奇跡の人 The Miracle Worker (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
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本棚登録 : 1819
レビュー : 161
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575520712

感想・レビュー・書評

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  • 伝記『奇跡の人』を日本版の小説にしたものです。
    舞台は明治29年の青森県弘前市と金木町です。

    サリバン先生は、去場安(さりばあん)。
    ヘレンケラーは、介良れん(けられん)。という名前になっています。

    アメリカの留学から帰った25歳で弱視の安が、伊藤博文に依頼されて、青森県の弘前市の介良貞彦の家の一人娘のれんの家庭教師となって、三重苦(見えない、聞こえない、しゃべれない)のれん、6歳の教育にあたります。
    安の教育は急速に成果をみせますが、時にれんを邪魔もの扱いし、毒殺されそうになるなどのミステリータッチな部分もあり、読ませます。

    そして、やはり一番良かったのは青森の金木町の別邸で、会った、狼野キワ(おいのきわ)10歳との出会い。やはり盲目の旅回りの芸人ですが、のちに人間国宝とされる津軽三味線の名手です。
    キワという友だちができたことによって、れんの成長が急速に進み、ローマ字の手話を理解するようになります。
    やはり、人を成長させるのは人なのですね。
    れんにとってキワの存在がどれだけ大きなものだったか。でも、キワは自分の身分をおもい去っていってしまいます。

    そして、もう一人の主役は、安です。
    「私は神に誓って「闘い続ける」と決めたのだ。私の運命の少女、れんとともに」
    「自分の夢は、祈りは、ただひとつ。れんの能力を開花させること。ただそれだけだった」
    時にれんのために、血まみれになりながら、情熱を持ち続けます。

    読んでいる私も、二人のやりとりを読むにつれ、れんが可愛くてしかたなく見えてきました。
    れんの母のきわも「先生、この子はほんとうに人形ではなく、人間になれるでしょうね」と安に尋ねますが、れんは立派でした。れんは「奇跡の人」になりました。

    そして、昭和30年、れんとキワの再開シーン。

    れんは、元気でいると。あなたにずっと会いたかったと。
    たったひと言。伝えたいのだと。
    ありがとうキワ。
    大好きよ。

  • 誰でもが知っているであろうヘレン・ケラー伝の物語を、あえて日本に置き換えて小説化した著者の意気込みを評価するとともに、その作品の出来栄えにも敬意を表せざるを得ない。
    それだけで感動の物語を、そのままでは小説にした意味はない。
    著者は、舞台を青森に設定し、津軽弁を巧みに織り交ぜる。後に重要無形文化財として賞される、ボサマにして盲目の少女キワと恐山のイタコを介在させることによって、独自の物語に昇華した類稀な感動作となった。
    そして何よりも、三重苦の少女を尊厳ある人間へと導こうとする教師安の、絶望的な状況をものともせずどんな困難にも怯まない行動力に圧倒される。崇高な信念と怯まない意志力に魅せられながら、読者はたちまち最終頁に至ってしまうだろう。
    奇跡の人とは、奇跡をもたらした人=安を指すのだと述べている解説者の説に、確かに同意できる作品である。

    • kaze229さん
      全く、同感です。原田マハさんの新刊情報にはいつもワクワクさせられてしまいます。
      全く、同感です。原田マハさんの新刊情報にはいつもワクワクさせられてしまいます。
      2018/04/03
  • 【感想】
    「日本版ヘレンケラー」という感じの小説。

    今まで色んなイイ小説を読んできた手前、この本を「今まで読んだ本の中で〇番目」と断定することはできないが、少なくとも今まで読んだ本の中で、「読んでる途中に一番泣いた本」であることは間違いない。
    安の使命感とれんの成長、その2人が試行錯誤しながらも奏でる物語は、読んでいて何回涙したことか・・・
    ただ、自分のページを繰るスピードが上がってしまったのもあるが・・・ストーリーが終盤はちょっぴり駆け足気味で、れんと安の成長や触れ合いについて、もう少し長く詳しく書いてほしかったなぁと読んでいて思った。

