囚われる。4人はエミリの償いのために殺人を犯す。この悲劇の連鎖は究極まで行く。エミリを暴行した犯人の真相が明らかになり不愉快極まりない状態になる。これぞイヤミスの絶頂。湊さんの突き抜けたイヤミスは壮絶で、この作品は「告白」を超えていると思う。湊さんにはこのまま突き抜けて欲しいと願う。

  • 感情から発してる時の言葉は恐ろしい。
    相手の人生にまでのしかかる言葉の力は怖い。

    個人的には、
    動機の部分など、犯人が語り手として知りたかったなあ。
    麻子さんも、うーん、、、

    昔の有名な誘拐事件とか思い出して、怖くなった。
    動物の中でも人間だけこんな生き物なのか、、
    嫌な気持ちになる、救われない。
    (感想メモ、イヤミス嫌いじゃないけど、これは少し好み違うかな)

  • お得意の主観と客観のすれ違い
    手記やインタビューを通じてボタンの掛け違いを埋めていくが原因を突き詰めてもねぇ
    まずあのときにすべきことは何だったのか?
    初期動作が遅かったのが一番の贖罪だと感じ
    止血でもいち早く行動を起こすことが重要なことを学ぶ



  • 大失敗しました。


    先日1泊で出張に行きました。
    翌朝が早いから1泊。

    この本を持って行ってしまった。

    どんどん引き込まれて、

    深夜3時読了。。。

    続きが気になって仕方なかったんです。笑

  •  「あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい。」
     空気がきれいだということだけが取り柄の、ある田舎町で殺されたひとりの女の子。殺される前に、一緒に遊んでいた四人の女の子たちに、母親は言った。
     その後、成長した女の子たちは、さまざまな事情から殺人を犯してしまう。これは、一緒にいたのに助けてあげられず、見たはずの犯人の顔を、警察に伝えられなかったことの贖罪なのだろうか。母親に言われた「納得できる償い」の形だったのだろうか。
     四人の女の子たちは、それぞれが、この事件にとらわれながら成長していく。しかし、母親に言われたように犯人を探そうとするのでも、償いの形を探そうとするのでもない。私には、この母親の言葉自体はそれほど、四人の女の子たちのその後の人生の呪縛となるものではなかったように思えた。むしろ、この事件によって、もともと持っていた自身へのコンプレックスが顕在化され、それにとらわれていったように思った。リーダーとしてふるまうことしか取り柄がない自分とか、両親に大事にしてもらえない自分とか…。
     この事件の贖罪は麻子自身と南条が背負うことになる。四人の女の子たちへの言葉は、ずっとエミリちゃんのことを忘れないでいてほしいという気持ちから出たものだったのだろうと思った。

  • 著者の本は何人かの登場人物が独白のかたちをとって物語が展開していくものが多いけど、これもその1つ。それぞれの語りに引き込まれるし、感情移入しやすいからこの形式好き。
    エミリちゃんの最期は読んでいてあまりに辛かった。世の中にこんな亡くなり方をする女の子がいて良いなんて到底思えない。母親がおかしくなってしまうのも当然だと思ったけど、読みながらと全部読んだあととでは、麻子さんの印象が全然違うのに驚いた。それぞれ少しずつの行き違いが、長い間4人の少女たちを苦しめていたのだと思うとやりきれない。麻子さんの昔の話だって、悪気はなく少しずつのズレが生んでしまったことだと思うし、何だか誰も報われないことにずーんとなってしまった。話としてはとても面白い!

  • 殺された少女と一緒に遊んでいた4人の少女による独白。殺されなかった4人にかけられた呪い、悪い方へ転がっていく未来、各々の独白が読んでいて辛いが独善的な部分も感じられ遣る瀬無くなる。悪いのは圧倒的に犯人、というのを贖罪を選んでしまう前にこの子達に伝えてあげたかった。
    次点で呪いをかけた母親、次々点で出てくる男どもやな。にしても、何故エミリちゃんを殺したんやろ。それも性的暴行をしてまで。その辺の理由が知りたかった。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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