よるのばけもの (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575522099

作品紹介・あらすじ

夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて――。280万部超の青春小説『君の膵臓をたべたい』の著者、住野よるの三作目が待望の文庫化!!

感想・レビュー・書評

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  • 『君の膵臓を食べたい』の住野よるの長編3作目。住野よるの作品を読むのは『君の膵臓を食べたい』以来の2作目。

    夜になるとばけものになる中学三年生の『僕』は宿題を忘れたことに気がつき、ばけものの姿のまま空を飛び越えて学校へ忍び込む。深夜の中学校には誰もいないはずだったが、なぜか教室にはクラスメートの矢野さんがいて、『僕』の正体を知られてしまう。それがきっかけで毎晩『僕』と矢野さんは深夜の学校で時間を過ごすようになる。

    このあらすじだけ見るとここからお互いの秘密を共有した二人の淡い恋愛小説に発展するのかと思いきや、まったくそんなことはなく、「いじめ」問題を鋭くえぐる社会派小説になっていく。

    なぜ『僕』が深夜になるとばけものになるのか、クラスメートからいじめにあっている矢野さんがなぜ深夜に学校にいるのかということの真相は本書内では明かされない。

    自分的な考察としては、夜の出来事はすべて『僕』の中では夢の中の出来事で、『僕』の潜在意識の中で矢野さんを助けたいという気持ちがあり、その気持ちが夜という特別な空間を通して『僕』と矢野さんのお互いの夢の中で意識を交わすことができたということではないだろうか。

    昼間の『僕』は、いじめは正しくないことだとは認識しているけれども、それを指摘したり、矢野さんの味方になってあげられるほどの勇気はない。そんなことをしたら今度は『僕』がみんなからいじめの標的にされてしまう。それに矢野さんが自分でクラスメートに悪いことをしたのだからある意味、制裁としていじめを受けることは仕方のないことなのだと『僕』は自分を正当化している。

    しかし、深夜、矢野さんに会うと彼女の態度や言葉から、彼女も彼女なりの考えがあり、それを考えると、一概に彼女が『悪』とは思えない。もしかしたら僕たちは彼女を根本的に間違って認識しているのかもしれない。

    他のクラスメートと共に矢野さんを無視する昼間の『僕』とばけものの姿のまま矢野さんと親しげに話しをする深夜の『僕』。どちらも『僕』であり、違いはない。『僕』には昼間は昼間の価値観があり、夜には夜の価値観がある。

    ある夜、矢野さんから『僕』はこう聞かれる。

    『人間の姿をした昼間の君とばけものの姿をした夜の君はどちらが本物の君なの?』

    ああ、そうか。矢野さんにとっては、ばけものの姿の『僕』が本物の『僕』で、人間の姿の『僕』が仮の姿なのだ。
    つまり、矢野さんにとっては、昼間がすべて仮の姿だから、どんなつらいことや悲しいことがあってもそれはあくまで仮の姿なので我慢できる。そして今この瞬間、深夜の今の時間こそが彼女にとっての真実であり、この深夜の学校生活を彼女は十二分に楽しんでいるのだ。

    ばけものの僕も人間の僕もどちらの『僕』も同じだ、でも、昼間の『僕』は自分の心を偽っている『僕』だ。
    そして、『僕』は勇気を出すことにした、いや、勇気を出すんじゃない、偽りの『僕』を捨てて自分のそのまま姿を出せばいいんだ。

    矢野さんは、いつものように一人で登校し、無視されるのが分かっているにもかかわらず今日もクラスに入ると「おはよう」と挨拶をする。
    誰も彼女の挨拶には答えないし、舌打ちする者すらいる。

    そんな中、『僕』はこう答えた「おはよう」と、皆の視線が一斉に『僕』に突き刺さる。皆が聞き間違えじゃないかと勘違いすることのないように、もう一度、さっきよりも少し大きな声で矢野さんに答える「おはよう」と。