    まぁ、総合的に評価すると、300ページの本にしてはかなり綺麗にまとめられており、全体的に完成度が高くて奥が深いイイ1冊だった。
    なにより、最初から最後まで物語自体の濃度が高く、色んな展開があってハラハラしつつ、最後はしっかりハッピーエンドで締結できていたね。
    本当に読んでいて何度も涙ぐんだし、心が温かくなりました。

    最後に、、、この本のタイトルでもある「奇跡の人」という一つの言葉について。
    物語を読んでいく中で、キワ・れん、そして安という3人の主要人物が出てきて、「奇跡の人とは、一体だれを指しているんだろうか?」と思いましたが、なんてことはありません。3人とも奇跡の人なんですね。

    温かい気持ち、優しい気持ちになりたい人に、オススメの1冊です。


    【あらすじ】
    旧幕臣の娘である去場安は、岩倉使節団の留学生として渡米した。
    帰国後、日本にも女子教育を広めたいと理想に燃える安のもとに、伊藤博文から手紙が届く。
    「盲目で、耳が聞こえず、口も利けない少女」が青森県弘前の名家にいるという。
    明治二十年、教育係として招かれた安はその少女、介良れんに出会った。
    使用人たちに「けものの子」のように扱われ、暗い蔵に閉じ込められていたが、れんは強烈な光を放っていた。

    彼女に眠っている才能をなんとしても開花させたい。
    使命感に駆られた安は「最初の授業」を行う。ふたりの長い闘いが始まった―。


    【引用】
    ヘレンケラー
    「その顔を、いつも太陽のほうに向けていなさい。あなたは、影を見る必要などない人なのだから。」


    p20
    このさきあの音を失うとしたら、それは僕らの国のもっとも佳き芸術の一つを失うことになる。
    けれど、残念なことに、あの音は、確実に失われていく音なんだ。
    あの人には、後継者がいない。あの人のように、あんな音を出せる人は、日本どころか世界中もうどこにもいない。
    あの人が生み出す音を、つまりあの人こそ、僕は、この国初の「生きた人間の文化財」にしてやりたい。


    p29
    小野原は、しばらく黙ってキワを見つめていた。
    どうにかキワの心に降り積もった雪を解かしたいと願うように。
    やがて、思いのこもった声で、小野村は言った。
    「あなたの三味線を私に紹介してくださった人物が、、、もう一度聴きたいとおっしゃっても?」
    その一言に、キワが顔を上げた。
    「・・・あのお方だか?あのお方は・・・生きておいでだか?」
    小野村は、もう一度うなずいた。そして、ごく短く答えたのだった。
    「ええ、生きておいでです。・・・あの『奇跡の人』は」


    p190
    吉右衛門と、れんとの、一期一会。
    失敗に終われば、介良男爵や辰彦の怒りを買い、れんは、このさき一生を北の蔵から脱することなく終えてしまうかもしれない。
    危険極まりない出会いの演出。が、安は、れんが生まれ持つ運の強さに賭けた。

    熱病に冒され、失いかけた命を奇跡的に取り留めた。
    その後、「三重苦」に苛まれながらも、それに屈することなく、のびのびとした魂を持つ子として成長した。
    そして、はるか東京から自分をここまで引きつけた、強力な磁力。
    この少女はただものではない。将来、世の中をあっと驚かせるような天賦の才を持ち合わせている。
    人間としての魅力も。そして強運も。


    p236
    なんて強い子なのだろうか。
    夜ならば、やがて朝がくる。小鳥のさえずりも聞こえてくる。
    けれど、あの子は永遠に続く闇の中を、真夜中よりも深い無音の世界を、たったひとり、手探りで、ここまで歩んできたのだ。

    いかなる境遇をも乗り越えるまっすぐな魂と、ひたすらに生き抜く強さとを、あの子は持って生まれてきた。
    なんのために?ーー知るために。
    この世界を生きる限り、闇を照らす光があることを知る権利が、あの子にはある。
    人として生まれてきた限り、人に愛される資格が、あの子にもある。
    そして、いつかきっと、人を愛する気持ちが、あの子にも芽生えるはずなのだ。


    p294
    介良れん、このとき7歳。
    「女ボサマ」狼野キワ、このとき10歳。
    運命的な出会いの瞬間は、こうして訪れたのだった。

  • 祝文庫化!