    矢野さんは笑顔を浮かべ、『僕』にこう言った『やっと会えたね』。
    その夜から僕がばけものになることはなくなった。

    『夜』と『ばけもの』というメタファーを通じて、少年少女の内面を描写し、現代のいじめ問題を鋭くえぐる、住野よるの秀作。

  • 「君の膵臓をたべたい」に引き続き住野さんの書かれた作品を読みたいということで全く事前情報なく手にしました。そもそもタイトルからして何か化け物が出てくるのは間違いないとは思いましたが、描写される化け物は丁寧に書かれているにもかかわらず全くもって頭にイメージがわいてきません。モヤモヤ感を持ったまま読み進めるるとそこに展開されたのは壮絶とも言えるイジメのシーンでした。化け物のシーンに比べてこちらの方はその場面が臨場感を持って伝わってきて、あまりの重い空気感に何度も読むのをやめようと思っては、思い留まってを繰り返しました。一方で夜の化け物の方は相変わらず茫洋としたまま、一方の昼の学校のイジメは壮絶さを増すばかり。
    そんな中、最後の最後になってようやく小さな一歩を主人公が踏み出したところで物語は急に幕切れとなります。この小さな一歩、でも主人公にとっては大きな大きな一歩の意味、主人公のその後は読者の想像力に委ねられます。ここをどう捉えるかでこの作品の読後感は真逆になるように思いました。雲間から射した一筋の光と捉えるのか、それとも嵐吹き荒ぶ海に飛び込んだと捉えるのか。


    夜に出てくる化け物というのはこの作品では何でもよく、リアルにイメージできる必要も、する必要もなかったということでした。だって夜に化け物はいなかったわけですから。タイトルから受けるイメージに反してとても重くて深いお話でした。

    よるのばけもの、何とも言えない読後感が残りました。

    それにしてもこの作品で描かれたようなことが現実の学校でも実際に起こっているのでしょうか?現実には、近い状況さえありもしない小説の中だけの空事であってくれることを祈るばかりです。

  • 凄く良かった本。でも、少し分かりにくいところがあったのでもう一度読もうと思う。

  • よるのばけもの というタイトルと表紙を見てファンタジー要素がある恋愛小説か何かかな?と思い読み始めたのだけれど、予想と違っていた。
    実際主人公は夜に化け物に変身してしまうので、ファンタジーであるにはあるのだけれど、
    物語の大部分は学校の狭い人間社会の中で空気を読みながら生きる息苦しさやいじめに対する皆の立ち位置なんかがかなりリアルに描写されているヒューマンドラマな話だった。

    夜と朝、ばけものと人間を交互に行き来しながら、物語はゆっくり進んで、主人公の気持ちもどんどん複雑になっていく。心理描写もかなりリアルだし、人に合わせて、自分を偽りながら生きる主人公に共感できるところが多くて、終盤の体育館にて矢野に投げかけられるセリフには私自身も色々と気付かされるところがあった。

    誰もが裏と表の自分を持っていて、本当はどんな人なのだろう?と知りたくなるような深みのある登場人物ばかりでわくわくした。

    残念だったのは、最後主人公は勇気をだして行動するけれど、
    そこでぷつんと物語が終わってしまい物足りなさを感じたところ。行動したことへのどこか清々しい気持ちと、この先への不安でなんとも言えない気持ちになってしまった。そういう気持ちを引き出したかったのなら作者の思惑通りかもしれないけれど、私個人としてはもっとしっかり落ち着く場所で結末を迎えて欲しかった。そんなに綺麗に終わる世の中なんてほんのひと握りで、実際こうやって不穏な空気になったあと、そのまま日常は続いていく。こんなにリアルな心理描写をするこの作者だからこそ、物語を物語じゃなくリアルに近づけるためあえてそうしたのかもしれない。
    もしくは、作中にでてきた、同じ人なんて一人もいないという言葉通り、このあとの物語の結末も人によって違うと言いたかったのか。
    まあ、私はすっきり終わる話の方が好きだけどね!

  • いじめって今も昔も減らないよね。
    いじめる側もいじめられる側も。
    住野さんは私が本を読めるきっかけとなったキミスイを書いてますが、本人はどんな方なんだろ?
    どれも青春で青臭くて苦くて甘くて。
    学生の時を思い出したりします。
    夜になると化け物になるのは本当は心がだったのかな....実際は化け物になってないとか。

    ※本の概要※
    夜になると、僕は化け物になる。
    寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。
    ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。
    誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、
    なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて――。
    280万部超の青春小説『君の膵臓をたべたい』の著者、
    住野よるの三作目が待望の文庫化!!

  • 学校や教室という閉ざされた空間の闇の部分とその中で生きていかなければならない生徒達の姿が描かれている。最後に「俺(僕)」が「君を助けることなんて出来ない。でも、君の声を受け止めて返すくらいのことは。」と本当の自分に気が付くことができたのはよかった。他のみんなが理解してくれる日が来るのかどうかはわからないが。そう願わずにはいられない。自分より弱いものや異質なものに対するいじめによってクラスの仲間意識、連帯感、自分の居場所が保たれているなんて。程度の差こそあれ同じようなことが実際に学校で起こっていると思うと胸が苦しくなる。教師や保護者、大人達は部外者で何の力にもなれないのだろうか.....

  • いじめの加害者と被害者が、夜の時間を通して心を通わせていく物語
    主人公の男の子の優しさと葛藤がグッときた
    その後どうなるんだろうと気になる終わり方だけど、2人とも幸せになって欲しいな

  • 面白かったけどさつきのセリフが読みづらかった。それ以外は完璧!!

  • 夜になると化け物の姿になる男の子が、忘れ物を取りに夜の学校に侵入し、そこでいつもクラスでいじめられている女の子に出会う。
    昼の学校では、いじめに巻き込まれないよう全く話さないが、夜の学校で会う事によっていじめられている女の子に対する気持ちが変わっていく。

    切ないシーンが何度もあるが、最後の展開や2人のこれから先が気になりあっという間に読み終えました。

    皆んながやっているからなど、何かと周りに流されがちな事がある中で、
    自分の目でしっかり見て、耳で聞いて、頭で考えて決める事が大切だと思う。

    夜の矢野さんの会うことによって、本当の彼女の姿に気づき、あっちーも最後は本当の自分になれたのかなと思う。
    最後に教室で、矢野さんに『おはよう』って挨拶を返せてよかった!そして、矢野さんもお昼の学校で本当のあっちーに会えてよかった!

    その後までは、書かれていないけど、
    きっと、一言の挨拶をきっかけにあっちーが、そしてクラスが、ゆっくり少しづつだけど変わったんじゃないかな。

  • 夜の間だけ「ばけもの」になる、安達くん。
    ふと訪れた中学校にいたのは、「夜休み」を過ごしているクラスメイトの矢野さんだった。

    昼間はいじめられ、存在を無視されている矢野さんに正体を知られた安達くん。
    二人の昼と夜が展開していく。
    以下ネタバレ含む、注意。



    こういう結末なのか。
    そりゃあそうだ。もしも、そこに間違いのない解答があるのなら、現実世界はもっと明るい。

    安達くんは、万能の「ばけもの」だった。
    きっと虚構の名を借りて、好きなように暴れ回れるし、矢野さんを救うことだって出来ただろう。
    けれど、苦悩しながらも彼は人間として、昼の矢野さんを見ることを決意し、その結果、万能を捨てる(解放される)ことになる。

    矢野さんにとっては、昼こそが「ばけもの」の世界だったのだろうか。
    攻撃され、傷つけられることが当然の、昼休みのない世界だったのだろうか。

    生きていればいつかは、その世界を外側から見ることが出来る。
    保健室の先生の唱える終わらせ方は、あり得るかもしれないけど、私が求めるものではない。
    じゃあ私にはどんな結末を提示出来るのかと、ずっと考えても、やっぱり答えは出ない。

    ただ。昨日読んだ、階段島シリーズの最終巻を思い出した。
    小説はトライアンドエラーの宝庫だ。
    物語を、繰り返して、繰り返して、多くの作者が傷つきながら、結末を書き換えながら、それでも求めるものに叶う世界を作り出そうとしている。

    私たちはそのピースを、何度も、何度も読んで、これも違う、これも違ったと言いながら、その一冊に出会えることは、いつか出来るかもしれない。
    この本も、誰かにとっては、その一冊になるかもしれない。

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著者プロフィール

高校時代より執筆活動を開始。デビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、2016年の本屋大賞第二位にランクイン。他の著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』『この気持ちもいつか忘れる』『腹を割ったら血が出るだけさ』がある。カニカマが好き。

「2023年 『麦本三歩の好きなもの 第二集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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