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    盲目で、耳が聞こえず、口も利けない少女が弘前の旧家にいるという。明治二十年、教育係として招かれた去場安は、その少女、介良れんに出会った。大きな苦難を背負った少女と、人間の可能性を信じて彼女の教育に献身する女教師、ふたりの長い闘いがはじまった――。『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の著者、渾身の感動傑作!
    http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-52071-2.html?c=40198&o=date&type=t&word=%E5%A5%87%E8%B7%A1%E3%81%AE%E4%BA%BA

  • 文庫本でのレビューではなく、単行本で発売されたときに読んで書いたレビューです。ご容赦ください。<(_ _)>

    冒頭───
     その町のいっさいの色を奪って、雪が降っていた。
     一両きりのディーゼルカーの箱から降り立った場所は、駅のホームに違いなかっただろう。けれど、革靴の底が踏んだのは、コンクリートではなく、経験したこともない深い雪だった。ホームはすっかり雪に覆い尽くされて、周囲には雪の壁ができている。小さな駅舎にたどり着くまでのわずか数メートルの間、柴田雅晴は、何度も転びそうになって足を踏ん張るはめになった。
    「だめだなあ、柴田さん。長靴を履いてきたほうがいいって、あれほど言ったじゃないですか。格好をつけて、革靴で来るんだもの。霞が関への通勤とは、わけが違うんですよ」
     慣れた足取りで一足先に金木駅舎に入った小野村寿夫は、得意そうに足踏みをし、ゴム長靴のかかとをきゅっきゅっといわせた。柴田は、参った参った、と苦笑しながら、英国製のウールのコートに降り積もった雪をはたいて落とした。
    ──────

    ヘレン・ケラーの伝記は、おそらく日本中の多くの子供が読んだことのある物語だろう。
    僕も子供の頃、間違いなく読んだはずだ。
    だけれど、それほど深くは内容を覚えていない。
    眼が見えず、耳が聞こえず、口がきけない三重苦の少女をサリバン先生がどんな方法で立ち直らせたのか、その細かなところの記憶がない。
    読み終えた後は感動したような気もするが、それも定かではない。
    この作品は、それを日本風に置き換えて、小説として完成させたものだ。
    少女の家庭教師としてやって来たアメリカ帰りの去場安(サリバン)。
    三重苦を背負った少女、介良れん(ヘレン・ケラー)。
    この二人の闘いの物語だ。
    これを読んで、あらためて“奇跡の人”の素晴らしさを思い起こすことができた。
    けものの子として扱われていた少女を、必死の思いでまともな未来のある人間に育てようとする安先生。
    そこには、幾度も挫折しそうになりながらも決してくじけることのない安の断固とした固い決意と意志があった。
    “彼女だって人間なのだから”という信念のもとに。
    安の固い信念が、れんに人間らしい心を植え付け、変化をもたらしていく。
    人としての習慣を身に付け、表現する方法を覚え、言葉という概念を理解し、一歩ずつ成長していくれん。
    苦難の壁に何度も跳ね返されながら、そこに至るまでひたすら立ち向かう安とれんの姿に、読みながら、何度も何度も涙が零れた。

    そんなれんに初めての友だちができる。
    盲目の旅芸人一団で三味線を弾く少女キワ。
    その唯一の友だちとの出会い、そして別れ。
    出会えたときはどれほどうれしく、別れるときはどんなに切なかったことだろう。
    ここでも涙があふれ出た。

    最後の最後まで、一文字たりとも疎かに読むのを許されないような、そんな緊張感にあふれた感動作。
    原田マハさんの素晴らしさをあらためて感じることのできる傑作です。

    かつて「ヘレン・ケラー物語」を読んだことのある人も、読んでいない人も、人間であるならこの作品は心に響いてくるはず。
    今年一番のお薦め作品です。

    それにしても、時代も環境も劇的に変わってしまい難しいのだろうが、今この時代にサリバン先生のような本当の情熱を持った教師がたくさんいれば、世の中も良い方向に変わっていくのだろうな、とふと思った。

  • 去場安、なんてパロディ小説かなぁ、なんて思いながら読み始めた。確かにパロディといえばそうだが、ぐいぐい引き込まれていく。読ませるストーリーもさることながら、表現もすごく考えられているなぁと感じる。
    この人の作品は、実在の人物が一部登場することでリアリティを持たせているという描き方が上手だなぁ。

  • 有名なヘレン・ケラーとサリヴァン先生の物語を舞台を明治時代の津軽に、登場人物を日本人に置き換えた感動作。読む前は設定としてどうなの?と思ったが全くの杞憂でした。さすが原田マハさんですね。しっかり堪能させてもらえました。随所に織り交ぜた津軽弁が温もりがあっていいですね。盲目の旅芸人の少女・キワの存在も内容に奥行きを与えてくれているし。
    安の熱意と深い愛情、れんの世界が広がり成長していく過程にグッとくる。心の交流ってこうゆうことなのかもしれません。

  • 200511*読了
    ヘレン・ケラーとサリヴァン先生の奇跡のストーリーを明治時代の日本・青森の弘前を舞台に綴った小説。なんだけれども、実際の伝記より感動しました。
    三重苦の少女、介良れんが成長していくストーリーなのだ、ということは分かった上で読むのだけれど、それでももどかしさを感じたり、去場安先生の熱い想いに胸を揺さぶられたりと夢中で読み進めました。
    そして、れんとキワとの出会いと別れ。この奇跡にも胸が熱くなりました。
    盲目だから、障碍があるからと差別どころか虐げられている人たちがいた時代。今はあの頃よりは福祉も整っていると言えども、やっぱり偏見やどうせできないだろうという決めつけを持ってしまっていると思います。
    でも、例え障碍があっても可能性を秘め、樹木のようにすくすくと伸びて行く人がいる。そのことを忘れずに生きたいし、身近にそういう人がいたら、能力を伸ばせる自分でありたいです。

  • 日本版ヘレン・ケラー物語。明治時代の青森が舞台となれば、三重苦の障がいのある女性が本家本元のヘレン・ケラーより生きにくいことは容易に想像できる。

    親からも諦め、見放されていたれんを、人間らしく生きられるよう、根気よく導く家庭教師の安。
    その教育の初期に出合い、供に学んだキワとは言葉もうまく交わせないうちに離れてしまうが、70年もの間二人はずっと互いを想い合っていた。。

    一気に読んでしまいましたが、
    電車で読むとキケンな(涙が止まらないし、降りるべき駅を通りすぎちゃう・・

  • かの有名な「ヘレン・ケラー」と「アン・サリヴァン」の物語を、設定や年代も揃えて青森の津軽を舞台に「介良れん」、「去場安」という人物に置き換え話が展開されていく。普段私達は言葉という伝達手段を用いて、自分の伝えたいことを伝えたい相手に当たり前の様に伝えているが、その行為がいかに本書のタイトルにもある「奇跡」的なことなのかを教えてくれる一冊。物語も感動的でとても面白かった。

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著者プロフィール

原田マハ(はらだ まは)
1962年東京都生まれ。小6から高校卒業まで岡山で育つ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事株式会社、森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館での勤務を経て、2002年よりフリーのキュレーターとなる。2005年小説化デビュー作の『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞、『キネマの神様』で第8回酒飲み書店員大賞をそれぞれ受賞。2013年には『ジヴェルニーの食卓』で第149回直木賞候補、2016年『暗幕のゲルニカ』で第155回直木賞候補となる。2017年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞受賞。2019年『美しき愚かものたちのタブロー』で第161回直木賞候補に。

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